全日本タマツバキ記念 第2回アラブ大賞典観戦報告

 2002.5.26、福山、1800m

はじめに
タマツバキ記念が福山開催の全国古馬交流競走に固定されて、これで2年目となる。前回の古馬全国交流レースは、昨年6月24日金沢にて行われたセイユウ記念アラブグランプリ、1年にただ二つしか存在しない古馬全国交流戦が2ヶ月の間に固まるという開催時期設定の拙さ(実は今年もそうなのだが)が故、実にこれが約11ヶ月ぶり、待ちに待った決戦、大一番となった。散々待たされたということもあり、ファンの注目も相当なもの。アラブ王国の目玉レースとして、確固たる地位を確立したと言えるのではなかろうか。

レース本番を前に、他地区出走馬が発表されたのは4月末のこと。「確かに錚々たるメンバーではある。が、いささか変わり映えしないきらいは否めぬかなあ。各地で新興勢力が台頭しているのに、そのあたりが弱いなあ。」というのが、顔触れを見た際の正直な印象。例えば、ペルターブレーブの参戦はファンとしては嬉しいが、現時点での上山代表はアオイリュウセイもしくはマルハチフレンドの方が相応しいのでは?とか、高知はチーチーキングでも悪くないが、やっぱり王者スマノガッサンが観たいなあ、とか。さらに5月6日の兵庫大賞典の結果に立ち会うと、当初からワシュウジョージがタマツバキ一本狙いであったにせよ、やはりサンバコールに出てきて欲しいものだと思われたりして。因みに他地区選出馬のうち、荒尾のメグミダイオーは、5月6日佐賀で行われた九州交流重賞九州アラブ王冠賞で8着に敗れ、ここへの出走は断念となった。一昨年の園田タマツバキ以降、全国交流は皆勤であったのが、それがここで途切れることとなった。

出走メンバーについて
ということで、出走馬は内枠より以下のフルゲート10頭。()内は騎手、所属地区、性齢、斤量。
ノア(楢崎、福山、牡5、55k)、ワシュウジョージ(小牧太、兵庫、牡6、54k)、チーチーキング(北野、高知、牡5、55k)、フジナミスペシャル(嬉、福山、牡4、55k)、グリーンマスク(末田、益田、牡6、54k)、ホマレエリート(鋤田、福山、牝4、54k)、ドリーミング(渡辺、福山、牝6、53k)、ペルターブレーブ(関本秀、上山、牡7、54k)、グリンティアラ(片桐、福山、牝6、53k)、マリンレオ(宇都、名古屋、牡6、54k)
他地区馬5頭、地元馬5頭のラインナップ。負担重量は馬齢重量。牝馬はホマレエリート、ドリーミング、グリンティアラの地元3頭、牡馬の馬齢重量より1k減。

まずもって注目の1頭はマリンレオ。昨年のセイユウ記念2着惜敗の後は地元で10戦全勝、この間重賞6勝を挙げ、待ちに待った全国交流再挑戦の機会となる。地元での桁違いの強さもともかくとして、能力と馬体の充実ぶりが著しい。念願の全国交流での戴冠なるか。
前年の覇者、上山のペルターブレーブも来襲。しかし今季は2戦して4着2着、昨秋も大本命の中、重賞かかしまつり賞と奥の細道大賞典を獲り逃し(いずれも3着)、ピークを越えたか?の評価も。最良のパートナー冨樫英利騎手は昨秋の奥の細道を最後に引退してしまったので、今季は"マムシの秀"こと関本秀幸騎手との新コンビである。
ワシュウジョージは一昨年春の佐賀セイユウ賞以来、唯1頭の古馬全国交流皆勤となる。輸送不安、そして「またワシュウかよ・・・」との一部ファンの声の中、またまた登場。兵庫大賞典を走らなかったのは、同厩のロードバクシンとの競合を避けるという、厩舎戦略によるものかと。
高知のチーチーキングは3月の佐賀西日本アラブ大賞典に続いての参戦。全日本アラブグランプリと荒尾セイユウ賞にも登場しており、交流レースではお馴染みの顔。最近勝ち星は挙がっていないが、西日本アラブ4着と、前走南国桜花賞2着は、持ち味の捲り追い込みを繰り出してのもの、侮り難し。
益田のグリーンマスクは岩手アラブ最後の世代の1頭。1月の日本海特別こそ、ニホンカイマリノの追い込みにゴール前屈して2着だったが、この前後は共に4連勝と、現在益田最上位クラスで最も安定して強さを発揮している馬である。岩手時代から逃げが進上。
一方迎え撃つ地元福山勢であるが、正月の福山大賞典の頃に比して、顔触れも押し出し感も、正直今一つと言わざるを得ぬか。大賞典、マイラーズカップ、桜花賞と、今年地元重賞3勝しているフジナミスペシャルが大将格となろうが、この馬千八実績はイマイチで、なおかつ前開催の前走は格下のメカリジョージに差されて敗れている(このあたりは後述)。千八への適性と勢いからすれば、ローゼンホーマ記念を勝ったホマレエリートが随一、ただこのスリムな4歳牝馬に、アラブ王国の威信を負わせるのはきついかも。ドリーミングは昨年後半8連勝の勢いは今や失せ、グリンティアラもA1の常連だが近走は良積なし。「"雪女"だから寒くならなきゃ駄目だろう。」とはおさるさんならずとも思うところ。当初出走予定だったマルサンダイオーの回避により、予備馬から繰り上がって登場したのがノア。レースの流れの鍵を握るのはこの馬となろうが、ここまでA1では遂に未勝利、オープンでの勝ち癖をつけておきたかったところか。

当日の概況
競馬場へは正午前に到着。ここ数日好天続き、この日もドッカン晴天。梅雨入り前の強い陽差しがフルパワーで降り注ぐ。お陰で場内は相当の暑さ。ただ空気がカラッとしているだけまし。
馬場状態はバサバサの良。事前に砂入れはなかったものの、先週までの大量の補充が利いているようで、見た目にも並の状態よりは若干深めのよう。このため展開的には、逃げ・差し極端な有利不利はない模様。先団・好位からソツなくレースを進めた馬に好結果が出ているか。ただし極端な差し競馬では届かないようだ。

メインレースまで、それは情報交換タイム
メインレースを待つ間は、お知り合いの事情通の方々との、情報・私見の交換の時間でもある。
「マリンレオは本命背負うやろけど、東海(名古屋・笠松)の軽い馬場でこその馬やと思うんですよ。果たして福山の、それも今日のような深い馬場でどうか?」とは"同志"ディープさん。「それはそうなんだろうけど、ここまで負けずに辿り着いたんだからキメてほしいよな。」と"東海の好漢"おーたさん。おーたさんは「実は他地区交流では山田は乗せんて、セイユウ記念後から決まっとったらしい。これで山田が、アラブチャンピオン賞や名古屋杯のレース後『福山でも頑張れ』って声援に苦笑いしてた意味が判ったわ。」とも。「まあここまで1年近く間があって、それが彼自身の株を上げる猶予期間でもあったわけで、結局『他地区遠征も山田』というようには出来なかったってことで。」と続く。
ワシ個人としては一番気になるにはペルターブレーブのこと。その応援に遠路遥々くもぎりまるさんや山形シチーさん、ブルボンさんも御来福。そのあたり問うと、「今季のペルターは成績はともかくとして、パドックとかで全然やる気ないんだもん。欠伸までかまして歩いてるんだから。このままじゃ"骨を拾いに来た"ってところですよ。」と山形さん。「新パートナーの秀との相性は?」と尋ねると、「関本秀は基本的にレースの流れに乗ろう乗ろうと競馬する騎手だから。道中なし崩しに脚を使いがちで、直線一気の脚を溜められないんだよね。」と、どうもイマイチといったお応えが。
「チーチーキング、当初の鞍上は西川だったのに、直前で北野に替わってますね。ちょっとビックリしました。」と、高知のもりも先生に問う。「そうそう、ホント直前に。テイケイミチカヒメの瀬戸内賞行かずの件といい、このところの高知は発表のどんでん返しが続いてて困るのよ。」「やっぱり『"鶴"の一声』でしょうか。」「ひょっとするとねえ。」などと。「チーチーの鞍上は、せっかく前走西川がいい追い込み脚を引き出して、『やっぱり逃げや追い込みの思い切った戦法ならば、北野よりも西川の方が巧みだな』という感じで、期待してたのにねえ。北野は言うても先行・好位差しの競馬の人やから、本質的にはチーチーとは・・・」と話題は続いた。「実はワシもチーチー、結構好きやねんで。」とはまりおちゃん。彼女、チーチーの出た交流競走は全て観ていたりする。
地元フジナミスペシャルについては、「やっぱり千八じゃあ信頼性落ちるでしょう。ここはユノワンサイドに期待したいところなのに、休養しちゃったみたいやし。」とディープさんら。「まあ前走の負けは、勝ったメカリジョージがかなり強引な競馬だったから(四角外目から一転インを衝いたらしい)それほど悲観するには足らないとは思うけど。」と、おさるさんは一応のフォロー。しかし「でもワタシの注目はマリンレオだから。」とあっさり。ただ、ノアとグリーンマスクのペース次第ながらも、絶好の番手位置が取れる公算が高そう、あながち逆風ばかりでもないかとは思う。
因みに兵庫のワシュウジョージに関しては、ワシは「何にせよパドックで状態見てみないことには。ただ最近のワシュウは、距離が千八程度だと、相当ズブくなってて、中盤で素軽く動けないようになってる。それにこの馬、福山の馬場、苦手なんじゃないか。西日本アラブダービーも辛勝だったし、去年も輸送難ゆえにしても完敗やったし。何となく仕掛け所が合わない感じがする。加えて鞍上太さんの右肩(フクパーク記念の日に落馬して故障)の具合も気になる。」などと、問われれば私見を述べる。

パドックタイム迫る〜ちょっと注目の第8レースも
準メインの第8競走を前に、装鞍所にやって来て待機する、タマツバキの出走馬を眺める。グリーンマスクとホマレエリート、ドリーミングは早々に馬房に入っている。ノアは最後に装鞍所にやって来た。マリンレオは気っぷ良く回されている。「特段問題ない気配ですね。」とおーたさんと。チーチーキングはキビキビと回る。ワシュウジョージもかなりの時間回されていた。この時点で発汗は認められず。フジナミスペシャルも例によって、装鞍所待機時間の大半を馬房外で曳かれて過ごす。ペルターブレーブもずっと曳かれていた。そしてその後半に、少なくとも3回以上、グオーッと立ち上がる。そして馬房の外で鞍付けを済ました。その様子を山形さんに告げると、「確かに今季地元戦でのパドックでも立ち上がったけど、問題は気合い乗りなんですよ。」とのこと。

タマツバキのパドックタイムの前に、準メイン、C2選抜戦のライラック特別が発走。距離は千六。これを場内モニターでチェック。ここに3歳の遅れた素質馬、ダービー5着のフォートワースが登場。銀杯を前に格好をつけたいところ。が、そのフォートワース、元来が差し馬なので道中中団なのは致し方ないにせよ、終始インコース。勝負所になっても、これを意識した他馬が外から次々に被さってきて、結局最後の直線まで窮屈なポジションのまま。鞍上岡田、再三先団を抜けようと試みるもなかなか叶わず、残り100を切ってどうにかこうにか捌いた時点では時既に遅し。結局逃げたフジキテイオーを捉え切れずに2着敗退。「岡田jk、完全にしくったなあ。」の巻。

パドック、そして発走まで
そしてパドックに出走馬が姿を現す。リーダーやまりおちゃん、ニーナちゃんらと並んで待ち構える。横にはディープさんと電設師。「久々に福山でアラブな3人が揃ったなあ。」と思いつつ。
1番ノア。気配はやや煩めだが、まあこれは許容範囲か。毛艶はソコソコ。パツキンのたてがみと尻尾が光る。馬体重前走比-10kの460kは、最近の彼としてはちょっと軽い。
2番ワシュウジョージ。次第にうっすらと発汗してくるが、気温が高めなのでそれほど気になることはない。馬体重442kは前走比-5kだが値としては問題ない。フォルムにもガレた印象はなく、むしろ逆に腹回りなどは立派な感じ。多少余裕残しで作ってきたと推察される。気合い乗りはまあまあ、集中力という点では地元戦にはやはり劣ろう。
3番チーチーキング。次第次第に体表からどんどん発汗してくる。また気配も、角度の高い首差しを上下させて、チャカチャカと一見相当煩い感じ。だが、これらは西日本アラブや南国桜花賞時も概ねそうであったので、個人的には許容範囲に受け取った。馬体重441kも適正値、張りも上々。
4番フジナミスペシャル。のんびりとと言おうか、やる気無くと言うべきか、手綱を曳く厩務員さんについて歩くが如く周回。その歩みが遅く、前との間隔が開く。最近大人しく周回するようにはなったが、今日はそれが最も甚だしい。毛艶や張りはまずまず。前の出が若干硬い感じだが、歩様がパッとしないのはこの馬の常。
5番グリーンマスク。やや細かい動きもあるが、重厚な腹回りで大柄な堂々たる馬体は、ここに入っても見劣りはない。黒鹿毛の毛艶もいい。トモの踏み込みは若干浅いか。馬体重501kは前走比-10kで、近走の値からは減らしている。
6番ホマレエリート。相変わらずスッキリしたフォルムで、毛艶も桜花賞に引き続き良好、鹿毛の皮膚が薄く見える。この馬の出来としては特段気になるところはない。馬体重449kは前走比+6kだが、これは陣営の希望通りとのこと。桜花賞2着以後2開催休んでの登場となるが、これがどう出るか。
7番ドリーミング。昨秋から大賞典にかけての、パンパンの実入りと出来には及ぶべくもないが、あの当時のドリーミングは、彼女の馬生の中でも特別だと見なすのが妥当か。そう思えば、毛艶も馬体張りも上々。踏み込みが浅く、小さく小さく周回するのは最近の常。馬体重463kは前走比+1k、年明け以降の馬体重漸減傾向はひとまず落ち着いたか。
8番がペルターブレーブ。1年前と比べれば、馬体は格段に白くなったが、トモのあたりにはまだ黒さを残している。馬体重496kは問題ない値かと。若干腹回りが、ワシのイデアとしてのペルターよりは重いような。昨年のこのレース時は、胸前もトモも超絶とも言える筋肉の出来だったが、それに比べて劣るのは致し方ないか。二人曳きで、首をグッと下げ、時折ガチャガチャやらかして、気合いは入っている感じ。踏み込みはソコソコ、並か。
9番グリンティアラ。馬体重465kは-5kだが、いつものティアラよりはフォルムに丸みがある。相変わらず毛艶もいいし、馬体の実入りも悪くない。身のこなしが硬いのも個性。ただこの中に入ると平凡な感は否めず。
そして10番がマリンレオ。入場して暫くは首を左右に振ってまずは物見。そしてパドックの大外を、ゆったりと周回。馬体重457kは前走比-7kで、昨年のセイユウ賞以後では最も軽い。やはり遠征で減らしたかと思われる数字である。が、実際の彼の姿は、その目方減りを感じさせないもの。栗毛の艶は文句なく、踏み込みもしっかりしている。ちゃんと実力を出し切って勝負出来るだろう。
騎乗命令が掛かり、騎手が愛馬に駆け寄る。ここでペルターブレーブ、グオーッと立ち上がる。そして関本秀jkが跨ろうとする際に、首を下げて右前でバッコンバッコンとしきりに前掻き。

登場ペルターブレーブ(41KB)
登場ペルターブレーブ
"マムシの秀"との新コンビ

本馬場入場から返し馬。ワシュウジョージは例によって、入場から早めに一角方向へヒュッと、そして待機所に直行。フジナミスペシャルは脱糞しながら登場、パドック気配から一転、騎手を乗せて以降煩くなるのはこの馬の常。そしてペルターブレーブ、パドックメンコを外されて素顔でコース入り、外ラチ沿いを厩務員さんに暫し曳かれての入場。目の前を横切った際にワシ、「秀っ!死ぬ気でお願い!」と一声。すると鞍上の秀jk、聞こえたようで「何言ってるんだ?」とばかりに眉をひそめ、ちょっと苦笑い。「それにしても全然ピンと来んコンビやなあ。」とはディープさん。やはり「ペルターといえば冨樫」であるからして。
マリンレオが「主役はオレだがや。」とばかりに、真っ先にコースを1周して、ホーム前をキャンターで通過していく。宇都騎手の手綱は張り気味で、駆けっぷりもいつものマリンレオの返し馬にしては強い。これは鞍上が替わっているためか。ホマレエリートはキビキビと。ペルターブレーブはホーム半ばまではダクでやって来て、そこからキャンターに移行、これは上山の返し馬でよく見られる所作。そして大股に駆ける。ノアのキャンターはいつもよりは強めの印象。フジナミスペシャルも気合いが乗ったか、強めで。チーチーキングはシャープに。最後に通過はドリーミング、渡辺jkは軽く流そうとしている感じだが、馬は今日も口を割っている。
「ペルター、どう思いましたか?」と山形さんに尋ねると、曰く「踏み込みがちょっと浅いとは思うけど、その他に関しては文句はない。これで好走できなかったら"次"(の交流競走登場)はないでしょう。」と。何より前掻きの仕草が出て、気合いを露わにした点が◎のよう。

予想タイム。初志貫徹でワシはペルターブレーブから、まずは馬複と枠単で総流し。そしてもう一方の本線はやはり素直にマリンレオ。ペルター−レオの馬複を大本線に、両頭から流す。推奨順にホマレ、フジナミ、チーチー、ワシュウ。
「何がお奨め?」とyamachanさんが問われるので、「取り敢えず素直にマリンレオ、個人的にはペルターですけど。」とお応えしておく。横で栃さんが「そう、ペルター、初志貫徹ねぇ。」と、ニコニコニヤニヤと。「マリンレオのアタマは困る云々」「でもやっぱりここは勝ってもらわねば困る云々」とばかりに関万さんvsおーたさんのやり取りもあったり。
発走時刻が迫る。久々にレース前緊張してくるワシ。「アカン、手ぇ震えてきた。」「またUちゃんそんなこと言ってるぅ。」とまりおちゃんの突っ込み。

決戦〜時は来た!
さあレース。距離1800m、2コーナーからの発走。
ゲートが開く。好発はグリーンマスク、ドンと前へ。ハナを切りたいノアも最内からダッシュ。両頭いずれも譲らず激しい先行争いとなり、そのままガンガン飛ばして最初のバックストレッチを突っ走る。2頭の後ろ、離れてフジナミスペシャルが3番手。ドリーミングがこれを追って、今日は早め先団から。ホマレエリートもまずは好位、そしてマリンレオが続く。1周目の三分三厘では、隊列は既に縦長となっている。
そして正面スタンド前。先頭は相変わらずノアとグリーンマスク、内のノアが半馬身程度前に出ているがほぼ併走状態。この後ろ、相当開いて3番手にフジナミスペシャルが単走、折り合いは大丈夫。2馬身くらい切れて4番手ドリーミング。この1馬身半程度下がった次列、インベタでホマレエリート、そして外にマリンレオがガッチリ構える。ここでまた隊列が切れて、ワシュウジョージが馬場の外目、これは前から7番手。直後内にグリンティアラ、ペルターブレーブはさらにその1馬身程度後方、最内9番手。そして殿はポツンとチーチーキング。
1コーナーから2コーナー、そして向こう正面に差し掛かったあたりで、グリーンマスクが早々に失速。これでノアが単騎先頭。どうにかこうにかノアはマイペースに。しかしそれも束の間か、向こう流しを走行するうち、フジナミスペシャルが次第次第ににじり寄る、これはノアにとってプレッシャーかと。また、以下の隊列の間隔も漸次詰まってくる。
そして3コーナーの手前、フジナミスペシャルが動く。鞍上嬉に仕掛けられ、先頭ノアの位置までスッと。ノアは内で何とか粘らんと。フジナミの仕掛けに呼応して、好位以下の馬も一斉に勝負へ。フジナミに連れてドリーミングが、その外へ取り付かんと。ワホマレエリートはここで後手踏みか。押し上がる他馬に置かれ加減。シュウジョージ、進出を試みるが、この動きは今一つ。
それを見届けたか、ここでマリンレオがフンッ!とばかり寄せ上がる。3コーナーを回ったあたりでは、ワシュウジョージを置き去って、先頭に立ったフジナミスペシャルの外まで一気。そして三分三厘、マリンレオがフジナミとの併走状態から、クビから半馬身弱、いよいよ先頭に立たんとする。
しかし追走各馬も容易くはギブアップしない、4コーナーを前にグーンと間合いを詰めてくる。ペルターブレーブは、タレたグリーンマスクを除けば隊列の最後方ではあるが、三分三厘いよいよエンジンが掛かる。ここで昨年と同様馬場の外目へ進路を。手応えは悪くない、現に前との差は縮まっている。「よしっ!秀、来い!」思わず声が出るワシ。スタンドからは「宇都ぉ!」「北野っ!」「太!」「嬉!」等々、歓声が続々と。

最後の直線(40KB)
残り50手前、横一線の死闘
内からドリー、チーチー、フジナミ、レオ、ワシュウ、ペルターはさらに大外、画面の外

――と、ここから先、リアルタイムではワシ、ほとんどペルターブレーブしか見ていない。4コーナー、大外をブン回して直線を向く。馬場の大外も大外、八分どころくらいか、直線怒濤の追い込み。5、6頭横一線の終い勝負の中、着実に伸びている。内の隣はワシュウジョージ、しかし優勢なのはペルター。残り50、カメラはペルター1頭狙い。しかしあまりに馬場の外過ぎて、思い切り身を乗り出さなければ、スタンドにケられてファインダーに姿が収まらない。慌ててシャッターを切る。「そういえば勝負は?」とばかりハッとなり、以後数秒はパニック。咄嗟にマリンレオにカメラを向け、出鱈目にシャッターリリース。「でもペルターが!」と思い直したところで、一瞬早く栗毛白メンコが目の前を横切り、直後、白い塊が駆け抜けていった。

ペルターvsワシュウ(38KB)
馬場大外、ペルターvsワシュウ
ペルターが交わす、ワシュウは口を割っている

・・・これではレースの模様がサッパリわからぬので、改めて。
4コーナーから直線入り口、ノアはよく辛抱したがこのあたりで脱落。先頭マリンレオは馬場五、六分どころ、食い下がるフジナミは内から馬体を併せて。ドリーミングはインに張り付いて何とか粘っている。ワシュウジョージはマリンレオのさらに外、そのさらに大外ペルターブレーブ。加えてインでは、ドリーミングとフジナミの間にチーチーキングが突っ込んでいる。最後の直線の半ば、残り50手前あたりまでは、この6頭が馬場一杯に広がって、まさに横一線の激闘。
やがてドリーミングが力尽き、ワシュウは伸び切れず。最後はマリンレオは底力で抜け出して、待ちに待った、日本一のVゴールとなった。

マリンレオ、ゴールへ(47KB)
マリンレオ、悲願の日本一へ
終いグイと抜け出した

そしてその刹那、大外からペルターブレーブがズドン!クビ差届かなかったが、意地と誇りの2着獲り。
内を鋭く伸びたチーチーキングが、フジナミをも抜き去って、半馬身差の3着でゴールに飛び込んだ。リアルタイムではワシ、チーチーは完全ノーマーク。「えっ!?チーチー来てたん?」と、これは驚き。
4着フジナミスペシャル、クビ差遅れてワシュウジョージは5着止まり。ホマレエリートは後手踏みから差し込むも1馬身半差の6着。ドリーミングはクビ差交わされ7着。以降は着差が開いて、8着中団以降ママのグリンティアラ、9着ノア、最下位グリーンマスク。
1着マリンレオと7着ドリーミングとはコンマ6秒差、3馬身強程度の開き、大接戦であったことがこれでも判ろう。

マリンレオ、口取りへ(42KB)
マリンレオ、口取り撮影に臨む
鞍上宇都騎手も嬉しそう

「マリンレオ、やっぱり強い〜!、良かった良かった。」とはおさるさん。おーたさんは嬉しさと安堵が相半ばしてといったところか。「ペルターは2着ですか!?もう最後は(あまりに凄いレースだから)写真撮るのやめましたよ。」と山形さん。「脚いろオッという感じやったで、思わずペルター撮ってもうたわ。」とはOku師匠。「ボクも最後ペルター撮っちゃいましたよ、でも良かった。」とWSさんも。「ホントねえ、やっぱり初志貫徹だよねえ。」とは栃さん。ワシも初志貫徹の本線が的中してくれてやれやれ。冴えぬ表情は京都人さん、実はホマレエリートから勝負して撃沈だそうで。
コースの大外5mあたりの、返し馬でのそれとは明らかに違う、深く刻まれた足跡を指して「これペルターの足跡やろ。ホンマこんなところブッ飛んでくるんだから・・・」と呆れかつ感心しあう、まりおちゃんとリーダーやワシであった。
やや間があって、コース上にマリンレオが現れ、口取り撮影が行われる。ここでは皆さん、概ね勝者を讃えて、関係者さんに祝福の言葉を。

レース終わって、そして結びを
これぞアラブ競馬!これぞ全国王座決定戦!福山千八戦としては望みうる、究極の競馬ではなかろうか。これほどのレースを目の当たりにしては、筆がそれに及ぶべくもないのだが、恥を忍んで、以下、総括まで少々書く。
マリンレオ、ホントにおめでとう。後日『競馬エース』のHPに載った、陣営のレース後のコメントによれば、ディープさんらが戦前危惧した、馬場の違いによる不安、そして遠征競馬の不安は、陣営も確かに抱いていたそうだ。が、それを克服して、きっちり勝利を掴んだマリンレオは素晴らしいの一言。ただ今回意外にも接戦となったのは、こうした不慣れな状況が故のみならず、相手が強敵揃いだったから、とも思う。それがマリンレオの強さと名誉に異を唱えるものでは決してないので、念のため。
ペルターブレーブ、敗れこそすれ、ペルターらしい走りを披露してくれて、ファンとしてはホンマに嬉しい。戦前の斜陽説に、己が走りで楯突いて魅せるあたり、さすが!ザ・ドラマチックホース、上山の誇り。
チーチーキング、得手の良馬場でもあり、近走確実に捲り追い込みを決めているだけに、ちょっと期待してはいたが、見込み以上の脚。この馬も立派な大舞台の常連、しかしハマると斬れるなあ。
フジナミスペシャルは善戦だったと思う。まあマリンレオにはポテンシャルで下され、ペルターとチーチーには斬れ脚で屈した格好か。しかし挫けず頑張れ、アラブ王国の若大将。
ワシュウジョージは不安点ばかり的中の敗退。それにしても最後の直線の写真に写ったワシュウ、口を割って歯を剥き出している。こんなワシュウは知る限りでは初めて。
ホマレエリートは残念ながらちょっとパワー負けか。しかし僅差、小柄な4歳牝馬であるからして、健闘は認めてあげたい。ドリーミングも現状なりによくやっていると思う。ただ今回は先行競馬であったが故か、やはり末を無くした感。グリンティアラは致し方ないか。冬ならば・・・(ホンマか?)。
ノア、そしてグリーンマスク、馬はともかく、やはり鞍上、「若過ぎる」。若さと拙さは決して同義語ではないのだが、今回だけは、ねえ。尤も、2頭の競り合いが、終い激戦となるこのレース展開を呼び込んだのは事実。しかしこの2頭、ひょっとして本質的にキャラ被るかも。ちゃんと鞍上が御さないと一本調子になりがちな逃げ脚という。

えーとですね、年間何十ものアラブ重賞を観戦していると、さすがにレース慣れを来して、感性が鈍ってくるという側面は、正直否めところではあります。が、今回のこのレースについては、心底興奮し、感動させてもらった次第です。ということで、最後に。
ここに参戦し、この激闘を現出せしめたアラブのスターたちに、敬意と感謝を込めて、この観戦記を贈ります(キザ過ぎましたね、いやはや)――


2002.6.4 記

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