第18回南国桜花賞観戦報告

 2002.4.28、高知、1900m

はじめに
今回の観戦報告は南国桜花賞。南国王冠高知市長賞共々、高知競馬に現存するただ二つの古馬重賞である。南国王冠は正月開催それも元旦恒例のレース、家庭の事情から(何じゃそれ?)現場観戦がなかなか叶わない。ということもあり、「せめてこれだけは」との思いから、今回3年連続で、観戦に出掛けた次第である。また、現在高知の古馬オープン勢には、かつて他地区に所属していた馬を中心に、なかなか個性的で魅力的な面々が名を連ねており、彼らによる重賞の舞台ということで、非常に楽しみなのである。加えて、翌月26日には福山競馬場での全国交流タマツバキ記念が控えており、これへの参戦を希望している馬たちの走りにも、関心が高まるところである。

3年連続で往路は夜行快速ムーンライト高知にて。そしてこれもまた3年連続で、ファンバス乗り場にて、"神出鬼没"さまにべっぴんさんとバッタリ。一緒に競馬場へ。
天気予報では当日は雨とのことだったが、幸いにも何とか保って曇り。しかしながら次第に雲が厚くなって、空が暗くなってくる。想像される4月下旬の高知の気温よりは明らかに涼しく、むしろ肌寒い。風は少々。馬場状態は良。

注目の3歳戦2鞍
メインレースの前に、3歳上位戦が2鞍組まれているのでこれについて少々。3歳勢には、3週間後の翌月19日に、高知アラブ三冠レース第一弾のマンペイ記念が控えており、今日はその前々哨戦となろうかと。
まずは第1競走、3歳2組戦、距離1300m。人気は1組のキャリアも多いチーチーメガミとレッツゴーベイビーあたり。レースはチュウオーマイピヤとチーチーメガミが内外でハナ、次列にレッツゴーベイビー、前半は全馬一団の隊列。三角以降この3頭が抜け出し、最後の直線チュウオーマイピヤがチーチーメガミを押さえ込んで、結局行った行ったの1、2着。終いチュウオーボスが内を掬って差し込み3着。レッツゴーベイビーは大外で直線伸びず4着に終わる。
勝ったチュウオーマイピヤは2組と3組を往復している程度の現状の馬、単勝6番人気。これがあっさり1組経験馬を破るあたり、3歳中堅クラスは混戦模様ということか。レッツゴーベイビーの気性難は銀の鞍賞時と変わらず。暴れてパドック周回すら出来ない。

そして第9競走、卯月特別。3歳1組戦である。距離はこれも1300m。ここに昨年末の2歳重賞銀の鞍賞の勝者、ヒダカシュウホウも登場。しかしこの馬、2歳チャンプではあるが、それ以後伸び悩み気味。世代筆頭の座は銀の鞍賞4着のテイケイミチカヒメに奪われた感。現にこちらは3歳限定格付けは卒業して古馬編入。であるのだが、件のヒダカシュウホウ、6月に福山で行われる中央補助馬交流重賞瀬戸内賞への参戦を狙っており、いい加減低迷を脱し、格好をつけておきたいところ。
レースは外枠の2頭、ハッピースカイとミツキノミヤロンがテンから後続を引き離して突っ走る。ユタカビジンが3番手、ホーエイミラクルやハニーセンプーは中団、縦長の隊列、注目のヒダカシュウホウは指定席の殿。向こう流しでは先頭からヒダカシュウホウまでは数十mもの間隔となる。が、三角を過ぎてもヒダカシュウホウに上昇の気配が全くない。そのうちにユタカビジンやホーエイミラクルら次列以下の馬が先頭との差を詰め直線へ。最後はユタカビジンが抜け出して1着。2着ホーエイミラクル、3着逃げたミツキノミヤロン。ヒダカシュウホウは全く動けずの7着惨敗。
ユタカビジンは思い起こせば銀の鞍賞2着馬。今回の勝利はその時以来の連対、若干影が薄くなっていたところでの勝ち星といった感。いかにもビソウサウス産駒らしい華奢な芦毛牝馬。2着のホーエイミラクルはジリっぽいが、同じ差し馬でもヒダカシュウホウに比して堅実味がありそう。
それにしてもヒダカシュウホウは・・・「ああいう展開に左右される極端な脚質だからある程度は仕方ないんだけれど、ここで惨敗喫してるようじゃ瀬戸内賞だなんて言ってられない。」と、もりも先生やOku師匠、栃さんらも渋い評価。そりゃそうだ。見た目には相変わらずコロンとした体型ではあるが、毛艶も悪くなく、特段出来落ちにも思われないのだが。それでいてこの結果、ますますタチが悪い。

南国桜花賞、出走馬について
さてメインレースの南国桜花賞。出走馬は内枠より以下のフルゲート12頭。()内は騎手、斤量。別定重量戦。
ベアーズキャロル(中越、53k)、アローパッション(宮川実、55k)、チーチーキング(西川、55k)、スマノタカラ(戸梶、55k)、ウェストウイン(赤岡、55k)、ゴールドソアラー(花本、55k)、ノースガバナー(中西、55k)、ダスティー(北野、55k)、アポロファースト(鷹野、55k)、カイヨウワールド(西内、55k)、スマノガッサン(上田、56k)、サンユウラピート(倉兼、55k)

注目馬を挙げると・・・まずは何と言ってもスマノガッサン。正月の南国王冠で悲願の重賞初勝利を遂げ、名実共に高知筆頭馬となった。その王者の走り。そしてノースガバナー。昨年5歳晩秋、兵庫オープンバリバリの身の上で移籍してきた。南国王冠は3着。年明け以降スマノガッサンに2度土を付けている。生え抜きのチーチーキングも健在。南国王冠ではガッサンの2着、3月佐賀の西日本アラブ大賞典、遠征して捲って見せ場充分の4着は記憶に新しい。そして岩手アラブ最後の世代の有力馬、金沢時代には黒百合賞を勝ったダスティー。1年半近く消息不明だったところ、昨年末にここ高知で復活。タマツバキへの参戦の意志を表明している。といったあたり。

パドックから発走まで
とうとう雨が落ち始める。各馬濡れながらのパドック周回、ワシも雨粒を受けての写真撮影となる。因みに出走馬のゼッケン、昨年は馬名とレース名入りの"一点もの"だったのだが、今回は馬名なしの赤地に白数字のもの。ちょっと物足りないが、これも経費節減だそうで致し方ないか。
1番唯1頭の牝馬ベアーズキャロル。馬体重508kと大柄。実際見た目も大きく見せるが、トモは割と細い。ゆったり周回。近走は成績が上がっていない。
2番アローパッション。兵庫、福山と移籍して昨晩秋から高知所属。この馬にしてはコロンとした見た目。毛艶も張りも良好。ジンワリ大人しい気配は何となく不気味。3走前に2着しているが、それ以外は当地での戦績は今一つ。
3番がチーチーキング。周回前半は比較的大人しかったが、次第に煩くなってくる。同時に、どんどん発汗して、鞍下とトモの内股に泡が立ってくる。胴の実入りは充分過ぎるほど。首が高いのはこの馬のいつもの姿勢。
4番スマノタカラ。首差しが細長く馬体も細い、スマノヒット産駒らしい体型だが、力強さに欠ける。かなり明るい鹿毛の艶は良い。前々走にスマノガッサンの2着がある。
5番ウェストウイン。胴回りが相当太いボテッとした体型。くすんだ黒鹿毛馬。近走は良積なし。
6番ゴールドソアラー。これも前を歩くウェストウインと同様ボッテリと胴回りが重々しい体型。両者奇しくも同じホマレブルショワ産駒。それにしてはそれらしい"キレ"がない。福山B級から転じ前走が当地緒戦、A1戦を5着。
7番がノースガバナー。馬体重503kと大型馬だが、その目方に見せない、非常にシャープなスタイルで好感。キビキビと気合い上々に大外を周回。因みにあのモナクダイキチの半弟(父がニューサラトガからマルセンガバナーに変わっている)であり、兄同様見栄えは文句なし。
8番がダスティー。実は今回念願の初対面。入場時の第一印象は「毛艶の冴えないモッさい栗毛馬やなあ。」。胴もボテッとしていていかにもパドック映えしない感じ。であったのだが、周回を重ねるうちに、次第に気合いが乗ってくるようであり、また見慣れると、何とも味わいのある風格が感じられてくる。
9番アポロファースト。二人曳きで気合いが乗るが、時折それが度を超してちょっと暴れる。かなりシャープな馬体で、後半身は乏しいくらい。前走は4着、掲示板に載れるかどうかといったレベル。
10番カイヨウワールド。スラッとしたスリムな芦毛の馬体で、このスタイルはなかなか綺麗。ビソウサウス産駒らしくはある。前走はAを1陥落してA2で1着。
そして11番がスマノガッサン。毛艶も馬体張りも文句ない。煩いところなど微塵も見せず、ジンワリと風格を漂わせている。最内を歩いており、覇気のない気配と言えぬことはないが、歳なりの落ち着きと見たい。
12番サンユウラピート。キビキビと周回。栗毛の艶はまあまあだが、胴がやたら太い。これもホマレブルショワ産駒。何だかなあ。前走はノースガバナーの2着。最近は逃げキャラとなってるよう。
目を惹いたのはノースガバナーの集中力と、スマノガッサンの静謐な佇まい。しかしノースガバナーは騎手が跨ると一変、途端に煩くなる。

小雨の中、各馬本馬場に入場して返し馬を敢行。ダスティーは比較的軽く。ノースガバナーは首をグッと下げ、エキサイトぶりが滲み出た走り。スマノガッサンはごく楽に。サンユウラピートは口を割って掛かり気味に突っ走る。
ノースガバナー(46KB)
注目の1頭、ノースガバナー
悍性キツそう
ダスティー(45KB)
注目の1頭、ダスティー
「岩手アラブの夢」がここにも

予想。馬の地力からすればスマノガッサンの連軸は堅そう。問題は鞍上の上田騎手。昨年4月にデビューした若手、3kもらいの減量騎手であり、最近のガッサン騎乗は、一般戦における重斤軽減が故のこと。それがそのまま重賞の舞台でも起用されている。これでどうかが鍵。相手には先行脚質のノースガバナー、そしてダスティーとチーチーキングを。「前々での競馬が有利なのは間違いなさそうだから、そうなるとノースガバナーかなあ。チーチーも注目したいけど。ダスティーはもっと馬場が渋ってくれれば良かったんだろうけどねえ。」と、栃さんらと言い合う。

レースなり
いよいよレース。距離1900m、発走地点は2コーナーを回って向こう正面に差し掛かったところ。
ゲートが開く。ダッシュが目立ったのはアポロファーストだが、ノースガバナーもその内からグッと前へ。しかしこれらを制して、やがてサンユウラピートが大外からハナを奪う。バック半ば前までにはノースガバナーは2番手に。アポロファーストはやや控え、代わってカイヨウワールドが上昇し2番手に迫る。注目のスマノガッサンも好発、そして早めに2列目、3番手あたりにスッと付ける。一方ダスティー、チーチーキング、アローパッションらは予想通り後方から。
正面スタンド前。先頭はサンユウラピート、後続をやや引き離しての単騎逃げ。2番手カイヨウワールドで、スマノガッサンはカイヨウの直後外目の3番手。この半馬身強の次列の最内にベアーズキャロル。ノースガバナーはこの外併走の5番手、外の直前ガッサンと内ベアーズに挟まれ若干窮屈なポジション、馬も掛かり気味。ノースの直後外にアポロファーストが付け、直後インにウェストウイン。ここまでが好位集団。ここでやや開いて、アローパッションとダスティーが内外で追走。ゴールドソアラー、スマノタカラと続き、殿はチーチーキング。

1周目(34KB)
1周目の正面スタンド前
先頭サンユウラピート、外3頭目の緑メンコがスマノガッサン

2周目の向こう流しを過ぎると、先頭サンユウラピートと2番手カイヨウワールド以下との距離が一気に縮まる。そしてバックも半ば、スマノガッサンがスッと前へ、レースが動く。遅れまじとノースガバナーも進出を図るが、外にアポロファーストがビッタリ。そうこうしているうちに三角手前、スマノガッサンが早くも、敢然と先頭に立つ。そしてそのまま後続とのリードを広げて、三分三厘を回ってくる。ノースガバナーはこれを追う2番手集団でやっとこさっとこか。
この頃後方では、チーチーキングが3コーナー手前で捲り脚開陳。殿から馬群の外目をヒュンヒュンとばかり鋭く駆け上がり、4コーナーまでにみるみる先団まで上昇してくる。一方ダスティーは行き脚になかなかエンジンが掛からない。チーチーに先に捲られ、三角を回ったあたりでは最後列、そのインでモタモタしている。
ラスト、先頭はスマノガッサン。大きく4コーナーを回り、直線に差し掛かるとやや内に入りつつゴールを目指す。ノースガバナーが内を走って2番手で直線を迎えたが、外からチーチーキングが一気に襲来。ノースを交わして先頭のガッサンに迫る。が、最後はスマノガッサン、半馬身凌ぎ切って、南国王冠に続く重賞Vゴール。鞍上上田騎手、鞭を握りしめた左手を突き出しガッツポーズで決勝戦を駆け抜けた。2着チーチーキング。
チーチーから6馬身遅れて、ノースガバナー3着。ダスティーが遅ればせながら直線外に持ち出して追い込むも、ノースを捉えるには至らず、3/4馬身差の4着。5着はチーチーに先んじて後方から勝負に出たスマノタカラ。アローパッションは後方待機も6着。前々の競馬だったアポロファーストとカイヨウワールドはそれぞれ7着8着。逃げたサンユウラピートが最下位。

スマノガッサン(40KB)
スマノガッサン、チーチーキングの追い込みを振り切ってV
上田jk、ガッツポーズ

スマノガッサン、サスガ!の勝利。戦前想像したよりかなり前々の競馬だったが、三角先頭で押し切ってしまった。高知の王者に相応しい盤石の走り。それにしても当年9歳、まだまだ地力は充分。そして鞍上の上田騎手、大役を果たせてホッとしたのではないか。当然彼にとってこれが重賞初勝利。
チーチーキングの捲り脚は見応え充分だった。場内の馬券オヤジも柄にもなく感心していた。加速した時のシャープさが印象的。良馬場ということも幸いしただろう。逆に同じ後方待機馬でも、ダスティーはこの軽馬場ではやはり厳しかったか。評判通りのモッささ、ズブさ。ではあるが、どうも無視できない、期待してしまう魅力がこの馬にはある。
ノースガバナーがスマノガッサンより道中後ろで進めたのは意外。騎手を乗せて以降の煩さといい、道中掛かり気味だったことといい、やはり気性的に1900mは長いのか。千六戦の方に良積があるのもここに帰因するということだろう。今日は課題を残した結果となったが、まだ6歳と比較的若いし、血統的にも老いて地力が売り切れるタイプでもなさそうなので、まだまだこれから。
重賞競走でありながらも、経費節約からか、優勝レイはなし。それ故か、本馬場での口取り撮影もなし。加えて雨降りのために、ウィナでの表彰式もなし。王者の晴れ姿と、ヤングジョッキーの嬉しい重賞初勝ちへの祝福、あって然りべきだと思うのだが・・・

ちょっと注目の最終レース
最終第11競走はアラブAB混合戦。メインレースの重賞への出走の叶わなかったA級馬が登場する。ここでの注目はアポロスイセイにアサカタイショウにパワーレイクといったところ。
アポロスイセイは古馬トップクラスの1頭だが、11月25日のレース以降休養しており、これが復帰緒戦。馬体重468kは前走比-15kだが、元来の体型か、パドックではポテッと見える。「何かまだまだ太い感じ。」と、ふささんも言及。
そしてアサカタイショウ。昨年5月の黒百合賞を最後に金沢を離れ、昨秋から高知で走っている。しかし当地では8戦未勝利。9歳と歳も歳であるし、金沢時代末期から成績もイマイチになってきているので致し方ないのかも。しかしながらパドックの気配は相変わらず風格の滲み出たもの。張りはそれなりだがルックスはいい。
"スター"の称号が似つかわしくなくなって久しいパワーレイクだが、思ったよりは毛艶も実入りもいい。かつての狂気じみた三白眼と気性はすっかりなりを潜めた。
レースの距離は1600m。休養明けでもアポロスイセイがキャラ発揮で逃げる。パワーレイクが前半これに張り付き2番手から。アサカタイショウは痛恨の出負けでのっけから万事休す。先団から好位は比較的一塊りでレースは進む。バックでパワーレイクは早々に売り切れて、代わってトウショウベガあたりが前に寄せる。これがアポロスイセイに絡みつつ、最後の直線へ。しかし勝ったのは後方待機から差し込んだ北野鞍上サヤテンザン。逃げ粘るアポロスイセイを内から抜いての1着。アポロはクビ差2着。パワーレイクは6着。アサカタイショウはブービー9着。
サヤテンザンは佐賀デビュー馬。今はもう存在しないC1クラスだった馬。鞍上北野騎手は、9レース10レースと注目馬に乗って(ヒダカシュウホウにダスティー)いずれも差し込めず負け、ここで差し切って勝利。「北野ぉ〜!来るレースが違うぅ!」の声が現場で起こる。因みに「北野ぉ〜!お前が来ても相手が違うぅ!バ○!北野っ!」との理不尽発言(笑)は"神出鬼没"のあの御仁。
これにて、見どころの多かったこの日の高知競馬も終了。

最後に後日談
この日から僅か1週間後、5月5日に次開催のアラブオープン戦が行われ、勤勉なことにも(?)南国桜花賞を走った馬のうち6頭も出走した。距離1400mで、勝ったのはノースガバナー。やはり短めの距離では強いのか。2着にアポロスイセイが入った。

南国桜花賞の結果を承けて、決定したタマツバキ記念への高知代表馬は、西日本アラブ大賞典に続いてまたもチーチーキング。結局ダスティーは今回も補欠待遇。ファンとしては、王者スマノガッサンに、是非とも全国交流の舞台に登場して、老いてなお凛々しいその姿と走りを披露して欲しいところである。まあ、陣営にその気がないとあってはしゃあないか。
「散々流浪した果てに高知に辿り着いて、ようやくこの地位を築いたのだから、もう余所で走らなくてもいいではないか。ワタシは"高知モンロー主義者"でやらせてもらうよ。」なんて、当の本人(本馬)は思っていたりして(ホンマか?)・・・

2002.5.16 記

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