第33回新春賞観戦報告

 2002.1.20、福山、2250m

はじめに〜準オープン重賞って・・・
重賞といえばオープン馬による競走、というのは常識のような気がするのだが、地方競馬の世界には、準オープン馬や条件馬による重賞というのが、少なからず存在する。そうしたアラブ重賞を思いつくまま挙げると、益田のB級重賞人麿特別、上山のB級重賞最上川賞、金沢のA2A3級重賞の菊桜特別中日スポーツ賞やことじ賞にアラブウインターカップ。
今回観戦した、福山の新春賞もこういった性質の競走。A2クラス、つまりオープン2組による重賞である。その名前だけ見れば、いかにも正月開催のレースのような感じであるが、その実は、新春気分も冷めた、1月下旬に施行されるのが通例となっている。
年によっては、正月の福山大賞典で敗退してA1落ちした馬が登場し、さながら敗者復活戦の様相を呈するのであるが、今年は大賞典を走った馬の出走はなし。A2の常連と、A3以下からの挑戦馬との争いという状況である。

出走馬、そしてパドック〜発走まで
ということで、今回の新春賞、出走馬は以下の10頭。()内は騎手、性齢。
ライトジュピロ(佐原、牡6)、マルサンダイオー(岡崎、牡6)、メガビソウ(鋤田、牡5)、マツノキングオー(渡辺、牡8)、エリートカップ(石井、牡6)、ヤマノダイオー(嬉、牡5)、アレクシア(藤本、牝5)、ムサシボウナナ(岡田、牝7)、ノア(久保河内、牡5)、ダイホーマ(片桐、牡5)
ハンデは馬齢定量。5歳牡馬は55k、6歳以上は54k。牝馬1k減で、アレクシアは54k、ムサシボウナナは53k。

注目はノア。昨秋2度目の福山転入。今回はB3より。緒戦は千六で5着も、以後1着2着と続け、前々走B1と前走A3を連勝して、ここに駒を進めてきた。いよいよA1に手が届こうかというところ。
対するはメガビソウ。2走前11月下旬のA3戦で2250mは1着で経験済み。前走年末はA2で2着。正月開催を休んでここ一本狙いの臨戦過程。
そしてこのレース、一昨年の4歳(旧表記)重賞の勝者が3頭出走。すなわちヤマノダイオー、アレクシア、ダイホーマ。大混戦の4歳戦線を現出した世代であるが、結局その面々の大半は突き抜けられず、このあたりにドップリ浸かっているという現状である。まあ、「多士済々」とは、単に「ドングリの背比べ」の裏返しであるわけか。それでもソコソコ踏みとどまってくれて、「知らぬ間に消えた」という具合になっていないだけまし。

競馬場には2時前に到着。天気は曇りだが、雲が厚く、明るさに乏しい天気。季節柄、それなりの寒さである。
馬場状態は良。砂はきちんと補充されているようで今日も深め。やはり先行有利の傾向のよう。たまに能力なりの差し馬の連入がある程度。

さてパドック。この頃になると、相当暗くなってきて、写真撮影は厳しい状況である。
1番ライトジュピロ。ゆったりとした周回。ボテッとした体型だがこれは元来のものか。イメージしていたよりは幾分かはスッキリしている。昨年初めに岩手から転入してきて13戦。2着3回だが勝ち星はなし。すっかりA2A3の常連。
2番マルサンダイオー。これもボッテリした胴体。毛艶と張りはまあまあか。'99年の福山二冠馬も、このところはピリッとせず概ねA2暮らし。逃げて保たずのよう。
3番がメガビソウ。馬体重486kの数字以上に大きく見せる。心持ち胴は緩めで胴長背垂れな体型。ゆったりと柔らかな歩様で周回。時折厩務員さんに顔を預けて。
4番マツノキングオー。8歳ベテランだが485kの堂々たる馬体で張りも上々。歩様も力強い。A2A3の常連だがちょっと頭打ち傾向か。追い込み脚質。
5番エリートカップ。胴が太い体型。毛艶はまあまあ。前走はA3でノアの3着。これもA2A3あたりで掲示板に載れるかどうかといったあたりの追い込み馬。
6番ヤマノダイオー。黒鹿毛の毛艶はあまり冴えず、雰囲気的にもまあまあとしか言えない。ちょっとトモが弱そう。前々走A3で勝ったが、このあたりでどうにかこうにか格好がつく程度の現状。
7番アレクシア。馬体の張りはなかなか良いが、相変わらずチャカチャカと頭を高くしての煩い周回。'00年の福山ダービー馬も以後勝ち星なく、ただ何となくクラスが上がってここに至っている。4走前から前走まで、3着3着4着というのは上出来か。
8番ムサシボウナナ。地道な牝馬も7歳になった。彼女の冬場の常で毛艶は落ちているが、雰囲気はこの馬なり。踏み込みは浅く、脚先だけで歩いている感じ。前走A3戦をノアの2着。概ねA2暮らし。
そして9番がノア。頸を上下させて、いかにも煩い感じ。「ノアってパドックあんな感じなの?」とふささんに訊くと「いやあ最近こんなに焦れ込んだことなんかない。これ気合入れて仕上げ過ぎてるよ。いただけないな。」とのこと。馬体自体は若駒の頃に比して格段に骨太になって、すっかりガッチリした馬になっている。おかげでか、肩の出がやや硬い。刺し毛気味に金髪が体表に混じる。
10番ダイホーマ。元来がコロンとした馬だが今日はいかにも胴が緩い。ポタポタ体型。踏み込みは力強い。ゆったりした周回気配はこんなものか。B級上位からA2にかけて、所属クラスも迷走気味。かなり白くなった。
「止まーれー」の声が掛かり、騎手が騎乗。ヤマノダイオーがここでイヤイヤ気味に煩くなる。これは以前にも目にした光景。ノアは久保河内jkを乗せると大人しくなった感じ。ふささんもそう見て取れたとのこと。

本馬場入場から返し馬。メガビソウはダイナミックに、強め。ノアはリラックスした軽快なキャンター。
ヤマノダイオーは素顔で登場。この馬の素顔、流星の入り具合といいギスギスしたところといい、スペシャルウィークに酷似。「ヤマノダイオーが素顔で走るの、記憶にないですよ。」とおさるさんに言うと、おさるさん「確かに。でもなあヤマノダイオーはなあ、戦績的にもここらで一杯いっぱいな感じだからなあ。」とのお応え。
素顔といえば、アレクシアも今回はメンコを取ってのレースのよう。コースのまる3/4を激走の返し馬。マツノキングオーは首をグッと下げて、ハミにもたれ気味のキャンター。

メガビソウ(36KB)
メガビソウのキャンター
ボリューム感溢れる馬体

予想。素直に買えばノアとメガビソウの二強対決で、なおかつノア上位というところ。しかしながらノアのパドック気配は若干気になるところ。ふささんをして「あまり他人にはお奨めできない。」と言わしむる状態。というわけで、ワシは無難にこの2頭の馬複を本線。加えて、ちょっと未練気味にヤマノダイオーから2頭へ薄く、お楽しみ馬券を。おさるさんはアレクシアやダイホーマあたりでスケベ馬券を楽しむよう。「アレクの連対する姿って、全然想像つかないんですけど。」と振ると、曰く「いいのいいの、それは重々承知だから。」とのこと。オッズ的にも、ノア上位の予想各紙のシルシに比して、ノアよりメガビソウから売れている模様。

そしてレース
さてレース。距離2250m、4コーナーからまる2周。空からポツポツと雨粒が落ち始める。
ゲートオープン。まずは内からマルサンダイオーが前へ、そのままハナへ。中ではヤマノダイオーも前に。ノアは並の出で、最初のホームストレッチではヤマノダイオーを外から追う形。メガビソウも好発から、余裕をもって好位へ控える感じ。一方最内でライトジュピロがアオり気味のスタートとなる。
ということで1周目の1、2コーナーから向こう流しにかけて、先頭は単騎マルサンダイオー。これを1馬身程度前に見て、外にノアがヤマノを交わしてつける。ヤマノダイオーが3番手で続き、内でライトジュピロがリカバーして4番手に。この外にメガビソウ。ここで隊列が切れて、以下マツノキングオー、エリートカップ、アレクシアと中団以降で、ムサシボウナナがケツ二、殿にダイホーマ。
そして2周目の正面。先頭は引き続きマルサンダイオー、マイペースのスロー逃げ。2番手に離れずノア。これはなかなか折り合っているよう。ヤマノダイオーが2馬身強差で3番手、ライトジュピロがインで。この後ろ、アレクシアが5番手に上昇、単走。2馬身強差でメガビソウが構え、この内にマツノキングオー、外にエリートカップが併走、中団を形成。ナナとダイホーマはこの後ろ。

2周目(37KB)
2周目の正面スタンド前
先頭マルダイ2番手に折り合ってノア、3番手の流星顔がヤマノダイオー

2周目の1、2コーナーから向こう正面、先頭マルダイにいよいよノアが外からジワリと接近。プレッシャーを掛けてくる。するとバックも後半、キツくなるマルダイ。一方でノア、いよいよといった感じで三角手前、先頭に躍り出る。そのまま余勢を駆って三分三厘快走。この後ろ、後退するマルダイに代わり、ヤマノダイオーが仕掛ける。鞍上嬉のアクションが大きくなり、ノアを追いかける。中団からはメガビソウがバック半ば過ぎからスパート。単騎自力で押し上がる。そして前に接近してくる。
ということで3、4コーナー中間地点。ノアが独走態勢に持ち込む。ヤマノダイオーは懸命に追うも、次第に伸び脚を欠いてくる。ここへ外からメガビソウが追い付き、四角では2番手に。
最後の直線、しっかりした足どりでノアがゴールを目指す。そのまま後続を封じ込め、完勝のゴール。2着メガビソウ、2馬身差まで詰め寄るも、ノアを脅かすには至らず。3着争いはインでヤマノダイオーが粘るところ、中団からエリートカップが差した模様でこれが3着、ヤマノダイオーはクビ差4着に落ちる。ダイホーマが四角最後方から強襲して5着のようだが、リアルタイムでは眼中に無し。逃げたマルサンダイオーは9着に沈み、最下位はライトジュピロ。

ノア(37KB)
ラスト20m独走ノア
しっかりとした脚取りで終いまで

戦前の危惧も何のその、ここではノアが強かった。「2250で、2番手で折り合って勝てるとは思わなかった。」と、ふささんが喜び混じりで言及されたが、調子がいいのか、地力強化か、思った以上に長丁場をこなせていた感じ。道中マルサンダイオーと全く喧嘩をしておらず、むしろ体よく引っ張ってもらった感じ。逆に言えば相当可愛がったという。これで目出度くA2も突破、待望のA1入り。現状では最も得意であろう(とふささんやおさるさんも認める)1800mで行われるグランプリ、ローゼンホーマ記念への出走が叶いそう。
メガビソウは力のあるところは見せたが、止まらぬノア相手では中盤あまりに位置取りが後ろ過ぎ。2周目バックでよく押し上げたが、逆転には至らず。
ヤマノダイオー、2周目3コーナーでは一瞬「おっ」と思わせたが、程なく伸びが止まった。終いはエリートカップに抜かれ、何だかなあ、といったところ。
ダイホーマは何とも、距離適性も脚質も"なまくら"と言おうか謎と言おうか。まあ鞍上片桐の個性が反映されるにせよ、二二五戦で四角ドンケツから追い込むとは・・・ブラウンソプラノでも目指すつもりか?であるならば腹括ってやりなさい。
「マルサンダイオーはやっぱり3コーナーで止まったかあ。アカンなあ。」とおさるさん。確かに、ちょっとねえ。
払戻金、枠複390円、馬複410円、枠単810円と、本命サイドでの決着にしては、結構ついた方。やはりノアの戦前気配が影響したか。

おわりに
レースが終わって表彰式の頃には、雨も本降りに。おかげで久保河内騎手にサインをもらうチャンスも台無し(雨粒に当たると写真のプリントが駄目になるので)。
この雨で馬場が締まって、最終レースでは展開一転、差し馬決着。ダートコースというもののデリケートさをちょっと実感して、この日の競馬は終了。

明け5歳を迎え、A2とはいえ福山の古馬重賞を制すまでになったノア。まだ途半ばであろうが、これまでを思うに、ちょっと感慨はある。すっかり大人になって、逞しく、ゴツくなったが、ワシ的は4歳(旧表記)春の、スラリとした尾花栗毛の美少年の印象がいまだに強い。あれから早2年弱。「馬にも歴史あり。」か。


ちょっと付け足しまして。
実はこの観戦記にて、めでたく(?)100本執筆達成でございます。折しも拙HPを立ち上げて、ちょうど2周年、キリのいいハナシであります。そしてその節目の100本目を、この地味でマイナーな重賞で迎えるというあたり、いかにもダボハゼなアラブ現場主義者に相応しいなあ・・・などと、ひとり妙に感心しておる次第。

2002.2.10 記

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