第41回フクパーク記念観戦報告

 2002.4.24、園田、1870m

はじめに〜今年の兵庫3歳世代の概括
兵庫アラブ、3歳三冠第一関門、フクパーク記念――
こう記せたのも昨年までのこと。その最終関門である(あった)姫山菊花賞が今年からサラ重賞となり、ついにアラブ三冠体系が崩壊してしまった。これにより兵庫の3歳重賞は、フクパークと楠賞の2つのみに。うち楠賞は全国交流競走であり、兵庫所属馬に限った3歳重賞ということでは、今回のフクパーク記念がただ一つのものとなってしまったわけである。兵庫のアラブ系競走、その終焉の近さをイヤというほど感じさせられる次第。

ここで私的なおさらいの意味合いも込めて、兵庫現3歳世代の、これまでの勢力図の推移を概括してみることに。
いち早く有力馬として名乗りを挙げたのは、サンキュウホマレとシリウスウィンド。いずれも5月末にデビューして、以降着実に勝ち星を挙げた。しかしシリウスウィンドは、5勝目となった10月10日の兵庫オーナーズカップで骨折。これで呆気なく戦線離脱してしまう。一方のサンキュウホマレは、11月15日の栄駿賞(指定特別)で7勝目。ここまで唯一の黒星はシリウスウィンドに喫した2着1回のみ。
そして迎えた12月12日の重賞、園田2歳優駿。サンキュウホマレ断然ムードの中、これを制したのは当時単穴格だったミスターサックス。周囲の見込み以上の圧勝。この馬、ゆくゆくは大物になろうが、この時点ではそれにはまだ早いと見なされていた馬であった。
以降はこの両頭の二強体制。その後2頭の直接対決は2度。いずれも3月の姫路千八戦でミスターサックスに軍配が上がったが、それぞれハナ差にクビ差の接戦。3着以下とはそれぞれ8馬身(1秒3)と2秒1の大差がついており、二強体制の様相はさらに深まって、今回この舞台を迎えることとなった。

出走馬について
さて今回の出走馬。内枠より以下のフルゲート12頭。()内は騎手、性、斤量。
ヤシロヒミコ(寺倉、牝、53k)、リードオーカン(寺地、牡、54k)、クインパウエル(米田、牝、53k)、ケイエスヨシノ(玉垣)、チャチャマンボ(平松)、スカイタカオー(宮西)、スカイプリティー(下原、牝、53k、牡、54k)、グリーンジャンボ(坂本、牡、54k)、エトワールアンジュ(赤木、牝、53k)、スーザン(田中、牝、53k)、ミスターサックス(松浦政、牡、54k)、サンキュウホマレ(岩田、牡、54k)
斤量は牡馬54k牝馬53kの馬齢定量。

というわけで、前述の二強はさておいて、その他のめぼしい馬といえば・・・
早い時期より大器と目されつつも、一向に本格化しないグリーンジャンボ、1月29日(3走前)にサンキュウホマレを差し切って勝ったヤシロヒミコ。年明けの補助馬限定路線で二冠を獲るも、肝心の福姫交流で3着に負けて、前走フクパークトライアル・クリスタル賞では呆気なく6着止まりだったスカイタカオー。確実に常時入着するが二強には全く歯が立たないエトワールアンジュ。これと同様なポジションの、昨年末何故か福山の全日本2歳アラブ優駿に遠征した(結果4着)スーザン。といったあたりか。しかしいずれも二強との格差は如何ともし難い現状。
実は番組賞金が二強に次ぐ3位で、ローテンションを巧みに二強とずらして、現在3連勝中のスーパーレディが、今回も直接対決を避けて不出走。フクパークの3着賞金は64万円、一方ヒラOP戦の1着賞金は75万円、このあたりを考えても、これはやむを得ぬといおうか、堅実というべきかの選択ではある。が、ファンとしてはちょっと残念、とは、当日の『キンキ』紙上で、北防記者もコラムにて触れるところ。

当日の状況
予報では曇りのち雨と告げていたが、幸いにも天気は保ってくれて、午後の時点でもまだ並の曇天。時折陽も射すくらい。ただ湿度が高く、この時季にしては相当蒸し暑く感じられる。風は強い。馬場状態は良。
7レースのサラ3歳戦で事件発生。4コーナーで落馬事故。落ちたのは永島jkと、何と太さん。太さんはメインレースで本命ミスターサックスの騎乗がある。大丈夫か?と心配していたところ、結局ミスターサックスの鞍上は松浦政宏jkに変更。
8レースにはJRAとの指定交流競走があったので、JRAの騎手目当てと思しきお客さんが相当数。「どうせメインレースの頃にはいなくなるから関係ないわな。」と、それには我関せずのアラブな人々であった。

パドックから発走まで
パドックにメインレースの出走馬が登場する。主役の二強、ミスターサックスとサンキュウホマレは共に8枠、最後に入場する2頭である。因みに両者の馬体重、ミスターサックスは518kでサンキュウホマレは415k、100k以上も差がある。カメラを向けるリーダー(平日なのに何故か現場にいる)、「デッケー!」「チッチェー!」と両者の馬格差に思わず声をあげる。
1番ヤシロヒミコ。首差しがスラリと細長く、スッキリスリムな、スマノヒット産駒らしい体型。歩幅は狭い。皮膚は薄そう。栗毛とのことだがくすんだ色合いは栃栗毛に近い。前走はクリスタル賞で3番人気ながら末脚完全不発の8着。ただし輸送が駄目らしく、姫路戦は参考外とのこと。
2番リードオーカン。筋肉の付きはなかなか。トモの運びが力強く、毛艶も良い。キビキビと周回。前回福姫交流で目にした時よりも好印象。しかしながら格的にはまだまだ。
3番クインパウエル。栗毛の毛艶は冴えず、元気もない。トモの踏み込みもぎこちない。前走は前開催のOP戦をスーパーレディの3着。
4番ケイエスヨシノ。栗毛の毛艶は良い。体型なのか、胴がかなり緩そうに映る。前走は前開催のOPで4着。
5番チャチャマンボ。馬体重510kは出走馬中ミスターサックスに次ぐ。確かに大柄で馬体は悪くないが、まだまだ余裕がありそう。前走は前開催のOPで10着殿負け。
6番スカイタカオー。馬体重432kは前走比+9kで前々走福姫交流からも+8kだが、これは適正値戻した数字。実際馬体の実入りもいいし毛艶も良好。ワシは福姫時の姿よりは好感を抱いたが、3号馬さんは「いやあ福姫の時の方がもっとキビキビしてませんでしたかぁ?」と、見解を異にする。
7番スカイプリティー。毛艶はやや冬毛気味。時折鶴首気味になり、また細かい動きも目立つ。イライラしている感じ。2着は4回あるが未勝利馬。前走はクリスタル賞5着。
8番グリーンジャンボ。ドッシリとした胴の実入りはレオグリングリン産駒らしいところ。毛艶も馬体張りも良好でキビキビとした身のこなし。未完の大器(?)だけのことはあって雰囲気はある。しかし3号馬さんは「2歳秋に見た時の方が印象良かったですよ。」とのこと。前走はクリスタル賞で3着。
9番エトワールアンジュ。尾花栗毛だがあまり格好のいい体型ではない。時折鶴首になり、終始煩い。トモの送りがギクシャクしている。これまでの実績の割には案外の見た目。前走はクリスタル賞で4着。
10番スーザン。冬毛なのか刺し毛なのか、栗毛の体表に白いものが目立つ。やや太い胴体だが張りと実入りはなかなか。踏み込みは力強い。スマノヒット産駒で母バーグマンはサンバコールの母バコールと全姉妹同士、ということでサンバコールとは血統構成が全く同一。それが意識にあるからか、栗毛で背の高い馬格でギタバタしたトモの送り、サンバコールに似ていると思う。前走は前開催のOPで2着。
11番が注目のミスターサックス。とにかく大きい!ジンワリとした気合い乗りで堂々と周回。毛艶も張りも現時点では文句のないところ。胴のボリュームと前半身の力感がより目立ち、それに比して後半身の方はそれなり。しかし踏み込みは力強いもの。「でももう一絞り二絞り出来そうな馬体ではあるよね。」と環さん。しかし万事に付け、発散するものは出走馬中この馬が一番。圧倒的ですらある。
最後に12番サンキュウホマレ。これが何とも期待外れな見た目の馬。終始チャカチャカと焦れ込み気味に周回。馬体重415kは前走比+1kだが、明らかに細い。「ヒ腹のあたりなんかガレてるね。」と3号馬さんや環ちゃんらと指摘しあう。とにかく気性面でも馬格においても余裕がないという印象。「これ実績考えずに見た目だけで判断したら絶対買いたくないですよね。殊に初距離となる一八七戦ではなおのことでしょう。」と、このあたりも皆さんと見解一致。

本馬場入場から返し馬に。サンキュウホマレが気性面を気にしてか、誘導馬よりも先に登場して、入場口から1コーナー方向へ直行。ややあって他の馬が入場。しかし最近兵庫では、返し馬で再度ホームを通過する馬がめっきり減った。大半が駆け出して、四角まで流してそこでウォーミングアップを止めてしまう。
予想。といっても二強で決まる公算が限りなく100%に近い。その割には、サンキュウホマレはあまりに冴えない気配であり、ミスターサックスは太さんから政宏jkへの急な乗り替わり、と、両者とも不安の残るところ。連単でどちらをアタマにするべきかはちょっと難しい。かといって連複は配当があまりに安過ぎ、どう買っても面白くない。よってワシは呆気なく"見"。それでも3号馬さんは果敢に穴馬券にチャレンジされていたようだが。

レースなり
さてレース。距離1870m、2コーナーからの発走。
ゲートオープン。外枠勢の発馬が良い。エトワールアンジュやスーザンの出も目立ったが、最も好発に見えたのはミスターサックス。すんなり先行体勢に。一方で、何としてもハナが切りたく、またそれが叶うだろうと思われたサンキュウホマレは痛恨の出負け。4、5番手からのスタート。が、行かねばハナシにならぬので、鞍上岩田に叱咤されて、向こう正面半ばまでにはハナを奪う。がしかし、無理に押したのが祟ったか、以降掛かり気味の走りになってしまう。外からサンキュウを先に行かせて、ミスターサックスはすんなり2番手に控える。が、好発過ぎたのか、折り合い面に心配の少ないこの馬にしては若干掛かり気味。それでも3、4コーナーあたりまでには何とか落ち着きを取り戻した模様。
この後方、3番手には内からスカイタカオーが上げて。スーザンは4番手。エトワールアンジュは中団まで下げる。ヤシロヒミコは中団後方インで、若干掛かり気味。グリーンジャンボが三分三厘で中団から掛かっていく。
そして正面スタンド前。先頭サンキュウホマレ、やはりまだブッ掛かって。4馬身くらい開いて2番手にミスターサックス。こちらは首の上下動はあるものの折り合っている。3番手以下とは6馬身以上はあろうかという状況。この時点で既に二強とそれ以下との地力差が、イヤというほど現出されている。その3番手は内スカイタカオー、外スーザン。タカオーの直後にスカイプリティー、その外リードオーカン。次列内にエトワールアンジュ、その大外にグリーンジャンボ。

1周目(39KB)
1周目、正面スタンド前
先頭サンキュウホマレは掛かり気味、2番手ミスターサックス

レースは唐突に動き、呆気なく決まった。1、2コーナー中間でミスターサックスがスッと動き、前のサンキュウホマレの位置まで一気に寄せる。そして2コーナーを回ったところで追い付いて、並ぶ間もなく交わしてこれで勝負あり。サンキュウホマレは、掛かった状態から折り合いがついてホッと一息という状況だったような。そこを衝かれた体裁になった。ミスターサックスはまだ馬なり、いやむしろ鞍上にセーブされていようかと。以降は漸次リードを広げ、三角手前までに既に6馬身以上引き離してのぶっちぎり独走。あとはゴールまで流れ込むだけ。結局2着に2秒2の大差をつけての重賞勝ちとなった。

ミスターサックス、ゴールへ(39KB)
ミスターサックス、独走でゴールへ
大流星が躍る

一方のサンキュウホマレ。ミスターサックスに並ばれた時点で、抵抗らしい抵抗を全く見せずに、以降はチ切られている。が、ひょっとすると鞍上岩田騎手は、観念して2着狙いに切り替えたか(VTRを確認すると、この時岩田jkは外を見て、後ろを振り返り何やら確認した感じ)。3コーナーあたりからは後続とサンキュウとの差がみるみるうちに詰まる。スカイタカオーを交わして外からスーザンが押し上げ、内ではスカイプリティーも粘る。エトワールアンジュも外に切り替え差し込み体勢。4コーナー出口でサンキュウのリードは1馬身ちょっと。「サンキュウホマレ駄目か?」と思った局面。
しかしここから、岩田が激しくサンキュウホマレを叱咤して、何とか2着を死守してゴールに。3着2馬身半差で外を追い込んだエトワールアンジュ、4着最内を掬ったスカイプリティーがクビ差、スーザンは終始好位の競馬もクビ差で5着。スカイタカオーが終い鈍って6着。グリーンジャンボは7着。なおケイエスヨシノは2周目向こう正面で競走中止。

振り返って、そしておしまい
ミスターサックスの強さばかりが目立ったレースになってしまった。こうなっては、その地力を否定するわけにはいかなくなってきた。当初は「馬格とセンスはあるけど、実際のところはどうか?タッカースカレーみたいな馬なんじゃないか?」と思っていたのだが、スピードとパワーもともかく、折り合い面に問題がないという点が非常に大きく、このあたりが、終始掛かり通しだったタッカースカレーとはひと味異なるところである。楠賞の2400mを考慮しても、これは相当の強み。「確かにスパートした時も、抑えが効かずって感じじゃ全然なかったもんな。口取り撮影でも、大人しくて微動だにせんしな。」とOku師匠も。「となると問題は父ナイスフレンドか。大型馬でも仕上がりは早いが、長丁場がいいとは思えやんという。それにしてもこの馬ムチャクチャ体高があるぞ。」と続けて言及される。「そうそう、父ナイスフレンド。というわけで、タッカースカレーより、むしろマルハチフレンドに似てるような気がする・・・」とワシも続ける。
対するサンキュウホマレは、2着に残り最低限の責任は果たしたわけだが、完敗にして、大きく期待外れ。スタートの拙さが全て、辻本くんの言葉を借りれば完全なる「自滅」であろう。競馬に「たら・れば」は禁物だが、まともなゲートの出ならば、結果は変わっていたやも知れぬだけに、勿体ない。が、この馬の現状からは「余裕のなさ」というものを強く感じる。これで楠賞の二四戦に打って出て、巻き返せるとも到底思われないところである。「父ナタリージョージというのもねえ、いかにも勝ち切れない感じがしますよねえ。ミスターナタリーといいジョージサンキュウといい・・・」と3号馬さんも。とにかく、この馬には、今回は失望。
3着以下の馬たちに関しては、現状で言うべきことはない。そんなレベルではなかろう。

ミスターサックス、口取り(39KB)
ミスターサックス、口取り撮影に臨む
微動だにせず、しかし目がコワイ

ということで、次の決戦は、6月5日、楠賞全日本アラブ優駿。そのセンスと地力のままに、ミスターサックスが一気に戴冠するのか、他馬、特に他地区勢がそれを阻むのか。ワシの期待は、アラブの聖地の、あの"熱き血の傑作"(by『福山エース』)なのだが・・・最大の敵は、むしろミスターサックス自身の血「父ナイスフレンド」だったりして。

2002.5.11 記

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