第44回新春賞観戦報告

 2002.1.3、園田、1870m

はじめに〜世代トップの四強対決
園田正月開催の名物レース、新春賞。ハンデ戦ではあるが、年始め、縁起ものの競走からか、実績馬が重斤覚悟で登場してくるのが通例。
兵庫県競馬のサラ化推進策にあって、今年は兵庫大賞典が、園田金盃と同様アラ・サラ混合重賞に模様替えするとのこと。加えて姫山菊花賞もサラ重賞となり、遂にアラブ三冠体系が崩壊することになった。この新春賞とて、来年はどうなることかわかったものではない。

このような状況ではあるものの、今年の新春賞は、古馬4世代それぞれのトップが揃う、注目の一戦となった。すなわち、7歳サンバコール、6歳ワシュウジョージ、5歳ハッコーディオス、4歳クールテツオー。
これら4頭の前走は昨年12月12日のS1戦。4頭が顔を揃えるのはこれが初。年齢定量で1870mを争った。以下はその概略。このレースは現地観戦していないので、中継の録画を観てのまとめ。

ハッコーディオスが鋭発を決めスッとハナに。クールテツオーは出負けで埋もれかけるが押されて2番手に。ワシュウジョージは1枠から中団。サンバコールは最後方より。道中先頭ディオス、2番手直後テツオー、両者折り合って。ワシュウは好位集団後ろのイン。二角でサンバコールが捲って出る。ワシュウはバック半ばで外に持ち出すが反応は悪い。三角坂前でバコールがワシュウを抜いて3番手に。バコールはさらに三分三厘、2番手テツオーも交わし、先頭のディオスと馬体が合う。ようやくワシュウが直後に接近。四角から直線、しかしここからディオスがスッと加速。抜かせない。そのまま1馬身半差をつけて1着のゴール。サンバコールがディオスを追いかけるところ、直線半ばワシュウが何とか差し脚を振り絞り、残り20でバコールを交わして2着。サンバコールはクビ差で3着。最後インベタで粘ろうとしたクールテツオーだが、3馬身差で4着。

前走とは距離は同じであるが今回はハンデ戦。結果四強の間にもかなりの斤量差が生じ、このあたりが勝負の行方に相当影響を与えそうである。
なお、このレース、過去10年2度以上制した馬はいない。今回ワシュウジョージとサンバコールが、新春賞2勝に挑む。

上記四強を含め、出走馬は以下のフルゲート12頭。()内は騎手、斤量。
エイランヒット(木村、54K)、ジョージレディー(松浦政、51k)、イムラッドシンゲキ(赤木、53k)、ニシノリュウジン(松平、53k)、ツバサキング(岩永、51k)、ワシュウジョージ(小牧太、62k)、ハッコーディオス(岩田、61k)、ソレユケイチマツ(下原、52k)、マサノライデン(小牧毅、53k)、リジョウガバナー(永島、53k)、クールテツオー(平松、55.5k)、サンバコール(田中、58k)
背負い頭はワシュウジョージの62k、最軽量51kジョージレディーとのハンデ差は実に11k。四強の一角クールテツオーとワシュウとでも、6.5k差がある。また、ハッコーディオスが今回61kと、初めて60k超の領域に挑む点も注目。

天気は晴れ時々曇りといったところ。しかしながら風が強くて気温も低く、非常に寒い。凍えながらの観戦となる。
馬場状態は良。砂は相当乾いている。第8競走にサラの千四オープン戦があり、この勝ちタイムが1分30秒3。バクシンクリークがマイペースで逃げ切ったにせよ、このクラスで1分30秒を切っていないということからも、スピード馬場ではないということが窺われる。

パドック、そして発走まで
そしてパドック。
1番エイランヒット。前回目にした白鷺賞時よりは毛艶はまし。ちょっとトモが弱く映る。白鷺賞3着に前走S1戦は四強に次ぐ5着。いまやヒラオープン馬のボス状態か。
2番ジョージレディー。全く大人しい気配。馬体重399kの通り、どうしても貧相。S1はあまりに家賃が高い現況。
3番イムラッドシンゲキ。岩手−兵庫−金沢−福山と移籍を重ね、昨秋再度兵庫にやって来た、"彷徨える芦毛"。ますます白くなった。馬体重-10kの492kは適正値だがまだ太く見える。煩い感じなのはこの馬らしさ。
4番ニシノリュウジン。毛艶はイマイチ冴えない。印象も薄い。昨年は良積ないまま終えた。
5番ツバサキング。濃い鹿毛の馬体はいつも毛艶、張りとも良く見せる。しかし戦績は振るわぬまま。
6番がワシュウジョージ。今回も良い毛艶。悍性迸る気合い乗りは好調時のこの馬のサイン。トモの踏み込みも深い。「ワシュウはますますエエ出来やがな。これでディオスに負けるわけにはいかんやろ。」と、山ちゃんも絶賛。「でもワシはディオスから買うけどな。」と、何ともアンビバレントな心情と自虐的なスタンスをもって、ワシュウに対峙する山ちゃんである。
7番がハッコーディオス。大人しい周回。トモの歩みも柔らかい。馬体重474kは適正値だと思うが、ポテッとした体型でなおかつまだら芦毛、馬体の善し悪しの判断に困る。「ワイ、ディオスはわからん。」とリーダー。「ほんまこの芦毛はオグリやマックイーンやないけど何ともなあ。」と、山ちゃんも判断保留状態。
8番ソレユケイチマツ。パドックの大外を周回。踏み込みは力強いが、腹が重く見える。馬体重+6kの495kは同馬の過去最高値。
9番マサノライデン。ヒラオープン勢の中でも比較的新顔。腹の重い詰まった体型。ちょっと緩め。
10番リジョウガバナー。毛艶は良い。やや硬い歩様だが、力強い踏み込み。雰囲気はいい感じ。追い込み一手だが、戦績はいま一つ。
11番がクールテツオー。毛艶は良好、ツヤツヤ。やっぱり今回もピョコピョコとした歩み。チャカチャカ煩い気性は相変わらず。秋以降、ケツのボリュームが目立たなくなったのは、成長して体型が変わってきたせいだろうか。
12番がサンバコール。いつも通り大人しく周回。ゆったりとしたいい歩み。馬体重510kは出走馬中最高だが、背も高くボリュームもあり、とにかくデカい。「あー、大っきくて画面からはみ出たぁ。」とデジカメ撮影のラテちゃん。浦さんはこの馬がどうも気になるよう。「確かにこの馬体はエエなあ。季節的にも冬場が合うんやろか。」と山ちゃん。

ワシュウジョージ(43KB)
ワシュウジョージ、パドック
良好な出来だと思うのだが

本馬場入場。ワシュウジョージは入場の隊列を離れて、入場口から真っ直ぐにゴール板目指して登場。しかし今日はゴール前まで進まず、すぐに一角方向に反転、キャンターで駆け出す。クールテツオーも入場口から1コーナーへ直行。ハッコーディオスは1頭外ラチ沿いを曳かれて少し歩いてから、手綱を放され1コーナー方向へ。
キャンターで直線を流したのは、エイランヒット、ソレユケイチマツ、リジョウガバナー、サンバコールの4頭だけ。

予想。ワシは保守的な人間なので、「いくら何でもワシュウが3度続けて同じ馬には負けないだろう。」という考えで、ワシュウジョージを中心に据える。相手には、まずは応援の意味も込めてサンバコールを。ハンデ58kも走り頃であり、スピード馬場でないのも願ったり。次いでクールテツオーを。ハンデ55.5kは恵まれたかと。逃げ同型のハッコーディオスにはスタートダッシュでかなり見劣るが、今回ディオスが61kを背負うので、このハンデ差に逆転の余地を見込んで。ハッコーディオスは今回、その斤量61kがキツかろうということで、思い切って捨てる。

サンバコール(46KB)
サンバコール、返し馬
目指せ、連覇!

レースなり
いよいよ発走。距離1870m、2コーナーからのスタート。
ゲートオープン。ビュッと鋭発を決めたのは今回もやはりハッコーディオス。最初の1、2完歩で馬体一つ半リードのハナ。二の脚も冴える。内からジョージレディーが続き、ニシノリュウジンも前に。外からクールテツオーはやはりさほどの出ではなかったが、鞍上平松に押されて、向こう正面半ばまでにはディオスの外2番手に上昇する。ワシュウジョージがニシノリュウジンの直後に、早めに好位前列を取る。内エイランヒット、外ツバサキングがワシュウに併走。中団にソレユケイチマツ、イムラッドシンゲキが単走で続き、サンバコールは後方2番手。マサノライデンが殿で、1周目の三分三厘を回って直線を向いてくる。
1周目のホーム、先頭ハッコーディオス、マイペースに折り合って。1馬身強外にクールテツオーが2番手で、何とかなだめられている感じ。よく抑制されている。直後に内ジョージレディー外ニシノリュウジンが並び、ワシュウジョージはニシノリュウジンの直後外の5、6番手。ワシュウの内にソレユケイチマツ、この次列にエイランヒットが陣取り、イムラッドシンゲキ、リジョウガバナーあたりはさらに後ろ、サンバコールはまだ後方追走。
隊列は1、2コーナーと通過。このあたりでサンバコールが外目に持ち出し、そろそろといったポーズ。そして向こう正面へ。案の定サンバコールが捲り発進。前ではエイランヒットあたりも動く。ワシュウジョージもニシノリュウジンの外に出て追い上げ体勢か。
「しかし岩田(ディオス)、ここでもうペース変えとるねんで。」と山ちゃんが見切るが、その通り、バックに入ってハッコーディオスが後方の動きに先んじて、巧みにペースアップ。それが証拠に、バック半ばで先頭ディオスとそれについて回るテツオーと、3番手ニシノリュウジン以下との間隔が、3馬身強にまでスッと開く。三角手前ではワシュウジョージが3番手に。しかし前との間隔はまだ詰まらない。ここでディオス鞍上岩田、手綱をしごいて見せ鞭のアクション、パートナーに気合いを入れる。クールテツオー鞍上平松は大きくテツオーを押して、何とかディオスに食い付いていこうとする。
3コーナーの坂を下ったあたりで、先頭ディオス、2番手テツオーから3番手ワシュウまではまだ3馬身強はある。このワシュウの外にサンバコールが追い付いてくる。そして4コーナー、ディオスがインを回り、テツオーは追い立てられながら外へ。接近したワシュウジョージがテツオーのさらに外へ進路を取る。サンバコールはここから先がなかなか押し上げられない。
最後の直線、先頭ハッコーディオス、スイスイと逃げ込み体勢。ここにクールテツオーが改めて迫る。ワシュウジョージも外から来るが、終いの2段ロケット的な爆発力は今日はない。サンバコールがワシュウの後方外を追い上げるが、終いは脚いろが止まった感じで万事休す。
ゴール板前にて待ち構える我々の目から見ても、前3頭は大接戦であると判る。ここは注意深く勝ち馬を判断せんと、直前までジャンボトロンと走る馬とを交互に確認する。「怖いのは大外ワシュウだが、存外伸びがない感じ。テツオーとディオスの脚いろは互角か、これはディオスが残る!」そう判断してゴール前、ピントはディオスでシャッターリリース。案の定そのファインダー像の中、ハッコーディオスがインで残って、優勝のゴールを駆け抜けた。

ハッコーディオス、ゴール前(50KB)
ハッコーディオス、逃げ切ってゴールへ
クールテツオー以下を封じ込める

しかしながら実況の吉田アナが、残り50あたりで「先頭はワシュ〜ウジョージ!」と間違えるものだから、被写体をワシュウにしてしまった被害者、リーダーはじめ相当数。「そりゃないぜ、吉田サン。」状態である。
食い下がったクールテツオーがクビ差まで迫って2着。ワシュウジョージは届かずクビ差3着。1馬身半差でサンバコールが4着。レース中盤追走に苦しんだらしいソレユケイチマツが再度差し込んで5着。好位から積極的に進めたエイランヒットは6着まで。ニシノリュウジンは三分三厘まで先団を持ちこたえて7着。リジョウガバナー、イムラッドシンゲキ、ツバサキング、マサノライデンは中団ママといった感じで8、9、10着にブービー。先行するも2周目バックでギブアップのジョージレディーが最下位。

振り返って
ハッコーディオス、61kも何のその。ワシュウジョージに三タテを食らわすお見事!の勝利。ロケットスタートから道中スローに落として、勝負所の一歩手前からペースを上げての終い粘り込み。岩田騎手の好リードは言うまでもないが、芸術的とも感じさせるレース掌握術。当初は才能と素質が前面に出た走りだったが、いまや技巧派とも言えるようになった。かつて岩田騎手はこの馬を「今まで乗った馬の中でも、一番強いんじゃないか。」と、ヨシゼンやエイランボーイをも差し置いて評したことがあったが、その見立てがいよいよリアリティを帯びてきた。それにしてもワシの戦前の見立ては、何とも無惨に打ち砕かれた。
だだ、これは辻本くんが御本人のHPでも言及されていたのだが、この馬にとって、一番目障りなのはタカライデンだろうな。ディオスがマイペースのスロー逃げに持ち込むところで、掛かりながらそれにまとわりついて、「そうは問屋が下ろすまい」といった走りをするのがタカライデンであり、実際このディオス3連勝の間、タカライデンは不在。今後この馬をも交えての古馬の決戦が、ちょっと注目ではある。
クールテツオーはハンデ差もあって、最後までよく食い下がった2着だろうかと。2番手で折り合えたのも結果的には良かっただろう。ただ、脚質同型のディオスに比して、発馬のビハインドはやっぱり大きい。斤量差に頼らぬ、真の意味でのディオス越えは、これがクリアされぬと当面は難しいような。
ワシュウジョージは白鷺賞以降、パドックでの好感とは裏腹に、勝負所での反応がどんどん悪化してきている。振り返れば昨年1月末から、レース間隔は取ってはいるが、コンスタントに夏場も不休で重賞を中心に使われ続けてきているわけで(昨年出走11回)。加えて、この間3度も斤量62kで走っており、そろそろ疲れが蓄積されてきていてもおかしくないところ。今後JRA挑戦のプランもあるそうだが、一息入れさせてやってもいいのでは。ただ、アラブ馬は一流馬といえども長期休養明けの立ち上がりが難しいのも事実、今後どうするのか。それにしても、園田金盃の観戦記にて、「どうやら少なくとも兵庫には、今の彼を止められる馬はいそうにない。」などと書いたものの、その後は3連敗。ワシの先を見る目の無さといったら・・・ハズカシイ。
サンバコールは、逃げる有力馬にあれだけスローで折り合って進められたら、ちょっと手も足も出ないといった感じの敗戦。捲り切るまでに至っていない。これはちょっと致し方のないところか。どうしても他力本願になってしまうのが辛い。この馬も明けて7歳、歳くってきたが、4歳(旧表記)秋の豪脚が忘れ難く、いまだにその再現を期待してしまうという、これが。「永遠のスター」か。

ウィナでの模様、そしておわりに
口取り撮影のため、旧ウィナに岩田騎手を乗せたハッコーディオスが登場する。登場するや否や岩田騎手、お客さんに向かって、両手を天に突き上げガッツポーズ。よほど会心の勝利だったのだろう。ただ、この時相当数のお客さんは、「口取りはコース上なのか旧ウィナなのか。」と疑問に思いつつ待っていたわけで。登場早々、唐突に出たこのガッツポーズを見逃し、シャッターチャンスを逃したお客さんが多数。このあたりの気配りを岩田クンに求めるのも、無理か・・・まあ、今回の手綱捌きは大いに認めるところではあるし、派手なガッツポーズを出すに足るものではありますが。

ハッコーディオスのとぼけ顔(36KB)
ハッコーディオス、口取り時のとぼけ顔
「今年の兵庫の"顔"はワイで決まり!」

これでディオスvsワシュウの対戦成績は4対4の五分となった。取り敢えず、兵庫古馬界の、ワシュウジョージ一強体制にはストップが掛かったとは言えよう。
そして何より、昨年1年間、広域交流競走における兵庫代表はワシュウ一色であった状況に、ようやく楔が打ち込まれたわけだ。昨年の福山タマツバキ記念では、補欠に挙げられていたものの、結局回避馬が出ず出走は叶わなかったハッコーディオスだが、これで、手を挙げさえすれば、堂々と選出されよう地位を掴んだのでは。さしあたって、3月3日に佐賀で行われる、西日本アラブ大賞典への切符は、手中に収めたかと。「これで交流競走にも新しい風が吹き込むな。」と思う次第。

3月佐賀のコース、先頭をのほほんと逃げる、まだら芦毛の姿が目に浮かぶ。そして同時に、「うひゃひゃ、絶好!」とばかりに、外にビッタリ番手マークで続く、アラブの聖地の新長距離王の姿も。「ディオッさん、上等じゃけ!」なんて思っていたりして、ヤツは――

2002.1.22 記

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