第29回アラブ王冠観戦報告

 2002.12.15、福山、1800m

はじめに〜出走メンバーについて
今回の観戦記は福山のアラブ王冠。5月の福山ダービー、10月の鞆の浦賞共々、福山3歳三冠競走の一つで、その最終戦である。それにしても、あと半月もすれば年も改まり齢を経る師走の瀬戸際に、まだ3歳重賞が残っているというのは、いかにも、施行重賞に3歳戦の頻度が異様に高い、福山競馬の番組編成らしい。
さて、今年の福山3歳戦線。内輪としては、全ての重賞で勝ち馬が異なる、逆に言えば2つ以上重賞を勝った馬がいないという、一見混戦模様でここまできた。終始筆頭視されているダイニアキフジの存在はあるのだが、これが重賞本番で勝てぬので、結果このような状況になっている。そして対外的には、当地施行の広域交流の3歳重賞3つ(三県交流、瀬戸内賞、全日本アラブグランプリ)を、悉く他地区馬に勝たれ、地元勢の面目丸潰れ。個人的にはそれほど低レベルで弱い連中とは思わないのだが、こう改めて振り返って書いてみると、ズバリ「内憂外患」な感じで、どうにも締まっていない。
そんな彼ら彼女らが、己が世代の総決算として戦うのが今回このレース。殊に前走全日本アラブグランプリを走った5頭にとっては、その惨敗(最先着がアヤヒカリの5着で他は揃って掲示板落ち)から盛り返し、少しでも格好をつけて4歳を迎えたい、まさに出直し・反省会の一戦。一方残りの5頭(いずれも重賞未勝利)にとっては、重賞初勝ち、下克上のチャンス。アラブGPでの消耗度を考えれば、その目は充分ありとの見積もりも・・・
というわけで、季節外れでかつ遅い遅い「3歳最後の同級会」も、それなりにオモシロそう。さあ、はじまりはじまり。

その出走馬は以下のフルゲート10頭。()内は騎手、性、斤量。
マルサ(野田、セ、54k)、ダイニアキフジ(鋤田、牡、54k)、スーパーレディ(楢崎、牝、53k)、フォートワース(渡辺、牡、54k)、サンコーアイボ(周藤、牡、54k)、マルサンウイザード(吉延、牡、54k)、アヤヒカリ(對ィ、牝、53k)、ユキノホマレ(嬉、牡、54k)、ホワイトキャンプ(片桐、牡、54k)、モナクカバキチ(岡田、牡、54k)
斤量は馬齢定量で牡馬54k牝馬53k。牡馬7頭牝馬2頭セン馬1頭。

前述の通り、前走全日本アラブグランプリを走った馬は5頭。すなわち5着アヤヒカリ、6着モナクカバキチ、8着ホワイトキャンプ、9着ダイニアキフジ、10着マルサンウイザード。そしてそれ以外が5頭。受賞額順に、スーパーレディ、ユキノホマレ、マルサ、サンコーアイボ、フォートワース。

当日の概況
今回は住処を出たのがやや遅く、競馬場に到着したのは2時前。天気晴れ。風はややあるが、気温は高めで穏やかな陽気。西日を受けてスタンドで観戦していると暑いほど。
馬場状態は良。中間また砂を入れたとのことだが深さはソコソコ、3週前の全日本AGPの日の深さに比べればまだまだ並。
到着早々、先に来場していた"リーダー"前田っちに今日のレース展開傾向を尋ねる。彼曰く「今日は後ろからどんどん来るでぇ!」。2周目の三分三厘で中団・後方勢が前にグッと迫って、最後は先行勢と一体になってのバトルになる頻度が高いよう。それでも持ちこたえる先行馬もいるので、逃げ差し互角の、能力なりに結果が出る馬場ではあるようだ。が、後ろが届きうるというのは、先行有利のこのコースとしては、ちょっと要注意。

パドックから発走まで
さてパドックタイム。前述の通り暖かい一日ではあったが、この時間になると陽の翳るパドック側のこと、結構肌寒い。
1番マルサ。元来が筋肉質でかつ骨量豊かな馬体ではあるが、今日の見た目はソコソコでしかない。気合いが乗らず、内々を回っている。鞆の浦賞7着の後は2開催休んでの実戦。
2番ダイニアキフジ。前走AGP惨敗の理由が今日の予想紙上で明らかになった。すなわち前日に熱発!そのまま出走の結果があれ。そのあたりを当日に客が知り得ず、また出走回避も出来ぬのがいかにも・・・さて今回、馬体は特段緩んだところもなく張りもこの馬なり。ただちょっと大人し過ぎの感は否めず。熱発は癒えたろうが、その反動はやはり心配。
3番スーパーレディ。気配は比較的大人しい。牝馬ながら丸みのないゴリゴリのフォルムで胴は詰まり気味。毛艶はソコソコ。前開催AGPを補欠待遇で不出走だったので、前々開催3歳牝馬特別2着以来の実戦。
4番フォートワース。黒鹿毛の艶は一見いいがその実ちょっと毛あしは長い。が、相変わらずじんわりかつキビキビとした身のこなしで、踏み込みの歩幅も大きく力強い。気っぷよく大外を周回している。前走C2の3組を勝ってここに滑り込んだ。
5番サンコーアイボ。馬体張りと皮膚の薄さ、筋肉の締まりは非常に目立ちこれは好感。踏み込みも深く、身のこなしも柔らかい。ちょっと腹回りは太いか。鞆の浦賞は最下位敗退も、前走前々走を共にC2の2組で2着1着と、適鞍で持ち直して登場。
6番マルサンウイザード。実入りはパンパンで、毛艶もなかなかだと思う。そして身のこなしもキビキビと。ただおさるさんは、「見た目悪いなあ。」と低評価だったよう。
7番アヤヒカリ。馬体は3歳牝特以来相変わらずいい。胸前から胴、そしてトモまでの実入りはホンマに立派、張りも充分。トモの歩様が浅いのはこんなもんか。気配はちょっとイライラ。今日は鞍上が主戦渡辺騎手や前走乗った嬉騎手でもなく、テン乗りで對ィクン。
8番ユキノホマレ。元来が体高あってかつ胴長な体型で、春先は力感ない間延びした馬体だったところ、胴にガチッと筋肉が付いてとても逞しくなった。毛艶はソコソコだがその締まりを強調したい。身のこなしは一見硬いがなかなかにジワッとしているし、踏み込みも力強い。銀杯5着の後、7月以降は8戦7勝、年の後半最大の上がり馬がこれ。その間唯一の負けが前々走の鞆の浦賞3着だが、前走C1級でキッチリ勝ってここに。
9番ホワイトキャンプ。身のこなしは割とキビキビしているが、やっぱり胴回りが太い。元々の体型と判っているが、それでも太過ぎに見える。今回初めてシャドーロールを装着してレースに臨むとのこと。ただ、好調ぶりが伝えられても、能力的に頭打ちの感がひしひしとして、信用は置きかねる。
10番モナクカバキチ。毛あしが長くて艶が出ず、パッと見冴えぬのはいつものこと。パドック周回でも、お客さんの前を通ると、あのパッピーケイオーのようにそこでガッと走り出そうとするのも見慣れつつある。ただ、歩幅はかなり出ている。この馬の見た目はホンマお好みで、ワシは全然いいとは思わないのだけれども。

本馬場入場から返し馬。ダイニアキフジは例によって土下座走法でキャンターに、そのまま3コーナーの待機所に入って再度ホームを流さない。マルサンウイザードが真っ先に楽走で。ホワイトキャンプはかなり強め。フォートワースはキビキビと強く。マルサは割と楽に。ユキノホマレは4コーナーを大外逸走気味に回って、ホームストレッチはキビキビ通過。アヤヒカリは對ィクンが持って行かれ気味、馬は口を割っている。モナクカバキチは岡田騎手に宥められて何とか楽に流して行く。

予想。ワシは今回軸馬2頭の二正面作戦。まずはユキノホマレ。差しも決まるこの馬場なら、近走の充実ぶりからして充分アタマに足ろう。そしてフォートワース。弓削厩舎2頭のうち、渡辺騎手がマルサンウイザードではなく、初騎乗ながらもこちらとコンビを組んだあたりにも勝負気配が漂うし、好位中団からシャープに追うのが似合う渡辺騎手の個性とも合いそう。この両頭から、捲り競馬が叶いそうなモナクカバキチへが本線。ダイニアキフジは状態に不安を感じるが、地力で2着まではあり得ると思い、これにも少々。以上を枠複で、そしてスケベ馬券で、フォートワースからユキノとカバへの枠単も。
「フォートワース、(初めて観たけど)エエ馬じゃないですか。買おう。」とは"同志"ディープさん。その一方でユキノホマレは人気ほどは信用していないようで。おさるさんも同様で、曰く「嬉騎手の追い込み馬(ユキノホマレのこと)ってのはピンと来んなあ。」と。電設の男@ともろうさんは、ここでも「アヤヒカリを買い続ける男」を実践。そしてリーダー、今回の"尾離れ理論"的推奨馬はマルサ。「マルサンウイザードとの兼ね合い次第やろけど、3着の複勝に・・・」と。

レースなり
さてレース。距離1800m。現在福山3歳三冠戦は全てこの距離。スタート地点は2コーナー。
ゲートが開く。出遅れはないようだ。発馬に心配のあったフォートワースやユキノホマレもちゃんと出た。まずはマルサンウイザードが鋭発でポンとハナに。最内マルサもまずまずの出だが、何が何でもハナを奪取するという気構えは感じられず、ウイザードに特段競り掛ける素振りもない。そうこうしているうちにダイニアキフジも先行体勢、程なくマルサより前に出る。そして外からホワイトキャンプが意外にも前付け、アキフジから離されずこれを追う。スーパーレディは結局逃げず、先団次列あたりに収まっている。こういった具合で三分三厘では、ウイザード−アキフジが明確な先手2頭、以下馬群といった隊形となる。
そして正面スタンド前。前記のまま、先頭マルサンウイザード、2、3馬身くらい先んじた単騎逃げ。2番手ダイニアキフジも単騎、今日は折り合いはまずまずか。3馬身くらい開いて、内マルサ外ホワイトキャンプが集団のフロント。ややあってスーパーレディがイン、この外にモナクカバキチ、比較的前のポジション。直後にフォートワースが追走。ユキノホマレがこの後ろ中団位置に構え、サンコーアイボとアヤヒカリが後方。

1周目(35KB)
最初の直線、先頭マルサンウイザード
2番手アキフジ、カバキチは好位外

向こう正面前半から中盤。先頭ウイザードと2番手アキフジは快走で、以下とのアドバンテージはまだまだある。「前に行き切られるか?」と思わされた局面。
しかしながらバックも半ばを過ぎ三角が近づくと、後続勢も進出開始。まずはモナクカバキチが外を回って早々に動く。前ではダイニアキフジが、ウイザードを捉え外に馬体を併そうかというところ、これとの差を確実に詰めてくる。そしてフォートワースが、バック半ばで前後間隔がばらけたところを内に入ってスルッと上昇。そして遅れて始動するはユキノホマレ。逆にホワイトキャンプやマルサ、スーパーレディは苦しくなった。
こうなると、やはり今日の展開傾向通りのレース模様。三分三厘、前2頭ウイザードとアキフジに、後続勢がドッと押し寄せ、その間隔が詰まる。四角手前ではダイニアキフジが馬場三、四分どころ、内のウイザードを交わして先頭に立つも、程なく、これに迫るはモナクカバキチ、外から馬体を並びかけるところまで。インではフォートワースがウイザードの直後まで迫る。が、大外ブン回して一気に襲来したのはやっぱりユキノホマレ。カバキチがアキフジに並んだあたりで、しっかりカバキチの外に出現している。これが四角コーナリングでのこと。
そして最後の直線。馬場外目六分どころ、スパッと抜け出すユキノホマレ。末脚には自信があるのでこうなるとシメたもの、あとは誰にも抜かせない。モナクカバキチもジワッとアキフジを交わし、ユキノホマレによく食い下がるも、勝負は決した。終いは1馬身差だったが、印象としては完勝で、待望の重賞Vゴールに飛び込んだ。2着モナクカバキチ。

ユキノホマレ(43KB)
ユキノホマレ、ゴールへ一気
見事に後方待機から追い込み切った

この後ろが、最後の直線かなりの混戦だったよう。ダイニアキフジはどうにかこうにか持ちこたえている体裁、フォートワースは内を衝くも斬れが鈍ったか。マルサンウイザードは徐々に降参。ここへ後方から、サンコーアイボとアヤヒカリが外目を追い込んでやって来る。結果ダイニアキフジが何とか3着死守も、カバキチからは4馬身離された。サンコーアイボがこれに半馬身まで迫って4着。クビ差5着がアヤヒカリ。フォートワースは結局アヤにもクビ差差されて6着。3馬身遅れてマルサンウイザードが7着入線。以下スーパーレディ、ホワイトキャンプ、マルサの順。
先行勢で掲示板に乗ったのはダイニアキフジのみで、他の上位入線馬は、後半脚を繰り出した連中ばかり。中途半端な先団競馬になってしまった3頭が下位に落ちる結果となった。

レース後の口取り撮影、それがひと通り済んだところで、厩務員さんが気を利かして、ユキノホマレをスタンドに向けて下さった。すると一旦脱鞍所に引っ込んだ嬉さん、再登場して曳き綱持って、茶目っ気たっぷりのVサイン、嬉スマイルのオマケ付きでポーズ。このあたり、絶大なる(?)女性人気の由縁だと思ったりして。

ユキノホマレwith嬉すわん(48KB)
ユキノホマレと嬉騎手、お客さんにポーズ
嬉すわん、ホホエミのVサイン

振り返って、そしておしまい
ユキノホマレ、馬場状態が向いたとはいえ、強い競馬だった。あの決め脚はなかなかに大したものだと思うし、今年後半の成長が結実した重賞勝利と素直に認められる。振り返ればこの馬、2歳時から世代上位の一角で、春先には「晩成型で良くなるのはまだ先。」なる予想紙上での評価はありつつも「そんな訳あるかいな。」と、ワシは全く期待していなかったのだが。その見込みに反して、予想紙の見立て通り躍進したわけだ。
モナクカバキチは今回割と早めに動いて、岡田騎手は明らかに勝ちに行った競馬。その狙いは悪くなかったろうし、馬もちゃんと走ったと思う。ちょっと今日は勝った馬が強かった。見た目に何ともよくわからぬ馬なので、今後も取捨に悩まされそうだが、底を見せた感じがしないところがまだまだ不気味。
ダイニアキフジはどうにかこうにか死守した3着かと。ユキノホマレやカバキチが成長した今となっては、彼らにに末脚を繰り出されると、決め手不足がますます目立つようになってきた。この馬としてはとにかくパワー強化しか活路はないと思われるのだが、こう使い詰めとあっては、このままでは上がり目はちょっと疑問。
サンコーアイボは最後だけ個性が出た強襲4着かと。年の中盤以降差し脚に磨きがかかって上昇してはきたが、ここで勝ち負けに絡むまでの強さには至らぬよう。ユキノホマレと差がついた感。
アヤヒカリも終い差を詰めての5着。この馬、もっと強いと思うのだけれど、牡牝混合重賞の舞台だと、気後れするのか妙に慎ましくて、どうも着順が上がらない。オトコを見下すくらいの気構えで、でんと構えて力勝負を敢行すれば結果は伴うのではないか。電設師をあまりガッカリさせないように。
フォートワースはこの馬らしい中盤の行き脚を発揮し、渡辺騎手も長所を引き出して巧く乗ったとは思うが、最後伸びが止まってしまったような6着。どうもこの馬、現状ではマイル戦がベストで距離千八はちょっと長いやも知れぬ。それでも期待してしまうのが、好いた者の弱み、だな。
マルサンウイザードは取り敢えず逃げて自分の競馬をしただけましか。鞆の浦賞勝利はいかにもフロックくさくなってきた。スーパーレディはハナに拘らぬ競馬で結局この着順。ホワイトキャンプの先行策はちょっとびっくり、「やれば出来るやん!」というところだが、悲しいかな、どうしても成長面で他馬に劣るのか。マルサは逃げ・先行不徹底でこの結果。控えるとやっぱり良さが出ない。それでもなまじ素直に走れてしまうだけに却って難しいか。

実はこのレース、勝ち馬には、次開催福山大賞典への出走権がもれなく付いてくる。ということで、その資格を得たのはユキノホマレなのだが・・・今回いくら強い勝ち方だったにせよ、前開催までの自己条件がC1だったわけで、これは大抜擢・超超格上挑戦となるわけだ。古馬オープンの頂点に君臨する馬たちと互角に戦うのは、正直かなり苦しいと思われるのだが、これはもう、無欲で挑んでもらうしかない。が、ちょっとここでフォロー入れさせて頂くならば、この馬、現状の地力はともかくとして、あとふた回りくらい強くなれば、ちょっとミナミセンプウっぽい(間違っても「ミナミセンプウくらい強い」ではありません)キャラクターの馬になれるやも。「またまたそんな無茶な褒め方して。単に胴長栗毛の追い込み馬ってだけやんか!」とばかりに、"同志"あたりから速攻ツッコミが飛んできそうだな。

とまれ、今年の福山3歳重賞、結局全て勝ち馬が異なってしまいましたな。
「まあ、一同、以後頑張ってくれたまえ。これにて最後の同級会は終了。以上、解散!」←何て偉そうな物言いなんだ、ワシは体育教師か?

ミナミセンプウ!(19KB) 「ワシみたいにだと?100年早いわ!」by 正真正銘"瀬戸内の鬼脚"

2002.12.24 記 
2002.12.25 追記

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