第26回クイーンカップ観戦報告

 2003.3.22、福山、1600m

はじめに〜クイーン&キングカップ、併せてのツカミ
福山3歳三冠第一弾、5月の福山ダービーに向けて、その前哨戦たる競走が、キングカップとクイーンカップの2鞍である。その名の通り、前者は牡馬(セン馬も含む)、後者は牝馬による競走。この2重賞、近年は同じ週末に続けて(土・日だったり日・月だったり)施行されるのが常であり、そういった点においても、まさにセット然として存在している。
ということで、まずここで、今回記すクイーンカップと、翌日施行されるキングカップ併せての、ハナシのツカミをしておきたい。
昨年一昨年と、2月最終週に組まれたのだが、今年は3年ぶりに3月下旬の年度最終開催、そしてローゼンホーマ記念の後ろに繰り下がった。大目標の福山ダービーは次年度第2回開催なので、中1開催となり、ダービーへの繋がりは密になったろう。
と、日程は上々なのだが、レースの盛り上がりをスポイルする問題が別にある。すなわち、2001年度に打ち出された、「ヤングチャンピオン、キングカップ、クイーンカップ、福山ダービーは、福山デビュー馬に限る」との出走規定、俗に言う「鎖国政策」。これが今年も生きており、少なからず存在する、他地区転入の素質馬がオミットされてしまっている。道営や上山といった、冬季休催のある地区から、晩秋以降続々と2歳馬がやって来るのは自然のこと。アラブ系だけで施行しているのは福山のみ、加えて賞金も比較的高額な現状においては、一層大きな流れとなっているところ、まさに時代錯誤な施策と言うほかないのだが。
が、規定はどうしょうもないので、かくなる上は、生え抜き勢から、アラブ王国の筆頭として恥ずかしくないスターが輩出されんこと切望するばかりである。

出走メンバーについて
さて今年のクイーンカップ、出走馬は内枠より以下の10頭。()内は騎手。斤量は馬齢定量で全馬53k。
マイン(岡田)、ヨシユキパール(楢崎)、フジナミサンサン(周藤)、ヒラリーパール(鋤田)、デザートビュー(渡辺)、バルコムエンデバー(池田)、ミスラッキー(野田)、ミヤコホマレ(嬉)、ラピッドリーラン(片桐)、トライバルエル(高森)

注目は10頭中クラス上位の2頭。すなわちラピッドリーランとデザートビュー。
ラピッドリーランは1月の園田・福山交流と、3月5日姫路の福姫交流を連取した、牡牝含めて当世代馬主会補助馬のトップ。ゲートの出はイマイチだが、道中他馬を突き放して、独走に持ち込む逃げ脚は非凡。9戦5勝2着1回3着1回。
デザートビューはあの"狂気の名牝"マルシンヴィラーゴの娘。デビュー戦の800mで、2着馬に2秒4差を付けて逃げ切り、鮮烈のデビューを飾った。以後脚部不安が出たとの噂で4ヶ月休養したが、5戦4勝2着1回でここに登場。
この両者、共にスピード豊かな逃げ馬であり、加えて今回初対決。因みにデザートビューの年子の全姉、荒尾のマルシンランサーは、彼の地の2歳重賞ヤングチャンピオンにて、同型ハイセイアポロと競り合い共倒れになっており、「血は争えない」感がぷんぷんと漂う。というわけで、「小細工無用」ノーガードでボコボコの逃げ合戦への期待が、いやがうえでも高まる、またファンの我々がそれを熱望する、前評判高いレースとなった。

当日の概況〜メインレースまで
朝のうちに掃除洗濯をやっつけて、福山へ。現地には1時頃着。朝の早い時間帯だけ僅かに天気が崩れたらしいが、到着時には充分回復している。はじめのうちは曇天だったが、スタンド前で現地駐在おさるさんや、2週連続来福となる鳥取人ニーナさんと合流して話し込んでいると、ものの30分足らずの間に、みるみる雲が流れ去って、ドッカン快晴となる。久々に丸ごと好天の週末となりそう。風は強いが日差しのおかげでポカポカ陽気、ようやく春らしい気候になってきた。
馬場状態は稍重。僅かながら湿り気を帯びている。最近の砂入れは先週末とのことで、見た目にも深さはソコソコ、1週経ってこなれた感じである。と、特段深く力の要る馬場ではないのだが、どういうわけか、走破タイムが概して遅い。
逃げ差しどちらも決まっているようだが、先行早め押し切った馬の連入率が最も高い、そんな展開傾向である。

メインレース前の第8競走、C2の6組戦、距離1600m。ここに、3歳上位の1頭ながら、他地区デビュー馬のためキングカップには出走資格がない、昨年の上山2歳ナンバー2ホマレスターボーイが登場。そのレース、件のHSボーイは先団2、3列目からレースを進め、2周目バック半ば、上昇開始。四角手前までに先頭に顔を覗かせる。このまま押し切るかというところ、最後の直線外からブルーパークに差され、また、一旦は交わしかけたホマレリクオー(一応昨年の上山3歳ナンバー2、一世代下のナンバー2と、こんなところで一緒に走るのも何だかな)に内から差し返され、結局3着に終わった。これで当地5戦1勝2着1回3着1回4着1回5着1回。敗れた4戦も全て勝ち馬からコンマ5秒以内で入線しており、常に善戦してはいる。のではあるが、どうも勝ち切れぬ馬のよう。このキャラは上山時代と変わっていない。終い競り合っての勝負弱さ、ジリさが目立つなあ。よしんばキングカップに出走できても、同様な競馬だったのでは?と思われるところなり。

パドックから発走まで
そしてパドックタイム。春分を過ぎると陽も長く高くなって、3時を回ったこの時間帯、パドックが翳らない。季節の移ろいを感じるところだ。
さて1番マイン。重心の低い、またスッキリスリムな馬体。毛艶も上々。当初は意外にもじんわり集中していたが、案の定次第に首を下げてガチャガチャ煩くなった。前走は福姫交流で、好位・中団から終い差し込んで健闘の4着。
2番ヨシユキパール。冬毛気味、加えて胴が重そうな体型で、何とも冴えないルックス。大股で歩いてはいるが。前走前開催の3歳2組戦8着。
3番フジナミサンサン。これも冬毛が伸びている。丸々と太い胴体はいかにもホーエイヒロボーイ産駒らしいが、まだまだ緩い。胴に比してトモは貧相。前走前開催の3歳2組戦6着。
4番ヒラリーパール。馬体張りはなかなか。筋肉質で無骨だが、伸びやかではあるので、良く言えばシャープなルックス。ダイサンラッドの半妹で父がイムラッドからフィニッシュラインに変わっていると種明かしされれば「なるほどね。」。前走前開催の3歳4組戦を勝利。
そして5番がデザートビュー。実は目にするのは今回初めて。上々の毛艶で滑らかな体表。ちょっと腹回りは余裕があるか。首の付く角度が立っていて、背中のラインが地面と真っ水平で若干胴長なルックス、姉のマルシンランサーに似ていると思う。じんわりと落ち着いた気配で、しっかり踏み込んで歩いている。「何だかすごく短足に見える。」とはニーナさん。首か高くて胴が厚いのに加えて脚が骨太なため、 確かにそう映る。前走前開催の3歳1組戦を逃げ切り勝ち。
6番バルコムエンデバー。明るい栗毛の馬体だが毛艶はソコソコ。実入りはいい感じ。胴詰まりで足長に映るルックス。前走前開催の3歳5組戦勝利。
7番ミスラッキー。鹿毛の馬体の背や腰に銭形が浮き出るほど、毛艶と張りは上々。が、周回を重ねるにつれ、首を高くしてどんどんイライラしてきて、汗ダーダーになってくる。明らかに焦れ込んでいる。出世が早く、2歳重賞ヤングチャンピオンと全日本2歳アラブ優駿にも出走したが5着10着。3開催前の3歳2組戦で3勝目を挙げるも、前走前開催の3歳1組戦では7着。ちょっと頭打ちの感。
8番ミヤコホマレ。この馬はいつ見ても実入りあって張りに富んでいる。ちょっとイライラしているのか、散漫な身のこなしだが、前走時もそうだった。トモの出が遅れ気味で歩みに付いてこない感じ。前走は福姫交流で9着、好位から漸次後退してしまった。
9番がラピッドリーラン。今日も胴回りに冬毛が残っている。これは園福交流や福姫交流時と同様なのでもう見慣れた。が、「ヤングチャンピオンの時はもっとましだっぞ。全然良く見えないじゃん。」とはおさるさん。肩やトモの筋肉は充分張っている。ガシガシ深く踏み込んで気っぷ良く歩くのはこの馬の個性で、これが見られるだけでも状態に問題はなかろう。ただ、周回を重ねるにつれ、次第に鶴首気味になって、これまで以上に煩くなった。前走は福姫交流を、ブッチ切って逃げ切り制した。
10番トライバルエル。明るい鹿毛の艶はなかなか。長くて太い胴体で、首差しが地面と水平になって歩んでいるので、重心と体高が低く見える。悠々落ち着いて周回。前走前走前開催の3歳6組戦勝利。
日差し浴びての周回の割には、総じて各馬のルックスはイマイチ。牝馬だからか、冬毛気味で冴えない艶の馬も少なからず、仕草も概して幼い。「やっぱり若い子のレースって感じだな。ローゼンとは全然違う。」とニーナさんも。

デザートビュー、パドック(52KB)
デザートビュー、パドック
やっぱりちょっと短足に見えません?

本馬場入場から返し馬。ラピッドリーランとトライバルエルは入場口から即左折で一角方向に直行。そしてラピッドリーは真っ先にダクで1周回ってきて、スタンド前でキャンターに移行し流して行く。が、キャンター時の口向きは悪い。ミスラッキーは煩いパドック気配そのままに、キャンターもガーッと走ってしまっている。マインは内ラチ沿いをダクで。そしてデザートビューはじんわりゆっくり1周回って、最後にスタンド前を、至極リラックスした軽めの走りで通過。

予想。ここは前述の通り二強決戦。素直に買えばその連複で鉄板。勿論オッズは安いけれど。ワシはここはデザートビューアタマの枠単で勝負。加えて、2頭競り合って潰れるケースも考えて、1頭抜擢。それがマイン。福姫交流時くらい道中流れに乗れてすんなり差し込めるならば、一角崩しするのはこの馬かと思って。実績的は二強に次ぐのはミスラッキーなのだが、出世が早かっただけというイメージが強く、個人的には印象低い。そこにもってきて今日の焦れ込みであるので、喜んで切った。おさるさんは「これはもう"銀行馬券"でしょ。ボコボコに競り合ったとしても2頭残って決まるんじゃない?」と、二強体制を信頼のよう。

レースなり
さてレース。距離は1600m。向こう正面半ばが発走地点。
ゲートが開く。「スパンッ!」と鋭発決めたのはデザートビュー。テンのダッシュのみならず、二の脚三の脚も段違いで、程なく完全に1頭抜きん出る。一方のラピッドリーランは不安的中の鈍い発馬。ライバルたるデザートビューはおろか、最内のマインやミヤコホマレらにも先手を許し、これらの外から、片桐騎手に押されての追走となってしまう。
そうこうしているうちに3コーナーから三分三厘、デザートビューはぐんぐんリードを広げて、軽く5馬身以上は後ろを引き離し、早々に一人旅に持ち込んだ。ラピッドリーランはどうにかこうにかマインやフジナミサンサンを交わして2番手になろうかという程度。デザートビューとの逃げ合戦どころではない。「何だよ全然駄目じゃん。」思わず口走る。
正面スタンド前。先頭デザートビューはちょっと行き脚を緩めたか、後ろとの差は数馬身に縮まった。しかし余裕の巡航モード。ラピッドリーランは馬場外目でどうにかこうにか2番手。インベタで3番手追走のフジナミサンサンとは、半馬身程度の差しかない。両者の間直後にはミヤコホマレがいて、その内にはマイン、外目にはトライバルエルが。次列の内にヒラリーパール、その外にヨシユキパール。ミスラッキーはホームの前半ではこの後ろだったのだが、次第に位置を上げつつゴール板前から1コーナーへ。殿はバルコムエンデバー。光景は完全に「デザートビューvsその他大勢」。

1周目(39KB)
1周目、正面スタンド前
先頭デザートビュー、ラピッドリーは次列外目の桃帽

1、2コーナーから向こう正面。先頭デザートビューは一旦置いて。ラピッドリーランは変わらず追走9頭の前列ながら、一向にフジナミサンサンやミヤコホマレらを振り切れない。「これ片桐、腹括って好位競馬に(戦術)切り替えたかなあ。」とおさるさんと言い合う局面。しかしながらそんな悠長なことは許されず、バック半ば手前、中位からミスラッキーが外目を捲り気味に押し上がる。程なく、呆気なくラピッドリーランを交わし、三角手前、これが2番手になる。が・・・
さてデザートビューのこと。二角を回って向こう流しに出ると、いとも容易くまたもや後続を突き放す。バック半ば以降、そのスイスイ感は更に増して、三角周回では、既に大差ブッチ切りとなってしまった。当然これで勝負あり。後は記すのにも困るほど。最後の直線では、鞍上渡辺騎手、2、3度後ろを振り返りつつ、終いは全く追うところない楽走で、余裕綽々、優勝のゴールを駆け抜けた。当然ながら、人馬共々その姿、全く砂に塗れていない。"さらっぴん"の勝者であった。

デザートビュー、ゴールへ(37KB)
デザートビュー、ゴール目がけて完全独走
何故か終いブッチ切りのレースは、写真まともに撮れない・・・

あとは馬券的問題で、関心は後方のこと。ミスラッキーが2番手で4コーナーを回ってくる。ラピッドリーランはやっとのことでフジナミサンサンやマインを振り切って、最後の直線、ミスラッキーを追ってくる。残り30を切って、粘るミスラッキーの脚いろが鈍ったか、迫るラピッドリーに加速がついたか、個人的には前者の線が強いと思うのだが、とにかくその差がグッと縮んでくる。が、結局クビ差ミスラッキーが残して2着。ラピッドリーランは3着連対落ち。
以下はリアルタイムでの記憶なし。4着3馬身差バルコムエンデバー、5着2馬身半差ヨシユキパール、6着1馬身差ヒラリーパール、3頭いずれも中盤以降追い上げたらしい。マインとフジナミサンサンは四角までは先団死守も直線抜かれて7着8着。9着トライバルエルは中団より前には終始上がれず。最下位は先団から早々に落ちたミヤコホマレ。

反省、そしておしまい
まさに「両雄並び立たず」。あまりにも、そして意外なほど一方的な結果となった。全ては最初の10mで決まったと言ってよかろう。鋭発決めたデザートビュー、ダッシュつかなかったラピッドリーラン。明暗をくっきり分けた。
それにしてもデザートビューの速さはどうだ!テンの出から二の脚、そして巡航に至るまでの、恐るべきスピード。特記すべきはその間のスムーズさ。正直、ここでは性能が違い過ぎた。「何て強いんだろ。福山のオンナは偉いな。」とニーナさんも感心の様子。「これならダービーで距離200m延びても(福山ダービーは1800m)問題なく押し切れるだろ。それにあのテンの脚なら、誰も付いて行けないじゃん。」と、おさるさんも太鼓判を押す。レース後渡辺騎手にインタビューした関係者さんによれば、「絶対勝てる」自信があったそうで。とまれ、今日は完璧!
対してラピッドリーランは、不安と弱点改善点を完全に衝かれての敗戦。しかしまあ、逃げプロパーのクセに、テンのスピードがホントにないなあ。あれでは、いくら道中のスピードが自慢だとしても、今日のデザートビュー相手では敗戦も当然。今後どう盛り返すか、注目ではあるが。それにしても、おさるさんやワシの期待を、ものの見事に裏切った。交わして2着に替わってくれれば、馬券的中だったのに・・・
ミスラッキーは、牝馬限定戦のここでは、クラス上位の貫禄がモノを言ったか。鞍上野田クンも力勝負で2着取った感じ。あの乗り方は大味だけれども悪くなかった。ただ、牡馬に混じってとなると、同格の面々にはパワー負けしそうだよな。
気になったのは、福姫交流を走った補助馬たちの案外さ。すなわちラピッドリーランを筆頭に、加えてマインとミヤコホマレ。レベル、案外なのか?と思われたりもして。

デザートビューの勝ち時計は1分50秒フラット。第8競走のそれが1分51秒5でもあり、タイムの遅いこの日の傾向からすれば、破格の時計である。2着とは当然大差。タイム差何と3秒4!圧倒的と言うほかない。
デザートビュー [Desert View] … 「砂漠の光景」と訳せようか。ここから連想して、おさるさんはそのレースぶり、「逃げ水の如き脚」と表したが、まさに言い得て妙。「追えば遠ざかる、決して触れられない。」そんな逃げ脚。
ワシはそのブッチ切りの様、一種殺伐としていて、これもまたその名に似つかわしいな、と思ったり。2着との差、3秒4の間には、埋めようのない虚無が横たわっているようで――

2003.4.3 記

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