第2回九州アラブ栄冠観戦報告

 2003.2.23、荒尾、1500m

はじめに〜何じゃこりゃ
4歳、補助馬・中央補助馬、広域交流――何とも珍なる施行条件の競走なんである。
事の起こりは昨年のこと。年度当初の荒尾競馬の開催日程にはなかったのだが、知らぬ間に上記条件の重賞が忽然と出現したのである。「これJRAの補助金(JRA所有者賞として授与されるあれです)余ったから作ったんじゃないか?」と邪推されたりして、「どのみち1回こっきりのものだろう。」と思ったところ、今年度の施行予定にも、しっかりその名があるではないか。というわけで、今年今回、第2回と回次まで明記されて開催される次第。
因みにこのレース、参加対象地区がイマイチ判らぬ。当日の出馬表には、小さく「西日本地区交流」と記載されていた。まあ、登録馬出走馬は兵庫以西所属ばかりであり、東地区の補助馬というのもピンとこぬので(上山や金沢は冬季休催中、東海は誰が補助馬かも判然とせず存在するのかも不明)、結局どうでもいいことなのだけれども。
補助馬限定戦、またその広域交流というのは、アラブ業界では少なからず見られるもの。が、明け4歳馬によるレースというのが何とも風変わり。かつては新潟の砂山賞や東北アラブ栄冠(これは3歳4歳混合戦)など、4歳馬(現表記)の重賞は存在したのだが、アラブ系競走縮小のこの御時世、明け4歳限定重賞を施行するとは、あまりに悠長ではないかとの印象を禁じ得ない。「他にもっとするべきことあるんとちゃうか?」と。
まあ、あれこれ書いても、施行されるものは施行されるわけだ。こうなると出走陣営にとって、魅力なのがその賞金。1着賞金250万円は、3歳戦線の大一番荒尾記念よりも高額(これは240万円)で、荒尾のレースとしては破格。殊に一般戦の賞金が低く、日頃いくら勝ち星を重ねてもA級上位に出世出来ない地元荒尾の素質馬にとっては、ジャンプアップの格好の踏み台となり得る。事実昨年は、コウザンシンオーがこれを勝ち、上位クラス編入の大いなる足しとした。
というわけでこのレース、テーマはズバリ「250万円の踏み台」争奪戦。さてさて・・・

出走メンバーについて
その出走馬は、内枠より以下の8頭。()内は騎手、性、斤量。馬齢定量戦。
ハッピーキング(吉井、牡、56k)、ブロードヒロタケ(吉田、牡、56k)、ホワイトキャンプ(岡崎、牡、56k)、イマリオーエンス(牧野、牡、56k)、ゴフクオー(椎葉、牡、56k)、ハイセイアポロ(杉村、牡、56k)、リバーショウハイ(西村、牡、56k)、マルサ(野田、セ、56k)

当初は兵庫のグリーンジャンボとニシキテイオー、高知のユタカオヤシオも登録しており、いかにも広域交流然として楽しみなメンバーだったのだが、蓋を開ければ他地区は福山2頭のみで8頭立て。いささか寂しい一戦となってしまった。が、このあたり、"同志"ディープさん曰く、「登録メンバーだけで期待しない方がええわ。結局こんなもんだって。これでも去年より格段にましでしょ。」と。まあそりゃそうなんだろう。
福山の2頭は昨年彼の地の3歳重賞戦線の常連として出走するも、上位入線には足らなかった馬である。が、遠征とはいえ、相対的なレベルではやや落ちよう荒尾勢と事構えるに当たっては、色気も大ありだろう。
迎え撃つ地元馬では、当地4歳トップの一角、荒尾記念馬イマリオーエンスに期待が懸かる。現格付けがB1なので、昨年のシンオーよろしく、何としても250万稼いで、今後に飛躍を期したいところ。

当日の概況〜メインレースまで
先週の荒尾銀盃に続いてまた今週末も荒尾へ、新幹線での日帰り旅。事前の天気予報は、週末を通じて天気崩れると告げていた。が、幸いにも前日土曜で雨のピークは越え、当日は一気に回復傾向。荒尾到着は11時半頃。既に好天の兆しありありで、程なく晴れ上がってくる。そして非常に暖かい。日向で過ごしていると暑いほど。風は強いが、寒さを全く覚えない。
前日の雨で、馬場状態不良で始まるも、第3レースからは重馬場発表に。発表こそ最後まで重のままだったものの、時間が経つにつれ、見た目にもどんどん馬場が乾いてくるのがわかる。
レースは概ね先行有利。前々でレースを進めた馬が連入する頻度か高いようだ。

この日のアラブ系競走は3鞍のみ、2R、3R、そしてメインの9R。
第3競走のB2B3戦(距離1400m)に、ちょっと気になる馬が1頭出走。すなわちツルギビックワン。昨年道営2歳勢の有力どころだった馬。初戦でダイヘイゲンを下して勝つも、以降は堅実に上位入線こそすれ1着になれず、結局10戦1勝2着6回3着1回で昨シーズンを終えた。これが年末当地転入で、正月開催以来2戦2勝中。今回早くも古馬編入され、ここに登場。
パドック周回を3号馬さんと眺める。背も高く胴体も厚い好馬体で、顔はスラッと細面。「ホマレスターボーイと似てますね。」と3号馬さん。ワシも全く同じこと考えた。「そうそう。ただこっちはちょっと目つきキツいかな。」とワシ。
そのレース。転入来の2勝は、いずれも後方待機で後半押し上げてのものらしいが、今日はソコソコ前に行く。最初のスタンド前で既に先頭と差のない3列目あたり外目の絶好位。バック半ばから三角前後でスッと上昇して四角前には先頭に立つ。そして最後まで押し切って、当地3連勝を飾った。2着は逃げたヤシロジュディス、昨秋の3歳重賞肥後さざんか賞で5着だった明け4歳馬である。それにしてもツルギビックワン、道営時代の勝てなささ加減が嘘のような、余裕ある強い競馬だった。今後ちょっと楽しみだ。

ツルギビックワン(31KB)
ツルギビックワン、終い楽勝
勝利の味、ようやく覚えたかな?

第3レースが終わってしまうと、アラブな人間にとっては、暫く非常に暇となる。おまけにこの日は、自場メインレースの前に、佐賀競馬メインの場外発売と、JRAのGIフェブラリーステークスの中継もあって、これらに時間を割くべく、アラブ栄冠の発走時刻は16時5分に繰り下がり、14時50分発走の荒尾準メイン8Rとの間隔は、実に1時間15分もある。

そしてメインレース、パドックから発走まで
15時40分発走の、フェブラリーSの中継が済むのをわざわざ待ってから、九州アラブ栄冠の出走馬が、パドックに姿を現す。「待つことなんかないのに。」と思われるのだが、実はJRA中継の実況音声が、自場のレースのそれよりも断然大きく、喧しいのだ。「そやねん、ホンマこれウルサイねん。こんな中(パドックに)馬出したら、レースに支障来す馬絶対おるで。」と、"大御所"Oku師匠。
1番ハッピーキング。毛艶はまずまず。胴のラインは垂れている。トモの踏み込みは浅め。見た目はまあまあという程度。前走2月4日のB3戦6着、前半2番手から後退のよう。
2番ブロードヒロタケ。胴詰まりの太い馬体、ガッチリ体型。時折首を上下に振って。肩の捌きが硬い。前走2月4日のB3戦、先団維持で4着。
3番がホワイトキャンプ。輸送減りか、馬体重460kは前走比-11k、最近になく軽い。数字通り、常にボッテリした体型のこの馬としてはやや細い。が、このくらいの方が格好はいい。肩は硬いがトモの踏み込みや身のこなし総体は柔らかい。割とじんわり大人しくしている。「あれ、今日は珍しくイライラしたところがないですねえ。」と3号馬さんも。前走1月19日のB2戦紅梅特別を後方ママで7着。
4番がイマリオーエンス。毛艶と実入りはなかなかで、馬体重425kの軽量馬ながら、値以上に大きく見える。トモの踏み込みは浅め。ゆったりと周回している。至極フツーの馬っぽいルックスが却って味わい深い。前走1月25日のB1戦不知火賞を、マルシンランサー逃げ切りに遭って2番手ママの2着。これで肥後さざんか賞3着の後、3走連続B1で2着である。
5番ゴフクオー。冬毛が出ていて冴えない。首を伸ばして厩務員さんの方にひん曲げての周回。胴体も緩く、総じて見た目イマイチ。前走2月4日のB3戦を中団ママで5着。
6番ハイセイアポロ。昨晩秋は常時500kを越えていた馬体重が、今日は495k。デカさと実入りは維持しつつも、スカッとした印象で好感。のんびりと周回している。歩様はやや硬いか。前走1月25日のB2戦を2番手抜け出しで勝利。肥後さざんか賞6着敗退の後、これでB3、B2、B2と3連勝である。
7番リバーショウハイ。ややコロンとした馬体で、胴のラインは下がり気味。毛艶はソコソコ。前走1月26日のB3戦を好位維持の4着。
8番がマルサ。皮膚が薄くて毛艶は良好なのだが、馬体重460kは前走比-12kで、キャンプと同様これも輸送で減らした感じ。元来が骨太で筋肉質な好馬体のところ、この馬としてはあまりにスマートになり過ぎている。これは3号馬さんも同意見。一般的には格好いいフォルムなのだろうが。初馬場が故か、物見気味に終始キョロキョロと。前走は1月26日のC2の1組戦、2番手からの競馬で結果4着。ここを勝ったのは同じく4歳中央補助馬のサンコーアイボ。「これが出た方がましやわ。」とは、"同志"ディープさんの厳しいツッコミ。

本馬場入場の行進時、ホワイトキャンプがちょっとジタバタして曳いて歩く厩務員さんを手こずらせた。マルサが真っ先に軽快なキャンターで通過。ハイセイアポロは今日はハミにもたれた土下座走法ではなく普通のフォームで。ホワイトキャンプは岡崎さんが手綱を抑え加減で。

予想。やはり福山2頭とイマリオーエンスの、三つ巴の争いだと思う。
イマリオーエンスは堅実な先行競馬、地元の利は大きかろう。連軸にはもってこいか。
ホワイトキャンプは3歳半ば以降停滞気味の感は否めぬのだが、時折思い出したかのように勝つというややこしさ。差しが本領なので、先行有利な今日の馬場でどうかとの危惧もあるが、鞍上岡崎さんは大いなるプラス材料。元々主戦騎手は岡崎さんだったのだが、三冠シーズン突入直前に負傷して、結局正月開催まで欠場だったので、実はキャンプが停滞していた間、騎乗していない。
マルサは逃げ上等なのだが、意外にも二位付け競馬もこなせてしまう。ただ、これだと良さが出ないし勝てない馬。ここにおいて、同型ハイセイアポロの存在が微妙。マルシンランサーと競り合って共倒れになった2歳重賞ヤングチャンピオンは、Oku師匠のトラウマ的レース。「ハイセイアポロは宿敵」と公言して憚らない。
というわけで、上記3頭をどう買うかが問題。実はオッズがちょっと妙なようで。ホワイトキャンプアタマの馬単が、異様に人気がない。一方中心馬として支持を集めるのが、地元イマリオーエンス。こうなると、イマリに期待と好感寄せつつも、馬券は安直に好配狙いで、キャンプ→マルサの馬単を本線とする。そして裏目も。イマリは保険程度で。ハイセイアポロが連に絡んだら、死亡。3号馬さんは先行有利な馬場と、逃げ馬としての能力を見込んで、マルサを軸に事前購入したとのこと。

レースなり
さてレース。距離は1500m、スタート地点は4コーナーのポケット。「福山のマイル戦とは距離100mしか違わんけど、スタートが向こう正面と4コーナーじゃあ展開(や性格)変わってくるからな。ここらあたりが(福山勢としては)注目だわな。」とOku師匠。
ゲートが開く。ハイセイアポロとマルサは予想通りスッと前に。程なく併走となる。イマリオーエンスはゲートでアオってしまう。これを鞍上牧野騎手、押してリカバー試みたところ、恐らく計算外に馬がムキになってしまい、一気にハイセイの内から並びかける体裁になる。というわけで、フロントには、内イマリオーエンス中ハイセイアポロ外マルサが横一線。3頭の直後最内にハッピーキングがいて、3馬身くらい下がってリバーショウハイがいる。ブロードヒロタケが続いて、ホワイトキャンプは直後外7番手。その外僅かに下がって併走するゴフクオーが最後方。

先団3頭(39KB)
最初の直線、フロント3頭併走
内からイマリ、ハイセイ、マルサ。みんな素顔ってのも珍しい?

前列3頭、半馬身弱、心持ちイマリが前に出つつある感じで、ゴール板前から1コーナーへと進んで行く。これを観て、隣でOku師匠、「ちょっとハイペースか?」と口にするが、どうやら3頭、程良くテンション保ちつつも、よく抑制されて、また牽制気味に、平均ペース程度で併走していようかと。
そして向こう正面へ。順番としてはイマリ、ハイセイ、マルサだが、これは相変わらず一団先団。後続5頭はやや離れて、隊列が若干縦に延びてくる。この状況のもと、バック半ば前、ホワイトキャンプ、岡崎さんが仕掛け始める。まずはじわりじわりと外から上昇せんと。これで三角手前までに、前3頭に次ぐ4番手へ。が、「岡崎動いてるのはわかるけど、あんまり勢いあるようには見えやんのですけど。」とOku師匠。実際その通りのモチャモチャした脚いろ。
三分三厘、前は依然として3頭。イマリ、ハイセイ、マルサの順。そしてここに、えっちらおっちらホワイトキャンプが単騎追い付いてくる。後続4頭は完全に置かれた。4コーナーが近づくと、キャンプはいよいよ前を射程圏内に。その蹄音を聞いたか、マルサもハイセイアポロも仕掛けられて、前のイマリ並びかける。この結果、内からイマリ、ハイセイ、マルサ、キャンプの順で、4頭見事に横一線となった。その形を維持しつつ、何とも綺麗な併せ馬で四角周回。そして最後の直線を迎えた。
伸びたのは外の福山2頭、内の荒尾2頭は遅れはじめ、4頭一線が二分されて、勝負はアウェー2頭に絞られた。が、直線半ばまでに、外からホワイトキャンプが着実に末脚を伸ばし、マルサを交わし去る。これで決着。マルサの粘走もあって、最後は着差1馬身なれど、ホワイトキャンプが真っ先にゴールを駆け抜けた。

ホワイトキャンプ(35KB)
ホワイトキャンプ、マルサを交わしてゴールへ
何故か目が怖い・・・

2着マルサ。イマリとハイセイは前2頭に引き離されつつの3着争い。もう両頭伸び脚はない。結局よりバテたのがイマリということで、ハイセイアポロが1馬身先んじて3着、前とは7馬身の差が付いていた。イマリオーエンスは4着。5着5馬身遅れでリバーショウハイ。6着4馬身差でゴフクオー、7着2馬身半差でブロードヒロタケ、最下位ハッピーキングは8馬身遅れて。下位入線各馬の着差はばらばらに開いてしまった。

振り返って、そしておしまい
ホワイトキャンプ、相手関係云々は敢えて言うまい。久々にこの馬らしいロングスパートの差し競馬が見られた。が、ここはやっぱり岡崎さん。彼が手綱取ると伸び脚が全然違う。「まあやっとこさとこだったけどな。あの脚質には、コーナー緩いこのコースが合った感じだわな。」とOku師匠。それにしても、結構離れた中団から、それほどスタミナ消耗していなかろう前3頭によく追い付いて、交わせたなと思う。大して豪脚とも思われないので、ちょっと不思議。因みにこれで、2歳時のヤングチャンピオン以来の重賞勝ち(2勝目)となった。「『アラブ王冠あたりで重賞獲り』とか、かつて予言したけど、こんな 地味なところで勝ったなあ。」と、ディープさんらと語らった。
マルサは単騎逃げにはならなかったものの、地力差か、荒尾期待の2頭には先んじた。ただ、先行有利だった当日の馬場を思うと、逃げ切りの目も充分あったとも、と、ちょっと辛口にまとめさせていただこう。しかしこの馬、大外枠発走で揉まれず済んだにせよ、逃げ同型馬と併走しても、相変わらず聞き分けがいいよな。これ、毎回言及することだが。
ハイセイアポロは割とまともに折り合って道中進行していたのが、意外でもあり、成長の証か。衆目の評価があまり上がらず、むしろ下降気味な馬であるが、あの好ルックスに実力が伴ってくれれば、まだまだ見どころあろう。ナタリージョージ産駒の成長力は疑問だけれども。
イマリオーエンスは荒尾の期待を大きく裏切る4着敗退。スタートが全てだったか。「いくら遅れたからといっても、あんなにガーッてなっちゃったらそりゃ保ちませんよ。」と3号馬さんも。リカバーしようとして叱咤したのが完全に裏目となってしまった。ハイセイアポロに最後の直線抜かれたのが象徴的。それにしても250万円、勿体ない・・・今後は地道にやってもらうしかないな。

配当は枠複560円、馬単870円。直前でオッズが下がったとはいえ、福山2頭の馬単でこの結果はオイシイ。「狙った通りや。ホワイトキャンプは岡崎だと走るもん。イマリオーエンスもこんなもんだって。」とは、ズバリ的中で御満悦のディープさん。ワシも的中、黒字でやれやれ。加えて、表彰式の後で、岡崎さんにサイン貰えて、これも満足。

というわけで、今回250万円をGetしたのはホワイトキャンプ。比較的賞金高額な福山にあっても、この額はクラスアップにかなり効こう。が、現状のB級中位でもどうにかこうにかなだけに、さて今後、どうなる?「や、家賃が高すぎますぅ〜」などと泣き言言わずに、励んでくださいな。

さて来年、この「踏み台」を手に入れるのは、誰だ?―― と、オチにしようと思ったのだけれども・・・
「(来年度は佐賀のアラブ重賞あらかた廃止されるっていうに)こんなレース、いっくら何でも、来年はもうやらねーだろ。」と、"九州御大"Tienさんがスバリ。
オチないじゃん!

2003.2.28 記

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