第22回福山マイラーズカップ観戦報告

 2002.2.10、福山、1600m

はじめに
福山競馬の重賞体系の中で、施行距離が1600mの古馬戦は二つ。すなわち盆の金杯と、今回観戦した、その名もズバリの福山マイラーズカップ。
金杯の方は、真夏のマイル戦線の総決算レースであり、ファン投票によって出走馬が選出される、注目度もそれなりの重賞。それに比してマイラーズカップは、A1重賞ながらも1着賞金は重賞最低額210万円でもあり、ちょっと地味な印象は否めない。それはともかく、この時期に設けられているということは、福山大賞典で2600mの大一番をこなした馬が、その僅か一月強(2開催)後に、一気に1000mも距離が縮まるマイルの重賞を走らされるというわけで、距離体系も適性も何もあったもんではない状況なのである。
過去10年間で大賞典とこのレースを連取したのは、'95年の当時無敵だったミナミセンプウと、'99年の本質的にはマイラーであるピアドハンターの、2頭にとどまる。大賞典馬がマイラーズカップをスキップする年も少なくない。

出走馬について
ということで今年の出走馬は以下の10頭。()内は騎手。負担重量は別定。
グリンティアラ(片桐、53k)、フジナミスペシャル(嬉、54k)、フジキタイトル(三村、51k)、ドリーミング(渡辺、53k)、コウギョウシャトル(鋤田、53k)、ユノワンサイド(石井、53k)、セブンアトム(黒川、51k)、イケノエメラルド(野田、53k)、ヨシユキトップ(吉延、53k)、モナクマリン(岡田、51k)

結局、フジナミスペシャル以下、福山大賞典の1着から7着馬が揃って出走してきた。それ以外では、このレースをさしあたっての目標として、前開催戦列復帰したモナクマリンの姿が。そして名古屋と道営を股に掛けて活躍してきた、全国区級の牝馬イケノエメラルドが、当地3走目で重賞初登場。加えて前々開催、大賞典の裏オープンを勝ったコウギョウシャトル。
因みに前年の覇者パッピーケイオーは昨秋来の不振で今開催はとうとうA1を陥落。前日のA2戦に回ることになった。ここは地力差か、1年ぶりの勝ち星を挙げた模様。しかしおさるさん情報によると、この日のパッピーは調子最悪だったそうで。

当日の天気は概ね曇り。雲が切れると日が射す程度。前日に寒波襲来で、風も強く非常に寒い。時折みぞれが舞うほど。
馬場状態は良。おさるさんによれば、「相変わらず先行有利の状態。」とのこと。

パドックから発走まで
さてパドック。
1番グリンティアラ。キビキビと活気ある周回。毛艶も良い。今日も力強い踏み込み。大賞典4着で、前開催のA1を勝利。去年のこのレースは大本命評価も鼻出血で直前取り消し、1年前の忘れ物を取りに来た、というころか。
2番がフジナミスペシャル。馬体重508kは前走と変わらないが、少々胴は重めか。気配は前走と変わらず悪くない。大賞典を見事制し、この次は佐賀の西日本アラブ大賞典への出走が決まっている。それを踏まえて、今日は八分程度の出来とのこと。予想紙のシルシもソコソコ。
3番フジキタイトル。大賞典時と前走同様パンパンでピカピカの好馬体。良く見せる。大賞典6着、前開催のA1は4着。
4番がドリーミング。筋肉ブリブリで毛艶も絶好。余裕の周回気配。前走大賞典は2着で、転入以来の連勝は8で止まったが、そんなこと関係なく、見た目にも好調維持かと。『福山エース』の見出しでは、今回「魔女」から「女帝」に昇格している。シルシも厚い。
5番コウギョウシャトル。芦毛なので毛艶の見栄えはそれなりだが、身のこなしは柔らかくて好感。スッキリスリムな体型。前走は前開催のA1で3着。
6番がユノワンサイド。いくらかは重めだが、前走よりは格段にましかと。若干胴は緩いが概ね馬体張りは上々。キビキビとしている。大賞典3着からの巻き返しを狙う。「ユノワンサイド、どう?」と隣で観ていたディープさんに問うと、曰く「パッと見重い感じしたけど、前走より全然いい。ただ・・・」。「・・・」の続きはまた後で。予想紙では本命ズラリ。
7番セブンアトム。スタスタと周回。ソコソコの毛艶、ちょっと緩く映る胴、出来は変わらずまあまあといったところか。大賞典5着。距離短縮は大歓迎だろう。
8番イケノエメラルド。元々小柄で、毛艶の悪いときが多い馬だが、やっぱり冬毛が出ており、馬体の張りも乏しい、冴えぬ馬体。馬格も貧相で、この中に入ると見た目見劣りは否めぬところ。前走は前開催のA1をグリンティアラの2着。しかしながら予想紙上ではなかなかの評価。『福山特報』には本命印もある。
9番ヨシユキトップ。今日はいつもよりは胴が重そう。しかし馬体張りは相変わらず良く見せ、トモが硬いのもこの馬なり。大賞典は意外にも振るわぬ7着。スタミナ派で距離短縮は嬉しくないとの見立て。
10番モナクマリン。"音速の貴公子"も古馬になってからは慢性的な脚部不安で休みがち、そして不完全燃焼の状況。前開催A1は6着。距離が千八からマイルに縮んでどう変わるか、というのが注目だが・・・腹が緩んで冬毛が出ており、馬体張りも悪い。かつては圧倒的だったトモと肩の筋肉は全く落ちている。「モナクマリン、変わったなあ、見る影もない。」と、アラブ王冠以来マリンを目撃したディープさん。「全盛時を10とすれば今のマリンはせいぜい6。」とおさるさん。「いやあ5もないだろう。」とはFUKUさん。
騎乗命令が掛かる。ここで嬉騎手、フジナミスペシャルに跨る前、前脚のレガースを改めて確認していた。そして今日も騎手の乗せると煩くなるフジナミ。

ドリーミング(45KB)
ドリーミング、パドック
引き続き絶好の馬体張り
ユノワンサイド(45KB)
ユノワンサイド、パドック
大賞典よりはだいぶ良好

本馬場入場から返し馬に。ユノワンサイドは大賞典時と同様、今日もあまり歩きたがらない。
モナクマリンは駆け出して軽く4コーナーまで、再度ホームストレッチまでは来ずに待避所へ。フジキタイトルは気合い満々で突っ走り、4コーナー手前で鞍上三村クンがなかなか止められない。ユノワンサイドは力強いキャンター。ドリーミングは余裕で流す。フジナミスペシャルは今日はダクで。しかし口を割りバタバタ気味。加えて今日は頭絡がメンコの下。素顔でレースに望むのか。

モナクマリン(38B)
モナクマリン、返し馬へ
得意距離も状態が・・・

予想。まずはこの距離を地力を考えて、マイルでも強そうなドリーミングとユノワンサイドを。そして個人的には注目のグリンティアラを。この三角買いで。フジナミは距離短縮、そして大一番前の走りということで今日は見送り。モナクマリンも消し。
「ユノワンサイド、今日はいいよねえ。」と、大賞典ではこの馬を蹴った電設師も口にする。が・・・(というわけで先の「・・・」の続き)「いくら強くなったといっても、ユノワンサイドは千六じゃあ"煮え切らない馬"でしょ。昨夏3歳時、A2とはいえ、イムラッドシンゲキあたりに負けてますからねえ。」とはディープさん。確かにこの馬の千六実績、8戦して1勝のみで2着5回3着2回。「長丁場だとスローに掛かって、オマケにマイルは駄目、ってことは千八専用馬か、おいおい。」と、おさるさんらと盛り上がる。

レースなり
さてレース。福山のマイル戦、そのスタート地点は向こう正面の中ほど。
ゲートが開く。内からフジナミスペシャルが好発。セブンアトムも前へ。しかしながら、これらを制して、当然の事ながらモナクマリンがハナに立つ。今日の発馬は並だったが、そこからの行き脚は健在。フジナミ、アトムが続き、ユノワンサイドやドリーミングもこの直後の好位。ということで、1周目の3、4コーナーあたりで、モナクマリン、後続を5馬身以上引き離しての単騎逃げに持ち込む。
正面スタンド前、先頭変わらずモナクマリン、独り旅。相当開いて2番手集団、この先頭にフジナミスペシャル、やはり素顔、今日は自身が集団のフロント。1馬身直後にセブンアトム、結局2番手すら取らず。直後インにドリーミング、比較的前付け。アトムの外目にユノワンサイド、マイル戦なら押し出される心配もなしか。ここでやや間があって、コウギョウシャトルが6番手、外にイケノエメラルド、直後グリンティアラ。追い込みフジキタイトルと、ヨシユキトップが後方から。ヨシユキはマイル戦のスピードに乗れないのか。
勝負が動くのは向こう流しの後半の三角手前。ドリーミングが内から、ユノワンサイドが外から、鞍上に押されて上昇せんとする。それを受けたか、2番手からフジナミスペシャルも発進。嬉騎手、激しくフジナミを叱咤して動かす。3コーナーを前に、先頭モナクマリンと後続との距離が漸次詰まる。セブンアトムは既に降参気味。
ということで三分三厘、先頭はモナクマリン、何とか持ちこたえているというところ。フジナミスペシャルがマリンに接近。フジナミの直後にユノワンサイド、さらに外からドリーミングが取り付かんとする。勝負の行方はこの4頭に絞られた。
最後の直線、リードの無くなったモナクマリンが内に入る。フジナミが完全に並びかけ、その外にユノワンサイドが。追うドリーミング。残り100まで、マリンからドリーミングまでは2、3馬身差、かなりの接戦。しかしここから、ジワリジワリと突き放していくフジナミスペシャル、モナクマリンは止まって万事休す。ユノワンサイドは必死にフジナミを追うも、またもや苦しがってか外にヨレ、伸び切れない。ドリーミングの差し脚も今日はいま一つ。ということでフジナミスペシャル、福山大賞典に続き、何だかんだで強いところを見せての重賞連取。

フジナミスペシャル(37B)
フジナミスペシャル、抜け出しゴールへ
その素顔、初めて見たぞ

ユノワンサイドが2馬身半差で2着。1馬身半差でドリーミング3着。モナクマリンは1馬身半差で4着。このクビ差まで、コウギョウシャトルが迫って5着。ヨシユキトップは四角ケツ2から追い込んだらしいが6着。グリンティアラ、今日は中団ママで寄せる見せ場もなく7着。8着不発のフジキタイトル、9着早々にギブアップしたセブンアトム。イケノエメラルドは最下位。
フジナミスペシャルが勝って、馬券は大外れ。しかしながら、「ユノワンサイド2着と踏んで正解正解、良かったー」と、皆さん概ね獲っていたようで、何だかワシだけ蚊帳の外。

振り返って
それにしても恐れ入りましたフジナミスペシャル。通過点の一戦も八分の仕上げも距離短縮も、苦手とされる内枠も何のその。今日は自身が集団の先頭。自力でマリンに追い付いて、交わして押し切る。それも千六戦。いやはや。まあ3歳春先にはマイルの重賞2つも勝っておるわけで、ちょっとアラブグランプリ以降、長距離馬としてイメージしすぎたなあ、と反省。次はいよいよ佐賀。むしろこっちの方でこそ頑張ってほしいわけで、後で「やっぱり前走でコロッと負けておいた方が本番に強いのに・・・」などと言われぬよう、御健闘を。それにしても今日も単勝3番人気、やっぱり人気がちょっと低いんだよね。
ユノワンサイド、まさに「"千八専用馬"説」を実証してしまった結果。何故かマイルだと道中から終いの走りがピリッとしないのだよなあ。千八戦で見せる、力ずくでねじ伏せる逞しさがないという。それでも2着に残るところがまあ地力なのだろうが。前回「エイランボーイの域が現実味を帯びて」云々と書いたが、ちょっとまだまだかも、一旦撤回。フジナミとは対照的に、この馬は人気が落ちない。
ドリーミングに関しては「最後何とかモナクマリン抜いただけ、今日は走れていない。」とFUKUさん共々振り返ったが、これまでの走りからすれば不発の3着。実際前々走の12月戦あたりから、楽に抜け出させてもらえなくなってきているが、馬体を見るに、出来落ち傾向もないような。それでも明け4歳二強以外には先着を許していないわけで。
モナクマリンの4着はやむなし。「あれでよく走ってるよ。」というのが現場の共通見解。かつては調教でムチャクチャよく走り、その稽古で素質にパワーを加えてあれほどの馬になったわけで、調教で時計が出せないという現状は苦しい。いくら得意のマイル戦とはいえ、昔の能力の貯金だけでは、モナクマリンといえども勝てないということか。
ヨシユキトップはマイル戦とはいえあまりにイマイチ。「ヨシユキトップってあんな後ろから行く馬だったっけ?」と訝しむ電設師に、「まあそんな時もあるよ。」と、おさるさんが返されていたが、それにしても道中全然追走できていない。菊花賞2着後の12月戦以降これで3連続掲示板に乗れず。千六でも夏場は好走していたわけで、調子下降線か。
グリンティアラは「あれっ?」という感じの敗退。「前走レディオBINGO賞の1着は、所詮一線級を欠いた面々での勝利でしょ。それに今日は雰囲気ピンとこなかったしね。」とは戦後ディープさん。そんなもんでしたか。
セブンアトムは得意距離への短縮を何ら活かせずの敗退。モナクマリンの逃げはさておき、2番手を奪取し切る積極性もなく、後半の粘りもない。4歳(旧表記)から長期休養のないあたり、ちょっと気になるところか。
イケノエメラルド、4歳(旧表記)時のヒロインぶりはワシも充分認めるし、実際今なお支持するファンの多い馬ではあるが、個人的には現状の彼女にはピンとこない。バリバリのA1馬に互していけるだけの力は、どうなのか。
コウギョウシャトル、馬は良かったと思う。剛腕鋤田の腕っぷしで好位から掲示板入り。フジキタイトルは、もうちょっとやれてもいいとも思え、やっぱり先行有利の中では出番も少なかろうとも思え。

おわりに
結果、大賞典馬がここも勝利。1、2、3着の面々も、順番こそ若干変わったものの、大賞典のそれと同じ。両レースの施行距離差1000mも関係なし。「有力馬はどの距離でも有力」これが現在の福山A1事情なのか。見方を変えれば、「これぞマイル!」といった雰囲気と面白味の乏しさは否めぬところ。
「何だか食い足りねえな」福山マイルに対してそう感じる際、想起されるのはやっぱりあの馬。「無理言うなよ、判っとるじゃろが。」ああ、"音速の貴公子"の憂鬱と苦悩は続くか――

2002.2.16 記

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