第20回兵庫アラブクイーンカップ観戦報告

 2000.10.5、園田、1870m

菊水賞、六甲盃のサラ系への明け渡しを中心とした、4歳アラブ三冠路線の改編、年末の園田金盃のサラ化と並んで、兵庫の競馬のアラブ縮小が顕著に現れたのが、今回のアラブクイーンカップの「全日本」から「兵庫」への冠称変更。このあたり、年始めの日程発表時点では、「タマツバキが全国交流になるからQCはもう地元だけなのか」と思っていたところ「何やタマツバキ結局西日本交流か、でQCは名前は"兵庫"に変えたまま全国交流なのね」などと勝手に理解していたところ、結局タマツバキも全国交流の模様。但し実のところ、賞金はガタッと下がって、1着賞金は昨年の1000万円から600万円。アラブ系縮小の色合いの濃さは明らか。
と、素人の邪推、不可解な念を氷解させて下さったのは、事情通"あいねすさうざー"さんの、日浦さんボードへの書き込み。以下に引用させていただきます。
なんで「全日本」から「兵庫」になったのか。理由は単純で、元々全日本の時についていた「農林水産大臣賞典」が外れたため。
この賞典は各主催者毎に、年間に実施できる回数が決まっているんですよね。で、その賞典を兵庫チャンピオンシップに使っちゃったもんだから、QCの賞典が外された。それで、だいたい全日本と付くレースと、統一重賞を中心にその賞典が配されていた事から、全国交流のレースの性質そのものは変えずに、やむなく「全日本」から「兵庫」へと姿を変えたわけ。
とにもかくにも、一応全国交流ということ。しかし従前に比しての今年の盛り上がりのなさ、この大きな一因は、昨年まで設けられていたトライアルレース(報知新聞社賞)がなくなったことにもあろうかと。このトライアルに他地区、殊に東海や福山から毎年参戦があり、好走して優先出走権を獲る馬が出たり、また他地区馬が本番前に走ることで、他地区と兵庫の力関係を予めファンも窺うことが出来、意義深かったのだが・・・
結局今年は他地区馬4頭の登場をみることに(笠松のマルタカフレンズも参戦表明、登録していたが、前週の追い切り後に骨膜炎発症で断念、とのこと。byレース当日付『キンキ』北防氏のコラム)。
ということで、出走馬、他地区馬4頭を含め、内枠より以下の12頭。
ムサシボウナナ(福山、6歳)、タキオビジン(4歳)、フジノシャンハイ(名古屋、9歳)、シルバーハヤカゼ(荒尾、7歳)、ミチノクセンプー(道営、4歳)、グリンティアラ(5歳)、ランダムエース(5歳)、クインラマ(5歳)、キクノパワフル(6歳)、オリオンザダンサー(5歳)、グリンエイシ(5歳)、ニシノリュウジン(4歳)。
地元兵庫の断然の最強牝馬といえばトライバルサンダーなのだが、兵庫大賞典を1着後、6月福山山陽杯をキャンセル以降戦線離脱中、放牧先の北海道で夏負けしたとの噂あり。
他地区馬では、昨年トライアルの勝者で1番人気で臨み2着の、当時名古屋現在は道営所属のイケノエメラルド、新潟の斬れ者ラブリーハート、益田4歳イッテンヨカイチの参戦がないのが残念。ヨカイチは馬体の細化が解消されなく断念(byふささん)。イケノは当初から参戦の意志なく(by3号馬さん)、またQCと同日の地元の重賞黄菊賞(1着賞金550万円)に出走。ラブリーハートも4日後9日の地元重賞新潟平成カップ(1着賞金400万円)へ。地元にそれ相応の賞金で、なおかつ自身の勝利が充分見込まれる重賞があるとあっては、敢えて1着賞金600万円を目当てに遠征はせぬか。やはり賞金減少はレースの盛り上がりをスポイルする。イケノは堂々1着、ラブリーは4着。

と、前置きが長くなったが、今年のクイーンカップ、出走メンバーの小粒さは否めぬが、まあ数の少なくなっている兵庫の重賞、観ておこうということで園田にGo!午後から競馬場入り。9月下旬以降一気に秋めいた気候、天気は晴れ、競馬日和。
旧ウィナ横のコース前にはエチゼンさんとそのお連れの方の姿。浦さん、ともちゃんも。そして当然某くん(匿名)。8レース前には大御所Okuさんが来園。「ごくろう」「いらっしゃいまし」「タマツバキけえへんから代わりにこっちに来た、いかにもワタシらしい」「ほほう」といった具合に会話を交わしていると、やはり大御所江戸平多さんが。規模が小さくなろうとも全国交流、それなりの数の方々が観戦にみえている。

第9レースのパドック周回が終り、次のメインQCのパドック待ちに入る。エチさんと柵沿いで待っていると、三々五々メイン騎乗の騎手が待機所にやって来る。岩田jkとともに福山の岡田騎手がやって来たので、小声で「あっ!岡田」と口走ると、音量小さかったのにもかかわらず、岡田jkがジロリとこちらに目線をくれ、焦るワシ。「なんであれで聞こえるねん?睨まれたなあ」「『岡田』じゃなくて『岡田さん』て呼ばなきゃいけませんね」とエチさん。ジョッキーへの声援は綺麗どころのミーハー御歴々に任せるに如くはなし、か・・・
さて、パドックに出走各馬が登場。大半が初めて目にする馬、もしくは目撃回数が僅かな馬なので、通常時の状態との比較はできない。以下、あくまで当日の印象。
牝馬なので気配がかなりうるさいのではと思っていたが、その予想に反して概ねみんな落ち着いた周回。唯1頭、北海道より参戦のミチノクセンプーが入場時より終始ガチャガチャ落ち着かない。楠賞の時もそうであったし、今回も事前に入厩しているので直前輸送の影響はないわけで、これは個性か?
今回の有力二騎はリーディング森澤厩舎より。お馴染みの青メンコ装着で登場。
その一方、まずもって目を惹いたのは本命グリンティアラの素晴らしさ。パドック大外を悠々、それでいてぐいぐいと周回。踏み込みもしっかり、馬体の張りと栗毛の毛艶も文句ない。このパドック気配で馬券から切ろうというのは、人気もさることながらかなりの冒険。強力な差し脚を誇る彼女だが、それと裏腹に馬を交わすとソラを使う癖も併せ持つ。そこをいかに御すかが鞍上の腕の見せ所であろう。
そしてもう1頭は対抗格のクインラマ、約1年も前、前回姫山菊花賞で目撃した時は、いかにも気性が勝ったトライバルセンプー牝馬といった感じで、個人的にはピーキーな印象が残っているのだが、この日の気配は随分落ち着いている。ひ腹が薄く、トモのボリュームに乏しい馬体。踏み込みはやや浅いか。太さん岩田やっくんが先約ありで、ここは当初のパートナー小林に戻るかとも思われたが、永島太郎ちゃんをテン乗りで抜擢。
前年のこのレースの勝者キクノパワフル。9/6の前走オータムカップが9ヶ月半の休養明け緒戦、殿負けでここが2戦目、『キンキ』掲載の、管理する戸田山師のコメントに曰く「もう一叩きしたかった」。パドック気配はそれほど悪くも見えない。実はワシは結構狙ってみたかったりする。坂本涙の重賞初勝利から1年、再度人馬同ペアで臨む。
キクノパワフルと同厩のグリンエイシ、逃げ積極策で一発と『キンキ』は見込む。こちらは順調に使われているだけありいい仕上げ。パドック内目の周回ながら気配上々。
曾和軍団所属、昨年ののじぎく賞馬オリオンザダンサーは7ヶ月半の休養明け2走目。4歳時よりは10kほど馬体が大きくなってはいるが何となくギスギスした体型。トモの踏み込みが弱いような気がする。
福山代表ムサシボウナナ、馬体重+10kの441k。ぱっと見はボテボテ感などないのだが、よく見るとやはり若干胴のラインが緩い。いつもは420k台でレースをしている馬だけにちょっと太めか。「輸送で減るのを見越して余裕持たせで仕上げて、持ってきたら馬がほとんど動ぜず結果太くなったのでは?」とは某くんの推測。気配は悠々、緩め感に目をつぶれはいい周回。
名古屋からのフジノシャンハイは9歳。この歳になれば何に動ずることがあろうか、といった風情で余裕綽々といった感。首を若干高くもたげ、辺りをうかがう素振り。
九州荒尾より参戦シルバーハヤカゼは輸送で減ったか、前走より-10k。黒鹿毛の毛色も相まってなかなかにシャープな印象。
その他、これは人気どころではないのだが印象に残ったのが、地元4歳2頭、ニシノリュウジンとタキオビジン。ニシノリュウジンは今年6月に急逝したニシノハクリュウの年子の全妹。そのパドック周回の姿、体つき、兄のハクリュウにとてもよく似ている。それを某くんに言うと「そうでしょ、身のこなしとかもホンマよう似てますよ、で、馬券買いたくなるんですよ。」と同意される。タキオビジンはやや胴が長い細身の栗毛で面長、彼女、その名の通り、かなり美人。
といった塩梅に、あまり馬券と直結しそうにないパドック観察をやっつけ、本馬場入場を待つ。馬券面でのパドック総括をするとすれば、グリンティアラ絶好、ムサシボウナナ+10kにはやはり躊躇、キクノパワフルはようわからん、クインラマは問題なし、といったところ。

そして各馬本馬場へ入場。岩田グリンティアラと太オリオンザダンサーは入場するとすぐさま1コーナーへ一目散、そのまま四角ポケットの待機所に入りこれで返し馬終了、結局ホームストレッチを1度も流さず。
永島クインラマは直線真ん中まで一旦顔見せ、そこからまずはおもむろにダクに下ろし、そしてキャンター、小気味いいピッチ走法を披露。
ミチノクセンプー、キクノパワフル、ニシノリュウジンあたりは強めのキャンター、ムサシボウナナ、シルバーハヤカゼ、グリンエイシは楽走。

ムサシボウナナ(49KB)
ムサシボウナナ、返し馬
"アラブ最後の聖地"の期待と誇り、一身に負って

予想。某くんともども「グリンエイシとムサシボウナナの行った行った馬券は是非押さえたいですね」と話していたのだが、ナナの+10kが気になりこの張り目には弱気に。何だかしっくりこぬままキクノパワフルを穴目の軸に据え、最後にグリンティアラ−クインラマの本命馬連森澤丼を追加。
Okuさんはオリオンザダンサー狙いのよう。曰く「来ん来ん言うて、のじぎく賞は来てんねんで」。

さあレース発走。今年のQCは距離一八七。二角よりスタート。
鋭発は逃げが予想された外平松グリンエイシ、しかしこれを制して内4番枠より中島シルバーハヤカゼ。荒尾所属、黒鹿毛、楠賞のコウザンハヤヒデの記憶が一瞬蘇る。1枠より岡田ムサシボウナナも先行3番手あたり、無理には行かず。この先団に宮崎ミチノクセンプーも。岩田グリンティアラ、永島クインラマ、坂本キクノパワフル、太オリオンザダンサーは後方からの模様。
比較的固まった隊列で1周目の正面スタンド前にやってくる各馬。本命グリンティアラは後方2番手あたりの外、長手綱を引っ張り膝を立てた岩田独特の御すフォーム、脚を充分溜め込む様子。
ここでクインラマ、永島掛かって折り合いを欠くのを嫌ったか、後方よりキュン!と集団外を一気に上昇、1コーナー進入時には先頭シルバーハヤカゼの外に早くも並びかける。
2周目1、2コーナーより向こう流し、隊列はかなり縦長に。先頭内シルバーハヤカゼ外クインラマ、グリンエイシはこの2頭のポッケ。この状況、積極的に行きたかったグリンエイシだが平松っちゃんをもってしても厳しいか。ムサシボウナナは相変わらずインベタ3番手。
三分三厘、シルバーハヤカゼはギブアップ、後退するこのシルバーハヤカゼに塞がれてムサシボウナナが暫し追い出しがままらなぬ状況に。先頭クインラマ、そして外目、岩田グリンティアラがいよいよやって来る。
最後の直線、内先頭クインラマ、グリンティアラが満を持して末脚リリース、みるみるクインラマに迫り来る。後方では前がようやく開いたムサシボウナナが意地の一伸び。しかし前2頭には追いつけず。
残り100mあたりからクインラマとグリンティアラの馬体が合ってくる。脚勢的にティアラ有利か、ワシはカメラのファインダー越しにティアラの姿を追う。残り50mから30m、ティアラがアタマ差ラマを抜いたように見えた時点でシャッターリリース、やれやれと思いかけた刹那、内から差し返すクインラマ、「エッ!?」とばかりにゴール前からその通過直後、馬体びっちりの両騎に慌ててシャッターもう一発。またもや際どい!
ティアラvsクインラマG直前(52KB)
接戦グリンティアラvsクインラマ
ゴール前10m、またもや岩田vs太郎
ティアラvsクインラマG通過(49KB)
両者ゴール板通過直後
「どっちやねん?」鞍上でスマイルの内太郎ちゃん

ジャンボトロンに映し出される直線のリプレイ、内のクインラマに対してカズミサチフジ張りの末脚で差し込むグリンティアラ。その勢いをもってラマに追いつく。そしてアタマ抜けたと見えた途端、脚勢がフワッと緩くなる。やはりどうもソラを使った模様。そこへクインラマの差し返し、再度ラマが抜けたかなあ〜?というところがゴール板前。ティアラがソラを使ったように見える一方、ラマも余力なく一杯いっぱいなのか、両騎最後の一押しが弱い印象のまま鼻面並べて入線。摂津盃に引き続き、またもや内永島外岩田で写真判定に。

「永島が出ている」の声が大勢の中、判定の結果がなかなか出ない。摂津盃時に要した時間を遙かに超えたあたりで「まさかまたかい・・・」という声が起こってくる。相当待たされた挙げ句、着順掲示盤の1、2着の着差表示箇所に点灯するそれ、「同」の文字。
38年ぶりの重賞1着同着の摂津盃から僅か一月と20日後、またもや同着、それも同じ岩田永島の組み合わせ、更に今回は森澤厩舎の同着親子丼という快挙のおまけ付き。まさに「ミレニアムの怪」(byあいねすさうざーさん)。
貼り出された判定写真を確認しに足を運ぶと、馬単導入の影響か、摂津盃時の和やかさとは打って変わって殺伐とした雰囲気。よほど同着で裏表的中では困るような買い方をしたお客さんなのだろう。「またかいや」という疑念が、今回はそこに加味されていようとは察せられるが。

以下の着順。3着直線もしっかり伸びたムサシボウナナ、"アラブ最後の聖地"代表の意地は見せたというところ。4着道中後ろから内を掬い渋く直線やって来た宇都フジノシャンハイ。5着中団より伸びた宮西ランダムエース、6着はナナに近い先団を終始死守し四角では一瞬2番手に上がった下原タキオビジン、7着好位キープの松平ニシノリュウジン。この5、6、7着はレース運びも結果も大健闘ではないか。8着グリンエイシ9着ミチノクセンプーは三分三厘キツくなり脱落でこの結果。キクノパワフルとオリオンザダンサーは後方から完全不発でそれぞれ10着11着。殿逃げ沈没のシルバーハヤカゼ、これは止むなしか。

同一厩舎の一着同着ということで、口取り撮影は2頭一緒に。写真判定に時間を要したためスケジュールがタイトになったからか、撮影はスタンド前から離れた1コーナーの彼方で。近くで観られず、かなり残念。岩田jkはまた例によって赤ちゃんを抱いて写真に収まる。

口取り撮影(36KB)
2頭一緒に口取り撮影
1コーナーの彼方で、両頭の後ろ姿、体型の違いがわかる

表彰式に向かう勝者二人、岩田やっくんも永島太郎ちゃんも闘い終わって共にニコニコ。そして何より印象的だったのは、森澤調教師の表情。いつもは沈着に見える先生だがサスガにこの時ばかりは堪えても笑顔が滲み出るといった感。しかしとてもいいオカオでしたよ!「クインラマを前に行かして(グリンティアラが)G前で並んでくれれば言うことなしです」と取材陣に戦前語ったようだが、それを本当に現実にしてしまうのだから・・・

とにもかくにも勝利を分け合ったグリンティアラとクインラマ。グリンティアラの勝利は上山生え抜きの名馬、レオグリングリン産駒の重賞初勝ちでは?(レオグリングリンについては上山競馬情報誌『さくランス』vol.3所収)クインラマは母チョウキユウガバナが第1回のクイーンカップ優勝ということで母子制覇。それに彼女自身、昨秋の姫山菊花賞3着で止まった連勝街道、その前走9連勝目以来、約1年ぶりの白星。
重賞制覇の両頭には、牝馬限定戦は無論のこと、牡馬一戦級との、不可避の闘いが待っている。とにかく頑張れ。そして4歳タキオビジンとニシノリュウジン、ここは無欲の好走やも知れぬが、素質の一端は窺われた。牝馬路線はともかく、どうも層の薄い4歳戦線を引き締めるためにも、今後の健闘、更に期待(ミーハー的見地から私見を申せば、この2頭、とても可愛げがある。)。

といったわけで、ミレニアムの珍事を記憶に焼き付け、日が傾くのがめっきり早くなった秋空のもと、エチさん、ともちゃんと一緒に園田駅まで徒歩にて帰路についたのだった。
そして次週は、いよいよ頂点決戦、タマツバキ――

2000.10.11 記

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