第29回福山ダービー観戦報告

 2002.5.6、福山、1800m

はじめに〜当日の概況
福山競馬、ゴールデンウィーク開催の目玉は福山ダービー。福山3歳三冠レースの第一弾にして、翌月園田にて行われる楠賞全日本アラブ優駿への、福山代表馬決定戦としての役割も担う競走である。
因みにこの日は、佐賀では九州交流古馬重賞の九州アラブ王冠賞が、園田では今年からアラ・サラ混合重賞となった、伝統の古馬重賞兵庫大賞典が施行されるという、アラブ重賞トリプルデーとなった。その中でワシは、楠賞への予習という意味あいもあって、福山ダービー観戦を選択した次第。

競馬場には2時過ぎに到着。天気は曇り。どんよりと雲が厚く空を覆う。メインレースの頃にはかなり暗くなった。風は適度にあって涼しい。連休最終日ということもあってか、お客さんの入りはいつも以上、場内はかなり混んでいる。「まあ他に行くところもないってことだろ、ハハハッ!」とはFUKUさん。
馬場状態は良。前日に砂が補充されたそうで、馬場は深め、軽くなはさそう。先団・好位から進出した馬の連入が目立つよう。「最後の直線で差し馬が順位上げてますよ。逆に逃げ馬は残れてませんね。」とは3号馬さんの御指摘。

出走メンバーについて
出走馬は内枠より以下のフルゲート10頭。()内は騎手、斤量。
アヤヒカリ(石井、53k)、モナクカバキチ(岡田、54k)、ヒットランナー(黒川、54k)、ダイニアキフジ(鋤田、54k)、フォートワース(片桐、54k)、トモシロトーザイ(藤本、54k)、サンコーアイボ(嬉、54k)、ユキノホマレ(渡辺、54k)、マルサ(野田、54k)、ホワイトキャンプ(佐原、54k)
馬齢定量戦。紅一点アヤヒカリが53kで他の牡馬と騙馬マルサは54k。
このレース、昨年と同様、出走資格を持つのは福山デビュー馬のみ。ということで、上山出身のワタリハンターやヤマノコナンは、3歳1組格ながらもここには出られず。

気懸かりなのは、有力馬のうち少なからぬ面々が、この晴れ舞台を前に、調子今一つであったり、伸び悩み気味であるという点。また、出走馬の大半が前開催の前走において、芳しい結果を残せなかったというのもイヤなところ。現時点で最もクラス上位に出世しており、ダービーでも主役となろうダイニアキフジは、B2特別でよもやの2着に敗れ、ヤングチャンピオン馬ホワイトキャンプはC1特別で6着に負け、モナクカバキチもC2の8組戦で4着に負け、アヤヒカリもC2の4組戦で8着大敗を喫した。3歳限定戦特別のデイリースポーツ賞では、上昇馬トモシロトーザイが4着に止まり、これを制したのは逃げ馬マルサ。もっとも、前開催は概ねムチャムチャな逃げ馬天国の馬場だったようで、よってこれが必ずしも地力通りの結果でもなく、悲観せずともよかろうが。ただこの福山ダービー、ギリギリこの時期まで持ちこたえた早熟馬が制したり、ここだけ勝ってしまう一発屋が現れたりして、本命馬や世代トップの馬が順当に勝てない傾向の強いレースでもある。さあ、今年はどうなることやら。

パドックから発走まで
パドックタイムを前に、装鞍所に現れる出走馬を3号馬さんと眺める。入場以降広場をずっと回されている馬が1頭。どうやらトモシロトーザイらしい。「そういえば福姫交流の時もこうでしたねえ。」と3号馬さん。
そして各馬パドックに登場。
1番アヤヒカリ。馬体重473kは前走比+1kで、デビュー以来の目方ジリ貧傾向は一応止まったようだが、立派な骨格の割にはヒ腹が上がって、トモの肉感は乏しいまま。黒鹿毛の毛艶も今一つ。気配も大人しいというよりは元気がない。
2番モナクカバキチ。やはりやや煩い周回。胴の線が緩く、腹回りがタポタポしているがこれはまあ従来通りでこんなものか。毛艶はこれまでよりはいい方かと。ただ周回途中で下利便を出したのは感心しない。
3番ヒットランナー。人気薄でまさかの勝利となった前々走福姫交流時の冴えなかった姿よりは、毛艶など格段に上向いた感。歩幅は狭いが歩みは気っぷよい。その旨を3号馬さんに振ると「でも腹回りとか太いですよ。」とのお応え。前走はC2の10組戦で先行残って2着とまずまず。
4番が注目のダイニアキフジ。予想紙は現在必ずしも完調ではなく、毛艶も落ち気味だと伝える。とはいえ、この面々に混じって周回すれば、絶好ではないにせよソコソコの艶と張りではある。じんわりどっしりとした身のこなしで、大物感漂う。馬体重488kは前走比-1kだが、胴回りはもう一絞りできるかなというところ。
5番フォートワース。デビューが2歳11月と遅れたものの、着実に出世して、前々開催の3歳1組戦を制し9戦4勝2着3回の成績でここに間に合った。時折煩くなるが、黒鹿毛の皮膚は薄そうで毛艶は素晴らしい。踏み込みも深くキビキビとした周回。イムラッド産駒にしては脚長でシャープなフォルムだが、しゃくれ顔にそれらしさがある。「母シボレーダイドウは笠松アラブダービー馬ですよ。」と3号馬さん。
6番トモシロトーザイ。福姫交流の時もそうだったが、この馬の重厚かつ重心の低いスタイルは目を惹くもの。馬体から非常にパワーを感じる。身のこなしは柔らかくじんわりとしている。ただ終始口を割っての周回。馬体重491kは前走比-7kだが、これは太過ぎた前走時から戻したもの。もっと絞れてもいい。
7番サンコーアイボ。滑らかな体表のラインで毛艶も良好、思ったほど悪くない。ただし近走は3歳限定戦上位で頭打ち傾向、苦戦必至か。
8番ユキノホマレ。栗毛の毛艶はソコソコ。じんわり大人しく周回している。脚長の体型。追い込み一手の脚質で3歳限定上位戦において掲示板の常連、だが勝ち切れていない。前走はデイリースポーツ賞で5着。
9番マルサ。スッキリした仕上がりで毛艶も上々。実入りも悪くない。若干前の出が浅いかも。この馬はいつも割と良く見せるクチ。
10番ホワイトキャンプ。馬体重454kは前走比-5kだが、その割には胴回りは緩め。元来がコロンとした馬格であるにしてもそう感じる。毛艶は悪くはないがトモの踏み込みが浅い。今日はちょっとイライラしている。「厩務員さんにずっとなだめられてましたね。」と3号馬さんも。
騎乗命令がかかり騎手が跨る。ここでヒットランナーが一変煩くなり、すんなり黒川騎手を乗せない。

本馬場入場から返し馬へ。トモシロトーザイはただ1頭、入場口から一角方向へ直行、そのまま待機所へ。福山で所作通り入場して返し馬をしない馬は稀なので、これは目立つ。ダイニアキフジはクビをグッと下げてハミを噛みつつそのままの姿勢でキャンターへ。「ピアドハンターみたいやな。」とはお約束のワシの発言。ホワイトキャンプはやや頭を上げ加減にソコソコ強く。モナクカバキチの走りには口向きの悪さが目立つ。フォートワースはやる気に溢れた鋭いキャンターで。アヤヒカリはやや強く。
予想。たとえ100%の出来でなかろうとも、軸はダイニアキフジでいいだろう。とにかくここは無事勝って、楠賞に駒を進めてもらわねば困る。問題は相手探し。ホワイトキャンプは成長度への疑問符も伴う停滞気味の現状、加えて今回は主戦の岡崎さんが負傷欠場中で乗れぬとあって、これは切る。早い時期から出世していた有力馬がピリッとしないため、本来ならば穴馬筆頭格が相応しいトモシロトーザイが、対抗格に祭り上げられてしまっている。当初はこれが相手1番手だったのだが意外にも妙味がない。であるならば裏をかいて「素質馬の片鱗さえ発揮できれば」と思い、ワシはモナクカバキチを改めて抜擢。というわけで、アキフジからトモシロとカバキチへ連単を、そして同じ目の馬複。フォートワースにも惹かれたが、いきなりこの面々を相手にダービーを獲るのは難しいかと思い、買わず。事前にはマルサの逃げが穴かと見ていたのだが、逃げ残れぬこの日の傾向を知って、これも見送り。電設師は訳あってアヤヒカリから。万歳さんはモナクカバキチに期待のよう。3号馬さんのスケベ馬券は「福姫の(悪)夢を再び」とばかりにヒットランナー。

レース〜出たいぞ!楠賞
発走の時を迎える。距離1800m。スタート地点は2コーナー。空からポツポツと僅かだが雨粒が落ち始める。
トモシロトーザイがゲート入りを嫌って手こずらせる。どうにかこうにかこれが入ると、今度はフォートワースが嫌がってなかなか収まらない。ようやくのことでゲートオープン。
まずは大方の予想通り外からマルサがダッシュしてハナへ。内からヒットランナーがこれを追って直後2番手。大外から差し馬であるはずのホワイトキャンプも連れて意外や意外の先行3番手。トモシロトーザイも先団を取る。ダイニアキフジは並の出で続き、内から外目に馬を出していく。1頭出遅れたのは前科ありのユキノホマレ。
そして正面スタンド前。先頭は引き続きマルサ、後続との差はない。2番手やや外にホワイトキャンプ、このインにヒットランナーが付けるが、これは次第次第に下がっていく。やや開いた続く4番手にトモシロトーザイだが、ホームを走る間に前との差が詰まり、ゴール板前ではホワイトキャンプの外に並びかける。鞍上藤本が必死で手綱を抑えるも、口を割って頭を上げ、思いっ切りブッ掛かっている。ダイニアキフジがこれらの後ろの外目、直前に馬の壁がない位置。「たまらん!」とばかりに口を割って、トモシロとは反対にハミにもたれて頭を下げている。やや後方インにフォートワース。隊列がやや切れて、モナクカバキチは好位勢を前に見る単走7番手。サンコーアイボ、ユキノホマレと続き、殿はアヤヒカリ。

1周目(33KB)
1周目のホームストレッチ
先頭マルサ、次列緑帽がトモシロトーザイ

1、2コーナーから向こう流しへ。マルサは単騎抜け出す形にならず、直後にホワイトキャンプとトモシロトーザイがビッタリ。
そして勝負所の3コーナー、ダイニアキフジが前に寄せ始めたか、と思われた直後、トモシロトーザイが掛かったままの走りで早くも先頭に立つ。マルサとホワイトキャンプは交わされながらも何とか追走という状況。その三分三厘、外からいよいよダイニアキフジが迫る。四角手前までに、前のトモシロを射程圏内に捉えた。これを追ってモナクカバキチも外から上昇するが、前とはまだちょっと距離がある。
最後の直線。逃げ込むトモシロトーザイ。サブちゃんの鞭が飛ぶと、口を割って掛かり気味のまま首が沈んで重心が下がり、ここからさらに伸びる。外からダイニアキフジも剛腕鋤田にシバき倒され追いすがる。が、追い抜くだけの脚がない。後方では直線半ばまで次列で持ちこたえていたホワイトキャンプもマルサも脱落し、大外を追い込むモナクカバキチの勢いも今一つ。
そして決着。トモシロトーザイが押し切って、重賞初勝利をダービー制覇で飾った。ダイニアキフジ、結局及ばず2着。着差は半馬身だが、それ以上に差があったなというのが、リアルタイムでの印象。

トモシロトーザイ、ゴール(40KB)
トモシロトーザイ、ダイニアキフジを振り切ってゴールへ
フォームの重心がとにかく低い

モナクカバキチが3着で入線しようかというところ、内を掬って追い込んだユキノホマレがクビ差カバキチを蹴落として3着、ダイニアキフジからは3/4馬身差。中団から差し込んだフォートワースが3/4馬身差で5着。アヤヒカリが追い込んで6着。ホワイトキャンプは結局7着。サンコーアイボ8着で、逃げたマルサは9着。先団から早々に後退したヒットランナーが最下位。

下馬所に引き揚げる際、トモシロトーザイをスタンド前に導いて、鞍上からお客さんに向かって、鞭を投げ入れるサブちゃんであった。が、鞭は不格好な軌道を描いてスタンドの地面に落ちた。実はサブちゃん、一昨年のダービーもアレクシアで制しているのだが、この時もウィニングランで鞭をスタンドのお客さんに投げるも、スタンドに届かず失敗している。サブちゃん、ノーコンか?

トモシロトーザイとサブちゃん(38KB)
人馬共々、見上げた視線の先は?
スタンドに鞭を投げるサブちゃん

振り返って
ということでトモシロトーザイ、まさに上昇馬の強みか、勝ってしまった。それにしても終始酷い掛かり方にも拘わらず、追われるとそのまま伸びるという、このパワーはちょっと凄いかも。本当はどのくらい力があるのかはまだちょっと把握し難いが、掛かったままで重心が下がって推進力がつくというのが異様、不気味ですらある。これで楠賞への福山代表馬の座は当確。しかしこの、終始口を割っている癖は心配。喉鳴りなど患わねばよいのだが。
ダイニアキフジ、この負けは実に痛い。血統面、そして窺われる潜在能力からも長丁場への期待は高く、何としても楠賞には駒を進めて欲しかったのだが・・・道中掛かった故だろう、終いの爆発力が案外なものだった。それにしてもこの気性難、長距離適性をスポイルするなあ。包まれるのを嫌って道中早い段階で大外に出たところ、前に壁がなく結果掛かったようにも見えた。相変わらず乗り方に制約がある。期待は大きいのに不安材料も少なくない。
ユキノホマレの3着は狙ってハマった感。「勝負所からずっとインで我慢してたね。」とFUKUさんや万歳さんと確認しあう。モナクカバキチの4着は案外。道中中団で単走というのは、気難しいこの馬を御すには狙い通りの位置取りだったろう。絶好の差し頃馬場であるにも拘わらず伸びがイマイチだった。「ユキノホマレに差されるなよな、全く。」の声も。フォートワースは健闘だろう。この馬はまだまだこれから。
アヤヒカリは6着だがレース中の印象は皆無。馬券を買っていた電設師すら「道中後ろついて回ってただけだもんなあ。」と。見た目から推察するに、今が出来の底。馬格や血統からしても、立て直して本格化してくれたら、大物になる素地は充分ある。ホワイトキャンプは何故かここでらしくない先行競馬。案の定終いまで保たず。この馬も何とも停滞気味。イムラッド産駒にありがちな、単なる早熟馬なのか?個人的にはずっと期待しているのだが。
先行勢で掲示板に載ったのは1、2着馬のみ、他は逃げたマルサをはじめ全て着外。3〜6着は中団以降からの競馬をした馬であった。この日のレース傾向に合致する結果であったと言えよう。

後日談など、そしておしまい
帰宅して、佐賀と園田の結果を知る。九州アラブ王冠賞は、トチノグレイスが同レース三連覇を決めたとのこと。メグミダイオーは8着に敗れた。そして兵庫大賞典、サンバコールが十八番の捲り炸裂、ロードバクシンやシュンエイゼネラル以下サラを抑え込んで優勝。「ク〜ッ!観たかった〜!」これがやっぱり本音。

以下は後日談。この次開催、ダービーを走った馬たちも相当数が登場。フォートワースはC2の11組で勝ち、モナクカバキチもC2の6組で8馬身差の圧勝を飾り、アヤヒカリはC2の3組戦を勝った。敗者たちの次なる目標、"ザ・出世レース"銀杯に向けての闘いは、もう始まっている。
やがて楠賞の他地区出走予定馬も発表された。福山代表はトモシロトーザイ、そしてダイニアキフジの名もあがった。一度は潰えかけた夢の復活、チャンスは是非生かしてもらいたい。そのダイニアキフジ、5月18日のB1特別にて勝利、試走は上々。
楠賞には、地元兵庫のミスターサックスが待ち構えている。能力もともかく、折り合いに心配のないこの馬は、掛かり癖、気性難を抱える福山の2頭にとっては強敵。全日本2歳アラブ優駿を制したレビンマサも参戦予定。ライバルは、多い。かくなるうえは、パワーと迫力至上主義で勝負。
ムサシボウホマレから12年目、今こそ起て!アラブ王国の威信は君たちの脚に懸かっているのだ!(ギレン・ザビ調でお願いしますぅ)

2002.5.22 記

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