第23回銀杯観戦報告

 2002.6.23、福山、1800m

はじめに〜出世レース?!銀杯
福山競馬、梅雨時恒例の3歳重賞、銀杯。施行時期からも、また、福山ダービー及び楠賞の勝ち馬には出走資格がないということからも、「残念ダービー」的な競走であるように見受けられる。実際、かつては「まさにbQ決定戦、その後の出世とは無縁な勝ち馬がずらり。」(ローゼンホーマさんの御教授)といったレースであったようだ。しかし近年は、世代最強馬がすんなりダービーを勝てないせいもあってか、ダービー馬よりむしろこの銀杯の勝ち馬の方が後々大成する傾向が強く、まさに「ザ・出世レース」といった趣となっている。試みに以下、近年のダービー馬と銀杯馬を挙げる。いかがなもんでしょう。

福山ダービー馬銀杯馬その他の活躍馬
'93年オールセンプーイムラッドホマレナタリージョージ、イエローホーマー
'94年ピアドタイトルミナミセンプウアサリュウキング、ブラウンターボ
'95年スマノカルダンタッチアップビンゴトウショウ、ブラウンソプラノ
'96年ダギロハシルタイヨウサンワテイオー、ダンディズム、ローレルキセキ
'97年ピアドハンターノアオーカン(ステイブルライン)
'98年アキフジクラウンモナクダイキチ(パッピーケイオー、マツノホープ)
'99年ドミネーターコピエマルサンダイオー、(ホマレスターライツ、ドリーミング)
'00年アレクシアミスターカミサマモナクマリン、セブンアトム
'01年ユノワンサイドフジナミスペシャル(ホマレエリート)
馬名青字は後の福山大賞典馬。その他の活躍馬のうち、()で括ったものは他地区よりの転入馬。

というわけで、いまや福山のアラブファンの間では「ダービー見逃しても銀杯見逃すな」は、すっかり格言となっている(というのはちょっとウソで、これは今思いついただけ)。

競馬場には2時頃着。梅雨時ながら幸いにも雨降りではなく、天気は概ね曇り。雨粒はごくたまに落ちる程度。時折雲の切れ間から日も差す。
中間に砂の補充があったそうで、馬場はやや深めとのこと。馬場状態は良。しかしながら中間の雨による湿り気を路盤が含んでいるようで、見た目にそれほどバサバサではない。能力なりに逃げ・先行も差しも決まっている模様。

出走メンバーについて
出走馬は内枠より以下のフルゲート10頭。()内は騎手、性、斤量。
ホワイトキャンプ(藤本、牡、55k)、ユキノホマレ(吉延、牡、54k)、アヤヒカリ(渡辺、牝、53k)、フエストクインシー(黒川、牡、54k)、フォートワース(石井、牡、54k)、ヒルゼンスイセイ(野田、牝、牝、53k)、モナクカバキチ(岡田、牡、54k)、ルパンユイナ(片桐、牝、53k)、ダイニアキフジ(鋤田、牡、57k)、サンコーアイボ(嬉、牡、54k)
負担重量は賞金別定かと、牡馬54k牝馬53kの基本重量から加算されている模様。
前開催の瀬戸内賞を逃げ粘って2着好走のマルサが回避、これによりヒルゼンスイセイが予備馬から繰り上がった。
出走馬と主戦騎手の兼ね合いもあってか、今回初コンビの人馬が多い。すなわちホワイトキャンプ−藤本、ユキノホマレ−吉延、フエストクインシー−黒川、フォートワース−石井、ヒルゼンスイセイ−野田。

規定によりダービー馬トモシロトーザイの出走はないが、それ以外の、これまで3歳戦線を賑わした有力馬はあらかた登場し、興味深い一戦となった。実は今年のこの世代、2歳重賞ヤングチャンピオン以降、重賞勝ち馬が全て異なる、つまりは2つ以上重賞を制した馬がいない。ということもあり、予想紙の見出しにも「戦国銀杯」の文字が。
注目馬は、まずは世代筆頭格のダイニアキフジであろう。まあ、この馬が順当に重賞を獲らないものだから、結果戦国模様になっていると言えなくもなかったりする。ダービー2着ながらも出走の叶った楠賞では4着。2400m戦の遠征競馬帰り、それから中1週半。疲労もあろうし、回避するとも思われたのだが、何の何のここに登場。他馬より余計に背負ったハンデ57kでもあり、さてどうか。
今回むしろダイニアキフジ以上に注目を集めるのは、以前から大器と評されるモナクカバキチ。ダービー4着以後2戦は、C2の6組戦と3組戦で、いずれもバック捲り一発の快勝とのこと。ダービー後、これまでのハミ吊りに代えてシャドーロールを装着し始めたそうだ。これが効いているのだろうか、それとも今まさに上昇期なのか。ともあれ勢いを得て、出世レースに登場。
「メンバー揃いましたね。」とある御仁に。すると「どの馬も出走間隔詰まって押せ押せで来てるじゃろ。不景気じゃけーの。」とのこと。

パドック、そして発走まで
さてパドック周回。
1番ホワイトキャンプ。今日も例によってイライラしているようなじんわりしているような、いずれとも判然としない気配。相変わらずコロンとかつボッテリした胴回り。近走と特段変わったところはない。ヤングチャンピオン馬もダービー7着、前走瀬戸内賞5着と、戦績も停滞気味。今回は鞍上に藤本サブちゃんを迎えた。これが強調材料か。
2番ユキノホマレ。ダービー3着以来の実戦。中間熱発で、出走資格のある瀬戸内賞も使えなかった。馬体重504kは前走比+4kだが、数字以上に馬体が緩んだ感じで腹が重い。そして毛艶も落ちた。印象はよろしくない。
3番アヤヒカリ。ダービー6着、その次走はC2の3組戦で勝利。馬体重もやっと上昇し、また再起の勝ち星となった。が、今日の馬体重は-2kの473k、ダービー時のそれに逆戻り。毛艶は良いのだがヒ腹とトモがやっぱり細い。やや鶴首気味で周回、気合いは乗っているが。
4番フエストクインシー。馬体重454kだがその値よりはコンパクトに見える馬格。張りはある。気配はちょっと煩いか。前開催の3歳特別スポーツニッポン賞を勝ってここへ挑戦。先行馬。
5番フォートワース。腹袋がかなり太いがこれは元来の体型か。その馬体張りと黒鹿毛の毛艶は絶好。背が高いせいもあるが、馬体重458k以上に大きく見える。歩様も力強く、踏み込みも深い。惚れ惚れする出来。上り馬としてダービーに臨んで5着、その次走はC2の11組で勝利。前走C2選抜戦ライラック特別2着はちょっと失敗。今回単穴格として、場内でも評価が高い。
6番ヒルゼンスイセイ。馬体重437kと軽い馬だが、体高があるようで、一見大きく見える。が、ヒ腹からトモはやはり細い。毛艶はまあまあ。歩様は硬め。前々走と前走をともに3歳1組戦で走り、それぞれ2着1着。何といってもあのタッチアップの半妹である。
7番がモナクカバキチ。鶴首になって終始チャッカチャッカと重心の高い落ち着かない周回。腹回りが緩く、トモの力感が乏しい、相変わらず格好の悪いフォルム。だが、こうした気配もルックスもいつものこと、「こんなもんだろう」といい加減納得するしかない。毛艶はまあまあ。たてがみが伸ばし放題のざんばら。ワイルドな路線で売るつもりか。
8番クイーンカップ馬ルパンユイナ。ダービーはパスして前走C2の1組戦4着、銀杯狙いのローテーションとのこと。明るい栗毛の綺麗な艶はこの馬なり。馬体重482kは前走比-9kだが適正値だと思う。が、その数字ほど馬体に力強さがない。首、胴、脚、全てひょろ長いのだが、ただそれだけといった感じ。
9番がダイニアキフジ。馬体重は楠賞から戻して+3kの486k。地元戦に比して、良く言えばシャープ、ともすれば細く映った馬体よりはゆったりとしている。が、意識的に緩めた感も。馬体張りはソコソコかと。前後肢とも、歩様はやや硬い。二人曳きで首をグッと下げての周回だが、近走のパドックに比して、ちょっと馬がイライラした感じ。
10番サンコーアイボ。明るい鹿毛の馬体はピチピチに張っていて、毛艶も良い。ちょっと肩の出がギクシャクしているか。前走瀬戸内賞は中団から差して4着。地味ながら着実に力を付けているとの評価。

本馬場入場から返し馬。ダイニアキフジは今日もハミを噛んで首をグイと下げて駆け出していく。ヒルゼンスイセイはキビキビと駆ける。フォートワースは重心低く、素晴らしいフットワークのキャンター。モナクカバキチは1周楽に流して、ホーム半ばからキャンターに移行。ホワイトキャンプやルパンユイナはやや強め。サンコーアイボは楽に。パドックと返し馬に関しては、フォートワースの見た目が断然。
予想。ここはモナクカバキチの軸でいいだろう。ダイニアキフジは実績と地力から軽視出来ないが、楠賞帰りということと、ハンデ57kを考えるに、連入必至とまでは思われず、取り敢えずの相手一番手といった評価に。期待はフォートワース、スケベ馬券でこれをアタマに据えた馬券まで買う。あとはサブちゃんが手綱を取るホワイトキャンプの変わり身にちょっと期待を、未練がましい気がしなくもないが。

フォートワース(32KB)
フォートワース、見参!
この馬、ムッチャ格好エエ!タイプやわ

レースなり
さてレース。距離はダービーと同様1800m。2コーナーからの発走。フォートワースはダービーではゲート入りが悪かったが、今日はすんなり入った。
スタート。ゴリゴリの逃げ専不在の中、誰が先行するかというところ、ハナに立ったのはフエストクインシー、これがすんなりと。2番手に先行競馬は意外な感じのヒルゼンスイセイがつける。ダイニアキフジは先団のアタマをがっちり。ルパンユイナも先行勢の流れに乗る。他方ユキノホマレはダービーに続き今日も出負け、後方からの競馬となる、が、これはいつものこと。
ということで正面スタンド前。先頭はフエストクインシー。インベタで後続をやや離して単騎逃げ。2番手ヒルゼンスイセイ。この1馬身強後方、3番手にダイニアキフジがつける。今日も鋤田騎手の手綱は張って土下座走法気味。この内にルパンユイナがいるが、これは次第に下がっていく。ダイニの次列には内フォートワース外サンコーアイボ。この2頭を数馬身前に見て、モナクカバキチが願ったりの中団単走。以下アヤヒカリ、ホワイトキャンプ、そして殿ユキノホマレの順。

1周目(32KB)
1周目の正面スタンド前
3番手外ダイニアキフジ、内ルパンユイナはよろけ気味

1コーナーを回ったところで1頭ズルズル下がり競走中止。これがルパンユイナ。レースは続く。
勝負が動くのは向こう流しの半ば。ダイニアキフジが他馬に先んじてここで動く。そろそろしんどくなり始めた先頭フエストクインシーとヒルゼンスイセイを置き去って、三角手前、早々に先頭に立つ。力づくでの押し切りを目論んだか、グイグイと独走態勢に。好位からサンコーアイボが仕掛け三角2番手。フォートワースの動きは今一つ。バックを使ってホワイトキャンプが内から進出しようとするがこれも伸びない。そして来たのはやっぱりモナクカバキチ。バック後半捲り脚開陳。外から押し上げて、三角コーナリングでサンコーアイボを交わす。そして三分三厘、先頭ダイニアキフジに肉迫。4コーナー手前、残り250あたり、遂に追い付く。
そして最後の直線へ。内ダイニアキフジ、馬場五分どころの外にモナクカバキチ、離れての勝負。脚を早めに使ったからか、意外に伸びないダイニアキフジ。残り100、それをカバキチが交わし去る。最後は独走になって、4馬身先んじ、カバキチ、念願の重賞初Vとなった。
2着にはダイニアキフジが踏みとどまった。サンコーアイボが三角での仕掛け以降よく走って3着。ダイニの2馬身半に迫っていた。フォートワースはアイボの内に併せるもクビ差及ばず4着。5着もクビ差、二角から長く脚を使ったユキノホマレが外から追い込んで。ホワイトキャンプは6着止まり。7着アヤヒカリ。ここで大差開いて、8着ヒルゼンスイセイ9着フエストクインシーの先行2頭。
モナクカバキチ(38KB)
モナクカバキチ、ゴールへ
シャドーロールを揺らし、独走に持ち込む
ダイニアキフジ(37KB)
ダイニアキフジ、及ばす2着
フォームは低いのだが、それが推進力とは無関係な走りなだあ

レース後アクシデントが。ゴールを駆け抜け、流していたモナクカバキチとアヤヒカリが、1コーナー過ぎで接触、双方の鞍上、岡田、渡辺両騎手共に落馬してしまう。このあたりで競走中止したルパンユイナが気になったか、しかし詳細は確認できず。ちょっと後味悪いレース後になってしまったが、脱鞍所では両騎手ともちゃんと歩いて会話していたので、大事には至らなかった模様。カバキチとアヤヒカリもちゃんと脱鞍所に戻って来た。

レース終わって、そしておしまい
何はともあれ、モナクカバキチ。大器の評価に見合う、重賞ホースの勲章をGet出来て何より。躍進と共に身につけた、中団からのバック捲りがここで通用しての勝利となった。ライバルのダイニアキフジとは、状態面と斤量に差があり、今回は恵まれた感も多少あろうが、強い競馬だったと思う。気性面にまだ疑問を残すので、完成するのはまだ先か。
ダイニアキフジはまたしても重賞2着。これで4度目。まあ今回はよく走っているのではないか。早め抜け出しで勝つ気は満々だったのだが、やっぱり基本的にジリ。パワーで圧倒するレースが叶う出来でないと、大一番では苦しいか。
2着と3着の間は迫っていたが、印象としてはカバキチとダイニ、2頭の競馬。今日はカバキチの快勝だったが、これがライバル対決の、ほんの端緒、これからますます激しく、高レベルになってくる・・・と思いたい。
3着サンコーアイボ、この馬、地味で馬券買う気になかなかならないのだが、そう思っているうちに、ホンマ力をつけている。好位から仕掛けて3番手死守、当面のライバルであるフォートワースやホワイトキャンプ、ユキノホマレらをしのぎ切った。
フォートワースは案外。後半意外に鋭さがなかった感じ。ホワイトキャンプ同様この馬もかつての主戦は岡崎さん。剛腕で差せるタイプの騎手の方が合いそう。
ユキノホマレは出来の割には走っているか。ゲートの悪さが解消しないが差し脚はいい。ホワイトキャンプはサブちゃんの腕をもってしても6着。道中ルパンユイナの競走中止に絡まれたか、一、二角で下がってしまったのは計算外だろうが、後半の脚はユキノホマレに負けているからして。何だかなあ。
なお、競走中止のルパンユイナ、撮影した写真のホームを走る姿、ヨロヨロしている。そして何と、鼻血ダーダーで、胸前からゼッケン、片桐騎手のズボンまで真っ赤。外傷性のものなのか、いわゆる鼻出血なのかわからぬが、そしてこれが競走中止の原因なのかは不明だが、この様子は、尋常ではなかった。無事だといいのだが・・・

というわけで、今年の銀杯はカバキチくんの制するところとなった。近年の先輩銀杯ホースの如く、出世街道に乗れるだろうか。「スターへの最大の障壁、それはあんたの馬名」と笑われているうちに、ホンマに強くなってくれれば、ちょっとカッチョエエかな。
――父ホマレブルショワ、近年の出世産駒は、ホマレスターライツやパワーレイク。激しい悍性を競走能力に転化できれば、躍進の可能性は充分。ピーク時には強い競馬の出来るタイプ。ただし長じての成長力は今一つか。しかしながら母父に、晩熟・長距離型かつパワー系のアリラバットが入っていることで、父の弱みを補える余地はあり。それぞれのバランスが成功の鍵を握ろう。(最後は「Uちゃんの現場的出鱈目血統診断」、ホンマか?)

2002.7.1 記

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