第8回肥後さざんか賞観戦報告

 2002.11.20、荒尾、2000m

はじめに〜現地観戦のいきさつ
今回観戦したのは肥後さざんか賞。荒尾競馬の3歳重賞であるが、九州交流競走ではない。当初は全くノーマークで、観戦予定ではなかったのだが・・・
腰を上げることになった契機は、先月27日佐賀で施行された九州アラブダービーの結果にある。佐賀勢有利の前評判を覆し、荒尾のダイナマイトキングが圧勝したわけだが、レース後、"首領"Tienさんや、アラブ応援家の3号馬さんらが「ダイナマイトキングで勝てるんだったら、他の荒尾の上位勢(それは後述)出てくりゃよかったのに。」と振り返っておられた。続けて「これは来月の肥後さざんか賞が、どうやら九州3歳王座決定戦になりそうですね。」と。今年は荒尾の3歳勢とはあまり縁がなく、ここまで印象が薄かったのだが、こう聞かされると、"アラブの亡者"のイカレた血が騒ぎ出し、居ても立ってもいられなくなってしまったのである。

それにしても今年の九州3歳戦線は、全国レベルの流れとの連動・関わりに欠けたなあというのが感想。ハイセイアポロが瀬戸内賞に挑戦したものの、荒尾記念は楠賞全日本アラブ優駿の1週後に組まれるわ、秋の全日本アラブグランプリに出走表明する馬も出ないわであって。
尤も、九州アラブダービーの施行時期というのが、福山の主催者にとっても出走馬の陣営にとっても、全日本AGPへの参考レースたるには若干遅過ぎるのだが(ちょうど同日あたりに他地区出走馬が発表されてしまう)。昨年ここを勝って全日本AGPに挑んだコウザンシンオーにしても、前々から出走希望を出していてのことであるようだし。九州ADBを全日本AGPへのトライアル戦として明確に位置づけない限りは、現状ではちょっと面白くない(九州ADBが佐賀限定重賞アラブ優駿だった頃は、これが全日本AGPの前身西日本アラブダービーへの、優先出走権を懸けた一戦だったそうで。これはTienさんの御教授)。
加えて、九州アラブダービーの前週の水曜日に、今回の肥後さざんか賞のトライアル戦コスモス賞が組まれるという連携の悪さ。何ともまあ"モンロー主義"的とでも言おうか。

出走メンバーについて
というわけで、4日後に施行される全日本アラブグランプリなどお構いなしの、荒尾3歳晴れ舞台。出走馬は内枠より以下の12頭。()内は騎手、性、斤量。
マルシンランサー(新町、牝、55k)、ナイスシゲハヤ(尾林、牡、56k)、リバーショウハイ(西村、牡、56k)、クニノオーカン(古泉、牡、56k)、ジーエスリンボー(後藤、55k)、ハイセイアポロ(杉村、牡、56k)、ヤシロジュディス(吉留、牡、56k)、イマリオーエンス(牧野、牡、56k)、ヘイセイグレース(中留、53k)、サンオウサンデー(吉井、牡、56k)、トウカイヤマザクラ(林、牡、56k)、ダイナマイトキング(吉田、牡、56k)
斤量は定量で牡馬56k牝馬55kだが、ヘイセイグレースは中留騎手が△印の減量騎手で、ここにもこれが適用されて、2k軽い53k。

注目馬は以下の5頭かと。トライアルのコスモス賞(以下TRと略)の1、2、3着馬、イマリオーエンス、マルシンランサー、クニノオーカンと、これに加えて、九州ADBを走ったダイナマイトキングにハイセイアポロ。イマリオーエンスは荒尾記念の勝ち馬。マルシンランサーはあのマルシンヴィラーゴの仔にして正月の門松賞の勝ち馬。クニノオーカンは九州産で九州弥生賞を勝った馬。「観られたらいいなあ。」と期待していた馬が全て登場してくれて、とても楽しみな一戦となった。

山形→荒尾、移動の巻、そして当日の概況など
前日は上山で奥の細道大賞典を観戦、山形→九州の移動を敢行しなけれなならない。実は一昨年の秋に、かかしまつり賞→荒尾記念のハシゴを予定していたのだが未遂に終わり、2年越しでの実現となった。
当然速いのは飛行機だが、あれこれルートを考えても、宿泊費も込めた旅費はそれほど安くならない。であるならば、とばかりに鉄旅。奥羽本線、陸羽西線経由で日本海側の鶴岡まで出て、ここから寝台特急日本海2号に。これが21:44発で新大阪7:04分着、B寝台の下段で一泊。そしてひかりレールスターで博多まで。そこからは快速列車で、荒尾には正午前に到着。無事に移動成功。

到着した荒尾の天気は晴れ。薄雲が広がる程度の好天。気温も低くなく、ほとんど無風でとても過ごしやすい。
馬場状態は良。一見深そう。内と外で見た目が違うコース表面である。

パドックから発走まで
さてパドック。
1番がマルシンランサー。馬体重450kは前走比+6kでもあるが、胴回りはちょっと緩め。毛艶はソコソコ。踏み込みも深くはない。あの母の仔なのでもっと煩いかと思ったのだが、落ち着いた周回で気配はなかなか。荒尾記念4着の後は4ヶ月休み、前走TRで復帰し2着。これは若手村島クン鞍上でもあり、試走の感ありあり。今回は本番、前進は大いに見込めよう。
2番ナイスシゲハヤ。濃い鹿毛の馬体で毛艶はいい方。胴の詰まった体型。前走TR5着。
3番リバーショウハイ。コロンとした体型。トモの踏み込みは力強く、歩幅も出ている。前走TR9着最下位。
4番がクニノオーカン。スラリとして雄大な馬体、首の付く角度が立っていることもあろうが、あたりを見下すように堂々と周回。気配もじんわり落ち着いていて、これは好感を抱かされた。前走TR3着。前々走でB1B2戦を勝っており、クラス的にはイマリ、マルシンに次ごう。
5番ジーエスリンボー。踏み込みはまずまずだが栗毛の毛艶は悪い。お盆開催までは福山所属、24戦1勝で荒尾へ。緒戦は1着、次は9着で前走TR7着。
6番ハイセイアポロ。馬体重は前走九州ADBから14kも増えて、504kになった。瀬戸内賞の頃よりも馬格が大きくなってはいようが、やはり胴回りが立派過ぎる。毛艶はいいし、張りもある。見栄えのする馬だとは思う。九州ADB6着からどう巻き返すか。
7番ヤシロジュディス。ハイセイアポロに負けず劣らずの実入りある馬体、バンバンの胴回り、体型自体も太い。毛艶も上々。前走TR4着。
8番がイマリオーエンス。馬体重430kよりは大きく見えるし、スラッとしている。キビキビとした身のこなしで、肩の捌きはちょっと硬め。毛艶はソコソコ。それにしても、何ともフツーの馬という印象。オスズリキオーにキャラは近いかなあ。荒尾記念勝利の次走B1B2戦を勝って3ヶ月休養し、前走TRで復帰して1着。実績も格付けも上位、堅実な先行脚質でもあり、ここは中心馬として臨む。
9番ヘイセイグレース。毛艶と馬体張りはまあまあだが、ヒ腹とトモが弱めなフォルム。首を上げてチャカチャカ煩い周回。益田出身でその廃止に伴い当地へ。緒戦は7着も、以後B3戦で2着1着1着。「益田ラストラン特別走ってた馬だ(3着)。」とさまにべっぴんさんが御指摘。
10番サンオウサンデー。のんびりとした気配。胴長だがその胴は立派過ぎ。モッさい馬。兵庫出身。前走TR8着。
11番トウカイヤマザクラ。シャープでスマートな馬体。首を下げて周回。ちょっとトモは細いか。これも益田出身でその廃止によって荒尾へ。当地ではB3で3戦して2着1着9着。
最後に12番がダイナマイトキング。馬体重499kは前走比+14k。ブリブリでガッチガチなフォルムになって、どことなくギスギスしていた前走時よりは格好いいとは思うのだが、上げ幅があり過ぎるので、特に前半身は緩い感じ。もう一絞りあったらよかったろう。トモの踏み込みは今一つ。前走九州ADB圧勝の星を引っ提げてここに臨む。既存のトップであるイマリやマルシンとは、これが初顔合わせとなる。
パドックで好感抱いたのはクニノオーカン。「今日は随分大人しい。いつもはもっと煩い。」とはTienさんの御指摘。

イマリオーエンス(42KB)
イマリオーエンス、パドックに登場
フツーの栗毛馬

本馬場入場から返し馬。ナイスシゲハヤが入場早々からガットなって、凄い勢いで1コーナーへ駆け出して行く。が、ホームを再度通過する際には大人しくなった。最後に登場したダイナマイトキングはゆったりダクを踏んで行進出来ず走ってしまう。ハイセイアポロはハミにもたれて首を沈めて、ピアドハンターみたいな仕草で返し馬に。マルシンランサーはリラックスした走り。ダイナマイトキングは力強いキャンター。最後にクニノオーカンとイマリオーエンスが。クニノは口を割って、イマリはやや強めにサッと。

予想。注目馬は5頭と冒頭に挙げたが、ハイセイアポロは馬券からは除外して、それ以外の四強のボックスで、金額に強弱つけて買う。ダイナマイトキングからと、イマリオーエンスからの馬券が売れている。両者の組み合わせは断然の人気。ダイナマイトは前走佐賀での勝利が相当効いているようだ。個人的にはここはクニノオーカンに期待したい。
さまにさんはマルシンランサーに期待のよう。「でもハイセイアポロがいるからどうなるか?」とも。これについてはTienさんも「マルシンランサーとハイセイアポロが一緒に走って、すんなり決まるとは思えないんだよな。ヤングチャンピオン(昨秋の2歳重賞)で2頭まともに競り合って暴走して沈んで大荒れっていう、あの印象が強すぎて。」と同感のよう。
マルシンランサー(29KB)
マルシンランサー、返し馬
意外にもリラックス
ダイナマイトキング(29KB)
ダイナマイトキング、返し馬
ちょっと胸前が立派過ぎかも

レースなり
いよいよレース。距離2000mのスタート地点は2コーナーを回って暫く行ったところ。スタンドからはゴール板を挟んでちょうど真っ正面のあたり。
ゲートが開く。内からマルシンランサーが前へ。しかし中からハイセイアポロもやはり好発。2頭どう絡むか、冷や冷や注目する最初のバック。すんなり先頭マルシンになって、ハイセイアポロは2番手追走。西村リバーショウハイやクニノオーカン、イマリオーエンスが前2頭に続き先行策。
正面スタンド前。先頭マルシンランサー。2番手ハイセイアポロはマルシンの外目半馬身から1馬身下がって。次列インにリバーショウハイ、外にイマリオーエンス、これはハイセイの直後、すんなりの先行競馬。ここでやや間隔が開いて、内クニノオーカン外ダイナマイトキングで併走。クニノオーカンはここまで下げて、さらにダイナマイトの後ろまで下げた模様。以下は離れて中団から後方。ヤシロジュディス、ヘイセイグレース、ナイスシゲハヤらが続く。先頭マルシンランサーは楽に折り合っているようで、ペースは見た目にもスロー。

1周目(33KB)
最初の正面スタンド前
先頭マルシン2番手外ハイセイ直後イマリ

1、2コーナーから向こう正面。隊列は縦長。前の4頭とそれ以降との間隔は開いたまま。バックも半ば、「いい加減上昇せねば。」といった体裁で、ダイナマイトキングが鞍上隆二サンに促されて、後続勢の先頭の位置から押し上がろうとするが、どうも見た目に動きが悪い。先団との間隔が詰まらない。そうこうしているうちに先行勢は三角を回って加速した模様で、やがてインのリバーショウハイとハイセイアポロは脱落して、マルシンランサーとイマリオーエンスの一騎打ちの様相を呈するように。後方からは、クニノオーカンが、ダイナマイトキングを再度抜いて先んじて、三分三厘下がりつつあるハイセイアポロを内から交わして、これで前から3番手。
そして最後の直線。先頭内マルシンランサー外イマリオーエンス。ほぼ並んで。そしてこの外にクニノオーカンが追い付く。後続は大きく千切れて、3頭の勝負に。一旦は抜け出すかに見えた中イマリオーエンスだがこれがなかなか抜け出せず、却って内のマルシンランサーの方が差し替えし気味に粘走する。が、これらを外からクニノオーカンが、直線半ばで差し切って決着。抜け出す最後の局面で鞍上古泉jkに叱咤されると、口を割って顔を外にひん向けるという、本来持った気性の悪さを出しつつの、優勝ゴールとなった。

クニノオーカン(35KB)
クニノオーカン、外から競り合いを制する
馬が顔をこっちに向けている

1馬身遅れた2着には、マルシンランサーが結局粘り切って。イマリオーエンスは半馬身差の3着。ダイナマイトキングは最後追い上げるも時既に遅し、9馬身遅れた4着。5着差したヤシロジュディス、5馬身差。ハイセイアポロは止まって6着。以下省略。

振り返って、そしておしまい
ということで、九州3歳最強決定戦は、九州産馬クニノオーカンに凱歌。なかなか強い自力差しの競馬、パドックの出来そのままの競馬だったと思う。レース時とレース後の口取りでは、本来の煩いこの馬だったのを認めて、Tienさんが「今日のクニノオーカンのパドック、絶対猫被ってたよなあ。」と。
マルシンランサーはサスガに素質のあるところを見せたのでは。意外にもゆったり折り合えていたというのが感想。因みに勝ち馬と2着馬は同厩、古沢厩舎丼であった。
イマリオーエンスは確かにレース巧者だろう、ただパンチ力は不足気味かも。しかしながら安定感は確かにあろう。
ダイナマイトキング、中盤でちょっと反応鈍かったか。「前のペースが速くなると読んで控えたのかも。」とTienさん。結果としてそうではなく、ちょっと間に合わなかったのだが。「やっぱり太かったですかね。」と荒尾競馬の決め手さんが振り返る。今日は完敗になってしまったが、それでも追い上げ4着であるし、まだまだ先は長いので、悲観するに値しない。

個人的には、クニノ−マルシンの組み合わせは、四強のボックス馬券のうちで最も高配当のものだったので、非常にオイシイ結果となり、嬉しかった次第。

これで荒尾競馬でも、3歳戦線はひとまず終了。賞金の関係で、中堅クラスの馬がなかなか出世できない当地の競馬であるが、メゲずに何とかオープンまで出世して、盛り上げてほしいものだと思う。であれば、合い言葉はこんな感じ。

「コウザンシンオーに続け!そして越えて行け!荒尾の若い力たち――」

2002.12.1 記

兵庫発アラブ現場主義ホームに戻る