第21回銀杯観戦報告

 2000.6.25、福山、1800m

福山競馬の6月施行重賞、瀬戸内賞、山陽杯に続く第三弾、「福山強化月間」の最後は、銀杯。梅雨時の4歳重賞であり、規定上福山ダービー馬に出走資格がないこともあり、さながら「残念ダービー」といったところ。兵庫における今はなき広峰賞、JRAのラジオたんぱ賞と同じような性格の競走かと。

今年の福山4歳戦線は、福山ダービーの観戦記にも記した通り、まさに混戦模様。3歳重賞ヤングチャンピオン以降、重賞勝ち馬が全て異なることからもそれが伺われる。すなわち、
・ヤングチャンピオン…ユノアウトロー
・園益福交流特別(補助馬限定交流)…ダイホーマ
・キングカップ…ヤマノダイオー
・クイーンカップ…イクノシンプウ
・福山ダービー…アレクシア
・瀬戸内賞(JRA補助馬限定交流)…モナクマリン
これら4歳戦線を彩る面々の中から、アレクシア、ユノアウトロー、モナクマリンの姿を欠くものの、ヤマノダイオー、イクノシンプウ、ダイホーマ、ピアドオスカー、カガヤキフォルテetcといったメンバーが、あるものは4歳勢初の複数重賞制覇、またあるものは重賞初勝ちを狙って勇躍登場とあいなった次第。アレクシアとヤマノダイオーが5月の全日本アラブ優駿で「ブたれた」ことで、図らずも福山4歳世代の全国的レベルが「さほどものでもない」と知れてしまった観があるが、多士済々個性的なヤツらではあり、興味は尽きぬわけで、公約通り、いざ福山なのであった。例によってチボリ号にて。衆議院議員選挙の投票は前日の不在者投票でやっつける。

梅雨真っ直中ということもあり、事前の天気予報も非常に不安定。前日には「曇り時々雨」と告げていたが当日朝には「曇りで一時雨」へ。チボリの道中、初めは雨模様だったが福山到着の頃には時折陽も差すような程々の曇天に。競馬場の馬場状態は朝から不良。所々コース上に水が浮き、馬が走ると泥と化した砂が飛び散る。
先週から福山の競馬、土曜日9レース日曜日11レース施行を開始。よって本日11レース施行でメインの銀杯は第10レース。銀杯以外には最終がA3特別であるほかは、取り立てて興味をそそられるレースや馬の登場もなく、メインまではひたすら馬券戦線。ところが1Rより馬券絶不調で4Rまで「坊主」。いい加減イヤになりかけてきた頃、場内でともろうさん、ディープさんとご対面。そしておさるさん。ワシを含めたこの4人、「福山強化月間」制覇。ようやく5レース目にして本命馬券をしょうもない程度に薄目に取り、ほっと一息。

6R前、スタンド前を歩く見知った顔。アラブファンくんではないか。大阪上本町駅発の近鉄ハイウェイバスにて来福、これが福山初体験とのこと。ハイウェイバスか、成る程その手があったのだな。因みに6R、岡崎の人気薄馬が2着に残り中穴決着。24倍の馬連を持っていたワシ、これで黒字に復活。アラブファンくんはこれを枠単で的中。45倍をゲット。ビギナーズラックか"園田最強のアラブ主義者"の底力か。
といった具合に時は経ち、いよいよメインレース、銀杯に。

このレースの主役、実は前述の混戦模様を彩った面々ではなく、"遅れてきた大物"、その名もミスターカミサマ。この馬、3歳6月のデビュー以降3戦して勝てず、未勝利のまま休養入りして明け4歳1月に戦線復帰。こんな馬がここから破竹の快進撃、2着が1度あるきりで連戦連勝。5連勝で前開催を勝利し、銀杯出走に足る賞金を得てここに間に合ったという次第。予想紙の近走馬柱が圧巻。前5走、全て1番人気本命印1着。本日の『エース』のシルシはずらり本命。『特報』は対抗評価。

時折降った雨も止み、陽も照りつける程回復した空模様の元、パドックに出走各馬が登場。梅雨の晴れ間の濃密な空気に晒され、馬の毛艶もいつも以上に光って見える。
1番カガヤキフォルテは二人曳きで気合い上々。腹回りはメンバー中一番ぼってりとした体型。ダービー2番人気から今日は思い切り人気を下げている。確かに足らずの印象も。
2番ピアドオスカーもなかなか勝利にありつけない近況。栗毛は綺麗だが、思ったよりは平凡。
3番ゴウドウムサシは予備馬から滑り込み。二人曳き、鶴首でファイティングポーズだけなら随一。ここではちょっと苦しいか。
4番ヤマノダイオー、ダービー2着。実績からすればこの馬がV候補筆頭。楠賞はアレクシア共々イマイチだったがここでは無様なレースはできまい。園田帰りで1開催休んだので多少緩めて出てくるかと予想紙は見込んでいたが、馬体重-2kでスッキリ仕上がっている。楠賞時と同様にピカピカの馬体。相変わらず伸びやかな造り。文句はない。(ただ、これはワシは目撃できなかったのだが、騎乗命令時に騎手の騎乗をイヤイヤをして拒んだとのこと。これはいかに?)
6番、愛馬ダイホーマ。毛艶は今日もベルベットのようで最高。馬体の張りもよし。調教が絶好、そして不良馬場ということからか、柄にもなくシルシが重く、人気もソコソコ(最終的には単勝5番人気)。ただ若干歩様が硬いような・・・よく見るとトモに目立たぬ黒のバンテージ。個人的には期待大だが、この天の邪鬼、人間の見解の悉く裏をかくからなあ・・・
そして8番、件のミスターカミサマ。栗毛で非常にシャープな馬体。毛艶ぴっかぴかで皮膚の薄さが素晴らしい。これは良い。というのはさて置いて、目を惹くのはそのメンコ、黒のシースルー生地に金文字で「Mr神様」ベタベタ!
大外10番、「幻のダービー馬」イクノシンプウ。気性勝ちの牝馬だからか、ちょっとチャカチャカ。何となく甘えているような・・・前走もこれと同様の気配で余裕の勝利だったわけで、気にすることもないのか?どれ程素質があるのか?底がまだ知れぬという点ではカミサマにも劣らない。

ヤマノダイオー、表情(51KB)
ヤマノダイオー
"スペシャルウィークと顔が似ている説"を提唱

で、予想。やはり未知の期待を込めてミスターカミサマ中心に。そして同じくイクノシンプウ。これまでの実績と馬の風格からヤマノダイオー、そしてお約束のダイホーマ。この4頭をボックスに。ディープさんは泥んこ馬場への適性から(園益福交流の印象が強烈のようですな)ダイホーマの勝ちを見込んで。アラブファンくんはヤマノダイオーから(だったよね、楠賞出走の縁)。おさるさんは勿論ミスターカミサマ。
結局単勝1番人気はヤマノダイオー、次いでイクノシンプウでカミサマは3番人気。オスカーが4番人気。そしてダイホーマ。

レース発走。距離千八。ゲートが開いて、外から9番中川セブンアトム、3番楢崎ゴウドウムサシが押してまず前へ。渡辺ヤマノがスタート鋭発で意外にも暫しハナ。しかし程なく大外岡崎イクノがそれらを制してアタマを取る。藤本カミサマと片桐ダイホーマは好発からスッと馬を下げる。ダイホーマはそのまま一旦殿に。
こうしたやりとりの結果、1周目のホームストレッチは、先頭内イクノ、2番手やや外ヤマノ3番手内ゴウドウ、このあたりまでが先団で通過。ダイホーマは中団5、6番手に再浮上。そしてこの後ろが後方集団、内7番手嬉ピアドオスカー今日は後ろから、その外注目ミスターカミサマ、最後方内石井ブラウンマーチ外岡田カガヤキフォルテ。先団−後方と分かれた隊形。

1周目の後方集団(42KB)
1周目スタンド前、後方集団
内7番手ピアドオスカー、外ミスターカミサマ

2周目向こう流しに入ってもこの隊形は変わらず。後方の動きもまだなく、ここでおさるさんと「おいおいこれこのまま前に行かれるのか?」と漏らし合う。ところが行き切ると思われたうちの1頭ヤマノダイオー、鞍上渡辺の手綱が程なく動き出し、「あれあれ?」状態。
レース、これからどう流れる?と思いかけたその刹那、先団が三角を迎える直前、後方集団よりただ1頭、集団外目を瞬く間に駆け上がり、そのまま先行勢を一気に捉え、一瞬にして抜き去る。そう、これがミスターカミサマ!捲りと呼ぶにはあまりに軽やかに、「シュイ〜〜ン」(まあこんな感じの擬態語です)と加速して、あとは他馬9頭を置き去りにしてぶっち切る。時間にしてものの10秒弱。三角手前からコーナーを回りきったあたりまでの、100m少しの間の出来事。これを目にしておさるさんとワシ「カミサマ強すぎる!!」と驚嘆の声。実際この時点で勝負は決まり。直線に入るとカミサマの鞍上藤本、馬を追う手を緩めて余裕のVゴール。
しかし2着争いは大混戦。直線半ばまでイクノシンプウがよく粘ったが、馬場の真ん中を人気薄ブラウンマーチが差し込んできてこれが2着。イクノとブラウンの間にオスカーも迫ったが、イクノがハナ差しのいで3着死守。オスカー4着。ヤマノダイオーは直線保たず7着敗退。ダイホーマはヤマノから大差遅れた8着。後半はほとんどレースに参加していないような感じの惨敗。ホンマやってくれるわ。
ミスターカミサマ、ゴールへ(36KB)
ミスターカミサマ、独走
ミスターカミサマ、勝者の表情(39KB)
ミスターカミサマ、口取り撮影前の表情

鞍上藤本、カミサマにはテン乗り。カミサマ主戦の渡辺は今回ヤマノダイオーへ、藤本はお手馬アレクシアがダービー馬であるため出走資格を持たぬという事情によっての代打であろうが、結果藤本がまたしても重賞制覇。今年これで4つ目。はっきり言って「三郎、重賞勝ちすぎです。」

期待通り、いや期待以上のミスターカミサマの圧勝劇。最後は2着と1秒5、7馬身差。福山4歳勢の群雄割拠の乱世に、覇を唱えたと見倣してよいのではないか。三角のひと脚で既存勢力を完膚無きまでに叩きのめしたといった印象を、我々に鮮烈に残した。レース総括も何も、語るべきことはこれに尽きる。

"神様的衝撃"の冷めやらぬなか、最終RはA3特別。ここに10ヶ月振りに復帰の昨年のダービー馬、ドミネーターが登場。戦前気配は全然駄目とのことで、期待せず観戦したところ、鞍上岡崎、外3番手の好位置に付け、三分三厘はちょっと苦しくなったものの、直線じりじり盛り返し、2着争いでゴール。結果ハナ差2着に届く。復帰緒戦、A3格付け、58kのトップハンデ、上々の走りだろう。夏の金杯に向けて、ちょっとは期待が持てるかな?嫌いな馬ではないので、頑張って欲しいものだ。なお、転がし馬券を敢行したともろうさん、このレースに異常に盛り上がるが結果はどうやらドボンのようで・・・
ということで、11レース施行の本日の福山競馬、終了。打ち出し(相撲用語だな)は5時に近い。

とにもかくにもミスターカミサマ。おさるさんも「西日本アラブダービーに向けて、地元として恥ずかしくない馬が出てきてくれてホント良かったですよ。」と、やれやれ、そして今後の期待大、といったコメント。その言葉通り、カミサマ、今後順調にいってくれたなら、西日本ADBでは大仕事できるやも。コウザンハヤヒデは強いけれど。いまだ後ろの馬に抜かれたことのないタカライデンよ、油断は禁物だぞ。

ああ、早くも秋の話題か。秋の4歳重賞、予想紙にはきっと、「ミナミセンプウの再来!ミスターカミサマ」(鬼脚継承)とか、「タッチアップの夢再び!ミスターカミサマ」(同じミスタージョージ産駒)といった見出しが踊るんだろうな・・・インパクト至上主義、福山競馬――

2000.6.30 記

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