第41回楠賞 全日本アラブ優駿観戦報告

 2002.6.5、園田、2400m

はじめに
アラブ3歳馬、春、一世一代の大舞台、楠賞全日本アラブ優駿、であるのだが・・・
兵庫県競馬にサラブが導入されて4年目を迎え、そのアラブへの扱いの低下は進むばかり。楠賞に対しても然り。今や「農林水産大臣賞典」の肩書きも奪われ(これは昨年来のこと)、着実にかつ大幅に減額の一途である賞金も、今年は僅か800万円になってしまった。加えてその施行日も、当初は6月12日であったのが、いつの間にか1週繰り上がり5日になり、その告知もおざなりなまま。その扱いの低さが痛感され、イヤな気分になったことこの上ない。
兵庫のアラブ2歳馬の入厩は、来年2003年をもって終了ということになっているようだが、今年の2歳馬の入厩ですら、現時点では僅かであると聞く。「こんな状況で来年全日本アラブ優駿やれるのか?今年がホンマ最後になるのでは?」。兵庫アラブ、その終末の陰を感じる中、今年の楠賞とあいなった。

出走メンバーについて
さて、出走馬は内枠より以下の通り、フルゲート12頭。()内は騎手、所属地区、斤量。
レビンマサ(板垣、上山、55k)、スーザン(田中、兵庫、53k)、キフネジーマー(三野、兵庫、55k)、チョウヨームサシ(蔵重、金沢、55k)、ケシゴホーエイ(玉垣、兵庫、55k)、ダイニアキフジ(鋤田、福山、55k)、キソノコウリューウ(戸部、名古屋、55k)、サンキュウホマレ(岩田、兵庫、55k)、エトワールアンジュ(赤木、兵庫、53k)、スーパーレディ(上川、兵庫、53k)、トモシロトーザイ(藤本、福山、55k)、ミスターサックス(小牧太、兵庫、55k)
牝馬はスーザン、エトワールアンジュ、スーパーレディの3頭。負担重量は馬齢定量、牡馬55k牝馬53k。

当初出走予定だった道営のミールテイオーは歩様に乱れが出たとかで遠征を断念。また、4日後の9日に福山で3歳中央補助馬交流の瀬戸内賞が施行されるため、こちらを目指す馬もあって、それらは当然ここには姿を見せず。加えて翌週12日には九州3歳交流の荒尾記念が控えており、九州勢の参戦はなし。ミールテイオーについては致し方ないが、他地区の3歳重賞の日程が詰まるあたり、何とか地区間で調整出来ぬものかと思う。アラブにとって、大舞台が少なくなってしまった御時世だけに。
それでも、地元馬7頭に加え、他地区の強豪5頭が参戦し、全国交流の大一番と呼ぶに足る一戦となってくれた。
アラブ北の聖地上山からは、昨年末福山の全日本アラブ2歳優駿を制し、NAR最優秀2歳馬に選出されたレビンマサが登場。今季開幕以降は3戦5着4着3着だが、これは全て古馬オープン戦、相手はマルハチフレンド、アオイリュウセイ、ペルターブレーブといった、全国区級の実力を有す錚々たる面々。
アラブ王国福山からは、福山ダービー馬トモシロトーザイと、ダービーは本命ながら2着に敗れたダイニアキフジの2頭が出走。福山世代筆頭はダイニアキフジの方。'98年の楠賞に出走し5着、後に福山大賞典や佐賀セイユウ賞を制したあのアキフジクラウンの全弟である。"長距離の血"が騒ぐか。トモシロトーザイは1月地元の三県交流ではスカイタカオーに6着敗退、福姫交流もヒットランナーの2着止まりと、パッと見イマイチな戦績だが、ここにきて進境著しい。ただこの2頭はいずれも気性難、いかに鞍上が御すかも注目。
名古屋のキソノコウリューウは前々走重賞アラブカップを制した馬。しかし前走肝心の笠松アラブダービーでは5着止まり。今年の東海の3歳世代は今一つのレベルと言われる中で、その筆頭とも言い難いようだ。
金沢からはチョウヨームサシ。昨秋金沢唯一の2歳重賞アラブフレッシュカップを勝ち、前走地元の特別競走アラブ優駿を2着馬に1秒6差つけて圧勝した、彼の地断然の世代トップ。ワシは目にするのは初なので興味津々。捲り差し得意のよう。
迎え撃つ地元勢では、園田2歳優駿馬にしてフクパーク記念馬、ミスターサックスがダントツ。前走は古馬オープンを走り、重賞ホース不在ではあったものの、ランダムオークやエイランヒットといったオープン最上位の常連を完封しての勝利。予想紙でも不動の中心と目されて、『キンキ』のシルシもオール◎。
そのミスターサックスとの直接対決は4連敗、フクパーク記念では痛恨の出負けで完敗を喫した次位サンキュウホマレ。前々開催の3歳オープンを逃げ切り勝ちでここへ。スピードタイプの華奢な逃げ馬、長丁場でどうかの不安はつきまとう。
ここにきて本格化の兆しを強く見せているのがキフネジーマー。前走と前々走をそれぞれ3歳オープンでサンキュウホマレとスーパーレディに終い伸びて迫っての2着。上昇度と、長くいい脚を使えるということで、予想紙の評価も高い。'98年広峰賞馬にして六甲盃2着の、あのキフネホマレの半弟でもある。
馴染みの血筋という点では、'93年のじぎく賞馬ケシゴマンナの仔、ケシゴホーエイも。前々走はサンキュウホマレの4着、前走前開催の古馬条件戦を勝ってここに。地元勢の中では番組賞金が最も低いが、この馬も上昇傾向。追い込み馬。
スーパーレディは、サックス、サンキュウの二強とは2月以降巧みにローテーションをずらして、3歳オープンを4連勝中。しかし二強との実力差は大きかろう。これまで千七戦までしか経験のないのも不安。逃げ馬、サンキュウホマレとの兼ね合いに注目か。
そしてオープンの常連、牝馬2頭、フクパーク3着のエトワールアンジュと、5着スーザン。共に前走は前々開催の3歳オープン、サンキュウホマレの、アンジュは3着、スーザンは5着。両者常に健闘しているが、二強にはちょっと敵いそうにない。
因みに以上12頭のうち、ホーエイヒロボーイ産駒が5頭もいる。すなわちレビンマサ、ダイニアキフジ、トモシロトーザイ、チョウヨームサシ、ケシゴホーエイ。現在次々に重賞ホースを輩出し、最も勢いのある種牡馬であるが、実はホーエイの産駒、楠賞はまだ勝っていない。この5頭出しの状況で、今年はどうか、というのも注目点の一つ。

当日の概況
午後から園田へ。ここ数日来、梅雨入り直前の好天続きといったところで、この日も晴れ。朝から真夏のような蒸し暑さ、「こんな中で競馬観戦したらヘバってしまうぞ」と思いつつ出掛けたところ、風が吹き出してくれて、思ったよりは過ごしやすくてやれやれ。
馬場状態は良。砂の補充があったようで、見た目にも馬場は相当深い。加えて、乾き切ってバサバサ。馬が走ると砂埃が濛々と立ち上がり、それが強風に吹かれて1、2コーナー方向、下手をするとスタンド側へ流れてくる。園田のアラブ重賞が、これだけ重い馬場のもと行われるのは久々なのではないか、と思う。レースの合間に散水車が水を撒くが、これぞまさに「焼け石に水」ならぬ「焼け馬場に水」、アッという間に水分が蒸発する。

事前予想
今回はパドック周回や返し馬を待たずに馬券を購入。ミスターサックスは確かに強かろうが、期待はダイニアキフジとトモシロトーザイの福山2頭。この馬単裏表が勝負馬券、そしてここからサックスへも。レビンマサは長丁場どうかとも思うが地力とセンスに期待して、加えてキフネジーマー。以上5頭のボックス買い、馬複と馬単を色々と。とにかくミスターサックスを外した馬券はどれも高配当、他地区贔屓のワシとしては、当然こちらに飛びつく。
オッズ的にはミスターサックスからが断然。サンキュウホマレとの組み合わせの人気が高い。他地区馬ではレビンマサとダイニアキフジがなかなかの人気。キフネジーマーがかなり見込まれている。だいたいは予想紙のシルシを反映したオッズかと。キソノコウリューウがかなりシルシを貰っているのが意外。恐らく「例年東海のレベルは高い」という先入観に拠るものかと。逆にトモシロトーザイとチョウヨームサシのシルシは寂しい限り。
「ワシはミスターサックスの軸は堅いとは思うけど、相手はホンマどれが来るかわからんやろ。その点からも、このレースは非常に面白い。それやのにサックスとサンキュウホマレの組み合わせ、どう考えても人気被り過ぎや、絶対おかしいで。そんな簡単に決まるわけがない。」とは山ちゃん。リーダー前田っちの注目はキフネジーマー、ヒモ軸にして好配狙いのつもりだったようだが、「何や人気しとるやないけ!」という状況になっている。ブリセイくんは「今日の注目はトモシロトーザイですよ。噂の掛かりながら伸びる走りを見てみたいっす!」とのこと。因みにワシとリーダー前田っちの事前予想はこちら

楠賞名物?ジョッキー声援タイム
第9競走のパドック周回が終わって暫くすると、楠賞に騎乗するジョッキーさん達が、パドック内の待機所に三々五々やって来る。ここはレース前のヤマ場、声援タイム。「何はともあれ『サブちゃん!』コールやろ。」と、まりおちゃんらと語らって待っていたのだが、そのサブちゃん、太さんらと一緒にやって来たために声を掛けるタイミングが合わず、これは失敗。やがて鋤田センセイが一人で登場。ここでまりおさん「スキタさ〜ん!」と、ミーハー丸出しのハイトーンボイスの掛け声一発。完璧に決まって、鋤田jk、あっちを向いて照れくさそうにクスッと表情を緩める。最後に板垣騎手が登場。「カキピー!」と、与那覇アナ命名のあだ名を叫ぶワシ。そのカキピー、「はぁ?」といった顔になる。「キミ達掛け声が妙やで。」とOku師匠がグサリ。

パドック、そして発走まで
そしてパドックに出走馬が登場する。3歳6月、伸び盛りの馬たちの馬体が明るい日差しに照らされて、ピカピカに光る。やはり好天のもとでやってこその楠賞であると思う。
1番がレビンマサ。のんびりゆったりと余裕の周回。覇気がないとも思えるほど。馬体重513kは+6kで今季最も重い値だが、2歳時はこれくらいの目方だった時もある。元来がどっしりした馬体だが、太め感はなく、むしろスッキリした仕上げだと思う。コロンとした馬だと記憶していたのだが、思ったより胴長体型。張りはまあまあ、毛艶は良好。ただ周回後半に、数度膠着してイヤイヤをする。
2番スーザン。歩様は力強い。日差しのせいだろう、曇天のフクパーク時より断然毛艶が明るい。馬体重473kは前走比-4kだがフクパークからは-3kで大差ない。しかしながら腹目からトモにかけて、随分細くなったような気がする。
3番キフネジーマー。入場以降終始小走り気味に周回、チャカチャカと煩い。「こんなんで大丈夫か?」と思う。なかなかガッシリとした骨格で、馬体重486kの通りかなり大柄。トモより胸前の筋肉の方が勝った感じ。「トモの肉がまだまだ付いていないねえ。」とは環さん。
4番チョウヨームサシ。青鹿毛ということで、真っ黒な馬だと思ったのだが、光の加減か、それほどでもない。胴の実入り豊かな、ホーエイヒロボーイ産駒らしい体型。毛艶も張りも文句ない。とてもキビキビとした身のこなしの周回。ただしトモの踏み込みは浅め。全体的に動きは硬い。
5番ケシゴホーエイ。馬体重515kの大型馬。撮影した写真を見る限りでは大柄なのだが、リアルタイムでは馬体重ほど大きく見せなかった。ピチピチの実入り、体高が随分ある。ゆったりと周回。
6番がダイニアキフジ。気性難の割には意外と落ち着いているのは最近の傾向、このあたりは地元戦と変わらない。毛艶と馬体張りはソコソコ、それなりの出来だが絶好とまではいかないようだ。パドックの最内を周回しており、歩様にはあまり覇気はない。馬体重483kは-2k、春先以降僅かだが目方が減少傾向。その先入観はないのだが、何となく今日のアキフジは小さく見える。尤も、他馬、特に同じホーエイ産駒らの実入りが相当なものなので、ホーエイ産駒にしては胴長でシャープな体型のこの馬はどうしてもそう映る。福山駐在のおさるさんは逆に「今日のアキフジは大きく見えたよ。むしろミスターサックスは意外に小さいと思ったなあ。」との見解。
7番キソノコウリューウ。昨年末笠松のジュニアキング時に目撃しているのだが、当時の印象は皆無。骨格がしっかりしていて、想像以上に剛直な馬体。馬体重448kだが数字より大きく見せる。力強い歩み、毛艶も張りも悪くない。ブリンカーメンコ着用で、尻尾をブンブン振っていて、気性は激しいか。しかしピーキー過ぎる感じはしない。
8番サンキュウホマレ。小柄な馬だが馬体重は-8kと大きく減らした407k。「こんな数字じゃアカンやろ。」との声が馬体重発表時にかなり聞かれた。でありながら周回気配が、終始ガチャガチャだったフクパーク時に比して、格段に落ち着いている。時折鶴首になったり、小刻みなトモの送りになったりはするが、焦れ込んだ感じは全くない。「フクパークのパドックでは、メンコ2枚重ねであの焦れ込みだったのに、今日はメンコ1枚被りでこの落ち着き、断然いいな。」と環ちゃんも。目方を減らした馬体の見栄えも、確かに腹目の線は細いがこれは元々、キリッとしていて今日の方が好印象。
9番エトワールアンジュ。馬体重416kと小柄な馬だが体高はある感じ。これもフクパークに比して格段に印象が良い。その時よりも体型に丸みを感じる。
10番スーパーレディ。馬体重453kだが、かなりボリュームのある見た目。じんわりとした周回気配。ただどうも身のこなしに滑らかさがない。トモの踏み込みも浅い。
11番がトモシロトーザイ。激しい気性の馬なので、周回を重ねるにつれ鶴首になって気合いを前面に出してくる。それにつれて発汗がきつくなる。見方によればエキサイトし過ぎに取れなくもないが、ワシは許容範囲、悪くない気配だと思う。馬体重483kは-8kだが理想の値かと。実入りと筋肉の付きは文句ない。
そして12番がミスターサックス。馬体重は前走から7k増えて522k。「これはやっぱり太いんとちゃうか。」と、入場早々山ちゃんも御指摘。これにはリーダーや環ちゃんやワシも同感。腹回りがフクパーク時よりもさらに重くなった。その割にはトモの筋肉の付きは物足りないまま。が、毛艶は文句ない。そしてゆったり堂々とした周回気配はこの馬のウリ、この点は正直大したものだと思う。とにかく馬格は雄大のひとこと。前記したおさるさんのようなサックス観は、かなり少数派だろう。

本馬場入場。サンキュウホマレとトモシロトーザイは入場口から1コーナー方向へ直行。これは彼らのいつもの所作。エトワールアンジュも同様に。ミスターサックスは四角方向に歩んでからキャンターへ。顔を左にひん曲げての走り、気性に問題ないこの馬としてはこれは意外。キフネジーマーはインコースを力強く。ケシゴホーエイは首を下げてこれも豪快に。ダイニアキフジは福山ダービー時と同様、ハミを噛み気味に頭を下げて返し馬に。レビンマサはダクから楽に駆け出し、1周弱走る。そして直線入り口でストップして、ここで暫し佇む。この所作は、あのホマレスターライツを彷彿とさせる。

発走を待つ間も皆さんとあれこれと。
「ダイニアキフジは調子も出来も結構良さそう。ただ出走馬に選出されたと報告のあった直前に、前走の追い切り掛けちゃってたのはキツかったみたい。」とは、おさるさんや福山の事情通のお方。「トモシロトーザイ、良く見えましたけど。」とワシ。「でもまあトモシロは、スマノカルダンみたいにたまたまダービー勝っちゃった馬('95年、あのタッチアップを破って勝利)に過ぎない気が非常にするんだよなあ。」とおさるさん。
「キソノコウリューウ、予想紙のシルシは結構あるけど実際観た人の評価低いですよね。」と東海のゴールドレットさんに振ると、「俺としてはアラブダービー勝ったホーエイトップよりは上だと思ってるけど、発馬に課題が残るからなあ。」とのこと。
それにしてもサンキュウホマレの仕上がりの良さが非常に不気味。「あれで走られたらムッチャイヤやなあ。初志貫徹で馬券からは切ったけど。」と環ちゃんらと語らう。逆に実物が登場して以降評価に疑問符が点灯したのがキフネジーマー。「あんなんでエエんか?」と、事前にこの馬を推していたリーダーらと。

レース〜晴れ舞台!
いよいよレース。距離2400m。いまや年に2回、この楠賞と園田金盃のみとなった、園田最長施行距離の一戦である。四角を回って、直線が開けたあたりがゲート。
スタート!サンキュウホマレが今日は鋭発。ポンと出て、8番枠から次第にやや内に進路を移していく。内隣のキソノコウリューウは若干タイミングが合わない出であったが、気を取り直してといった感じで前へ。サンキュウの外へ切り替えてこれに付いていく。もう1頭の逃げ馬、スーパーレディは痛恨の出負け。
外からエトワールアンジュあたりの出も良く、内に切れ込んで好位を狙う。大外ではミスターサックスもすんなり出る。そして押し上げ、ゴール板前あたりまでには、サンキュウやキソノに続く、先団のアタマをガッチリ。1枠から出たレビンマサがインでサックスと同列あたり。しかし既に折り合いつつあるサックスに比して、頭を上げて、これは相当掛かっている。次列インにキフネジーマー、中にアンジュ、その外にダイニアキフジ、鞍上鋤田の手綱は相当突っ張っている。ダイニの直後外からトモシロトーザイ、アオった発馬になってしまい、それも響いたか、やはり口を割り、首を上げて思いっ切りブッ掛かっている。このインにスーザンが次第に位置を下げて。2頭を前に見てチョウヨームサシ。スーパーレディは結局ケツ二追走、既に終わったか。そして殿がケシゴホーエイ。
ゴール板前から1コーナーにかけて、先頭サンキュウホマレ、5馬身以上抜け出し単騎逃げ。岩田の手綱は多少突っ張り加減だったが、程なく折り合って楽な長手綱となる。2番手にキソノ、サックスはこれをガッチリマークの3番手。インで続くのはレビンマサだがまだ折り合えない。直後外にダイニアキフジ、首を下げて激しさをこらえた走り。内キフネジーマーも若干掛かり加減、既にこの時点でムキになっているよう。掛かりっぱなしのトモシロが続き、その外目追走のチョウヨームサシも、手綱が張って口を割っている。
1周目の向こう流しから三角手前にかけて、先頭サンキュウがペースを落としたか、これに2番手内キソノ外サックスが併走で追い付き、三分三厘では直後まで、やがてキソノは単走2番手に収まり、サックスは控え加減に。バックでは一旦離れつつも再び差を詰めてきたレビンやダイニ以下の先団・好位集団の、その頭をムンズとばかり押さえつける位置に。
2度目のホーム。先頭サンキュウホマレは楽走。続くキソノコウリューウも首を下げてマイペースの悪くない走り。やや開いて3番手にミスターサックス、スローにスローに、太さんに巧みに抑制された折り合い。直後は横一線。内からアンジュ、キフネ、レビン、ダイニ。さらに次列内にトモシロ外チョウヨー。チョウヨーの走りも落ち着いたよう。そして何より、あのトモシロが1周目から一転、気味悪いくらい折り合っている。インにスーザン中スーパーが追走し、相変わらずポツン殿にケシゴホーエイ。サンキュウから好位勢までの間隔は2度目の一角までにまた縮まってくる。

2周目(40KB)
2度目の正面スタンド前、先団・好位
ミスターサックスが3番手ガッチリ、直後白帽レビンマサはまだ掛かっている

レースが動くのは2度目のバックストレッチ半ば、残り600mあたり。ここでミスターサックスが前へ。太さんに軽く仕掛けられると、スッと反応してサンキュウホマレの外に。三角手前で早くもこれを交わしにかかる。キソノコウリューウは2頭の争いの合間で脱落。岩田サンキュウ、まだ余力ありと踏んだか真っ向勝負を避けたか、さほど手綱は動かず。が、三分三厘、サックスが突き放す体勢に入ったところで、食い下がらんとばかりに追い出される。
以上は先団の模様。実は勝負の大勢に関わる大波は、中団以降で起こっていた。残り700あたりで、チョウヨームサシが8番手からスパート。鞍上蔵重にシゴかれてグングン駆け上がる。一方サックスが仕掛けたところで、直後のグループは付いていけず離されてしまう。ダイニアキフジが4番手で鋤田に押されるも爆発的に加速できない。レビンマサも遅れ、キフネジーマーも三野っちの鞭連打に応えられない。これらを外から丸呑みする体裁で、チョウヨームサシの捲り脚が三角手前爆発する。そしてコーナリングでミスターサックスの直後に接近。
さらに後方ではドンケツのケシゴホーエイがやはり残り700で大捲り。じわじわとしか押し上げられないトモシロトーザイを置き去り、チョウヨーに続き好位集団を外から交わす勢い。
佳境は近い。4コーナー、ミスターサックスが抜け出す。太さんの手は動くがまだまだ余力充分か。インでサンキュウホマレが粘り、サックスの直後、チョウヨームサシは外を回ってサックスに並びかけんと。やや遅れて外にダイニアキフジが追走。そしてこの外にケシゴホーエイが追い付いてくる。レビンマサもキフネジーマーも遅れた。ケシゴを必死に追うのはトモシロトーザイ。

残り50手前(42KB)
残り50手前あたり
外チョウヨームサシがまさにサックスを交わさんと、インでサンキュウも健闘

そして最後の直線。ミスターサックスが馬場五分どころを進み、押し切らんとする。インのサンキュウも1馬身圏内で食い下がる。が、サスガに差し返す伸びはない。サックスの外にはチョウヨームサシがついに追い付き、馬体が合う。残り100から50、蔵重jkの右鞭連打とシバきに叱咤され、チョウヨームサシが馬体を弾ませ、遂にミスターサックスの前に出る。ストライドの大きいサックスの巨体を、猛烈なピッチ走法で競り落とし、終い1馬身抜けて、3歳日本一のゴールに飛び込んだ。
2着ミスターサックス。サンキュウホマレが直線よく持ちこたえ、3馬身差の3着。ダイニアキフジは直線伸び切れず、3/4馬身差の4着。5着ケシゴホーエイの追撃を、何とか1馬身半凌いだ形。ここで2馬身開いて、6着トモシロトーザイ、これは7着レビンマサをどうにかこうにかクビ差抜いてのもの。8着2馬身半差でキフネジーマー、9着クビ差エトワールアンジュ、10着2馬身半差でスーザン。キソノコウリューウは結局1馬身差でブービー。スーパーレディが大差最下位。

チョウヨームサシ、ゴール(40KB)
チョウヨームサシ、ゴールへ
めくれ上がったゼッケンが蔵重jkのアクションの激しさを物語る

レース終わって、そしておしまい
ここで各馬の総括となるのですが、あまりに長いのでこれは別ページにて
「チョウヨームサシ、凄いな。」との、感嘆の声が挙がる。「ここは感動のウィニングランを是非!」と思うところだが、蔵重騎手、それはせずに、あっさりと向こう流しから逆走してそのまま引き揚げてしまう。ちょっと勿体なかったかな。
そして口取り撮影。再登場したチョウヨームサシはもう息が戻ったか元気いっぱい。「やっぱりいい馬だわ。」の声が。勝ったからそう見える、というのも事実だろうが、それを捨象しても正直そう思う。「何か意外に盛り上がらない口取りやなあ。」とはOku師匠。
ところが表彰式では一転、ウィナはお客さんの祝福の声に包まれる。蔵重騎手も、吉田アナの勝利騎手インタビューに、顔をほころばせて応える。「蔵重、地元ではぎょうさん重賞勝っとるけど、これだけ嬉しそうに振る舞うの珍しいぞ。」とOkuさんも御指摘。「チョウヨームサシ、1着賞金800万円とはいえこれだけ稼いだら、番組賞金への加算額次第やろけど、7月のセイユウ記念出られるんとちゃうか(後で確認したところ、件のセイユウ記念、出走対象が3歳以上オープンであるので、その資格はある模様)。今の金沢、金持ちの馬そんなにおらへんやろ。」とも。これだけの走りをされると、やはり今後への期待は否応なしに高まるものである。「そうなると蔵重、スーパーベルガーもお手馬にいるし、どうするやろね。」と返すワシ。

チョウヨームサシは単勝9番人気の低評価だったので、払い戻しは、2着が大本命ミスターサックスであったものの、馬単8,940円、馬複1,910円、枠複1,770円の高配当。単勝は5,690円もついた。さすがにこの連勝式馬券は的中させた人は多くなかった模様。しかし記念単勝馬券をちゃっかり取った人は相当数。その中にあって、約1名、ヒゲのオッサンが馬単を見事的中。調子のいいことに表彰式後、柄にもなく蔵重騎手に握手を求め、それが叶って御満悦であったとか。

チョウヨームサシ、口取りへ(52KB)
チョウヨームサシ、口取りへ臨む
青鹿毛の馬体、赤の馬装、赤ゼッケン、そして赤い優勝レイ

――全てはこの日の、眩しい日差しの残像の中にある。戦った馬たちの輝いた馬体、レース模様。そしてチョウヨームサシの青鹿毛。時が経っても、きっと思い出せる。それが、たとえアラブ競馬終末期の、一瞬の光芒であとうとも。

2002.6.19 記

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