アラブダービー 第30回南国優駿観戦報告

 2002.7.21、高知、1900m

はじめに
今回の重賞観戦は南国優駿。今年で第30回となる伝統の一戦。その名の通り、まさに高知アラブのダービーである。近年の勝者には、チュウオーロッサ、パワーレイク、チーチーキング、プレシャスボーイと、高知のスタートして馴染み深い馬の名前が並んでいる。
'97年に、それまでの春開催から、梅雨時もしくは夏先に施行時期が繰り下がった。これで、春のマンペイ記念、そして南国優駿、秋の荒鷲賞というアラブ3歳三冠体系となり、現在に至っている。
その施行時期、今年は更に繰り下がり、7月21日。折しも前日20日に、高知でも梅雨明け宣言が出て、まさに真夏の幕開けを飾るが如き競走となった。

当日の概況
梅雨明け宣言とともに、気候は一気に灼熱モードに突入した。住処の関西でもたいがいな暑さ、南国高知のそれは容易く想像された。案の定、当日の高知は猛暑。天気は晴れ、日差しはきつい。湿度は高くないが、立っているだけで汗が噴き出す。風はかなり強いのだが、これはまさに熱風、快適さの足しに全くならない。
マンペイ記念時と同様、今回も三ノ宮−高知間の高速バスにて。はりまや橋のバス停で、前日から高知入りしている"リーダー"前田っちと合流。既にヘバっているリーダー。ここからファンバスにて一緒に競馬場へ。
到着時は第2レース発走前。馬場状態は重との発表。「いくら何でも重には見えんやろ。」と、先に来場されていた地元もりも先生と突っ込んでいると、そのレース後、稍重に変更となった。それでもこの時点で既に、馬が駆けたりハローがけが通ると、砂埃が立つほどで、見た目には良馬場でも何ら差し支えないような状態。結局最終レースまで、稍重発表のままであったのだが。

出走馬について
さて南国優駿、出走馬は内枠より以下の通り。フルゲート12頭のところ9頭立てと、いささか寂しい感も。()内は騎手、斤量。
チュウオーマイピヤ(中越、53k)、チュウオーシャトル(赤岡、53k)、ユタカビジン(山北、53k)、ホーエイミラクル(戸梶、53k)、カミケンマック(倉兼、55k)、マルチタイガー(徳留、55k)、ミツキノミヤロン(中西、53k)、テイケイミチカヒメ(花本、53k)、ユタカオヤシオ(鷹野、55k)
負担重量は定量、牡馬55k牝馬53k。9頭中牝馬が6頭を占める。"女性上位世代"であるがためか、高知に在籍する現3歳馬の牡牝の頭数を反映してのことかはワシには不明。

2歳重賞銀の鞍賞馬ヒダカシュウホウは姿を見せないが、それ以外の有力どころは揃った、まずまずのメンバーではあろう。9頭中5頭は、マンペイ記念の1〜5着馬である。
7連勝でマンペイ記念を制したテイケイミチカヒメは、以後古馬混合戦ではあるものの2着5着と勝てず、勢いがちょっと止まった感も。
マンペイ記念以後好調で躍進の感あるのはその4着だったカミケンマック。前々走南国優駿トライアルのマイル戦で勝ち、前走も3着。予想紙のシルシも厚い。
堅実なのはマンペイ記念3着のユタカオヤシオ。この馬未だに1勝馬だが、好位及び中団から何だかんだで伸びてくる。前々走南国優駿トライアルと前走を共に2着。
2歳時ヒダカシュウホウ共々最も出世していた、しかし銀の鞍賞では8着と1番人気を裏切ったマルチタイガーも登場。前々走3ヶ月半のブランク明けが南国優駿トライアル、これは6着止まりだったが前走古馬D6戦で2着と復調気配。
マンペイ記念で豪快に追い込んで2着したホーエイミラクルは南国優駿トライアルは3着ながら、前走取り消しが気になるところ。
と、このあたりが予想紙のシルシもソコソコ及んでいる、また注目に値する馬であろうか。

パドックから発走まで
第9レースの締め切り前の時間、パドックでは誘導馬が1頭散歩。この誘導馬クンが、柵沿いの生け垣の葉を、ガシガシと貪り食うのである。「ぎょえ〜ムッチャ食っとるやんけ!」とリーダーもびっくり。そしてパドック周回が始まったのは3時半過ぎ。やや西に動いたものの、南国の太陽の位置はまだまだ高い。
1番チュウオーマイピヤ。若干緩そうではあるもの、実の入った胴は悪くない。馬体張りも毛艶も良好、黒鹿毛が光る。マンペイ記念5着、南国優駿トライアル4着で前走5着。
2番チュウオーシャトル。出世は遅く3歳1組戦すら未経験だが、前4走2勝2着2回、前走2組で勝利。注目はその血統。全姉チュウオーパールは昨年のマンペイ記念3着で、休養明けの今年初頭以降、破竹の進撃をしている馬である。そして今最も勢いのある種牡馬レオグリングリンの産駒。二人曳きで終始煩い気配で小走りに周回。次第に発汗が目立ってくる。馬体重437kの値通り、ややスマート。胴長体型でそのラインのしっかりしたあたりはレオ産駒らしいが、もう20k目方があればと思う。
3番ユタカビジン。馬体重411kは前走比-10k。数字通り華奢、ガレた感すらある。加えて馬体に張りもない。南国優駿トライアル5着で前走4着。調教で時計が出せていない点が気になる。不安を抱えているのか。
4番ホーエイミラクル。肩が低くてやや胴が詰まったフォルムはこの馬の特徴。毛艶も張りも文句ない。リラックスしてしっかりと歩んでいる。好印象。
5番カミケンマック。マンペイ記念時と異なり、頭絡がメンコの下、素顔でレースを走る模様、ガッシリとした骨格で筋肉ムキムキ、非常に剛直な馬体。明るい鹿毛、毛艶も張りも良好。ただ後肢の送りがムチャムチャぎこちない。どうやら左トモがピョコピョコとしか出ていないようだ。これが印象をスポイルしている。
6番マルチタイガー。毛艶はソコソコ、張りもまあある方。煩めに気合いを出した周回。獰猛なイメージがあり、もっと大きい馬だと思ったのだが、馬体重448kで見た目にも割と小柄。踏み込みは強くない。周回の途中、何が誰が原因かは分からぬが、ホーエイとカミケンとこの馬が連鎖反応的に突然暴れる。この後マルチは周回を離れ、パドック入り口横で待機させられることに。
7番ミツキノミヤロン。大人しい周回。馬体重430kと小柄だが、ちょっとヒ腹もトモも貧相。マンペイ記念7着、前走9着最下位負け。先行したいクチながらも、最近出遅れ癖がついているよう。
8番テイケイミチカヒメ。背が高さと立った首の角度が目立つのはこの馬のフォルムの特徴。腹回りに余裕があったマンペイ記念時の馬体重481kはやはり太かったか。今日は473k、数字通りに今回の方が断然スッキリとシャープな馬体だと思う。灰色芦毛の体表にうっすら発汗して馬体が黒く光り、見た目もいい。二人曳きながらも、この馬としては落ち着いている方なのでは。
9番ユタカオヤシオ。毛艶はソコソコのレベル。馬体重450kは前走比+9k、やはりちょっと馬体の張りに欠けるか。トモの送りはやや弱い。そして暑さでキン○マが下がり気味。これも二人曳きで、はじめはじんわりとした気配だったが、次第に細かい動作が目立ってくる。
パドック気配で好印象だったのは、チュウオーマイピヤ、ホーエイミラクル、そしてテイケイミチカヒメ。殊にテイケイは思ったよりずっとイイ。もりも先生はチュウオーシャトルの出来に目が行ったそうだ。

本馬場入場から返し馬。1900mと長めの距離を走ることもあってか、どの馬のウォームアップも軽め。ガッと行きそうなマルチタイガーですら、徳留騎手に手綱を抑えられ、そう強く駆けない。ホーエイミラクルやチュウオーシャトルは手綱に余裕を充分持たせた軽めの走り。テイケイミチカヒメは今回も口元にゴボゴボと泡を湛えつつ登場し、全くの楽走で。ユタカオヤシオが最後に流して通過。
予想。ポイントだと思うのは1900mという距離。高知の3歳馬が、デビュー以来ここまで走り得た地元の最長距離レースは、1600mの南国優駿トライアル一鞍のみ。これから300m、テイケイミチカヒメら、千四戦までしか経験のない馬にとっては一気に500mの距離延長となる。加えて、テイケイミチカヒメにカミケンマック、マルチタイガーといった人気どころが先行馬、それもかなり行きたがりそうなクチであり、距離延びての不安が感じられるところ。そのあたり、もりも先生も「中団からの馬にも注意を払いたいね。」と言及されておられた。同感。
ということで期待したのは、ユタカオヤシオとホーエイミラクルの差し馬2頭。いずれも勝ち切れないこれまでの戦績だが、距離延びて良さそうなので。そしてテイケイミチカヒメとカミケンマックの人気どころ。テイケイは事前には評価を落とそうと思っていたのだが、実物観て翻意、それなりに厚く。逆にカミケンは歩様をはじめ目にした印象が?であるため、押さえ程度。以上4頭のボックスを、強弱をつけて。加えてお楽しみはチュウオーシャトル。予想紙上では無印、格上挑戦でもあり、狙うには早過ぎるきらいもあるが、躍進に期待して、ここから上記4頭に軽く流す。

レースなり
いよいよレース。距離1900mの発走地点は2コーナーを立ち上がったところ。ここから1周と3/4。
ゲートオープン。一見外枠勢の出が良い。中からカミケンマックが好ダッシュで一旦はハナ。しかしながら向こう流し半ばまでに、外からテイケイミチカヒメが鞍上花本に押され、それを制して前へ、そしてハナを奪う。マルチタイガーがこれら2頭に続く、やや行きたがっているか。ミツキノミヤロンはやっぱり出負け、後方からの競馬を余儀なくされる。内でチュウオーマイピヤは好位やや前、同列にホーエイトップは意外な前付け、ユタカオヤシオはこの後ろ、まずは中団外目から。
正面スタンド前。先頭はテイケイミチカヒメ。2馬身弱離れて2番手にカミケンマック。両者やり合うことはなくそれぞれ折り合っての走り。やや開いて好位集団、内チュウオーマイピヤ、外にマルチタイガー、次列内にホーエイミラクル外にユタカオヤシオ。これを見てチュウオーシャトルが追走。ちょっと離れてミツキノミヤロンとユタカビジンが後方。

1周目(34KB)
最初の正面スタンド前
先頭の芦毛がテイケイ、2番手カミケンマック

1、2コーナーから向こう正面へ。テイケイミチカヒメは相変わらずカミケンマックに2馬身ほど先んじての単走。追うカミケンマックもビッタリと。
勝負が動くのは向こう流し半ば手前。テイケイミチカヒメ、鞍上花本騎手のアクションが大きくなり、それに叱咤されての先頭死守。が、ここでカミケンマックが仕掛ける。テイケイの外へ馬体を併せに。ここでマルチタイガーが好位から前へ一気に寄せ、カミケンのさらに外へ。これで隊列は前3頭とそれ以下とに分断された。ユタカオヤシオは後方勢のフロント、外から押し上げようとするが、3、4コーナーでの動きは今一つ。同列のチュウオーマイピヤやホーエイミラクルも伸びを欠く。このあたり、最も脚いろに勢いがあったのはマルチタイガー。「(馬券買ってないから)オマエは要らんのぢゃ!」と思わずワシ。
4コーナー、僅差先頭でテイケイミチカヒメが、インを大きく空けて、マンペイ記念時同様巧くはないコーナリング。外のカミケンマックはテイケイより更に外へ張って回る。カミケンの外に併せていたマルチタイガーはこれに突っ張られて、大外に押しやられてのコーナー。

最後の直線(33KB)
最後の直線半ば
外カミケンマックと内テイケイミチカヒメがタイトに叩き合う

そして最後の直線を向くと、カミケンマックが満を持してテイケイミチカヒメを交わし、先頭に躍り出る。そしてゴールへ。マルチタイガーは直線に入ると伸びを欠きここまで。勝負は前2頭の争いに絞られる。一旦は半馬身強は前に出たカミケンだが、残り100あたりからテイケイが内で差し返して、再び際どい叩き合いとなる。更に残り僅か、直線に入って何だかんだで追い上げたユタカオヤシオが最内をスルスル差し込み、前2頭に迫る。ゴールまで3頭が1馬身圏内で競り合う接戦となったが、最後はカミケンマック、テイケイミチカヒメをクビ差振り切って、嬉しい重賞初V。ゴール板通過後、鞍上倉兼騎手「でゃ〜!」と吼えた。
2着テイケイミチカヒメ、3着半馬身差でユタカオヤシオ。4着に最後差し込んだチュウオーシャトルが1馬身半差まで。マルチタイガーは最後の直線伸びず、3/4馬身交わされて5着。ホーエイミラクルは不発、4馬身差で6着。7着好位から伸びなかったチュウオーマイピヤ。後方ママのミツキノミヤロンとユタカビジンがブービーと最下位。

カミケンマック(46KB)
そして勝者はカミケンマック
西陽に馬体を光らせて、Vゴール

勝ったカミケンマックと惜敗のテイケイミチカヒメ、今回は充実度と上がり目・勢いの差が出たような気がする。互いに道中は己のペースで進めることが出来たようでもあり、最後も僅差。両者の間に、距離適性や地力の開きはそうはあるまい。まあ、「オトコの意地」は出たかも。
ユタカオヤシオは終いよく追い上げトップ争いに絡んできたが、やはり勝負に遅いか。チュウオーシャトルの差し込みは大勢決してからのものだったにせよ、現状の格を思えば好走だろう。
マルチタイガーの寄せは見せ場となり、馬券を持っていないワシとしては相当焦ったが、結局止まった。やはり距離が長かったか。ホーエイミラクルは道中好位からでこの馬にしては前々の位置取りだったと思うが、遂に来なかった。まあ、見込み過ぎたかな。

おしまい
終い接戦で見た目にはなかなかの好レースだったとは思う。が、勝ち時計2分14秒2は、'97年に距離1900mとなって以降、このレースのタイムとしては最も遅い、それも格段に遅いもの。事実、前半3ハロン41秒8(実況の橋口アナが告げる)に上がり3ハロン42秒5は、相当緩く、平々凡々なタイムとのこと。先行勢が折り合って進みつつも、上がりのスピード勝負にもならなかったという、ちょっと「何だかな」といったレースであったとも。
とまれ、結局は人気馬どうしの、馬券的にもド本命サイドでの決着、それも僅差。上位勢が拮抗しつつ、切磋琢磨して今後戦いつつ、秋の三冠最終戦の荒鷲賞を迎えてくれれば・・・
などと、悠長には言ってられないのが実は現実。というのも高知の3歳勢、今回走った面々の上に、1頭"隠れトップ"が存在する。「ヒダカシュウホウ?」違うんです、これが。
――スカイプリティー。兵庫デビューで、彼の地では、未勝利馬ながらも春の重賞フクパーク記念に登場し、接戦となった2着争いを4着に持ちこたえた馬である。これが先月に高知へ。以後2戦して、2組戦と1組戦を連勝。殊に前開催の1組戦では、カミケンマックやユタカオヤシオ以下、有力どころをまとめて下している。「そういえば今回何か1頭足りないと思ったんだよな。」と、もりも先生も言及されたが、他地区デビューであるが故に、南国優駿への出走資格がなかった模様。「(既存の有力どころが)こんな程度のままだと、荒鷲賞はスカイプリティーに持ってかれるぞ。」といった、地元の事情通の方の声も聞かれた次第。
「そうはさせじ。」とばかり、今回目にした面々には、生え抜きの意地で頑張ってもらいましょうか。「『突然化けるレオグリングリン産駒の法則』に従って、ここはひとつ、チュウオーシャトルに期待しようかな。」とはもりも先生のオコトバ。ワシも「右に同じ」でございますぅ。

2002.7.27 記

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