第1回鳳凰賞観戦報告

 2002.9.16、門別、1200m

はじめに〜生涯初の北海道旅行、ついでに道営競馬も
ワシにとって道営競馬は、現在アラブ系競走を施行している地区のうちで、唯一未踏の場所。何しろ北海道、遠いし、日帰りするには勿体ないしそもそもちょっと無理なので、なかなか訪れる機会がなかった。
が、今年、千載一遇のチャンスが到来した。9月半ば、敬老の日を含んだ3連休、その最終日に門別で2歳の新設重賞があるという。加えて前日日曜日には、ばんえいの岩見沢記念が施行されるそうだ。このオイシイ日程に、仲良し(とワシが勝手に思い込んでいるだけかも!?)の"リーダー"前田っちが北海道へ渡るとのこと。「一緒に行きます?」と声を掛けて下さったので、「渡りに船」とばかりに御言葉に甘え、航空券や宿の手配等段取り一式を完全にお任せし、完璧リーダーにぶら下がって、晴れて北海道へGo!ということに相成った次第。あと1週間で誕生日を迎えようという、32歳の崖っぷちにして、生まれて初めて北海道の地を踏むこととなった。

正直な話、この旅の最大のメインは岩見沢記念であり、また、ワシにしては珍しく、観光したり鉄道乗り回したりと、内容盛りだくさん(?)。旅行記という主旨であればこれらについてが中心となるところだが、これはあくまでアラブ重賞の観戦記なので、それらはバッサリ割愛して、以下、記しますぅ。

門別への道、そして当日の概況など
というわけで旅の最終日の9月16日、振替休日の月曜日、2泊した札幌の宿を出て門別へ。我々と同様、岩見沢記念−門別という旅程になった"同志"ディープさんが、新千歳空港でレンタカーを借りてくれるので、それに同乗させていただく。これに、同じく前日岩見沢観戦だった『競馬美食倶楽部』主宰の環ちゃんも加わり、関西人4人での、北海道競馬ハシゴの巻である。ディープさん運転のクルマは快調に走り、ものの50分ほど、カーステレオで聴いていたCDが1枚終わらぬうちに、門別競馬場に到着してしまった。
競馬場に着くすぐ手前(2km弱か?)、とある牧場の看板に「ア・ア ミスタージョージ、ア・ア ミスターオリビエ繋養」とあるのを認めて、「ウォ〜!」と喚声をあげる4人。これが車中最も盛り上がった瞬間という、何とも。オマエラワイッタイナニモンヤ・・・

時間は11時半過ぎ、入場。天気は晴れ。うろこ雲が空の多くを覆うが、雲は薄いので、日差しの途切れる時間は少ない。心持ちヒンヤリとした、とても清々しい空気。ただ空気が澄んでいるからか、日差しは強く、日向は結構暑い。それにしてもこの3日間、全て好天に恵まれた。ひどい冷え込みもなく、気持ちよい涼しさを満喫できた。
入場門は4コーナーを回り直線の始まったあたり。ここからホームストレッチをその長さだけ歩かされ、やっとスタンドに辿り着く。スタンドは収容人数公称500人という甚だ狭い建物、敷地も狭い。スタンドの正面とゴール板前の間に、パドックが窮屈に押し込められているという変わったレイアウト。そもそもここは道営競馬のトレセンで、競走馬輸送コストの軽減を狙って無理矢理競馬場としたのが出自とのこと。「馬券は札幌をはじめ場外で売れればいい、本場発売は全くオマケ」という感ありありである。ちょっとお客さんが入場するだけでスタンドの中にも外にも人が溢れる。「今日は天気いいだけましやわ。雨や雪降ったら下手したらおる場所ないで。」とディープさん以下一様に漏らす。
早い時間に入場したのはいいが、今日はメインの重賞以外全てサラ系のレース、場内は狭いので散策する余地もないわ、食い物はあれこれ楽しむほどの種類も質もないわで、正直やることがない。午後まで長ぁ〜い時間を持て余して、暇に過ごす。

馬場状態は良。砂はそれほど深くなさそう。粒子がとても細かい砂のように見受けられた。
それにしてもコースが広い!1周1600m、直線325m、ワシが日頃見慣れた競馬場のコースのスケールとは全く違う。入場門の目の前に広がる3・4コーナーを目にしただけで「でっかいコースやなあ・・・」と思った。加えてコースの幅員も広い。

鳳凰賞について、そして出走馬
道営競馬にもかつては相当数のアラブ重賞が存在したそうだが、他の地区と同様、'90年代末以降大きくその数を減らしてしまった。2歳重賞も例外ではなく、'99年以降はジュニアチャンピオンただ一つだけが残った。
ところが今年、何故か突発的に2歳重賞が新設された。それが今回観戦することになった鳳凰賞である。これにより、道営の2歳馬には、ここを経て10月のジュニアチャンピオン、そしてあわよくば福山の全日本2歳アラブ優駿へ、という出世街道が出現したわけだ。

冒頭に記した通り、今回の北海道行きの主目的は岩見沢記念観戦であり、この鳳凰賞はぶっちゃけた話オマケ、「内容はともかく観られるだけでそれでよし」程度に思っていたのである。が、事前にちょっと予習してみると「おおっ!これは・・・」とワシに思わせる馬の存在が1頭。俄然このレースへの関心が高まり、この日を迎えることになった次第。

その出走馬は内枠より以下の13頭。門別はフルゲート16頭なので、これでもフルゲートに満たない。()内は騎手、性、斤量。
ロゼッタストーン(岡島、牝、53k)、ランハイユーノス(服部、牡、54k)、ツルギビッグワン(宮崎、牡、54k)、グレートミッチャン(酒井作、牝、53k)、サンダーソレイユ(中村、牝、53k)、センターロイヤル(井上、牝、53k)、ダイヘイゲン(齋藤、牡、54k)ヤタノサウス(川島雅、牡、54k)、アトミックタイム(川島洋、牡、54k)、ビミョウ(坂下、牡、54k)、スキナパグ(櫻井、牝、53k)、キタノルーチェ(千葉、牡、54k)、ピアドクレバー(竹内、牝、53k)
ハンデは馬齢定量、牡馬54k牝馬53k。牡馬7頭に牝馬6頭。

前述の「おおっ!これは・・・」な注目馬はダイヘイゲン。デビュー戦こそ2着に敗れたがその後5戦全勝。「道営に強そうな馬がいる。」と夏場に栃さんや宇田山さんに聞かされて以来気に留めるようになり、戦績も確かにいいとは思ったのだが、もう少し踏み込んでこの馬のスペックを注視したところ、それだけでワクワクしてきてしまった。すなわち「父イムラッド、芦毛、馬体重500k」。ワシは元来イムラッド産駒ファンではあるのだが、こう特徴を列挙すると、想起されてしまうのはやっぱりペルターブレーブ。彼が引退してしまった、そのココロの空白を埋めてくれるが如く出現した、スター候補なのである。「観る前からそんなに期待していいんですかぁ?実物ムッチャモッサかったらどうします?それに父イムラッドでしょ、超早熟なだけかも知れんし。」とディープさんから突っ込みが入る。それを承知で、今回だけは自分から勝手に盛り上がっているワシである。

パドックから発走まで
さてパドック。
1番ロゼッタストーン。馬体重414kの馬体重通り小さく、馬体の線が細い。二人曳きで鶴首になって周回と、気配は煩いか。7戦1勝2着1回。
2番ランハイユーノス。その名からわかるようにニホンカイユーノス産駒。ベルベットのような毛艶の灰色芦毛。周回前半は内の厩務員さんに顔を預けて周回。やがてゆったりと歩くように。前との間隔が開く。周回のスピードが上がらないのは父譲り?5戦1勝。前走9月11日に未勝利を脱し、今日は何と中4日。
3番ツルギビックワン。馬体重508kは出走馬中最大。チャカチャカ周回する馬が多い中、ゆったり落ち着いて歩いており、それが目立つ。馬体張りと毛艶はまあまあ。7戦1勝2着4回。その1勝はデビュー戦、ダイヘイゲンを破ってのもの。ちょっと終い勝ち切れないレースが続いていると予想紙の馬柱からは窺われる。
4番グレートミッチャン。馬体重374k、その値通り華奢、加えてピーキーな気配。発汗もキツい。6戦1勝。1勝はデビュー戦でのものだが、以後5戦は全て着外。
5番サンダーソレイユ。馬体重450kとそれなりの馬体だが、線は細めでチャカチャカしている。7戦1勝2着1回、3走前ダイヘイゲンの2着に粘ったのが最近の好走例。逃げたいクチのよう。
6番センターロイヤル。首の高い姿勢でこれも煩めの気配。ホーエイヒロボーイ産駒だがそれらしい重厚さはない。ルパンユイナのクニャクニャした体型が近いか。「この馬ナニワレディーの半妹ですわ。」とディープさん。11戦1勝2着3回。近走では常に最後差し込んで掲示板入りを果たしている。
7番がダイヘイゲン。馬体重504k、伸びやかな馬体。「馬体重500k越えてるようには見えないなあ。」とは環ちゃん。確かに重厚さはなく、イムラッド産駒としても首や胴や脚などはらしくなくスラッとしている方か。芦毛なのだが焦げ茶の毛色で、まだまだ全然白くなく、灰色にもなっていない。尾の先の毛が若干白いところに芦毛が窺われる程度。これがもう、落ち着きぶりが他馬と全然違っていて、1頭古馬が混じって回っているが如き歩み。断然の見栄え。
8番ヤタノサウス。悪く言えばギスギスと筋張った感じな、余裕のない馬体。8戦1勝。先団・好位を何とか持ちこたえる競馬が続いているよう。
9番アトミックタイム。馬体重422kと小柄、その数字通りスリムな馬体だが、黒鹿毛の毛艶は良く見せており、トモの踏み込みも深い。9戦3勝2着2回3着3回、戦績と獲得賞金はダイヘイゲンに次ぐ。前走のオープン戦を勝利。逃げ切り勝ちもあるが、差し・追い込みで良さが出るよう。
10番ビミョウ。今年の2歳馬で存在が確認されている、唯1頭のフォーモサボーイ産駒であるとのこと。いかにもそれらしい、顔が小さくて首差しが細長い、加えて真っ白な馬体の馬。終始煩い気配で、頭を厩務員さんに預けての周回。ちっとも前を向いて歩いてくれない。8戦2勝2着1回。テンのスピードに欠ける追い込み馬、そもそも短距離戦が全く合わないらしい。
11番スキナパグ。馬体重464kは前走比-8kだが、どうも腹のラインが緩いような。5戦1勝2着1回。この馬も9月11日の前走で未勝利を脱して、今日は中4日。
13番キタノルーチェ。これも鶴首になって煩い感じ。馬体重434kの薄い馬体。8戦1勝2着2回。前々走逃げ切って未勝利を脱した。逃げたいようだ。
14番ピアドクレバー。首の高い周回で時折小走りに。毛艶は良い方。7戦1勝2着2回。前走8月28日戦で未勝利脱出。
チャカチャカ煩い馬が目立つ。加えてこのパドックタイムの時間帯、隣のウィナーズサークルで準メイン第9レースの表彰式があり、時折拍手が起きる。これにナーバスに反応する馬が非常に多い。その中にあって、ダイヘイゲンの落ち着き払った周回というのが異様なほど際立った次第。「1頭全然違うもんねえ。やはりここはこの馬からで仕方ないですかな。」と栃さんと。

パドックの時間が終わると出走馬は本馬場へ。パドックはコースの外ラチに面しているので、外ラチを横切るだけで本馬場。4コーナー方向へ順次入場。そして3コーナーあたりから順回りに、各馬三々五々返し馬を敢行。ダイヘイゲンはやや遅れて、最後から2頭目に楽走で流す。最後にビミョウが通過。

予想。実物を目にして、ダイヘイゲンの軸が不動であるとの意をより強くする。考えるのは相手だけ。差しのセンターロイヤルとアトミックタイムを厚く抜擢。加えて追い込みとその血筋に期待のビミョウへ少し。ツルギビックワンはピリッとしない戦績から、事前には切ろうと思っていたのだが、ダイヘイゲンに次ぐ落ち着いた周回を見るにつけ、押さえとして少々買うことにする。しかしながら、ダイヘイゲンからこれだけ手広く買ってしまっては、どれが2着に来てもトリガミになってしまうわけで・・・そんな肝心なことに後で気が付くワシ。

レースなり
さてレース。距離1200m。広い門別コースにおいては、そのスタート地点は2コーナー、ここからコースを3/4で、馬場を1周しない。シャッターチャンスも限られる。「ダイヘイゲンは抜け出してくれそうやから難なく撮れるやろけど、土壇場でビミョウが大外突っ込んで来たら訳わからんで。」とリーダーが漏らす。正面スタンド前を1度しか通過しない重賞の観戦記を記すのは、実は今回初めてである。
ゲートが開く。最内ロゼッタストーンはドカ遅れ。外枠勢の出が目立った。が、次第にダイヘイゲンがジワジワとフロントに馬体を現してくる。内からはグレートミッチャンやランハイユーノス、外からキタノルーチェや大外ピアドクレバーあたりがフロントを目指す。やがてサンダーソレイユとヤタノサウスがそれぞれダイヘイゲンの内外の隣から押し上げて、ダイヘイゲン共々前列を形成する。ツルギビックワンは直後内か。
しかし3コーナーの進入直前で、ダイヘイゲンが先頭に。「あ!ダイヘイゲンもう動いた!」とばかりに場内がちょっとドッとくる。しかしそれもあくまで馬なりでのこと。馬場真ん中、1馬身強先んじ、後続を引っ張って三分三厘を回ってくる。続く次列は4コーナーでは横に大きく広がって一線、これらがダイヘイゲンを追う。

最後の直線(26KB)
最後の直線、ゴール前50mくらい
抜け出すダイヘイゲン、外目からツルギビックワン(赤帽)

そして最後の直線。先頭はダイヘイゲン。まだまだ余裕の走り。追いかける次列勢が本気になったからか、暫しその間隔が詰まる。直線半ば、残り200を切ってもその差は2馬身弱。しかしやがて追い出させると、スッと伸びて後続を離して、そのまま余裕充分でゴール板を駆け抜けた。2着との差は2馬身なれど、その実は完璧完勝。

ダイヘイゲン(45KB)
ダイヘイゲン、ゴールへ
楽走ということもあるが、フォームは硬い?

それを追った次列、横一線の2番手争いは熾烈。まずはじめに抜け出さんとしたのは最内アトミックタイム。しかし程なくその外からサンダーソレイユ。さらに外からこれを制して、ツルギビックワンがグッと前に。これが2着。3着サンダーソレイユは3/4馬身差。そしてここへやっぱり来た!大外からビミョウが追い込んで突如出現の4着、半馬身差。さらに連れて外からセンターロイヤルも。インのアトミックタイムと際どくなったがハナ差で5着センターロイヤル6着アトミックタイム。7着ヤタノサウスは次列横一線から伸び切れず。以下割愛。

2着以下(40KB)
2着ツルギビックワン、ゴールを通過
3着内サンダーソレイユ4着大外ビミョウ

レースが終わり、各馬引き揚げてくる。ダイヘイゲンが戻ってくると、スタンドからはささやかながら拍手が。鞍上齋藤騎手、それに手を挙げて応える。ダイヘイゲンの方は、息など全く上がっておらず、ケロッとしている。
続いてパドックで口取り撮影が。この間、ダイヘイゲンは無駄な動きを一切せず、全く大人しいまま、おすましで写真に収まっていた。

振り返って、そしておしまい
ダイヘイゲン。まずは問題なく勝利を手中に。逃げ切り勝ちとなったが、能力が抜けているが故といった感ありありで、単なる逃げ馬ではあるまい。「三角で先頭に立ったっていっても、むしろ抑え加減だったしね。余裕やわ。」と環ちゃんも振り返った。イムラッド産駒とはいえ、超早熟でもなさそう、まだまだ奥を感じさせる。「(いずれは他地区に転出するかも知れないけれど)12月には道営所属で福山(の全日本アラブ2歳優駿)にやって来て欲しいよねえ。」と栃さんと言い合う。真に実力馬かどうか、その判断は、10月14日の重賞ジュニアチャンピオン、距離1800m戦の結果を見てから下したいが、不安は少なかろう。注目馬がその期待通りの存在、それもグッドルッキングなものであってくれて、ワシはかなり嬉しい。ただ、ペルターブレーブと違って、フォームに伸びやかさはあまりないなあ。
ツルギビックワンは、やはり素質馬であったかという2着。もっとジリでモッさい走りだと思ったのだが、2番手集団から鋭く抜け出した。
サンダーソレイユも今日は仕掛けをやや遅らせての好位差しの体裁で3着。ビミョウは予想通り、勝負決してからの大外強襲。やはり距離伸びてからが楽しみではある。センターロイヤルはドサクサ紛れでどうにかこうにかといった5着。アトミックタイムは比較的早めに抜け出しかけたが、程なく他馬に抜き返されてしまった。

この日は最終レースの後に、あのオースミダイナーの引退式が行われ、今日のプログラムとしてはこれが最大のイベント。しかしながら、帰りの飛行機の時間もあって、それを観ることなく、最終レース前に競馬場を後にするディープさん以下4人。「この日にわざわざ門別まで行っておいて、オースミダイナーの引退式に目もくれず帰るわしらって一体何やねん(笑)!」と、車中の一同。
クルマは順調に千歳まで走って無事空港に。リーダー、ディープさん、ワシはこれで2泊3日の北海道滞在はお終い、帰阪。環ちゃんは北海道残留でお別れ。

さて、福山で待ってるぞ、ダイヘイゲン。その名の通り、茫洋たる雰囲気を、北の大地から瀬戸内に持って来い!

ダイヘイゲン、口取り(42KB)
口取り撮影のダイヘイゲン、逆光で真っ黒ですが・・・
スラッとしたフォルムと落ち着きぶりはおわかりいただけましょうか


2002.9.29 記

兵庫発アラブ現場主義ホームに戻る