第35回福山桜花賞観戦報告

 2002.4.14、福山、2250m

はじめに、そして出走馬について
福山競馬新年度の開幕を飾る、第1回開催恒例の福山桜花賞。A1格付けのオープン馬が長丁場2250mに覇を競う、福山の古馬重賞らしさ漂う伝統の一戦。
新年度重賞第一弾ではあるが、先月のローゼンホーマ記念の再戦という図式になるのが通例。そして何より、翌月26日に控える、全日本タマツバキ記念アラブ大賞典に向けて、他地区馬を迎え撃つ地元勢の陣容を占う上で、注目のレースであると言えよう。

ということで、出走馬は内枠より以下の10頭、であるのだが・・・
ライトジュピロ(佐原、51k)、ドリーミング(渡辺、53k)、モナクダイキチ(岡崎、53k)、フジナミスペシャル(嬉、55k)、コウギョウシャトル(藤本、53k)、ホマレエリート(鋤田、53k)、イケノエメラルド(野田、53k)、ノア(楢崎、51k)、フジキタイトル(三村、51k)、グリンティアラ(片桐、53k)
()内は騎手、斤量。別定重量戦。

A1重賞とはいうものの、メンバーの半数はA1半程度の馬という、ちょっと物足りない顔触れとなった。というのも春先以降、これまでの実績馬に、調子落ちやそれに伴う休養入りが多いから。ホマレスターライツ、パッピーケイオー、ヨシユキトップがこれに該当し、加えて、ローゼンホーマ記念にて千八戦不敗神話が崩れたユノワンサイドも今回不出走。セブンアトムもA1を陥落した。
ということで、有力どころとしては、前走ローゼンホーマ記念で圧勝したホマレエリート(結局新年度になっても上山には帰らず残留か)に、同2着の大賞典馬フジナミスペシャル。近走は昨年の8連勝の勢いの失せたドリーミングに、A1の常連グリンティアラの牝馬2頭。A1で足場を固めつつある新春賞馬ノア、マッチョな老雄モナクダイキチといったあたり。これがアラブの聖地の、全国交流への大事な前哨戦だと思うと、寂しさと不安を禁じ得ない。
因みに今回の出走馬のうち、前年の桜花賞に登場した馬は1頭もいない。勢力図の移ろいのはやさと、一線級の力と調子を維持することの難しさを思う。

当日の概況
競馬場には2時頃に到着。天気は晴れ。すっかり初夏の陽気。暑い。
馬場状態は良。年度末3週間の休催の間に砂の補充があったようで、見た目にいかにも新しい砂が綺麗に入っている。しかしながら馬場は深くはなさそうで、軽く走りやすい状態と思われる。
レース展開としては、これが圧倒的な逃げ有利の傾向。向こう流しで3、4番手までに位置していないと前に届かない。三分三厘で捕まりそうになった逃げ馬でも、終いまで保ってしまっている。「前日のA2の千八戦で1分58秒7が出てるよね。」とふささんも言及されたが、良馬場ながら概して時計も速い。

パドック、そして発走まで
さてパドックに出走馬が登場する。
1番ライトジュピロ。ポテッと緩そうに見える胴回りはこの馬なり。細かい動作が目立つ周回気配。前走はローゼンホーマ記念の裏番組のA1A2戦で2着。
2番ドリーミング。毛艶は上々だが、馬体重は前走からまた4k減らして462k。ヒ腹からトモにかけて細くなってきている。肩の出も硬いが、前走ローゼン時の歩様に比べればましか。この細くて踏み込みの浅いドリーミング、見慣れたということも多分にあろう、前走よりは悪く感じない。ふささんも同じ感想を抱いたよう。
3番モナクダイキチ。パンパンに張った馬体が春の日射しに照らされて、ビカビカに黒光りしている。ゆったりとした周回でトモの踏み込みも大きいが、歩みの力強さは並。
4番がフジナミスペシャル。毛艶はこの馬なりにまあまあといったところ。今日は一人曳きでこの馬にしては大人しく歩いている。馬体重510kは前走比+5kだが、この馬は余程なことがない限り、太くは見せない。
5番コウギョウシャトル。これはキビキビとした、かつ柔らかい身のこなしで、トモの踏み込みも大きい。まだら芦毛の姿といい、名古屋のラディガブライトにキャラがダブる。ローゼンホーマ記念は補欠待遇だったため、前開催は不出走。
6番がホマレエリート。ローゼンから引き続いて、毛艶は文句なし。馬体重443kは前走比-7k、元来がスッキリスリムな馬体だが、この数字でもガレた印象は皆無。好調維持だと見て取れる。
7番イケノエメラルド。前走ローゼンから引き続いて、この馬にしては毛艶は上々。馬体重は+5kの429kとさらに増えた。こうなるとギスギス感は微塵もないばかりか、むしろ胴回りはちょっと立派過ぎるほど。
8番ノア。二人曳き、時折首が高くなり、チャカチャカと。しかし大きな焦れ込みでもなく、この程度の細かい動きはよく見られること。毛艶はまあまあ、馬体重470kは前走比-2kだが、馬体に実は充分入っている印象。
9番フジキタイトル。元々大柄で見栄えのする馬体、実際福山大賞典の時は物凄い出来だったが、その時に比べれば今日は迫力がない。毛艶は上々だが、意外にこじんまりとしている。ちょっと調子のピークは過ぎた感。
10番グリンティアラ。相変わらずゴツい馬体。骨量豊富ながら必要以上に肉が付かない体型だからか、牝馬らしい丸みがない。ギタバタと大股な歩様も個性だが、今日はちょっと肩のさばきがぎこちない感じ。毛艶はソコソコ。
騎乗命令が掛かったところで、フジナミスペシャルが例によってガチャガチャと煩くなる。

本馬場入場から返し馬に。グリンティアラはグッと首を下げてダクに入り、重心の低い走りで駆ける。フジナミスペシャルは入場して4コーナー近くまでダクで歩を進めてから返し馬に。気合いが乗るところを嬉騎手が巧みに抑えて流していく。モナクダイキチは巨体を弾ませて豪快に。フジキタイトルは毎度のことながらガンガン突っ走り、鞍上三村クンがそれをなかなか抑えられない。イケノエメラルドは入場からダクに下ろす際もキャンターも、ずっと頭を横にひん曲げて。コウギョウシャトルやホマレエリートは軽快に。ノアも軽快ながらピッチの利いた駆けり。ドリーミングはやや強めだが、ローゼン時と同様、口を割っているのが気になるところ。
予想。二二五戦ということと、地力と安定性を考えれば、フジナミスペシャルの軸は確実性が高そう。少なくとも2着までには収まろうかと。先行有利の馬場も特段不利にはなるまい。ここからホマレエリート、ドリーミング、グリンティアラ、ノアへ。ホマレとの組み合わせはド本命馬券でもあり、配当的には妙味はない。ドリーミングとグリンティアラは近況を思うにアテには出来ぬが、このメンバー中ではまだまだ地力上位かと。問題は各馬の位置取り。差し脚捲り脚に覚えのある彼女達だが、あまりのんびり運ぶと間に合わない危険性も大。そこで最大のお楽しみはノアの走り。「逃げ有利の馬場も向きそう。それに今回はモナクマリンがいないから単騎で行けそうだし、何より51kで競馬出来るしね。あとは鞍上次第。」と、ふささんも。氏はノアと心中覚悟のようだが、実はワシもリーダーも、スケベ馬券はノア→フジナミの組だったりする。

レースなり
いよいよレース。二二五戦のスタート地点は4コーナー。ここから丸2周、ホームストレッチを3度通過する。
ゲートオープン。外枠のノアは好発。スッと内に切れ込んで、これも出の良かった1枠ライトジュピロにまずは併せに行く。最初のスタンド前を暫し併走の後、1コーナーまでに単騎先頭に。フジナミスペシャルも今日は出負けなくすんなり、そして先行2頭の直後次列をしっかり。このインにドリーミングが、今日は早めの競馬。フジナミの外やや遅れてコウギョウシャトルが5番手、ホマレエリートはこの外のやや後方6番手から。グリンティアラはさらに後ろ。モナクダイキチとフジキタイトルは予想通り殿から。
隊列が向こう流しの半ばを通過していくあたりで、場内がドッとなる。先頭ノアが、2番手以下をガンガン引き離し、後続をブッチ切り始めたのだ。「楢崎何考えてるんだ!ヤメロ〜!」と思わずふささんが叫ぶ。そうこうしているうちにもノアは既に大逃走モード。三分三厘あたりでは、リードは20m以上はあろうかという状態になる。そしてその勢いのまま、2度目の正面スタンド前へ。
先頭ノア、この行きっぷりでは掛かりようもなく、ヒュンヒュンとばかりに突っ走る。ライトジュピロが引き続き2番手キープで単走。3馬身程後方にフジナミスペシャルがつけ、この直後インにドリーミング。その直後次列は内コウギョウシャトル外ホマレエリートの併走。ホマレは1周目より若干前との差を詰めた感じ。グリンティアラは依然7番手。イケノエメラルド、モナクダイキチはさらに後ろで、殿フジキタイトルは変わらず。昨年の桜花賞の密集ギチギチな隊形と打って変わって、長丁場らしい比較的縦長な隊列で、各馬2周目の1、2コーナーを通過していく。
2度目の向こう流し、先頭ノアのリードは若干詰まるも、単騎大差逃げに変わりはなし。しかしレースが動くのはバック半ば、残り800。ここでフジナミスペシャルが3番手から発進。三角までにライトジュピロを交わし、自力でノアを追う。が、前の止まらぬ今日の馬場のせいもあってか、その先はそうは容易く差は詰まらない感じ。「フジナミそんなに手応え良くもないなあ。」と、リーダー共々感想を漏らし合う。後方ではフジナミの仕掛けと同時か、むしろ若干先んじ、ホマレエリートも捲り上がる。ローゼンと同様見事な行きっぷり。三分三厘では3番手ドリーミングを外から交わして上昇する。が、残る2頭はまだまだ前方、止まる気配もなく、これ以上はなかなか寄せられない。

最後の直線(34KB)
最後の直線、残り70mくらい
ノアとフジナミの叩き合い、ホマレもドリーミングも届かない

4コーナー手前、残り250あたり、先頭のノアにいよいよフジナミスペシャルがにじり寄ってくる。コーナリングで遂に馬体が合う。そして勝負は最後の直線へ。
インベタで粘るノア、外から併せてねじ伏せんとするフジナミ。道中散々逃げ脚を使いつつも、ノアが頑強に抵抗してなかなかフジナミを前に出させない。この叩き合いが直線半ばまで続く。レースも白熱、観客も白熱。ふささんのみならずリーダーも「(ノア)残せ〜!」の叫び。が、残り100から50にかけて、大賞典ホースの意地か、フジナミスペシャルが力づくで、ジワリと先頭に立つ。最後は2馬身抜け出して、今年3つ目、通算早くも7つ目の重賞V。

フジナミスペシャル、ゴールへ(39KB)
フジナミスペシャル、勝つ
ノアを交わし切ってゴールへ
ノア(30KB)
ノア、惜しい2着
しかし2着はしっかり獲った

2着にはノアが残る。ホマレエリートが3着。最後は1馬身差まで詰め寄っていたようだが、リアルタイムの印象としては前の2頭には完敗。2馬身差でドリーミングが4着。ホマレに抜かれた以降も離されずついてきたようだが、終いは脚があがったよう。グリンティアラは5馬身差の5着だったようだが、現場での印象はほとんどなし。

フジナミスペシャル、口取りへ(38KB)
フジナミスペシャル、口取りへ
黒鹿毛の細面の顔が凛々しい

反省、そしておしまい
フジナミスペシャル、まずはサスガといった感の1着。これで地元の2250m超戦は3戦3勝。長丁場はやはり強い。最後の直線はノアの粘りに手こずったが、この馬、脚いろ同じになってからの叩き合いには強いようだ。全日本アラブグランプリ然り、福山大賞典然り、前走ローゼンホーマでのグリンティアラとの2着争い然り。この勝利で、タマツバキ出走地元勢の中心はやっぱりこの馬、ということになりそう。しかしながらその大一番は距離千八、どうなんだろう。
ノアは惜しい2着。「何だよ楢崎バカ逃げして。普通に乗ってりゃ勝ててたぞ!」と、ふささん怒り心頭。お怒りごもっともと思われる反面、よしんば溜め逃げしたとしても、フジナミスペシャルに道中直付けされて可愛がられたやも知れず、また無理に控えれば楢崎騎手のこと、ブッ掛かって終いまで保たなかったとも思われ。そもそもこの馬、何となく無茶苦茶な競馬が似合う気がするのだが。'00年夏の日本海特別といい、瀬戸内賞といい。とまれこれで、タマツバキには駒を進められそう。
ホマレエリートは道中の位置取りの差に泣いた感。フジナミとほぼ同じタイミングで押し上がったものの、この馬場ではその時点での間隔を逆転するのは至難の業。ではあるが、充実ぶりと実力はホンモノ。あの細い馬体でこの脚力はホント大したもの。
ドリーミングは鞍上渡辺が先行有利を読んだであろう前付け競馬だったが、三分三厘でホマレエリートに一気に交わされたあたり、現状のパワーの差が出たか。終いまでそれなりに踏ん張ってはいるのだが、昨年末に見せた超絶さは影を潜めてしまっている。
グリンティアラは道中の位置取りが後ろ過ぎ。これでは到底前に届かない。掲示板に載った馬に言うのも何だが、現状の彼女にとってこれは凡走の類。
6着コウギョウシャトルと7着ライトジュピロは、格下勢のうちでは前付けであったが故にこの着順をキープできたか。8着モナクダイキチ9着イケノエメラルド最下位フジキタイトルは、いずれも道中中団以降のママ。モナクダイキチとフジキタイトルは、テンの行き脚のない捲り・追い込み馬なので致し方ない。イケノエメラルドは出口なしのような停滞続き。かつての実績が泣く。

フジナミスペシャルの長丁場での強さ巧さ、ノアの規格外の走り、といったあたりは、面白く、観るべきものがあった、今年の桜花賞だったと思う。が、全国交流を前にした地元勢の前哨戦としては、戦前抱いた物足りなさを覆すには至らぬ、ちょっと食い足りない桜花賞だったとも。
しかし妙なもので、1着2着を獲ったオトコ馬よりも、何だかんだで3頭揃って3、4、5着を獲って掲示板に載りきる、オンナ馬たちの図太さ強かさの方が、何ともココロに残ったりして。まさに女性上位時代。やはり「桜花賞」だけのことはある、か?
こんなオチでは「そんな"J"なネタなんか認めんぞ!却下や却下!」などと言われそうなので、改めて締めをば。
「がんばれ福山競馬。そしてがんばれ、オトコたち。」冴えんなあ・・・

2002.4.23 記

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