第29回アラブチャンピオン賞観戦報告

 2002.4.5、笠松、1900m

はじめに
今回の観戦記はアラブチャンピオン賞。笠松競馬のアラブ系古馬重賞としては、正月のアラブギフ大賞典共々、ただ2つのSPI競走であり、それなりの伝統と格式を持つレースであると思われる。一昔前の勝者には、ハカタヤマガサ、アサヒノルーチェ、オールザドラゴンといった、笠松の強豪の名前が並ぶ(それ以前の勝ち馬は東海に疎いワシにとっては馴染みが薄いのですが)。また、東海地区のアラブ古馬戦線にあっては、5月の名古屋杯(春)を最終決戦とした、春のチャンピオンロードにおける一戦と位置づけられよう。事実、一昨年の勝者ブラウンダンディと昨年の勝者クラボクモンは共に、この後名古屋杯を制している。

そして今年、注目は何と言ってもマリンレオ。昨年6月の全国交流セイユウ記念にて2着惜敗の後は、地元東海で無傷の8連勝。この間、シルバー争覇(SPII)、アラブギフ大賞典(SPI)、開設記念(SPII)、アラブスプリング賞(SPII)の4重賞制覇を含み、同時に先代の王者ブラウンダンディを完封している。まさに無人の野を征くが如き状況の中、ここに登場。翌5月26日には全国交流タマツバキ記念が控えており、ここはまだまだ通過点。それまでは「負けるわけにはいかぬ」といったところである。

競馬場には正午過ぎに到着。天気は晴れ。初夏のような暑い陽気。風がかなり強い。
馬場状態は良。乾き切ってパサパサ。しかしながら見た目に砂は軽そうであり、馬場は深くもなさそう。とにかく風が強いので、馬が駆けると砂塵が舞い、それがスタンドまで吹き込む。カメラにとってはかなりの悪条件。
4月初頭の笠松競馬の名物といえば、競馬場を取り囲む木曽川の堤防の桜並木、その満開の景色。昨年このレースを観戦した3号馬さんや環さんもその見事さを記しておられた。ところが今年は、異常なほどの開花時期の早さで、3月下旬には既に満開。レース当日、4月5日には、まさに散りかけ、葉桜景色に移行しつつある状態というわけで、一つお楽しみを損した気分。

ちょっと注目の第10レース
この日の笠松は12レース施行で、メインのアラブチャンピオン賞は第11競走。そしてメイン前の第10レースはスポーツニッポン杯。アラブ系A2組の1800m戦。メインレースに駒を進めるに至らなかった、オープン2組の面々が登場。
ここでの注目はミスターハヤブサ。昨年3歳時は、上山所属でホマレエリートに次ぐ世代2番手格だった馬。古馬重賞にも顔を見せた。これが今年初頭笠松に移籍し、以降A4戦A2戦と連勝中。また、出走メンバー中先行勢のうち、シリウスジュニア、トライハートキング、ミスカネヒカリの3頭が同一厩舎ということで、これらの出方が馬券を左右しそう。
そのレース。1枠から高木シリウスジュニアがハナへ。安勝を鞍上に迎えたトライハートキングは結局逃げられず好位3、4番手から。シリウスジュニアはその後も隊列を引っ張り、ミスターハヤブサは後方6、7番手。2周目の三分三厘になってもミスターハヤブサは中団より後ろのまま。シリウスジュニアが後続とのリードを稼いで逃げ込み体勢に持ち込み最後の直線へ。しかしここからミスターハヤブサ、ただ1頭桁違いの脚で馬場外目を差し込んで、残り2、30mでシリウスを一気に交わす。そこからさらに2馬身半抜け出て快勝。この末脚、前がバテていたにせよ、ちょっと目を見張るものがあった。
「やっぱり上昇馬だよな。道中は『おいおい届くのか?』と思ったけど、ちゃんと差し切るもん。まあ、本来ならばこのレースじゃなくって、メインの方に出したい馬だよね。2着争いには充分絡みそうだし。」と、"東海の好漢"おーたさんや宇田山さんらと振り返る。「しかし何だよトライハートキング。A2落ちしたし、一時期の大敗トンネル抜けたと思ったのになあ。カツ(=安勝)乗ってるのに。」と、トラハ狙いだったワシが愚痴ると、「トラハは今日はないで。好走のチャンスは前走のA2落ち緒戦の千六の時だったんだよ。そこで6着でしょ。今回距離が千八に延びてますます苦戦必至。その割には予想紙のシルシは重過ぎ。もっとも、高木が逃げてカツが控えて隊形が決まるってのも何だかなだけれど。」と、おーたさんが解説して下さる。

アラブチャンピオン賞、出走メンバー
いよいよメインレースのアラブチャンピオン賞。出走メンバーは以下の10頭。()内は騎手、斤量。ハンデ戦。
タイコーリンダ(堺、53k)、マリンレオ(山田、55k)、ラディガブライト(河端、53k)、コウエイエンジェル(川原、52k)、ショウリイットー(坂井、53k)、トモシロヒット(柴山、53k)、クールマックス(濱口、52k)、ミヤノノーブル(長谷川、53k)、ヒカリブルー(湯前、51k)、シャロンビクター(東川、53k)

当初出走予定馬の中には、前年の覇者で前開催8ヶ月ぶりに実戦に登場したクラボクモンの名前もあり、マリンレオとの初対決がこのレース最大の見物となるはずであった。しかしながら回避してしまい(『競馬エース』のよると裂蹄のためとのこと)、両者の激突はお流れに。
結局、マリンレオ以外のメンバーといえば、コウエイエンジェル、ショウリイットー、シャロンビクターの、笠松オープン上位の常連3頭(『ケイシン』紙上では「仲良し3人組」呼ばわりされている)に、名古屋のラディガブライトあたりが、2着候補といったところ。こうなると、レースの焦点は、マリンレオ「勝ち方」のみ、これも言い過ぎではなかろう。

パドックから発走まで
内馬場のパドックに出走馬が登場する。しかし今日は時間がおしているからか、パドック周回僅か1周という、とんでもなくふざけたパドックタイムであった。よって出走馬の観察はざっと出来ただけ、その程度の、以下私見。
1番タイコーリンダ。放牧帰りで約半年ぶりの実戦。馬体重+5k以上に馬体は緩いし、冬毛も出ており、まだまだ臨戦態勢になっていない感じ。気配はゆったり。
2番が注目マリンレオ。例によって物見をしつつ、伸びやかな歩みで登場。毛艶は絶好とまではいかぬがまずまず。馬体重463kは前走比-5kだが、数字以上に細く作ってきたなというのが感想。胴回りにそれが見て取れる。そのせいか、これまで目にした時よりも細かい動きが目立ち、やや煩い。概してピーキーな印象。
3番ラディガブライト。元気いっぱいの歩み。踏み込みも深く、歩幅も大きい。身のこなしが非常にキビキビとしていて、芦毛ながらパドック映えする。今年初頭の名古屋杯時もこんな感じであったので、これがこの馬の個性かも知れぬ。その名古屋杯では2番人気で9着とズッコケてくれたが、以後好調のようで、前開催の東海グローリ(笠松アラブのA1特別)を勝利。
4番コウエイエンジェル。栗毛の毛艶は良好でガッチリと実が入っている印象。ジンワリとした気合い乗り。今回も深いブリンカー着用。今年に入って笠松のオープン戦を2勝。うち片方は準重賞新春グローリ。
5番ショウリイットー。8歳牝馬ながら(実はつい最近まで牡馬だとばっかり思い込んでいた)相変わらず雄大な馬体。胴回りが若干太いか。トモの送りが硬い。正月のアラブギフ大賞典はマリンレオの2着。以降2着1回3着2回あるが勝ち星にはありつけていない。
6番トモシロヒット。チャカチャカするのはこの馬の個性。胴は緩めだがヒ腹が上がってしまって後半身に力感がない。毛艶も一息で、見た目にも不振もしくは頭打ち傾向が納得されてしまう。4走前の新春グローリ2着が最近唯一の好走。
7番クールマックス。ジンワリゆったり周回。腹袋が大きく、また骨量豊かな体型。昨年末の準重賞銀嶺争覇を人気薄で勝ち、次走アラブギフ大賞典は3着。その後3戦はソコソコ。「仲良し3人組」の次位格、いつも穴馬といったキャラか。
8番ミヤノノーブル。最後にパドックに登場。カリカリと余裕のない気配で、パドックタイムが終わるとすぐに返し馬にすっ飛んでいった。クラボクモン回避で、補欠待遇からここに動員された模様。'98年の旧4歳時に名古屋の重賞を2勝した馬だが、最近はA2でも良積なし。
9番ヒカリブルー。冬毛気味で毛艶もくすんで冴えない。のんびりと周回している。オープンの常連だが最近は好着順なし。
10番シャロンビクター。スタンダードな鹿毛の毛色。特段艶も良くはない。馬体重486kは前走比-10k。馬体に締まりが感じられず、どうも筋肉が落ちた感じ。ヒ腹からトモが弱く、この見た目は案外。前々走準重賞桃花特別に勝利。他にも年明け以降東海グローリで2着2回に3着1回と、最近堅実にして充実。

ラディガブライト(40KB)
ラディガブライト、入場
実にキビキビとした身のこなし

各馬返し馬に。コウエイエンジェルが豪快なフットワークで駆け抜ける。ショウリイットーはやる気満々なところを鞍上坂井に手綱を抑えられ加減に。トモシロヒットやシャロンビクターも強め。ラディガブライトの気合い乗りが目立つ。そしてマリンレオはごくリラックスして、軽くキャンター。パドックと返し馬を通して、好印象なのはラディガブライトにコウエイエンジェル。次いでショウリイットーか。
「アタマはマリンレオの鉄板として、2番手はやっぱりラディガブライトなの?」とおーたさんに問う宇田山さんやワシ。おーたさん曰く、「ワタシはラディガより笠松の(「仲良し3人組」の)3頭の方だと思うんですけど。今日のラディガは人気しちゃってるけど、3頭とは差はないでしょう。」と。しかしここらあたりの馬券を買っても大した儲けにはならないので、必然的に話題は穴目探しに。「マリンレオが抜けてるとは他馬の陣営も判りきってるから、自分で敢えてそれを負かしにいこうとは思わないでしょう。だからお互いが牽制し合って動かず動けずって可能性はありえる。そうなるとひょっとするとトモシロヒットあたりが逃げ残るかも。」とおーたさんや宇田山さん。「いくらなんでもトモシロヒットは・・・距離も長いしそんな結果になったら大問題でしょ。」とワシが返すと「そのくらい無茶無茶にならなきゃ高配当出ないわけでさ。」と御両人。しかし詰まるところ「穴馬券獲ろうと思ったら、マリンレオ以外の馬の単勝!」という見解に、一同落ち着いた。
が、ワシは素直にマリンレオからラディガブライトを本線に。一点買いでもいいと思ったのだが、ラディガは名古屋杯のこともあり、全幅の信頼は置き難いので、どさくさ差しのショウリイットーへ少々。ただこの馬、良馬場巧者(つまりは深くて力の要る馬場向き)ではあるが、良とはいえ今日のようなごく軽い馬場でどうか、という心配はある。

レースなり
さてレース。距離1900m。2コーナーを立ち上がって向こう流しに入ったところが発走地点。
ゲートが開く。各馬横一線の発馬。マリンレオも内で好発。しかしながらそのまま先手は取らず、次第次第に位置を下げて、中団以降からの競馬となる。大外シャロンビクターやラディガブライトの出が目立ったが、やはり積極的に行くのはトモシロヒット。並の出っ端から最初の100mでダッシュ、単騎ハナに。ラディガブライトとシャロンビクターは次列に内外で続き、コウエイエンジェルはこの後ろ好位。マリンレオは最初の3コーナーを通過する頃には、中団7番手にまで控えている。
そして正面スタンド前。先頭トモシロヒット。3、4馬身程離れて2番手シャロンビクター。やや開いてラディガブライトが3番手。続く好位集団にコウエイエンジェルが。ミヤノノーブルやヒカリブルーもこのあたり。ここからさらに下がって、内にショウリイットー外にマリンレオが中団7番手で併走。ケツ2がインでタイコーリンダ、クールマックスが殿。隊列はかなり縦長。マリンレオのポジションから先頭までは相当差がある。

1周目(34KB)
1周目のホームストレッチ
先頭トモシロヒット2番手シャロンビクター、マリンレオはかなり後ろ

しかしそこはマリンレオのこと。向こう流しの半ば前から楽々と上昇開始。隊列の外目を苦もなく上昇し、三角手前では好位勢の直後にまで。その3コーナーまでに、シャロンビクターはトモシロヒットとの距離をグンと縮める。トモシロはぼちぼち一杯いっぱい。そして三分三厘、シャロンの外にラディガブライトが押し上げて勝負に。しかし外からスルスルとマリンレオ。コウエイエンジェルを難なく交わしてここまで襲来。そのままラディガも抜き去り4コーナーを回る。
そしてラスト。直線を向いて程なく、残り180mあたり、インで残るシャロンビクターを交わしこれで先頭。あとは馬場六分どころをスイスイと。終いは鞍上山田騎手の手綱も緩んでのVゴール。余力充分な走りでありながら、レコードにコンマ4に迫る、2分3秒4の勝ちタイムを叩き出した。
ラディガブライトが、四角から直線にかけて改めてよく脚を伸ばし、マリンレオには完敗ではあるがきっちり2着。レオに交わされて以降、大外に振って追い込んだコウエイエンジェルがシャロンビクターを抜いて3着。シャロンビクターは最後インで止まった感の4着。ショウリイットーは5着止まり。

マリンレオ、ゴールへ(35KB)
マリンレオ、ゴールへ
ラディガブライトを寄せ付けず

振り返って、そしておしまい
マリンレオの今日の勝利は、他馬とのレベル差をイヤというほど見せつけたもの。「道中あまりに後ろからだで『あっ!ひょっとすると(鞍上山田が)やってもーたか!?』と思ったけれど、終わってみれば何のことはなかったね。山田騎手も『ごちゃついた中を走って万が一のことがあるよりは。』と判断しての位置取りだったようだし。」と、表彰式前に関係者さんの立ち話を聞いていたおーたさん。「勝ち時計、辻本くんが自分のHPで書いていたけど、その期待通り、一昨日のサラ重賞、スプリング争覇の2分3秒5より速かったですね。絶好の出来には見えなかったけど、流石としか言いようがない。」と、ゴールドレットさんに振ると、彼曰く「これマリンレオ、兼用鉄履いての走りだってよ。」。元来裂蹄癖のあるこの馬のこと、最近はかなりましであるとは伝え聞いてはいるが、難しい状態であることに変わりはないようだ。次走名古屋杯(5月3日)を使うのか、タマツバキに直行するかは流動的とのこと。斤量(賞金別定のよう)と状態次第だそうで。
ラディガブライトは好位から積極的な競馬だったと思う。少なくとも他馬の出方を窺っての2着狙いに徹したようなレース運びではなかったのでは。それが功を奏したか、無様でない納得の2着。
コウエイエンジェルは今日は鋭い差しで3着。道中レオに一気に交わされるあたりは致し方ない。シャロンビクターは2番手から常に前前の競馬だったが、最後の直線はジリッぽさが出たような4着。ショウリイットーはやはり、前の馬に泣きが入らぬこの軽馬場では追いつけず、不発気味の5着。このあたり、戦前の危惧的中。
トモシロヒットは保たず6着。クールマックスは追い込めず7着敗退。「何ぁんだよ、駄ぁ目だよ濱ちゃん・・・」と、この馬を穴で抜擢してメゲる御仁が約1名。何故かここにいる九州人、"神出鬼没"のさまにべっぴんさん。
因みに配当金、枠複310円、馬複260円、枠単210円、馬単240円。枠と馬の逆転現象に加え、連単と連複の逆転現象の巻。

何はともあれマリンレオ、通過点の一戦を、難なく、無事にクリアできたことは祝着。「常勝」ということの重み、それすら感じさせぬ涼しげな勝ちっぷりに、この馬の底知れなさ、改めて実感させられた次第。
タマツバキまであと50日。軽やかにしなやかに、泳ぐが如き伸び脚で、いざ、頂点へ――

追記:この日のマリンレオの蹄鉄については、5月3日(マリンレオの次走名古屋杯デー)の『競馬エース』にて、「今回から兼用鉄を履く」との記事が掲載されていたのを踏まえて、半鉄着用だったと判断して、拙観戦記にもその旨追記しました。その後熱心なファンのお方が「本当にその(名古屋杯の)記事で正しいのか?」と、『競馬エース』に問い合わせたところ、編集長さんから「戸沢肇調教師に確かめましたら、御指摘の通りアラブチャンピオン賞から兼用鉄を履いていたそうです。」との、訂正の返答があったそうです。ということで、当日のゴールドレットさんの御教授が正確であったと確認されましたので、本文中当該箇所を再訂正いたしました。同時に名古屋杯の観戦記中から、この兼用鉄着用の件は削除いたしました。以上、ここに改めて記させていただきました。元々蹄に不安のある最強馬マリンレオらしい一件ですね。

2002.4.17 記  
2002.5.17 追記
2002.5.30 追記

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