第14回農協牛乳杯観戦報告

 2002.7.28、金沢、1500

はじめに
今回観戦したのは農協牛乳杯。現在6つ存在する金沢の古馬オープン重賞のうち、唯一の1500m戦である。金沢競馬のレース体系においては、オープンA1クラスは日頃1700m戦以上で行われるので、バリバリのオープンを張り続けている馬にとっては、年に滅多にない短距離戦の機会となる。というわけで、いわゆる「"キャラ"の立った」重賞であり、また、発走地点のバリエーション豊富なこの競馬場らしいレースでもあろう。ワシが勝手に進呈している「金沢競馬7月名物」のキャッチコピーも、あながちオーバーでもないと思う次第。

当日の概況
関西では20日の梅雨明け以降、連日晴天・猛暑が続いて、この間夕立すらない。そしてこの日も晴れ。朝から暑い。住処から最寄りの駅まで歩くだけで汗ダクになる。
特急サンダーバードに乗って金沢へ。車窓の景色、途中福井県内あたりは薄雲が広がっていたが、到着した金沢はしっかり晴天。ただし快晴ではなく、空には雲が結構浮かんでいる。湿度は高くなく、風が強くて比較的爽やかなので、日陰でじっとしている分には過ごしやすい。「去年(の暑さ)よりは全然ましや。」とは、昨年に続いて今年も一緒に観戦の、最近ちょっと御無沙汰だった"同志"ディープさん。
馬場状態はバッサバサの良。馬が駆けると砂埃が舞い立つ。レースの合間に散水車が水を撒くが、それもすぐに蒸発してしまう。
概ね先行有利。道中先団と中団以下が別れる隊列になるレースが多いが、三分三厘で先行グループにいないと、連入は叶いそうもない。

競馬場に到着したのが正午。ちょうど第3競走、アラブ新馬戦の発走前。「今日日(きょうび)アラブの新馬戦に1着賞金150万円出す競馬場なんて他にないですからねえ。」とディープさん。新馬戦だけあって枠入りに非常に手間取っての発走。勝ったのは1番人気ダイスノーブル、逃げ切り。「母スノーノーブル、トチノグレイスの弟かあ。」とは、繁殖牝馬と産駒のネタには異常に強い同志のフォロー。
第7レースはB級3組戦。注目は4歳チョウヨープリンス。昨年の初夏の頃は、ダイリンフラワに次ぐ、世代2番手と目された馬で、福山の瀬戸内賞に遠征までした馬(痛恨の出負けで5着)であった。が、その後さっぱりで、ライバル達には出世でドバドバ抜かれ、気がつきゃタダの条件馬。それが今日は、先行抜け出し押し切りの強い勝ち方。何と昨年4月以来の勝ち星。
第8レースのC1の2組戦では、あのライジングトウザイの半妹、ヤングスーパーが、これも先行押し切りで勝利。馬体重543kの巨体を山中騎手に叱咤されて、なかなか見栄えのある走りであった。

出走メンバーについて
さて、メインレースの農協牛乳杯。出走馬は内枠より以下のフルゲート12頭。()内は騎手、斤量。
ホーエチャンピオン(山中、54k)、ダイリンフラワ(米倉、53k)、ダブルシックス(熊木、54k)、サクセスフレンド(中川、54k)、ロックウイット(長嶋、53k)、アラブドラゴン(平瀬、54k)、エステイヒーロー(端、54k)、キミノミネフジ(古性、54k)、スーパーベルガー(蔵重、53k)、ベストイチ(吉原、54k)、ニシノエンジェル(桑野、53k)、ニシノリュウジン(堀場、53k)
ダブルシックスは当初騎乗予定だった加藤騎手から熊木騎手に変更。
牝馬はダイリンフラワ、スーパーベルガー、ニシノエンジェル、ニシノリュウジンの4頭。別定重量戦とのことだが、A1初挑戦となるロックウイットが1k軽いのを除けば、ほぼ牡馬54k牝馬53kの定量戦と考えて差し支えない状況。

現在稼働している古馬オープンの有力どころがあらかた出揃ったが、注目は何はともあれスーパーベルガー。今月2日、全国交流セイユウ記念、強豪相手に真っ向勝負の自力駆けを挑んでの2着は記憶に新しいところ。5月の重賞黒百合賞の勝利も相まって、その実力、今や疑うべくもない。この金沢の新女王が、1500mという短めの距離でどのような走りをするのか。これが最大の焦点である。
因みに今年6月全日本アラブ優駿を制したチョウヨームサシは、前開催A1で3着に負け、今開催はA2格付けなのでここへの登場はなし。そのA2戦は前日、またもや3着。「現時点でA1やA2に格付けされるのは厳しいかな、とも思われるが、しかしこのメンツのA2戦で負けるのはいかがなものか。」といったところ。まあ、楠賞馬が夏場休養もせず走っているのも大したものだが。

パドックから発走まで
この日は全12レース施行。そしてメインレースは第11レースで16時15分発走。ということで、3時45分過ぎになって、ようやくそのパドック周回が始まる。
1番ホーエチャンピオン。セイユウ記念8着後の前走は2着。調子はぼちぼち悪くないと思われる。いつもながら張りに富んで毛艶の良い馬体。そしてトモの踏み込みが浅いのもこの馬なり。馬体重509kは前走比-11kでセイユウ記念からも-5k。馬体のフォルムもスッキリした感じ。非常に皮膚が薄く見える。
2番ダイリンフラワ。昨年のこのレースを、圧倒的な捲り差しで華々しく制したが、昨秋に勢いが鈍り、今季も戦績は今一歩。A2戦を1勝したのみ。前開催も直前で出走取り消し(右前肢跛行)しており気になるところ。腹回りだけが重く、それ以外のパーツは華奢に見える。元々絶好時でもさほど格好いい馬ではなかったが、これはイマイチの出来か。
3番ダブルシックス。今季A2では2着3着各1回あるが、A1に入ると着外連発という現状。胴長体型でスッキリしたフォルム。ルックスは悪くないがちょっと痩せ過ぎか。トモの力強さにはやや欠ける。
4番サクセスフレンド。昨年の金沢アラブ系年度代表馬も、今季は開幕以降なかなか馬体が絞れず、レースでも息が続いていなかったが、前走前開催、待望の初勝利を挙げた。馬体重は前走比-6kの463k、セイユウ記念から9kも絞れた。その数字通り、腹回りなどがセイユウ記念時より格段にスッキリしている。ちょっとキン○マは下がっているが、程良く気合いが乗って、非常にキビキビとした身のこなしで、踏み込みもしっかりしている。「僅か4週間弱の間に、競走馬ってこれだけ良化できるもんなんだなあ。」と、ちょっと感心してしまった。
5番ロックウイット。ここ2走A3とA2を連勝中で、前述の通り今回A1初挑戦。周回の途中で膠着したり、細かい動きが目立ったりと、煩さを感じさせる場面が多い。馬体重456kよりも小さく見えるのは、格下という先入観が故か。
6番アラブドラゴン。セイユウ記念殿負け、前走はA1で7着。馬体重532kの大型馬。その通り大きく見えるアングルと、そうでもないアングルがある。ゆったり大人しく周回している。
7番エステイヒーロー。前走セイユウ記念7着以来の実戦となる。この時は渡辺騎手突然の体調悪化による乗り替わりだったが、今日も渡辺騎手は欠場で乗れず、今日は端騎手。例によって二人曳きだが、この馬にしては大人しい方。元来見栄えのしない馬ではあるが、毛艶は悪いし、トモの歩様も硬い。これでどうか。
8番キミノミネフジ。前々走A2に落ちて今季初勝利。前走はA1で6着。A1では常時掲示板に載り得るが、ちょっとパンチ力不足か。パドックの大外をゆったり周回。歩幅は小さく、踏み込みは弱い。発汗は目立たない。
そして9番スーパーベルガー。前開催は休み、セイユウ記念以来の実戦である。馬体重497kはその前走より+5k。見た目にも、馬体が全体的に余裕を持った感じ。ダブダブしたわけではないので全く許容範囲かと。踏み込みはそれなり、落ち着いて、かつしっかりと周回。この馬の出来としては並であろうが、雰囲気はサスガ。次第に鞍下や胸前に汗が滲んでくる。
10番ベストイチ。セイユウ記念はブービー、前走はA1で4着。相変わらず届かない追い込み馬。馬体重504kは今季最も絞れた値。それでも元来の体型故か、腹は重くポテッとしたまま。大人しく周回しているが、どうもやる気の無さを感じてしまう。
11番ニシノエンジェル。前走は前々開催のA2でキミノミネフジの2着。A1では家賃が高いか。青鹿毛の馬体が黒光りして見栄えがする。身のこなしもキビキビとしたもの。予想紙によれば出来は良いそうで、成る程といったところ。
12番ニシノリュウジン。今春兵庫から当地に移籍したが、何とか掲示板に載れるかどうかで、今ではA2でも苦しい。毛艶はソコソコ、胴の実入りは充分、兵庫時代に比べればかなり太い。それでも全体的にはスカッとしてきた方か。
時季が時季だけに、発汗の目立つ馬が多い。ただエステイヒーローは、この馬としては今日はそれが目立たない方。
パドックでの印象だけなら、スーパーベルガーはともかくとして、サクセスフレンドの気配が絶好。ホーエチャンピオンもいい。

本馬場入場。出走馬が外ラチ沿いを曳かれて登場。ホーエチャンピオンは今日も一角方向には直行しない。そしてスーパーベルガーはセイユウ記念時と同様、ずっと曳かれていって、最後に曳き綱を放される。
暑い時季であるからか、大半の馬が駆け出して、順回りにコースを走って、4コーナーポケットの待機所にそのまま直行、まる1周は返し馬をしない。その中で、ホーエチャンピオンとサクセスフレンドの2頭だけは、正面までやって来てホームを流した。

予想。スーパーベルガーの軸は鉄板だろう。相手もサクセスフレンド、エステイヒーロー、ホーエチャンピオンまでだろう、と。事前にはダイリンフラワも気になったが、前走取り消しのいきさつなどから、狙うに値しないと判断。
それにしてもオッズ、スーパーベルガー一本被り、それも上記3頭への目が断然で低オッズ。買い目を絞るか徹底穴馬券かでないと黒字は無理。が、ここでワシ、何とも中途半端に、ベルガー2着流しの連単など買う。「距離千五でひょっとしたら素軽く動けず勝ち切れないかも。」とか思ったりして。エステイはあまり好印象でなく、また、やはり渡辺騎手が乗れないのは好材料ではないと思うので、保険程度に。
期待はサクセスとホーエ。「ホーエチャンピオンが千五で勝つってのもピンとこんなあ。」とはディープさん。「でも今のホーエ、二千はおろか千七でも最後伸びずにデレデレ走ってるからねえ、まだ短い方が押し切れる余地があるとも思うんだけど。」と返すワシ。

レースなり
さてレース。距離1500mの発走地点は4コーナーのポケット。
ゲートが開く。比較的揃ったスタートの中で、やはりハナを奪ったのはサクセスフレンド。二の脚鋭くインで先頭に立つ。次列は固まって先団を形成。内からホーエチャンピオン、外からスーパーベルガー、早くもこの位置をガッチリキープ。この2頭に挟まれ、ロックウイットとエステイヒーローもこのあたり。行きたいクチのダブルシックスやニシノリュウジンはそれが叶わず中団以降。ダイリンフラワは後方から、例によってベストイチが殿。といった具合に正面スタンド前を通過。

1周目(33KB)
スタートして最初の正面
サクセスフレンドがハナを切って、次列インにホーエ外ベルガー

1、2コーナーから向こう流し。先頭サクセスフレンドのリードは3馬身くらい、気合いは乗りつつも中川騎手との折り合いは問題なく、ジタバタしないいい感じの逃げ。次列には内ホーエチャンピオン、半馬身程下がって外スーパーベルガーが共にビッタリと。少しあって次に内ロックウイット外エステイヒーロー。ダブルシックスとニシノエンジェルがいて、ダイリンフラワがやや位置を上げ中団のイン。先団から中団まで、比較的等間隔、隊列は間延びせず進む。
勝負所と思われるバック半ば、「エステイヒーローあたりは仕掛けるならここ」と思ったのだがその動きは目立たない。未だ緊張感維持の淀みない道中進行。
レースが動くのは向こう流しの半ば過ぎ、三角手前。ホーエチャンピオンがサクセスフレンドとの差を詰めるべく寄せ、同時に(このあたり、どちらが先かは不明)外からスーパーベルガーも、蔵重騎手のアクションが大きくなりジワリと。これで2頭はサクセスフレンドに急接近。3コーナーを回る頃には、内サクセス中ホーエ外ベルガーの併走状態になり、三分三厘では、後続を大きく引き離し、勝負はこの3頭に絞られる。
ホーエとベルガーが仕掛けた時点で、その後ろでは、インからダイリンフラワが上昇し、エステイヒーローも外から呼応した形になってはいたが、始動した位置の差と現状のパワー差は如何ともし難く、前3頭との差は詰まらない。

最後の直線(35KB)
最後の直線、残り100を切って
抜け出すベルガー、内で粘走サクセス併せるホーエ

4コーナー、コーナリングの妙で一瞬3頭横一線になったが、直線に向いてグッと出たのは外スーパーベルガー。突き放しはしないものの、着実に2頭に差をつけていき、決して相手より脚いろを鈍らせない。結局着差は1馬身半なれど、印象としては完封のVゴール。勝ち時計1分36秒1は速い。クラス差が歴然にせよ、同距離の第9レースのそれと2秒9も違う。また、過去5年のこのレースの中でも一番のタイム。

スーパーベルガー、ゴールへ(44KB)
スーパーベルガー、ゴールへ
バンテージ、メンコ、手綱、蔵重jkの袖、全てがピンク!

サクセスフレンドvsホーエチャンピオンの2着争いは熾烈。直線いっぱいを終始半馬身圏内でビッチリ叩き合った。斬れないもののブリブリと迫力で抜けんとする外ホーエに、バテずタレず必死に抵抗する内サクセス。残り100あたりで一瞬ホーエが前に出たようにも見えたが、最後はサクセスが差し返し気味に前に出て2着。クビ差ホーエチャンピオンが負けて3着。
ここまでがリアルタイムで確認し得たところ。4着には何だかんだでダイリンフラワが差して、3馬身差に迫っていた。5着クビ差でエステイヒーロー。アラブドラゴンが好位ママで6着。7着追い込み届かぬベストイチ。以下省略。

振り返って、そしておしまい
スーパーベルガー、まさに盤石といった勝利。「強いなあ、負ける感じがしないもんなあ。」とワシが言うと、「でも(勝負所から)押っつけ押っつけだったけどね。やっぱり千五のペースだよね。それでもキッチリ勝てるってのが、やっぱり。」と栃さん。ディープさんも「確かに、距離はあった方がこの馬には向いてるでしょう。」と。
サクセスフレンドの2着もいい走りだったと思う。逃げ馬が後半叩き合いに持ち込まれて、交わされつつも最後まで脱落せず踏ん張り切れるというのは、状態と実力が高ければこそ可能な事であろうし。「全然良化してるわ。」と、戦前戦後通じワシはかなりくどく強調したのだが、「ホントねえ、馬体重通り絞れて上向いてきたってことだろうね。」と栃さんも納得されていたよう。「よしよし、一点で仕留めたぞ。」とはディープさん。
ホーエチャンピオンの3着は、概ね見込み通り。勝負手としても、先団からの早めの寄せで問題ないだろう。ただ、どうしても終いの伸びが甘いな。
ダイリンフラワの4着は、順調さを欠く現状からすれば地力の一端が現れたものと解釈できよう。「何だかんだで4着に来てるんだ。やっぱり力あるよねえ。」と栃さんも。
エステイヒーローは道中明確な仕掛けのアクションがあってほしい。相手なりに動くような競馬はらしくないと思う。端騎手は前々走この馬を勝たせてはいるが、やっぱり渡辺騎手鞍上で観たい。こればっかりで恐縮だが。

スーパーベルガー、レース終わって(36KB)
レース終わって、引き揚げるスーパーベルガー
馬は余裕綽々、蔵重騎手はビジョンを見つめる

最後に少々。実はスーパーベルガー、昨年のこのレースの日、第9レースのC1−1組戦に出走して、勝っている。5戦3勝で迎えた6戦目で、これが初の1500m戦。「その時もローレルベルガの娘として注目してたけど、当時は短距離の逃げ馬って感じやったなあ。それが1年で・・・」とはディープさん。そう、1年で。いくらデビューと出世が遅れたとはいえ、1年で全国屈指の強豪にして、日本最強(恐らく!)アラブ牝馬にまでのし上がるとは・・・驚嘆の極みなり。
一方この1年を、昨年の覇者、同級生の牝馬ダイリンフラワはどう思う?「フンッ!去年のアタシの方がもっとイケてたわよ。」と強がるか、「金沢トップなんて、堅苦しそうで興味ないから蹴っただけ。」とうそぶくか。それとも「今にみてらっしゃい。必ずギャフンと言わせてあげる、それも大きなところで。最後に目立つのはアタシ!」と、派手に出し抜かんと虎視眈々か。どっちにしても、ベルガーの引き立て役だけは絶対イヤなんだろうな。と、何故かこの馬には、勝ち気で気分屋なキャラを振ってしまう・・・

とまれ、「スーパーベルガー、大きなところ(全国交流級の大舞台ということです)で走らせたいよねえ。年度の後半、そういうのがないからねえ、ホントに・・・」との栃さんのオコトバが、このレースの、そして勝者スーパーベルガーの走りに対しての、ズバリ総括といったところでしょう。

2002.7.31 記

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