第28回東北アラブチャンピオン観戦報告

 2000.6.27、上山、1800m

2000年度上半期、ワシのアラブ系重賞観戦の締めを飾るのは"北の大一番"東北アラブチャンピオン。このレースには、必ず行くぞと、年明け早々から意を決しておったところ、開催日程が出たのは4月頃だったろうか、「6月27日、火曜日じゃん!」平日遠征は正直キツいのだが・・・さらにさらに、今回最大のお目当て、上山のペルターブレーブが年明けの故障から立ち直れず、ここは登場ならず。残念至極。しかしそれでも初志貫徹、さあ行こう上山と、いう次第。因みにワシ、これが生まれて初めての東北地方見参。

関西から山形まで、旅費が最も安く上がるのは、大阪−山形間の飛行機を、売り出し日割引にて購入の場合であるのだが、不覚にも腰を上げた時点で売り出し日、4月27日は過ぎてしまっていた。しょうがないので"鉄旅"に。通常値段の航空券よりはその方がまだ安いので。
というわけで上山への往路、旅費と旅程の節約のため、寝台特急「サンライズ」のノビノビ座席。これだと神戸三ノ宮−東京間を指定席料金だけで乗車でき、早朝に東京に着けるので。てなわけで前日の夜に家を出て、三ノ宮0:12発のサンライズに乗車。心配したほど車中不快でもなく、そこそこ睡眠でき、翌朝7:08に東京着。ここから山形新幹線「つばさ」が7:56発。その間東京駅でワシの好きな駅弁「深川めし」(江戸前料理のアサリの炊き込みご飯の弁当)を購入し、車中での朝飯にする。
当日の山形地方の天気予報は曇りのち昼過ぎより時々雨、非常に微妙なもの。自然、道中車窓の外の空模様を気にしつつの旅となる。福島−山形県境の難所、板谷峠越えのあたりは、山中ということで霧雨模様、びくびくしていたが、米沢の盆地に入ると薄い曇天、ひとまずやれやれといったところ。そして10:36に、かみのやま温泉駅に到着。
ここから競馬場まで、無料送迎バスは、ない。路線バスorタクシーor徒歩。幸い11:05に駅前から路線バスが出るとのことなので、それに乗車、15分弱で競馬場前へ。このバスの車中、乗客のじいちゃんばあちゃんと運チャンとの会話、完全な東北弁で理解不能、はるばる山形に来たのだなと実感。

バスを降り(運賃は210円)、競馬場に向かうと思しきおじちゃん達について歩いていく。バス道を逸れ、だらだら坂をちょっと上がると、そこが上山競馬場。遂に到着。
こじんまりした入場門をくぐり場内へ。競馬場の規模は、敷地面積的には姫路より若干広いかいい勝負くらいだが、スタンド、食堂、その他施設がうまい具合にまとまっていて充実した造りという印象を受ける。それに比べると、入場ゲートのちんまりとした感じがちょっと不似合いかな、と。
入場門がスタンドの4コーナー側の端にあるので、入場して直進すると、スタンド正面、そのまま進むと、ゴール板前(姫路と同じレイアウトですね)。とりあえずゴール前に歩いていくと、さっそく御歴歴が陣取っておられたので、ワシ、その輪の隅っこにおとなしく収まる。

さて、東北アラブチャンピオン。岩手、上山、新潟のアラブの頂点決戦として、1年1回、3場持ち回りで開催されてきたレースだが、岩手は既にアラブ系競走廃止、新潟も昨年でアラブ3歳馬の入厩終了、ということで、(正式発表はまだないらしいが)これが最後の東北アラチャン。「最後の」という注釈付きのレースに今年何度遭遇したことか。時流といえばそれまでだが、それにしても「目覚めるのが遅すぎた」という、己がアラブ観戦人生のマズさを恨む。
その最後のアラチャンに華を添えるべくなのかどうか、本日の上山の番組、アラブ満載。以下、そのあたりをピックアップしつつ、そして怒濤のアラチャンへ・・・

3R、アラブ系3歳A1級(1250m)
ここに父ホーエイヒロボーイ母ミスエリートの牝馬、すなわち福山のご存じアキフジクラウンの全妹が出走。その名はワタリエリート。とはいってもそんなことに注目するのはアラブ主義者のごく一部だけであって、9頭立ての単勝ベベ人気。馬体は確かにホーエイヒロボーイらしいどっしりとしたもので、毛色こそ違え(本馬は鹿毛、アキフジは栗毛)体型は何となく兄に似ているが、パドック気配はまだ幼く、落ち着かない感じ。レースは中団馬群の中を終始追走のまま、結果7着。まあこんなものかな、と、適当に納得。

さて、上山競馬のレース模様はというと、コースの幅員がさほどなく、馬がお客さんに近いので、なかなかの迫力。小回りコースの割には、ゴール前までレースがもつれるケースが多く、興奮度は高い、しかし結果的にはそれが人気サイドであって堅い決着、それなりの配当といったところ。特記すべきはこの日の馬場状態の傾向。地元くもぎりまるさん曰く「このところ馬場の外目がとても伸びる、従って外回った差し馬が馬券によく絡む。」(これ、かなり重要なファクターなのでお含み置きを)。それを受けてOkuさん「つまりはカメラマン泣かせの競馬ってことやな」。直線僅か200mの小回りコースで、G前差しでどんでん返しが頻発するってというのもなかなか凄いし、その目まぐるしさはちょっとした見物ではある。

9R、アラブ系一般A級選抜(1500m)
メインの10R、アラチャンを前に、前座よろしくA級戦が組まれている。そしてここに、上山三強の一角、ビソウウエスタンが登場。本来ならアラチャンに臨むべきところ、4月の今季開幕開催のレースで3着敗退し、2ヶ月休養しての復帰、仕上げ途上からか、こちらに回ってきた。実績からしてここは絶対落とせないレース。そのビソウウエスタン、初めて目にする姿、その印象は「な〜んか"仮分数"な馬やなあ」。つまり頭でっかちで首が短くて太く、ぼてぼてした体型。これが生涯成績[22.6.3.2]の強力差し馬なの?というのが正直な感想。パドック気配もあまり誉められない。皆さんに「あんなもんなの?」と問いかけると、「今日は良くない。」、「ホントはここで負けちゃいけないんだけど、飛ぶなら今日。」といった具合に、やはり普段に比してイマイチのようだ。それはともかく、記憶に残るお話は、くもぎりまるさん曰くの「ビソウウエスタンはウシになる」。何それ?状態のワシ。「どういうことですか?」と問うと、「あの馬、パドックで(植えてある)草食べようとするんだよ。」「・・・」
さてこのレース、それでもウエスタンは単勝1番人気。3コーナーポケットから千五はスタート、だが、1枠よりいきなり出遅れ。よって後手踏み追走。道中は中団で馬群に包まれて。そのまま2周目そして四角まで。最後の直線、先団がワサッと広がったところで間をついてよっこらせと進出、馬場外目をえっちら追い込み。成る程外が伸びる馬場、どうにかこうにかG前間に合ってクビ差抜け1着。いくら元来差し馬とはいえ、格下相手でもあり、これでは快勝ではなく辛勝の部類だろう。次回お目にかかる時にはホンマもんの、強い彼であってほしい。

そして東北アラブチャンピオン
9Rのリプレイを馬場内大型ビジョンで見てからパドックに向かうと、既に東北アラブチャンピオンの出走各馬が周回を開始している。午後より落ちだした雨粒がぽたぽたと。カメラの撮影は可能な程度だが、嬉しくない天候になってしまっている。
さて、出走メンバー、岩手より、イムラッド産駒の大物メグミダイオー、貴公子タービュレンス、兵庫OBで前年のアラチャン覇者マーキュリサンダー。新潟より差しのファルコンボーイ、切れ者牝馬ラブリーハート、スノーミューズ。迎え撃つ地元上山は、三強の一角で充実一途マルハチフレンド、4歳最強アオイリュウセイ、兵庫にとっては懐かしのオーキッドグレイド、セイユーボーイ、ウェストウィン、ヒカミハヤブサ、以上12頭。
周回各馬のうち、まずもって目を惹くのが岩手の2頭、メグミダイオーとタービュレンス。ともに500kあり、そしてゆったりした雄大な馬格。重心も低く、気合いも充分。辺りを圧するに足る風格を備えている。まさに戦艦のような馬。両者栗毛でキャラは少し似ているような。重量感はメグミが勝るか。タービュレンスはスマートな馬(例えばタカライデンのような)を2、3回り拡大したような感じの、キリッとした体型。結構GoodLooking。
非常に好印象を抱いたのはラブリーハート。細身の馬体なれど、研ぎ澄まされた絶好の仕上がりに見える。鶴首の気合いもいい。牝馬なので、シャープな美女、といった感じ。父ディシダンはナカトップアスワンと同じだが、アスワンとは全く似ていない。血量50%超アラブ種牡馬はやはり母系のサラの特徴が強く出るのか?(これは眉唾)

ラブリーハート、パドック(53KB)
ラブリーハート、パドック
研ぎ澄まされた絶好の馬体

上山期待のマルハチフレンド、胴によく身の入った、どっしりとした印象の馬である。ただ個人的には好みというタイプのルックスではない。しかし馬体の張りは勿論いい。
兵庫在住のワシにとってはお久しぶりのマーキュリサンダー。実に昨年の新春賞以来のご対面。ただ1頭パドックの大外を偉そうに周回。辺りを睥睨するかのようにちょっと首が高い。馬体自体は、正直言って取り立てて書くほどの点はない。兵庫時代との比較もワシはしかねる。
アオイリュウセイは5月の園田、全日本アラブ優駿以来2度目の目撃。今日のぱっと見「なんてデブなんだ!」アラブ優駿時も腹回りが太いなと思ったが、今日はそれに輪をかけて、とんでもないことになっている。この日の馬体重は+10の505k。一目見て買う気がなくなる。
やがて各馬本馬場へ。メグミダイオーはゴール前まで歩を進めず入場するやいなや1コーナーへ。
マーキュリサンダー、パドック(57KB)
マーキュリサンダー、パドック
久々のご対面
アオイリュウセイ、パドック(51KB)
アオイリュウセイ、パドック
「デブ!!」

返し馬の間、皆さんG前で予想談義。メイ後さんはメグミダイオー、TGMさんはタービュレンス、きくたけさんは「マルハチから岩手3頭、どれか当たるだろ、儲からんけど!」(ホントにその買い目でいったかは不明)。くもぎりまるさんは地元マルハチからマーキュリでしたっけ。Okuさん曰く、「この面子なら普通に走ったらメグミが抜けてると思うで」。ワシが「ラブリーハートがとても良く見えたんですけど」と問うと、Oku氏「そやねん、あの馬は今日みたいな舞台で何かやらかしそうなタイプやねん」。メイ後さんは「ラブリーハートは余計なことしそうな奴なんですよ、イヤなんですよ」、と、良くも悪くもなかなか見込まれている。栃さんは冷静に「まあ前回地元(新潟)でマルハチに2秒差つけられて負けてるから本来なら(逆転は)難しいけどね」。ともあれ皆さんの統一見解は「何だかんだでいいメンバー揃ったよ。」。はい。
ワシの買い目はメグミを一応の中心に、マルハチ、タービュレンス、ラブリーのボックスにマーキュリを適当に薄く。メグミ−マルハチは本命馬券なので保険。ラブリー絡みがお楽しみ馬券。
オッズは最終的には単勝1番人気はマルハチ、次いでメグミ、タービュレンス、マーキュリ、アオイの順。連勝の方はメグミから売れている模様。

いよいよレース発走、2コーナーを回ったところが千八のスタート地点、ここから1周と半分強。
ゲートオープン!最後の東北アラブチャンピオン、その惜別の念たっぷりの実況MCにのせて、各馬Go!1番枠セイユーボーイが一瞬好ダッシュを見せるが、メグミダイオーが地力にモノを言わせ、ズンと前に(北の湖の立ち会いの踏み込みみたいやね)。タービュレンスも先手。それに連れてマルハチも。一方ラブリーハートは出遅れ気味。しかし前へ前への様相を見て、Okuさん「ちょっと前がせわしない流れみたいやから、ひょっとしたらラブリーの出遅れ、結果オーライになるかも知れんで」。

1周目の先団(39KB)
1周目の正面スタンド前
2番手メグミその外追走マルハチ

とは言うものの、1周目の正面スタンドを通過する頃には、先団の隊列は定まる。タービュレンスが先頭、2番手外直後にメグミ、そのメグミを右前方に見て外目にマルハチがビッタリ。この内にセイユーボーイ。マーキュリ、アオイは共に中団。ラブリーは後方から(この時点では殿だったらしい)。人気の実力各馬が先団で折り合って無難なペースでがっちりといった状況。後方からの勝負は分が悪いような雲行き。
2周目向こう流しから三角へ。アオイもマーキュリも進出開始、だが、同時に先行3頭もペースアップ。勝負は完全にこの3頭に絞られる。インにタービュレンス、その外に余裕充分で馬体を併せるメグミ、若干仕掛け遅れのマルハチが2頭を前にして馬場外目へ。メグミ有利の体勢。「これでメグミがマルハチに負けるとしたらそら西(メグミ鞍上)と小国(マルハチ鞍上)の腕の差やわな。」とOkuさん。
そして最後の直線、満を持してメグミがグイと先頭に抜ける。内では粘るタービュレンス。マルハチ、馬が伸びるコース外目を通り、メグミに追いすがろうとするが、届かない届かない。最後は力強いフットワークのまま、メグミダイオー、東北No.1のゴールを駆け抜ける。2着も結局タービュレンスが粘り切り、外から追ったマルハチは3着。次いで4着マーキュリ5着アオイリュウセイ。6着にラブリーハートが突っ込んできていたとは後日NARのHPにて知った。
メグミのVゴール前、メイ後さんの「メグミダイオ〜!!」の声援が印象的だった。岩手の栗毛の巨漢二騎、噂に違わぬ強さであったと思う。いやこれはホンマ「強いよ、彼らは」。
メグミダイオー、ゴール前(41KB)
メグミダイオー、ゴール前
素晴らしく重厚なフォーム
タービュレンス&マルハチ(44KB)
残念2着3着
内タービュレンス外マルハチ、ゴール通過後

優勝の口取り撮影、そして表彰式。上山では絶対口取りの馬をお客さんの目の前に出してくれないのだそうで、ファンサービスや施設面が進んだかの地としては、残念な点である。「何回かお願いしてんけど聞き入れてくれやんねん。」byOkuさん。表彰式の勝利騎手インタビューを受ける西騎手にお客さん(多分地元上山のおっちゃんやと思うが)が「訛るなよ〜!」と野次。「五十歩百歩なんちゃうん?」と、ココロのなかで突っ込むワシであった。

そろそろ帰り支度、上山土産は、かの『さくランス』と、名産さくらんぼ(くもさん、Okuさん、お分けいただきありがとうございました)。皆さんはこの後山形駅前で軽くオフ会とのことだがワシはとんぼ返りの日帰り敢行のため、先んじて辞去。かみのやま温泉17:12発の新幹線、これが19:56東京着。東京20:14発姫路終着の「ひかり」に乗車で西明石着が23:41。無事到着。駅の外では土砂降りの雨がお出迎えであった。

こうして最後の東北アラブチャンピオンが終わる。岩手、新潟、上山、それぞれアラブを取り巻く状況は厳しいが、この日ここに集いし強豪をはじめ、東北のアラブ達に今後とも少しでも幸いあらんと、切に願いつつ、この観戦記を締めたいと思う。

追記:東北ビギナーのワシの見解だけではこの辺り、どうも心許ないので、最後に全国行脚系の先輩、栃さんがスピハナ掲示板に寄せて下さった、東北アラブチャンピオンの総括書き込みを転載させていただきます。簡潔にして充分、見事な文章です。全面支持。
やっぱり、あの金蹄賞を踏まえて出走してきた岩手勢は強かった。
今後、彼らがどういう進路を取るのかはわからないけれど、ずっと見ていきたいと思ってますよ。メグミもタービュレンスもマーキュリもあれだけ力を持ってるし、ヒナナやライジングも含めてこれから まだ活躍の舞台が必ずあるはず。
上山は孤高の聖地となりそうだけど役者があれだけいるので当分楽しめるし、新潟ももう少し見ることができるでしょう。ラブリーハートにはQCに出てきて欲しいしね。
そんな訳である意味、最後だったけどこれからの彼らの活躍も祈念する舞台になったような気がします。

2000.7.4 記  
2000.7.5 追記

兵庫発アラブ現場主義ホームに戻る