2002年度、瀬戸内賞観戦報告

 2002.6.9、福山、1600m

はじめに、そして当日の概況
3歳中央補助馬の交流競走、瀬戸内賞。'99年に重賞格上げされて以降は、毎年6月上旬に施行されている。当初は福山、益田、高知、兵庫所属馬によるレースであったのだが、昨年は金沢と荒尾からも参戦があり、まさに中央補助馬の晴れ舞台、全国交流の一戦となっている。
ただ、ここ2年は、園田の楠賞全日本アラブ優駿が6月初頭施行となったため、これとの掛け持ちは日程的に不可能。もっとも、そのあたりは各陣営心得たもので、有力中央補助馬は瀬戸内賞一本狙いで勝負を賭けてくるようだ。施行距離からして楠賞は2400m、瀬戸内賞は1600mと、両者大きく異なるわけであり、出走に際し、各馬の適性も考慮されよう。
見方を変えれば、マイル戦の3歳全国交流という性格は、このレースの大きなウリなわけで、そこにもってきて「中央補助馬限定」という括りが付くのは甚だ勿体ない。中央補助馬の制度がいつまで存続するかは知らないが、このレースの存続や存在の意味も含めて、ぼちぼち見直しの時期にきているのでは、とも思われる。「別に中央補助馬に限定せんと、マイルの全国交流にしてしまったらオモロイ思うで。」と、現地でOku師匠や3号馬さんとも語らった。

競馬場には2時前に到着。ここ数日は梅雨入り直前の好天続き、天気は晴れ。暑いが比較的カラッとした空気。風は強い。
馬場状態は良。中間砂の補充はなく、並の深さとのこと。レース展開の傾向を3号馬さんらに質問すると、「前はあまり止まらないが、大外からの追い込み馬も伸びている。明確に先行競馬をするか、思い切って控えるかでなければ好結果に繋がらない。中途半端な乗り方では駄目みたい。」とのこと。

出走馬について
さて、今年の出走馬は内枠より以下の10頭。()内は騎手。
グリーンジャンボ(坂本)、サンコーアイボ(嬉)、マルサ(鋤田)、フクヒロボーイ(藤本)、ハイセイアポロ(杉村)、ミスタートーデン(吉延)、ノアリュウオウ(秋元)、フルバーニア(黒川)、ホワイトキャンプ(佐原)、ミスターフレンド(渡辺)
騙馬マルサ以外は全て牡馬。斤量は全馬54k。
他地区からは兵庫グリーンジャンボ、荒尾ハイセイアポロ、益田ノアリュウオウ。
当初は高知のマンペイ記念馬テイケイミチカヒメと、笠松のアラブダービー馬ホーエイトップも参戦表明していたのだが、程なく、テイケイミチカヒメはそもそも出走資格を有していないと判明し(中央補助馬でなかったとでも言うのか?)、またホーエイトップも回避。結局、他地区馬3頭と、若干寂しい全国交流となってしまった。

注目は何と言ってもノアリュウオウ。益田3歳断然の筆頭。2月3日福山での益福交流は2着に2秒差の圧勝、福山の3歳中堅級の馬では話にならなかったようだ。その次走3月16日、1350mのAB戦では、ゲートを潜りかけたところでスタートが切られ、絶望的な出遅れを喫しつつも追い上げて勝利。前走益田さつき特別では、ニホンカイプリウスの出したマイルのレコードを更新して優勝。と、その強さが窺われるエピソードは充分。ワシは目にするのが今回初なので、興味津々。「見た目はボサッとした冴えん馬やねんけど、強い。」とOkuさんが評する、そのルックスも気になるところである。
荒尾からのハイセイアポロは、彼の地の3歳世代の有力馬。ただし伸び悩み気味らしい。荒尾の現3歳では、あのマルシンヴィラーゴの仔マルシンランサーが、素質も能力も一番と見なされているのだが、この馬、血の成せる業か、ポカも多い。トップがこれであるからして、付け入る余地もあろうものだが、どうもそうはいかないよう。昨年11月の重賞ヤングチャンピオンでは、このマルシン共々人気を背負ってブッ飛んで(マルシン6着ハイセイ10着)、馬単200,540円の大荒れを現出した。荒尾では3日後に荒尾記念があるのだが、そちらではなく遙々瀬戸内賞へ。
兵庫のグリーンジャンボは、今年1月の三県交流を勝ったスカイタカオーと同厩。2歳当初から素質馬と目されていたのだが、なかなか本格化せず、サンキュウホマレやミスターサックスには大きく水を空けられてしまった。フクパーク記念7着の後は、地元楠賞には目もくれず、この瀬戸内賞を狙ってきた。スカイタカオーと同様、今回この馬の鞍上も坂本騎手。
迎え撃つ地元勢では、2歳重賞ヤングチャンピオン馬ホワイトキャンプが、格では断然。しかしながら春先以降、成績が今一歩。キングカップとその次走をダイニアキフジの2着、ここまではまずまずだったが、ダービーの前走で6着、そして福山ダービー7着敗退。成長度に疑問符が。加えて主戦岡崎騎手が負傷欠場中のため乗れないのも結果に響いているか。
その他には、逃げのマルサと、サンコーアイボあたりが地元上位クラスに入ろうかというくらい。なお、福山ダービー3着のユキノホマレも中央補助馬であるのだが、ダービー以後出走はなく、ここも回避して姿を見せず。

パドックから発走まで
さてパドック周回。
1番グリーンジャンボ。二人曳きで首を下げて、概ねじんわりと気合いを出しての周回。ただ回るのはパドックの最内。馬体の張りはまあまあだが、若干緩いか。鹿毛の毛色が以前より明るいと言おうか、落ちたと言おうか。「メンコに浅いブリンカー付いてませんか?」と3号馬さんが指摘。確かにその通り。「これまでしてたことあります?」と問われるので、「少なくともフクパークの時は付いてなかったよ。」とワシ。
2番サンコーアイボ。時折首を上下に振るが全体的には大人しい周回。毛艶も馬体張りもなかなか、結構いい感じ。肩の捌きが硬いか。ダービーは8着だったが前走3歳1組戦を勝利。おさるさんによれば、元々非常に気の悪い馬だそうだが、最近ようやくまともになってきたそうだ。
3番マルサ。馬体のフォルムはこれまでのこの馬と変わらぬ、スラリと伸びやか、かつ充分な実入りなものであるし、艶もなかなかである。が、前後肢ともに、歩様の硬さと踏み込みの浅さがいつになく目立つ。このためこれまでに比して、印象はかなり落ちる。ダービー9着以来の実戦。今回は久々に鋤田騎手が騎乗、これは注目。
4番フクヒロボーイ。明るい栗毛の肌が日に照らされて光る。腹回りはややボッテリ重そう。肩の出がギクシャクしているような気がする。前走3歳1組戦3着。ダービー出走にはちょっとクラスが足りなかったクチ。逃げ専門とのこと。
5番ハイセイアポロ。首差しがスラリとしていて、スッキリとした印象の馬体。ただ馬体重が前走比-17k、もっとも前々走からは-3kであるようなので、これでどうなのかは判らない。毛艶はソコソコ、パドックの大外を歩いている。うつむいての周回で煩さはないが、厩務員さんとの仕草を見るに、ちょっと集中力がないような気もする。
6番ミスタートーデン。黒鹿毛の馬体、その毛艶は見栄えがする。やや腹目ラインが緩く、ヒ腹は細い。大人しい周回だが、印象は平凡。前走3歳3組戦で4着。追い込み一手の脚質。
そして7番がノアリュウオウ。うっすらと発汗してはいるにせよ、毛艶が非常に良い。筋肉の付きはまあまあ、特筆するほどでもないが、骨格がしっかりしているのか、かなりガッチリした馬体に映る。気合いも適度に乗っており、何よりも踏み込みが深く、そして力強い。「ボサッとした馬」との風評を全く覆す、なかなかのルックスだと思う。パドックでの存在感は10頭中断然。
8番フルバーニア。チャカチャカと煩い仕草が目についた。途中下痢便を。歩く姿勢も首もちょっと高い。前走3歳1組戦7着。この馬も逃げたいクチのよう。ちょうどフクヒロボーイと似たような格付けの歩み、なおかつ脚質も競合している。
9番ホワイトキャンプ。太くて緩めの腹回り、芦毛ながら悪くはない毛艶と、パッと見はこれまでと変わりない。ちょっとイライラするようでもあり(というより、これ、馬が子供っぽいのかも。装鞍所でいつも厩務員さんに「イー子イー子」されている。その仕草がまたカワイイのだが)大人しくもある地味な気合いの発露も従来通り。逆に言えば、見違えたところはないということでもある。
10番ミスターフレンド。かなり発汗している。やや細かい動きが目立つ。胴の詰まった体型。前走は3歳3組戦8着。キングカップを予備馬待遇で使えず、その後の2開催も休んだ。ちょっと低迷気味のようだ。

ノアリュウオウ(42KB)
ノアリュウオウ、パドック
抜群の存在感、そして出来

本馬場入場から返し馬。フクヒロボーイは入場して一角方向へ直行。マルサやグリーンジャンボは強めのキャンター。ミスタートーデンは内ラチ沿いを軽く。ホワイトキャンプも比較的楽に流す。ハイセイアポロはパドックメンコを外され素顔で登場。ハミ吊りを装着している。「ハミ吊りといえばシビノマルスがダブりますね。」と3号馬さん。そしてノアリュウオウ。グッと首を下げてハミを噛んで、地面に蹄を叩きつけるようなフットワークで駆け抜ける。その迫力に、場内から「オ〜」と、感嘆の声が挙がる。「凄げえ。」とリーダーも。「でもちょっと強すぎるんじゃないか?」とはふささん。

ハイセイアポロ(31KB)
ハイセイアポロ、返し馬に
荒尾の夢@福山2002

予想。前評判からも、そして何より当日の気配からも、ノアリュウオウ優位は揺るぐまい。グリーンジャンボがこれに次ぐ評価だが、正直あまり買う気がしない。この本線馬券はオッズが低過ぎる。ということで、買い目はノアリュウオウから、マルサとホワイトキャンプへ。逃げの通じる馬場でもあり、また鋤田騎手鞍上ということで、マルサは狙い頃だと事前には思ったのだが、感心しないパドック気配から、大勝負は避けた。キャンプは近走イマイチだが何かの拍子に盛り返せればなあ、という希望のもと。「穴ならここらでホワイトキャンプやろ。人気も下がったし。」とはOku師匠。

レースなり
さてレース。マイル戦のスタート地点は向こう正面半ば。
スタート。ミスタートーデンがやや立ち後れる。前ではフクヒロボーイが好発、一旦は先んじるが内からマルサが押されて前へ、程なくハナを奪って単騎逃げに。最内グリーンジャンボや、外からノアリュウオウも先団を取りに。ノアリュウオウは逃げには拘らぬ構えか。
正面スタンド前。先頭マルサが快走。後続に5馬身くらいは差をつけて。2番手にフクヒロボーイ。この直後、インにグリーンジャンボ。頭を上げて、前のフクヒロに乗りかからんばかり、折り合いを完全に欠いている。この外目にノアリュウオウ、こちらは頭を下げて、手綱は張り気味だがちゃんと抑制されている。ジャンボとリュウオウの間の直後にハイセイアポロ。3号馬さんによれば、3番手併走は、地元戦よりは前の位置取りとのこと。ここでやや切れて、中団インにサンコーアイボ。この外に逃げられなかったフルバーニア。そしてホワイトキャンプ。ミスターフレンドがいてポツン殿はミスタートーデン。

1周目(29KB)
最初の正面スタンド前
先頭マルサ、3番手内の白帽がグリーンジャンボ

1コーナーを回って、場内が「ワッ」となる。事件は起こった。グリーンジャンボが、折り合いを欠いたフラフラした走りのままコーナリングして、ヨレて、外に併走していたノアリュウオウを弾き飛ばしてしまったのだ(実はワシ、リアルタイムでこれは視認できなかったのだが、3号馬さんやリーダーはしっかり確認されていた)。運悪くノアリュウオウ、これで大きく後退、そしてリズムを完全に崩したよう。しかしグリーンジャンボはそのまま3番手に。しかしながら審議のランプすら点灯しない。「ありゃいかんやろぉ」とレース後リーダーも3号馬さんも。
2コーナーからバック、先団・好位は比較的等間隔か。その後詰めにホワイトキャンプがいる。「さあ佐原、どれだけ辛抱して脚溜められるかだよな。」とOku師匠。しかしここから前の流れも速くなるわけで、堪らずバック半ば前から手綱が動き出す。が、良かった頃の勢いがない。
そして3コーナーから三分三厘、相変わらずマルサが先頭。フクヒロボーイはお疲れさんで、ここに外からグリーンジャンボが接近。ジワリジワリと差を詰めて直線では2頭併走、叩き合いとなる。マルサが渋太い。グリーンジャンボをなかなか交わさせない。が、残り50を切って、最後はグリーンジャンボが何とか前に出て1着入線。その差クビ。
ノアリュウオウが後半何とか追撃して、外から追い込むが、叶わず1馬身半差の3着まで。4着サンコーアイボは好位差しの体裁。ホワイトキャンプの追い上げは届かず5着が精一杯。ハイセイアポロは向こう流しで次第に下がってしまったようで、結局9着。結局入線順位のままで確定。

とにもかくにも1コーナーの一件が全て。加害者が対抗馬、被害者が大本命馬、そして勝ったのが加害者で大本命馬が連対落ち。何とも後味の悪い結果になってしまった。こうなると、ノアリュウオウを軸にしていたと思われる、馬券オヤジを中心とした大多数のお客さんから怒号の嵐。日頃福山のお客さんは、「広島の博打場の客」というイメージに比して、全く大人しく、のんびりしているのだが、この時ばかりはそうはいかなかった。そんな中での表彰式、坂本騎手、さぞ罵声が身に染みたろう。

こんなレースなので、各馬へのレース後のコメントもあったものではないのだが。
グリーンジャンボは、気性面の拙さがてきめんに出た格好。あれでは危ない。能力云々以前の問題。
ノアリュウオウは気の毒というほかない。間の悪いことに逃げ馬に直付けではなく、先団絶好位にいたが故のとばっちり。
その荒れたレースの中で、辛うじて光ったのがマルサの逃げ粘り。この馬、結構頻度高く好走してくれる。鋤田騎手も徹底先行の構えで、それが功を奏したか。
サンコーアイボは上昇機運が現れた4着だろう。停滞気味のホワイトキャンプを遂に逆転した。ホワイトキャンプはなあ、岡崎さんの復帰待ちなのか、やはり「早熟のイムラッド産駒」なのか・・・

おわりに
以上、観戦記記すのも気乗りがしない、2002年瀬戸内賞であった。
ともあれ、後にこのレースが「ラフプレーで壊れた」としか記憶されない、継子扱いのものになるか、「そういえばそんなこともあったな、まあ、あの後彼らもひとかどの有力馬になったし。」といった「若気の至り」的、青くほろ苦いものとなるかは、ひとえに当事者2頭の、今後の歩みに懸かっていよう。
であるから、締めの文句はこんな感じ。
「しっかりしろ!グリーンジャンボ、そしてホントに強くなってみなさい。」そして、
「メゲてはいかんのだ、ノアリュウオウ。まだ本当の頂への、取っ付きに立ったばかりなのだから。」

2002.6.25 記

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