2000年、サマーカップ観戦報告、及びエイランボーイを語る――

 2000.7.5、姫路、1500m 但し重賞ではなく指定(特別)競走

夏の"ひめけい"開催恒例レース、サマーカップ。重賞でも交流レースでもないただの兵庫の指定(いわゆるオープン特別)競走。
姫路のオープン戦は距離千八と相場は決まっているのだが、今年のサマーカップ、施行距離、千五。条件特別でもあるまいに・・・出走が予想されたとある有力馬の陣営が「我が田に水を引いたのか?」と邪推などしたのだが、結局その有力馬は出走せず、このネタはゴミ箱行きとなる。
重賞観戦記という名目からすれば敢えて観戦記をしたためる必要もないところなのだが、今回は特別。すなわち――
日本現役最強アラブ(←ご意見無用!)、エイランボーイの戦列復帰戦なのである。昨年12月の園田金盃を優勝して以降、7ヶ月間の休養からいよいよ始動。

ということで、"絶対王者"の御帰還に列席すべく、平日サマーひめけいに、いそいそと。梅雨明けかと思わせる夏の暑い陽気の中、午後2時過ぎに競馬場着。入道雲もお出迎え。
事前に示し合わせていたとおり、現場でまりおちゃんと落ち合う。そして本日の任務の一つ、元"ネットファン非公認アラブ党(笑)"3号馬さんの捕獲作戦を遂行。目星をつけた人物で大正解。彼の背後に近づいて、まりおちゃんと二人でムチャムチャ白々しくお互いを呼び止め合い、無理から気付かせる。アラブファンくんも来姫、パドックで発見。

さて、ここでエイランボーイの今年ここに至るまでを記しておくことに。
昨年12月8日の園田金盃で優勝の後、休養入り。5月17日(楠賞デー)付けの『キンキ』の野田氏のコラムに、「月曜(5月15日)朝にエイラン帰厩」のネタが載る。6月20日の園田の能検を太鞍上で通し、タッカースカレーの2着。そして本日戦列復帰緒戦。
今日のレースに先んじて、7月2日(日曜)オンエアのAM神戸『競馬レポート』で、森澤調教師の、エイランボーイについてのインタビューが紹介される。曰く(筆者意訳)――
「昨年後半は慢性的なコズみと球節炎でずっと歩様が思わしくなかった。金盃後放牧に出したわけだが、その前に取り敢えず球節炎は治して出した。この休養で歩様はまずまずに戻ったが、出走を重ねればまた悪化してしまうだろう。10月のタマツバキ記念を最大の目標に、月1走のペースで使っていきたい。」――
一部筋より「エイランは脚元かなりきている」という噂は耳にしていたが、その通りであったようだ。そんな状態で、500キロ超の馬体で、定量戦でもない限り常にカンカン60k以上背負わされながらも、高速で突っ走り続けてきた彼には、改めて頭の下がる思いがする。判官贔屓ではないが、そうした辛さをおくびにも出さず、常に王者の風格たっぷりに振る舞うこの馬には、ワシの思い入れはかなり強い。
エイランの休養中、2000年上半期の兵庫古馬界には、ワシュウジョージとトライバルサンダーが断然の二強として君臨。その間「最強」との賛辞をレースごとに浴びるこの2頭に反し、休養中の王者に関しては、報道において、ほとんど俎上にのぼらない。頼むから、あたかも存在しないかのような扱いだけは止めてくれ。結局主催者及び報道サイドの、ファンへの情報提供のチャンネルの脆弱性が露呈されただけのことなのだがな。こんな状況で、そちらさんよ、我々に「知った口利くな」的態度、とるなよな。"般ピー"の我々、端から知りうるべくもないやんか。
知らぬ間にハナシが"怒"モードに逸れてしまったが、つまりは対戦して白黒つければすむわけで、今年下半期、さあどうなるか?皆さんも乞うご期待!

さて、サマーカップ、出走馬はエイランボーイに、4歳筆頭フクパーク記念馬タカライデン、その他イチノタイトル、ケイエスヤマト、サンユウラピート、グリンエイシ、イッシンユメマル、ナンセイローレル、以上8頭。顔ぶれからもおわかりのように、エイランとタカライデンがゴリゴリの二強。
パドックに出走各馬が登場。まずもって目がいくのは当然有力二騎、2枠エイランボーイと3枠タカライデン。
エイランボーイは金盃から-2kの505k。肉の付きやすいこの馬からすれば、すっきり仕上げて出てきたのでは。毛艶が良好なのは申すまでもない。悠々と周回。問題の歩様は特に悪くも思われない。「アラファンくん、エイランどう?」「まあ、まあ、ですよね」妥当なお答え。印象的なのはホントに澄んだ瞳と思慮深げで憂いを帯びたその表情。何て静謐な面持ちなの!さながら「走る哲学者」(これはタニノチカラだったっけ?)。

エイランボーイ、表情(38KB)
エイランボーイ、パドックでの表情
思慮深げで憂いがちな表情、森澤センセに似てる・・・

タカライデンは-3kの433k。春以降ちっとも馬体重が増えないが、今日のタカライデンにはフクパークや楠賞の時のような、体型のギリギリ感や抜き身のような研ぎ澄まされた雰囲気はない。悪い意味でなく身も心も緩めた印象。馬体重ほど小さく見せない。タカライデンの顔のアップを撮影しようとしたまりおちゃん、「うわっ!目が合うてもうた、何かむっちゃ照れる。」いいねえ、愛を感じるミーハーモード。アラブファンくん曰く「しかしこの馬タフですよね。全然休んでないですもん。それで必ず2着まで来てますからねえ。」。
因みにエイランは青メンコ青手綱、タカライデンは赤い頭絡に赤手綱。馬装はまさに、青と赤の一騎打ち。
その他の馬、単穴格ケイエスヤマトは暑さでキン○マ下がってきている。それと同格のサンユウラピートは時折立ち上がって暴れる、何のことはない馬っ気ブラブラ。1枠イチノタイトル8枠ナンセイローレルあたりが気配だけならなかなか
本場場入場そして返し馬。エイランがゆっくりと1コーナーへダクで。タカライデンは四角へ、そこからダクにおろす。今日のタカライデンのダク、"ケーズ兄い理論"に照らせば、鞍上赤木を手こずらせることなく、キッと真っ正面を向いており、上々ということになる。そしてエイランは丸1周コースをダクで周回し、出走馬中最後に正面スタンド通過。じわっと臨戦態勢に。
単勝人気、前売りの時点ではエイラン−タカライデンの順だったがやがて逆転。締め切り直前に再度逆転し結局1番人気エイラン次いでタカライデンとなったらしい。しかしながら連勝はエイランよりもタカライデンからの目の方が売れている。
予想紙のシルシも『キンキ』は両者互角、『馬』の方はタカライデン本命が多数派。順調に使われていてなおかつ実績も積み重ねているタカライデンが高く評価されている。エイランは久々の心配と、追い切りの動き不満を唱える記者がおり、それら要因が相まってのこのオッズかと。
買い目といえば、言うまでもなくこの1点しかない。だいたい1.5倍くらい。アラファンくん共々「問題はいくら張るかですよ」。それなりの勝負!姫路銀行となるか?レース直前にちーちゃんが滑り込みセーフで登場。

レース発走、姫路の千五は四角直線入り口。注目はエイランとタカライデン、どちらが先手を奪うか。
ゲートオープン。赤木タカライデン、今日は好発。前へ。しかし太エイランボーイも五分のスタートからズンと前に出てこれがハナ。その外1馬身圏内にタカライデン。(以下に隊列、現場では全く気にも止めなかったが、中継のビデオ録画より参考に、3番手内米田イチノタイトルその外エイランとライデンの直後岩田ケイエスヤマト、その外坂本グリンエイシ、以下木村サンユウラピート、後方政宏イッシンユメマル田中ナンセイローレル)隊列は各馬半馬身から1馬身間隔の一団。正面スタンド前を通過して1コーナーへ、エイランボーイのでっかいケツの後ろ姿を見送る。エイラン、ライデン双方とも折り合い充分に見える。

1周目(43KB)
はじめの正面スタンド前
先頭エイランボーイ2番手タカライデン

隊列の順に特に変化もなく全馬固まって向こう流しへ。エイラン、首を下げていつもの姿、太手綱がっちり。ライデンは終始エイランの外2番手。3コーナーのスロープ手前でどうやらエイラン、馬なりでペースアップ、「来るなら来い」といったところ。馬場内大型モニターのない姫路では三分三厘が視認しづらく、アラファンくんと「あれ、岩田上がってきてる?タカライデン置かれてる?岩田余計なことすなよ!」だったのがが、実際はそんなことはなく、エイランボーイに食いついていく。後方はもう遅れる。
最後の直線、エイラン先頭、太に若干手綱を押される程度。内埒沿いを一直線。タカライデンはエイランから1〜2馬身差で2番手から追いすがる。しかし鞍上赤木も最後は観念したのか、しばき倒すまでは追わず、結果、エイランボーイが余裕の復帰緒戦V。2着タカライデンとその差2馬身。この後ろにサンユウラピートが3/4馬身差まで突っ込んできていたようだが、現場ではもう眼中にない。
走破タイムは1分36秒6。エースランナーの持つレコードにコンマ4差まで迫る時計。因みに今日はかなりバサバサの良馬場。レコード時計が出たのは昨春の姫路開催の最後、砂が流れてベースの土が露出したともいわれた超高速馬場、ミスターオリビエの姫路千四のレコードも同日。こうしたことからもかなりの好タイムであるとは間違いない。
(以下は中継のビデオ録画よりの補足、最後の直線、エイランボーイに太騎手が入れた鞭はただ一発。ごく軽く腰に。余裕の勝利に見えたのだが、レース後の勝利騎手インタビューにて太さん「ゴール前は久々太めからかちょっと苦しくなったような」とコメント。解説の『キンキ』小泉氏は「タカライデンは三、四角から直線までずっと右手前で走り続けていて手前を替えていない。これは鞍上がきっちり指示してやらねばならぬこと」と、鋭い指摘。やんわり赤木批判。タカライデン本命への未練とも。)

エイランボーイ、優勝(40KB)
エイランボーイ、優勝
これが現役最強アラブの勇姿だ!

アラファンくんとスタンド席の端から、装鞍所に引き揚げてきたエイランボーイを観察する。騎手が下馬して馬装を解くと口を開けて首をガチャガチャさせるのは彼の特徴、息などすぐに戻っている。「やっぱり強いわ・・・ホンマに」と二人で感心しながらその姿を見守る。ここでアラファンくん曰く「これでトライバルサンダーの単勝買える、そこそこつくでしょう。」「何やキミ、以前は他地区転入馬に勝たれてオモロない言うてたやんか。」「いやそうなんですけど、それはそれこれはこれですから」と、どこまでも現金で合理的なアラファンくんであった。
装鞍所からウィナへ表彰式に向かって馬場を歩く森澤調教師に声を掛けることができたのだが・・・
「おめでとうございます。エイラン、ホンマ強いですね!」とワシ。すると師、「どうも」といった感じで頷かれて、沈着な風情のままぼそりとこう漏らす。「本当は走らせたくない・・・馬がかわいそうだ――」常に不安な脚元、しかし出走すると絶対能力と忍耐で強く速く走ってしまうという、諸刃の剣の如きシビアな状況、そしてこれほどの馬が進退を望み通りに決められぬ時代背景、こうした諸々の事象が慮られ、胸がキュンとなった。ちょっとたまらなかったよ。
ウィナでは太さん、汗びっしょりでの表彰式。インタビューで、吉田アナはエイランの復活圧勝振りをとても嬉しそうに太さんに訊いていた。太さんも、エイランに全幅の信頼を置いて騎乗していた旨を語る。

王者圧勝の姿を目撃でき、一点勝負の配当もそれなりに手にできて、なかなかご機嫌に競馬場を後にするのであった。その後皆さんとちょっと茶をしばき(この間1時間弱、日が照りながら夕立ザーザー)、姫路駅前で暑気払い。「胸キュンもありましたが、たのしいひめけいでした。おわり」(←こどもの日記風)

補足:ちょっと苦言。
終わってみればエイランボーイの独壇場。結果論ではあるが、いくら長期休養開けであり、なおかつ4歳No.1が相手であるとはいえ、予想サイドのシルシの並びの軽重、エイランを見くびり過ぎではないのか?己が地区の最強馬の地力だぞ。
それとテレビ中継の伝えぶり、何となく白けてなかったか?競馬場の観戦現場の雰囲気とTVオンエアが伝えるそれとの乖離が最近甚だしい。楠賞はその極致だったぞ。そんなにアラブ系競走中継するのは億劫なのか?

お口直しに最後の締めは、
「エイランボーイは兵庫の、いや日本アラブ界の"宝物"です。」(ブッチャー佐々木的に)

2000.7.9 記

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