第18回キングカップ観戦報告

 2002.2.24、福山、1600m

はじめに〜「何だかな」のダービー前哨戦
5月初頭の福山ダービーに向けて、牡馬にとって前哨戦となるレース、キングカップ。翌日の牝馬限定戦クイーンカップと対になって存在している。三冠ロードを前に、御丁寧にも牡牝別々に前哨戦が、しかも重賞として組まれているというのは、この御時世としては何とも悠長な感。
福山競馬には3歳重賞がとにかく多い。しかしながら、補助馬限定だの、中央補助馬限定だの、福山ダービー馬は出走不可だの、境遇等により出走対象に制限のある重賞が相当数あり、こうした垣根のない、シンプルな3歳オープン重賞はそう多くない。
実は今回のキングカップにもその垣根が存在する。牡馬重賞であるというのはともかくとして、昨年度導入された、「ヤングチャンピオン、キングカップ、クイーンカップ、福山ダービーは、福山デビュー馬に限る」との出走規定が、どうやら今年も適用されているのだ。実際、格付け賞金や能力的には、ここへ出走するに充分足るはずの、上山よりの移籍馬、ワタリハンターにヤマノコナンは、3歳1組一般戦に回っている。
「ダービー前哨戦」と喧伝されるものの、実際のところは「ダービーに繋がらない」レースとして定評がある。事実、ここを制して福山ダービーを獲った馬は、最近では'86年のローゼンホーマと'89年のアサリユウセンプーぐらい。いずれも福山競馬史上に不朽の名を残す名馬であり、大抵のキングカップ馬はダービーを勝てていない。ダービーに向けて、非常に好ましからざるジンクスを持つ前哨戦なのである。もっとも、2月末から3月という施行時期は、まだ早熟馬が幅を効かし得るわけで、ダービーシーズン(4月末から5月初頭)までの間に、各馬の力関係に変動が生じるという面は否めぬが。
因みにこのレース、牡馬重賞と書いたが、厳密には牡馬・騙馬競走。競走番組表にもそう記されている。実は「騙馬」と明記されたところが今回のミソ。ハナシは1年前、当時上昇馬だったサンアイスペシャルが、騙馬ということでキングカップをオミットされた一件に遡る。騙馬の出走は前例がなく、加えて馬齢定量が騙馬は牡馬より1k減の53kという規定が、その要因だという。しかしサスガにまずいと主催者側も思ったのか、いつの間にか騙馬の馬齢定量は牡馬と同一になり、今回めでたく、騙馬にキングカップが開放=解放されたということ。以上ちょっと脇道に逸れたが、「オ○マの解放運動」の一件。

出走馬について
出走馬は以下のフルゲート10頭。()内は騎手。
ヒットランナー(黒川)、ダイニアキフジ(鋤田)、サンコーアイボ(久保河内)、ユノアレックス(石井)、カムロギキスミー(嬉)、ホワイトキャンプ(岡崎)、イムラッドトウザイ(片桐)、ユキノホマレ(渡辺)、マルサ(野田)、モナクカバキチ(岡田)
負担重量は馬齢定量、全馬54k。騙馬マルサがこのたびの「オ○マ解放」にて、晴れて登場。

10頭のうち、3歳限定戦を卒業して古馬編入された馬が3頭。それが今回の注目馬でもある。
まずはダイニアキフジ。昨晩秋の2歳重賞、ヤングチャンピオンと全日本2歳アラブ優駿いずれも2着。前走はC2特別の千八戦も勝った。世代の出世頭だが、地力と同時に気性難も抱えている現状。
そしてホワイトキャンプ。ヤングチャンピオンの勝ち馬で全日本は3着。前走はC2の2組戦で勝利。ただしこの勝ちタイムは3歳条件戦より下。デビュー以来コテコテの差し馬。
加えてモナクカバキチ。デビューがやや遅かったので2歳時は4戦したのみだが、3勝1落馬競走中止と、ほぼ完璧な成績で3歳を迎える。前走はC2の11組で折り合えず5着。しかし大器との評判が高い。

当日の天気は晴れ。しかし雲があり時々日射しを遮る。風はあるが2月下旬としては相当暖かい。スタンドで陽を受けて座っていると暑く感じられるほど。
馬場状態は良。砂は深め、時計は掛かっている模様。おさるさんによれば「昨日から砂が重いかしらんけど、前行った馬が大抵止まっていて残せていない。」そうだ。今日もその傾向を引きずっているようで、逃げ馬よりは先行・好位勢の連入が目立つ。福山の深めの良馬場は、通常ならば逃げ・先行有利で、差し馬は間に合わない場合が多いのだが、それからすると今回はちょっと異質な傾向。

パドックから発走まで
さてパドック。
1番ヒットランナー。冬毛が出ていて毛艶悪し。スタスタ周回していて気っぷはよい。元々は先行馬だが、出走距離が千六に延びて着外連発の現状。
2番がダイニアキフジ。毛艶はピカピカで馬体はムキムキ、仕上がっている。胴は若干太い感じだが実入りは問題ない。ガチャガチャに煩くなることもなく、概ねジンワリとした周回気配。しかし気性面にはまだ心配を残すので、今回の内枠はちょっと気になる。
3番サンコーアイボ。大人しい周回。毛艶はまあまあ。ピョコピョコした歩様。主要レースには毎回顔を出しているが、あくまで脇役という現状。
4番ユノアレックス。胴が太い体型。毛艶と馬体張りはなかなか、悪くない。前走3歳2組戦を1着。最近になって本格化しつつあるようだ。
5番カムロギキスミー。スッキリした体型で濃い鹿毛の毛艶もよい。が、筋肉の付きはまだまだ。8戦2勝2着5回、つまり7連対と堅実だが、体質がまだ弱いらしく、休み休み使われている現状。
6番がホワイトキャンプ。灰色芦毛ながら毛艶が良く見えるのはこの馬らなでは。腹回りが太く映るのも相変わらず。以前は若干イライラするところがあったが、今日はジンワリとした気配で周回している。「ホワイトキャンプってあんな馬なの?」と、この馬を初めて目撃する電設師が訊くので「そう、だいたいは。」と応えておく。
7番イムラッドトウザイ。前のホワイトキャンプ同様、これもコロンとした体型の芦毛イムラッド産駒。キャンプよりはちょっと小柄。昨晩秋以降、堅実に出世階段を踏みしめてきた感じの差し馬。前走前走3歳2組戦を2着。
8番ユキノホマレ。元来の体型は伸びやかでスマートだが、馬体張りは若干緩そう。物見をするほどのんびりと周回。ちょっとこのところ停滞気味の、一見「超早熟馬か?」という戦績。しかし専門紙上では奥手と見なされている。
9番マルサ。8番同様スマートな明るい毛色の馬。タテガミが黒いので鹿毛だが、体色はほとんど栗毛の色。キビキビと周回。トモがちょっと硬いか。前走3歳1組戦を1着。逃げるのか逃げないのか、走るのか駄目なのか、どうもアテにしづらいキャラ。
そして10番がモナクカバキチ。デビュー3戦目にして2勝目を全日本アラブグランプリの日に目撃しているのだが、名前以外は記憶になく、実質今日がお初。これが何とも、想像以上に見栄えの悪い馬で・・・毛艶は全く冴えないし、胴も筋肉が緩んだ感じでタポタポしている。時折エキサイト気味に小走りする。「どうよ、カバキチ。」と、隣で見ていたディープさんに問うと「うわっ、モッサぁ!」と一言。FUKUさんに問うと、ズバリ「買わん!」

本馬場入場から返し馬。ダイニアキフジはハミを噛んでグッと首を下げてダクに入り、豪快なキャンターで回ってくる。ホワイトキャンプはソコソコの強さで。モナクカバキチは入場時も煩い感じ、軽めに駆けるがどうも気の悪さを感じさせる。マルサがガンガン飛ばす強いキャンター。ユキノホマレは最後に軽い走りでホームを通過していく。

モナクカバキチ(32B)
モナクカバキチ、返し馬
これで大器?

予想タイム。おさるさんやFUKUさんディープさん電設師とあれこれ。そのポイントはだいたい以下の通り。
・三強の図式だが、モナクカバキチはやはりイマイチ。
・ダイニアキフジが強そうだが、これがアタマだと配当も安く面白くない。
・ジンクス的には、ここを勝つとその後大成しない傾向が大なので、三冠戦線の主役としての期待が大きいダイニアキフジは、負けた方がいいのでは?
・ホワイトキャンプは、何だかんだでここまで複勝率十割キープ。
・ホワイトキャンプは父イムラッドでもあり、ひょっとしたら早熟かもしれないので、ここは獲っておきたいところ。
というわけで、狙い目はホワイトキャンプ→ダイニアキフジの連単。「やっぱりこれやろ。」と、電設師やFUKUさん。ホワイトキャンプは個人的には応援している馬なので、期待も込めて。

レースなり
さてレース。距離1600m、向こう流し半ばからの発走。
注目のゲート。ダイニアキフジはやはりアオり気味の発馬になる。しかしそれ以上に出遅れたのはユキノホマレ。一方、先手を奪ったのはヒットランナー、最内枠から前へ。ユノアレックスが続き、マルサは外から3番手。その外へモナクカバキチが。カバキチは最初の三分三厘では相当掛かった感じの走り。ダイニアキフジは後方から、そして4コーナーまでに、中団の外目に出る。
正面スタンド前。先頭変わらずヒットランナー。やや開いて2番手内ユノアレックス外マルサ。マルサの外半馬身下がってモナクカバキチが。次列内サンコーアイボ中カムロギキスミー。ホワイトキャンプはカムロギキスミーの直後、中団。キャンプの外にダイニアキフジ。最後列は内イムラッドトウザイ外ユキノホマレの併走。見た目ペースはスローか。

1周目(36B)
1周目の正面スタンド前
先頭ヒットランナー、次列大外にモナクカバキチ

隊列は1、2コーナーから向こう流しへ。一時はヒットランナーが後続を引き離したが、3コーナーを前に次列に吸収される。バック半ば前から、いよいよダイニアキフジが外目をジワリジワリと上昇。
そして3コーナー、ヒットランナーの外にユノアレックスが、マルサが、モナクカバキチが取り付いて、三分三厘では4頭横一線のサバイバル、残さん、抜け出さんとばかりに激しくなる。しかしこれをめがけてダイニアキフジ、外を回って接近、前4頭の直後へ、あたかも前を丸飲みせんとばかりに。ホワイトキャンプはちょっと寄せ脚のかかりが悪いか。
最後の直線、馬場六分どころを通って、程なくダイニアキフジが先頭に立つ。ヒットランナーはインベタで沈没、モナクカバキチもマルサも太刀打ちできない。が、ようやくのことで、ホワイトキャンプが馬場七分どころ、勝負圏内に出現。そして追い込む。「よし!岡崎来た!」と思わず声が出る。

最後の直線、アキフジvsキャンプ(45B)
馬場外目、抜け出すアキフジ、追い込むキャンプ
最後の直線、残り50mあたり

しかしながらダイニアキフジの走りは盤石。最後は2着に1馬身半差をつけて、重賞初勝利のゴール。
2着ホワイトキャンプ。そして3着に、四角を9番手で回ったらしいイムラッドトウザイがキャンプの内から追い込んで、これがモナクカバキチをクビ差蹴落としての3着。2着とは3/4馬身差。4着モナクカバキチ、5着はこれも最後方から大外を追い込んだユキノホマレ。6着マルサ、7着サンコーアイボ、8着ユノアレックス、9着ヒットランナーと、先行勢は掲示板に載れず。最下位はカムロギキスミー。

ダイニアキフジ(35B)
ダイニアキフジ、ゴールへ
これで重賞初勝利

というわけで勝者はダイニアキフジ。若干の出遅れもお構いなし。そのままスッと中団に付けて、外目外目を走って、勝負所で先団を捉えて抜け出してのV。「3歳春先のマイルの競馬じゃないよな。」とFUKUさん共々振り返ったが、「要は地力」とばかりに他馬をねじ伏せてしまった。どうやら気性面の不安を能力値でカバーしているという現状のようだ。これで気性も落ち着いてくると、いよいよ大いなる未来が開けてこよう。
ホワイトキャンプは終いよく追い込んだが叶わず。ダイニアキフジとは、向こう流しでの反応の差が出たようだ。これがアタマに来てくれれば一同万歳だったのだが、そうは上手くいかなかった。「これからどこで勝てるか。アラブ王冠あたりでポコンとくらいかな。」とディープさんと言い合う。
イムラッドトウザイは勝負決してからの突っ込み。「泥棒差し」とおさるさんが表したがまさにそう。しかし戦績を見るに、これがこの馬の得意手のよう。「コンスタントに走れて、たまに大一番でもソコソコ来るという付加価値、まさにイムラッド産駒のセールスポイントだよねえ。」と変に納得。
モナクカバキチの4着は、総崩れの先行勢の中で唯1頭の掲示板入りであり、まあこれは地力の現れなのであろう。が、今日のこの馬の姿や走りから、これが大器であると認めるのは正直難しい。道中掛かり気味で岡田騎手も手を焼いていた感じではあったが、どう走りたいのか、どう走らせたいのかが観ていてピンとこなかった。
それにしてもほぼ完璧なる先行崩れ。いかにもこの日の馬場状態と展開傾向に合致した結果になった。

ちょっと注目の最終レース
この日の最終レースはA2競走、春めく特別。ここに、菊花賞以降3戦連続掲示板を外したヨシユキトップが、とうとうA1陥落で登場。しかし陣営にとっては「これはラッキー」だそうで、確勝ムードで臨む。その他では、A2戦2度目となる上山OBカミノマルーエースや、すっかりA2で落ち着いてしまったヤマノダイオー。そして今回がラストランとなるという、7歳牝馬ムサシボウナナなど。
レースはマルサンダイオーが逃げて、ヨシユキトップは先行3番手あたり。直線を向いて余裕で抜け出そうというところ、終始2番手で進めたライトジュピロがねちっこく踏ん張り、これが1着。ヨシユキは不覚の2着。カミノマルーエースは中団から漸次上昇したが届かず3着。ヤマノダイオーは先団・好位ママで4着。
ムサシボウナナは後方追走のままで結局殿負け。重賞は勝てなかったが、一昨年のビーナス賞を勝ち、兵庫アラブクイーンカップでも3着と健闘した、努力家牝馬。お疲れ様でした。
勝者のライトジュピロは岩手OBで、昨年1月の転入以来、実に16戦目で当地初勝利。とにかくジリ。「頼まれてたから写真撮ったけど、まさか勝つとは。」と、カメラを構えた電設師もビックリ。

おわりに
ということで、本日の競馬は終了。そして明日はクイーンカップ。平日月曜日なのだが、なぜか行くつもりのワシ。

2002.3.9 記

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