第81回名古屋杯観戦報告

 2002.1.4、中京、2300m

はじめに〜当日は大雪の翌日
笠松のアラブギフ大賞典と並ぶ、東海アラブ古馬、正月のビッグレース、冬の名古屋杯。さながら、"東海アラブ、正月のヤマ場、その2"といったところか。
ゴールデンウィークに施行される、春の名古屋杯は土古の1900m戦だが、この冬の名古屋杯は、中京競馬場の2300m戦。現在中京開催は年間を通じて年末年始の1開催のみであり、加えて長丁場と、いささか特殊条件での大一番である。

東海地方は2日の晩に大雪が降り、翌朝の積雪が名古屋で16cm。これで3日の中京競馬は中止。4日の開催も危ういか、と、冷や冷やものだったのだが、前夜までにネット上でも中止の告知はなく、「開催するなら何より、しかし半信半疑」といった心情での名古屋行きとなった。
この雪で、東海道線は米原−関ヶ原近辺がアウトであろうとは明白なので、近鉄にて名古屋を目指す。鶴橋から特急アーバンライナーを利用。四日市、桑名と、伊勢路を北上するにつれ、景色の雪深さが増してくる。そして名古屋は雪の中。まる1日くらいでは溶けきるべくもない大雪である。

名鉄に乗り換えて、中京競馬場に辿り着く。無事開催されていてやれやれ。場内は最低限の除雪はされているが概ね雪景色。使用しない芝コースは一面真っ白。「一体どこの競馬場や。」とディープさんが口にするが、まさにそんな感じ。天気は曇り。しかし時折小雨やみぞれが落ちる。気温は低いが風はなく、比較的過ごしやすい。
馬場状態は重の発表。手前に芝コースがあり、ダートコースはスタンドから遠いので、その路面状況は間近でしげしげとは観察できない。

出走馬、そしてパドック〜発走まで
さて、メインレースの名古屋杯、出走馬は内枠より以下の10頭。()内は騎手、性齢、斤量。
ラディガブライト(吉田稔、牡5、57k)、ホシノセイコー(満田、牝5、55k)、ブレーンワーク(倉地、牡7、56k)、ワンダーキャッスル(丸野、牡6、56k)、ミエオトワ(沢井、牝7、54k)、ドリームボール(戸部、牡6、56k)、ヘイセイチェッカー(宮下瞳、牝5、55k)、ブラウンダンディ(安部、牡6、56k)、ジョニーダンサー(上松瀬、牝7、54k)、ボールドヒリュウ(竹下、牡4、57k)
ハンデは馬齢定量。4、5歳は57kで6歳以上は56k、牝馬2k減か。それにしてもブラウンダンディの斤量がボールドヒリュウやラディガブライトよりも軽いというのも・・・
ラディガブライトは当初河端騎手騎乗だったところ、同騎手が病気欠場につき、リーディング吉田稔騎手に乗り替わり。

今回の注目はブラウンダンディ。昨年一昨年と同レースを連覇しており、今回冬の名古屋杯3連覇が懸かる。一昨年春の名古屋杯も制しており、同時に名古屋杯4勝目も懸かっている。名古屋杯を4勝した馬は過去1頭もいないそうで、その偉業に臨む。
前走シルバー争覇にてマリンレオを半馬身差まで追い込んで2着になったその直後には、東海筆頭を奪還するべく、マリンレオを追いかけてアラブギフに回ろうかという、陣営のプランも持ち上がったようだが、結局必勝を期して、名古屋杯に登場。連覇していることから当然と言えば当然だが、中京巧者であるとは陣営も自認するところである。

広々とした中京競馬場のパドックに出走馬が登場する。
1番ラディガブライト。芦毛なので毛艶の見栄えはそれなりだが、胴の実入りがよく、かつスッキリした馬体。キビキビとした身のこなしで踏み込みも良好。これは好印象。
2番ホシノセイコー。毛艶はなかなか。スッキリとした仕上げ。クビは高いがキビキビとした周回。戦績的にちょっと苦しそう。
3番ブレーンワーク。ジンワリとした気合い。毛艶と張り、馬体の実入りはいつものこの馬なりの、見栄えのするもの。実績馬だが昨秋以降は振るっていない。
4番ワンダーキャッスル。クビの高い周回で時折チャカチャカとなる。栗毛の毛艶はイマイチ。昨年このレースの3着馬だが、この1年は好走例なし。
5番ミエオトワ。毛艶は悪くない。大人しい周回。7歳牝馬、歳なりにか、ゆったりとしている。最近はA2A3あたりが適鞍。
6番ドリームボール。気合いは入っている。特に周回後半かなりチャカチャカとなった。胴回りが前走シルバー争覇時より重々しい。毛艶は引き続きこんな程度、さほど冴えるわけでもない。
7番ヘイセイチェッカー。毛艶悪く、冬毛気味。キョロキョロと散漫な印象。トモがギクシャクとしている。「調子悪そうだなー。」とディープさんも判断する。あのヘイセイパウエルの半妹で素質馬、宮下瞳騎手のお手馬として有名だが、好走こそすれ勝ち切れない状況が続いている。
8番がブラウンダンディ。堂々と周回。毛艶も張りも良好で、実入りのいい馬体。ちょっとトモが硬い感じ。まずは問題なかろう。
9番ジョニーダンサー。チャカチャカしている。毛艶は冬毛気味で悪い。胴が重く映る体型。A1では家賃が高そう。
10番ボールドヒリュウ。馬体重+12kの468kは、数値としてはこのくらいあった方が望ましいが、その上げ幅が二桁なだけに、胴体は若干緩い感じで、腹が重め。毛艶は良好。キビキビとした気合いはこの馬なり。煩いことはない。「ボールドヒリュウはどうです?」と"東海の好漢"おーたさんが問われるので、上記の見立てを述べ、「きっと道中掛かって行くでしょうし、距離も距離ですから、積極的には推せませんね。」と付け加えるワシ。

ブラウンダンディ(40KB)
余裕綽々!ブラウンダンディ
「ここはオレのシマ」
ボールドヒリュウ(44KB)
ボールドヒリュウ、パドック
ワシのココロの・・・

騎乗命令が掛かるが、ラディガブライトとドリームボール、ブラウンダンディは騎手(それぞれ稔、戸部、安部)がここで乗らず。いかにもJRAの競馬場といったところか。ボールドヒリュウは騎手を乗せて以後も、意外にも大人しい。
本馬場入場、そして各馬駆け出すが、如何せん中京のダートコースはスタンドから遠いので、個々の馬の動作はチェックできず。

ヘイセイチェッカー(41KB)
ヘイセイチェッカー、出撃
宮下瞳騎手との、お馴染みのコンビ

予想。アタマはブラウンダンディで鉄板。よって考えるのは相手だけ。その筆頭にもってきたのはラディガブライト。「今回が休み明け3走目、前走A2で結果も出して臨戦過程は上々。昨年このレースの2着ですし、パドックもエエ感じやったし。加えて鞍上が河端から稔に強化。ますます買いでしょ。おかげで人気しちゃってるけど。」とディープさん。ワシも同感。ドリームボールはこのところ安定かつ充実した戦績だが、長丁場は本来得手とは言い難いようで、加えてパドックの印象が前走時より劣るので、当初の目論見より購入金額を減らす。あとはほとんと義理で、ボールドヒリュウを。昨春"ココロの楠賞馬"と公言した手前、とことん付き合わざるを得まい。しかし期待は薄い。
「ブレーンワーク、オッズ見たら気持ち悪いくらい人気落としてたで、思わずブラウン→ブレーンの組、買ってまった。」とおーたさん。「おお!そうくるか。ワシは結局ボールドちょっと買っちゃいましたよ。」と返すと、「何?嘘つきだなあ。」とやり返される。
ディープさんの携帯に電設師から入電、ブラウン→ヘイセイチェッカーの組み合わせを買ってくれとのこと。「わしもお楽しみはヘイセイチェッカーですよ。ブラウンアタマでも20倍弱ですから、来たらオイシイですよ。」とディープさんも。一方でおーたさんがブレーンワークに手を出した件については「へー、よう買わんわ。」と、至極冷淡。因みにリーダーは前レースで大きな配当をゲットしたので、今回は勝ち逃げ。

レースなり
さてレース。スタート地点は向こう正面半ばあたり。距離2300mと長距離ながらも、2周するに至らないのがいかにも広いJRAのコース。
スタートしてまず先手を奪ったのはジョニーダンサー。1枠からラディガブライトも前に、外からはヘイセイチェッカーも2番手に、中ではブレーンワークも先行。次列にボールドヒリュウが、この直後にブラウンダンディが。以降は中団より後方の差し馬勢。ホシノセイコー、ワンダーキャッスル、ドリームボール、ミエオトワ。3コーナーあたりをだいたいこのような順位で通過。
4コーナーから1周目のホームにかけて、内からブレーンワークが先頭に立つ。鞍上倉地、それほど抑える素振りも見せず、また掛かってる様子もなくジワリといった感じで、これは作戦か腹を括ったのか。
ホームストレッチ、先頭ブレーンワークを1馬身前に見て、2番手にヘイセイチェッカー、その外にジョニーダンサー、内にラディガブライトが併走。ブラウンダンディはこれらの3馬身くらい後ろで単騎、手綱は突っ張りクビを上げ、安部騎手は立ち上がりかけているほど、見た目かなり行きたがっている。
やがてこれらめがけて、ジョニーダンサーの外からボールドヒリュウが上昇。明らかにブッ掛かっているが、そのままブレーンワークに半馬身差の2番手に。ゴール板前あたりでは、ヘイセイチェッカーがブレーンワークとボールドヒリュウの間でちょっと窮屈な格好。ブラウンダンディはこれらの直後にまで差を詰め、ラディガブライトは下がり加減。1、2コーナー以降、全く存在が消える。ホシノセイコーがブラウンの直後に、3馬身強後方にワンダーキャッスル以下。
1、2コーナー、慣れぬ左回りからか、外に張り気味になってしまう馬もいる。ここからバックを立ち上がるあたり、先頭のブレーンワークを制して、「もうたまらん」とばかりにボールドヒリュウが、掛かったまま先頭に出る。鞍上竹下騎手が手綱を投げたようにも見えたが、それでも掛かった感じ。内でヘイセイチェッカーはレースをしにくそう。さらに外からブラウンダンディが、やはり我慢の限界か、昨年と同様バック早々に進出開始。
というわけで三分三厘、先頭はボールドヒリュウに。だが、この外にブラウンダンディが併せて、4コーナーでいよいよ仕掛けて先頭に立たんとする。「これで決まり」と思われたが、意外にもボールドヒリュウが骨のある抵抗。フロントを譲りこそすれ、ブラウンを独走にさせない。2頭加速して、ちょっともつれつつの最後の直線の攻防となる。因みに3番手以降の争いは、四角まででブレーンワークは失速し、ヘイセイチェッカーが終始先団キープ、そこへ差し馬勢がようやく。ドリームボールはバックから三分三厘いっぱいを使って、やっとのことでここまで。
2頭の先頭争いは、直線半ばまでは馬体を併せつつの接戦、ボールドヒリュウの健闘が光ったが、ブラウンダンディが最後は貫禄とと地力で突き放して、記録に残るVゴール。ボールドヒリュウは1馬身差で2着。
そして3着争い。ヘイセイチェッカーの内からワンダーキャッスル、外からドリームボールが併せての追い比べ。これも接戦となったが、ヘイセイチェッカーがしのいて3着。前とは相当差があったような印象だったのだが、案外前2頭が終い疲れたからか、2着とは2馬身半差。4着半馬身差でワンダーキャッスル、ドリームボールはクビ差の5着に終わる。ラディガブライトは結局ブービー。ブレーンワークは最下位。
ブラウンダンディの走破タイム、2分31秒5は、自身が一昨年の名古屋杯で出した2分33秒2を、1秒7短縮してみせたレコードタイム。

振り返って
ブラウンダンディ、サスガである。昨年もそうだったが、道中は相当掛かって、半ば仕方なく早めに上がってしまいつつも、勝負所以降では強いところを見せつけての勝利。陣営が言うほどの巧者ぶりでもないような気がしなくもないが、パワーとスタミナは充分発揮された感じ。打倒マリンレオ、東海筆頭の座、奪還に、今後も力走が続きそう。
ボールドヒリュウは長丁場の大半を掛かり通しで、それでも終いまで走り切っての2着。一見このレースで、一番凄い、規格外のレースをしたのはこの馬かも。空恐ろしく強い馬のような印象を残した。が、これまでをよく知る人間としては、額面通りに信用はできない。しかしまあ、東海で充分ちゃんとやっていけているようで、何よりだとは思った次第。「これは贔屓のユー氏としては当然本線で獲ってるよねえ。」と、皮肉プンプンのコトバをくれるディープさん。「師匠も当初は相手1番手にしたクセに。」と返すと、曰く「そんな昔のことは忘れました。」。まあ、ワシも含めて、朝令暮改は現場主義者の特徴であるからして。
ヘイセイチェッカーは、好調とは思えないこの見た目にして3着と健闘。「調子よければもっと走ったはず。しかし今日は2着のない3着だったけど。」とディープさん。終始先団で運んでいたのだが、他馬が代わる代わるフロントに立とうとする際、何度も横にタイトに併せられ、下がらされており、細かい出入りが多かったような気がして勿体なかった。
ワンダーキャッスルはここで4着、久々の掲示板。昨年3着、こういう馬こそ中京得意と言うべきか。
ドリームボールはメンコも着用して、掛からず折り合えるよう、長丁場対策も講じての走りだったが、如何せん道中後ろ過ぎ。
それにしてもラディガブライト、一体何だったんだ?レース中盤以降、全く勝負の趨勢に絡んでいなかった。確たる実績馬ではないから過剰に期待をかけるのはキツいかもしれないが、それにしても話になっていなさすぎる。鞍上稔もなあ。
ブレーンワークは近走不振もあってか、思い切った先行策。しかしそれ実らず。今は雌伏の時期、やがてコソッと白星を、というところか。しかしこの馬も明けて7歳、歳も重ねてきたわけで、今後そう簡単にいくかどうか?

おわりに
以上、冬の名古屋杯3連覇にして、名古屋杯4勝目を成し遂げた、ブラウンダンディの独壇場であった。ただ、強力に拮抗しうるライバル不在での、一強体制のレースでの勝利、「"記憶"より"記録"に残るレースだな。」と、強く感じられる次第。

なお、この日、売り上げ不振で廃止が決まっていた新潟県競馬が開催最終日。しかしながら降雪のため、第2レースまで施行して以降は競走取り止め。仕方がないのでこの直後にサヨナラセレモニーを行って、これで県競馬の歴史の幕は閉じた。
そして実は、この日の中京開催にて、公営名古屋競馬が主催する中京開催は終了ということだそうだ。つまり来年以降の中京正月開催はなし。売り上げ不振等で、レンタル料を払って中京にて興行しても、割に合わないというのが実状であるとは想像に難くない。

というわけで、せっかく塗り替えられた、アラブ系中京ダート2300mのレコードタイムは、この公営中京廃止とともに、競馬史という引出の、ごく片隅にしまい込まれることとなった。このまま埋もれてしまうのか、それともいつの日か、また日の目を見る時があるのか――

2002.1.26 記

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