第79回名古屋杯観戦報告、その実はおマヌケ道中記
2001.1.4、中京、2300m
今回の名古屋杯について
世紀をまたいだ、この年末年始アラブ重賞巡りの締めは、4日の名古屋杯。名古屋杯といえば、年に2回行われる、名古屋アラブ古馬重賞の頂点。現在では一方は春のゴールデンウィーク中に名古屋競馬場で、もう一つは年末年始の中京開催で行われている。今回観戦するのは、いわゆる"名古屋杯(冬)"。
出走馬は内枠より以下の通り。()内は姓齢と負担重量、馬齢定量。
レイクスキー(牡8、56k)、トップウエスト(牡6、56k)、ミヤマジュンプー(牡8、56k)、ワンダーキャッスル(牡5、57k)、クールショー(騙6、56k)、ラディガブライト(牡4、57k)、ジョージシャラー(牡7、56k)、ドリームボール(牡5、57k)、ブラウンダンディ(牡5、57k)、ラッキーメッセージ(牡7、56k)、ミエオトワ(牝6、54k)、フジノテイオー(騙8、56k)、以上12頭。
注目は、昨年の名古屋杯を冬、春連覇した、現在のところ東海最強アラブ、ブラウンダンディの三連覇への挑戦。『競馬エース』によると、過去78回の名古屋杯の歴史の間、三連覇を達成したのは僅かに2頭だそうで。つまりは歴史的偉業に挑むわけ。
ブラウンの昨年の連覇の内容はといえば、昨年の冬のそれはちょうど上り馬の時期で、単勝2番人気で臨みジョージシャラーにハナ差勝ち。連覇の前回、春のそれは、天才牝馬イケノエメラルドとの東海頂点決戦、これを充実度の違いで勝って東海最強の座を不動にしたというもの(前回春の名古屋杯の観戦記はこちら)。ライバル不在の予定調和の如き連覇ではない。
この過去二度に比べれば、相手関係は今回が最も楽。名古屋次位ブレーンワークはSPI奪取の悲願を果たすべく、前々日に笠松のアラブギフ大賞典に出走で直接対決を避け、また、ブラウンの前走シルバー争覇でブラウンとブレーンをまとめて負かした、不気味な上昇馬マリンレオが不出走とあっては、ブラウンに対抗しうる存在はゼロ。
その他の役者としては、昨年初夏以降躍進で11月の4歳(旧表記)重賞帝冠賞を制した、明け4歳ラディガブライトと、1年前の名古屋杯をブラウンにハナ差惜敗の、中京巧者ジョージシャラー、前走キャンドルライト賞5着までは下の条件で5連勝のドリームボール、兵庫からの移籍馬ワンダーキャッスル、などなどだが、ブラウンの牙城を崩すほどの期待は、到底かけづらい。
ということでレースの焦点は、ブラウンダンディ、その勝ち方のみ。よってレース総体の盛り上がりとしては乏しい感が強く、本来なら敢えて観るに及ばず、といったところだが、実はこのブラウンダンディ、1月30日に荒尾で開催される、セイユウ賞への出走が予定されており、その走り、特に前走の「まさかの」負けがどう響いているのかを観ておくのもよかろう、ということで、一路名古屋へ。
波乱の道中
この日の中京開催、アラブな人間にとってはメインレース以外にこれといった見物もなく、急いで競馬場に行くこともなかろう、と、10時頃に家を出て、在来線の新快速に乗車し、まずは米原を目指す。
新快速の車両のシート、実はワシ大好きで、長時間乗っていても苦にならない。車中時々うたた寝をしつつ過ごす。と、列車が米原の手前の駅、彦根を出るや否や、雪がドバドバ降り始め、乗換駅の米原は大雪。そして大垣行きに乗り換えてさらに東へ。
この米原−大垣間、ちょうど中間が関ヶ原、そう、東海道新幹線積雪の一番の泣き所。伊吹山の麓、北陸から南に抜ける湿った空気が一気に冷やされ、大雪の降る土地。確か日本の積雪最高記録は伊吹山頂だったかと。そんなわけでこの日のこのあたり、猛吹雪。そうこうしているうちに、列車が停まってしまう。車中アナウンス曰く「信号機に積雪で信号確認不能のため、信号機を除雪してから発車」そんなのアリか?おかげで定刻より30分程遅れて大垣着。ここで乗り換えて名古屋へ。その先の金山で名鉄にまた乗り換え。名鉄名古屋本線の中京競馬場駅前を目指すべく、ホームに入線した各停電車に乗り込む。
乗車して20分くらい経過、「もういい加減着いてええんちゃう?」と思いつつ、何の気なしに車中の路線図を眺める。「アカン!路線間違った!」名鉄に詳しい方なら想像つくかも、実はワシの乗った電車、名古屋本線運行のものではなく、常滑線という、本線から途中で分岐して南下する別路線、知多半田行き。名古屋地区、ワシの地元だというのに正月早々何たるおマヌケ。一年の先々が思いやられる。泡食って次の急行停車駅で下車し引き返し、本線の電車に乗り換える。これで40分ばかりは時間をロスした模様。前述の雪による遅れといい、大幅な遅刻である。この調子だと競馬場到着は準メイン発走ギリギリか。車中でカメラにレンズを装着しフィルムも突っ込み準備しておく。
どうにかこうにか中京競馬場前駅に到着し、駅前から競馬場までの、正味300mくらいを走行の無料バスに乗車し、やっとこさ競馬場に。時間は3時を既に過ぎていた。
バタバタのレースまで
この時点で競馬場の天気は曇り。馬場状態は良との発表。走ってパドックに向かうと、もう名古屋杯出走の各馬が周回しており、それも終わろうとしている模様。一人熱心にそれを見つめているのはアラブファンくん、そしておーたさんをはじめとした東海のご一党さん、おーたさんしか存じ上げていないが。その間に位置取り急いで各馬を写真に収める。と、ここで騎乗命令。結局各馬の気配のチェックはほとんどできずじまい。よってパドック評は今回書けません。ブラウンダンディは堂々と、そして二人曳きで、二重にメンコを装着。対抗格ラディガブライトは馬体重488kの割にはスリムな印象、まあ案外普通の芦毛馬。白メンコ黄色シャドーロールでタテガミにオレンジのワタリを編み込んでいる。
ブラウンダンディ、安部騎手を乗せて出陣
右目でジロリ、その視線の先に某くんが・・・
取り敢えず某くんにブラウンの印象を訊く。曰く「馬体重絞れていない(+2kの498k、これまでで最高馬体重)のは気に入らないがまあ負けないでしょう。」。そしてスタンド前に移動。さすがに中央と共催の競馬場、JRAのそれの中では狭い方だろうが、地方競馬場としては充分すぎるほど広い、従って場内での移動距離が長い。
出走馬が内馬場の入場口からコースに登場。ダートコースの外周に芝コースがあるわけで、ダートコースが遠い遠い。ワシのカメラの200mmレンズでは話にならない。また外ラチ沿いの柵も高くて邪魔。JRAの写真系の人々は、かくもストレスの溜まる条件、加えてお客さんの多い中でいつも撮影しているのかと思うと、尊敬したくなる。
で、予想。ブラウンダンディのアタマは不動。相手にはラディガブライトが妥当だろうが、ここは思い切って"中京の主"ジョージシャラーを中心に。勿論ラディガも、加えて、ひょっとしたらヘコヘコ逃げ粘れそうな、これも中京巧者のクールショーに。ブラウンダンディの単勝は1.3〜1.4倍見当。思い切って狙いたいが、単勝だけに大口投資するとオッズが下がりそうなので見送る。万が一、前走の負けを引きずってここもポカという結果も怖いし。某くんも結局ブラウン→ラディガ、堅く収まると読んだ模様。
レースなり
さてレース発走。中京のダート、左回り2300m、JRAの東海ステークス(個人的にはウィンターステークスと言った方がしっくりくるが)でお馴染みの距離。そのスタート地点は向こう正面中程、ここから1周半。さすがに大回りコース、二三でも2周はしない。とにかく馬場が広いので向こう正面は肉眼では視認しづらく、またターフビジョンが景色を遮る。結局道中の模様はその邪魔なターフビジョンが頼り。
ゲートオープン、先手を奪ったのはジョージシャラー、その内からミヤマジュンプー、逃げるやもと思ったクールショーはやや遅れてこの次。この外にもうブラウンダンディ。外に差がなくフジノテイオー、内好位ラディガブライトー外目ラッキーメッセージなど。さらに後ろにワンダーキャッスル。
隊列は正面スタンド前に。先頭は内ミヤマジュンプー外ジョージシャラーのほぼ併走。ジョージシャラーは手綱が突っ張ったまま首を下げ、掛かり気味なのかハミにもたれているのかといった走法。その外1馬身弱でフジノテイオー、1馬身遅れてラッキーメッセージでこのまた1馬身後方の5番手、ここにブラウンダンディ。安部騎手の脚は突っ張り手綱は短く、馬が余裕充分、行きたくて仕方がない様子か。この後ろはやや馬群が切れて中団。そのフロント外にラディガブライト内クールショーその間にワンダーキャッスル。
レースは二角から向こう正面へ。先頭は依然ミヤマジュンプーが頑張るがクールショーは下がり気味。その外にフジノテイオーさらに外ラッキーメッセージが併走。そしてブラウンがこの2頭の狭い間に馬体を突っ込み気味に上がっていく。ちょっとパッチン食らいそうな微妙に危うい状況。
そして3コーナーから4コーナー、先団と中団の差が詰まり一団に。このあたり、「もうたまらん!」とばかりにブラウンダンディ、向こう流しでの左右が窮屈な位置取りもお構いなし、掛かり気味に一気に進出。あれよあれよという間に四角先頭。
最後の直線、ブラウンダンディ、そりゃもう敵なしの単騎独走。終いは安部騎手、手綱を全く抑え加減で地力段違いの完勝Vゴール。
先頭独走のブラウンの後ろでは2番手争い。ラディガブライトが抜け出してくるが内で併せたワンダーキャッスルがかなり抵抗。しかし残り100mあたりでラディガがワンダーを振り切りこれも単騎で2着入線。楽走ブラウンに遅れること2馬身1/2。3着はワンダーキャッスルで、これも前から2馬身1/2差。後方からのドリームボールがワンダーをアタマ差まで追い詰めて4着。
ここまでの着順、結局単勝人気の順番だったようで、波乱はなしの結果ということ。
レース終わって
口取り撮影に臨むべく、ウィナーズサークルにブラウンが登場。そして表彰式。ここで勝利騎手インタビュー。安部騎手のコメントの大意は以下の通り。
「前走の敗戦は乗り方の失敗。」
「(今日のレース)道中手応えがよすぎて馬が走りすぎている。」
「(3コーナーで一気に進出した勢いについて)引っ掛かって馬が行ってしまった。」
「馬が力を付けてきている。」
この「力を付けてきている」という文句に漂うニュアンスに惹かれる。つまりは「力を付けた」の完了形ではなく、現在進行形なわけで、裏を返せは「もっと強くなる」ということだろう。いやはや恐れ入る。式の終わり際、某くんと、「荒尾で頑張れ!」と一声。
ウィナのブラウンダンディ、背中から湯気が・・・
厩務員さんのブルゾン、背には金文字「Brown Dandy」
表彰式の後、安部騎手、お客さんが握手やサインをお願いすると、いかにもJRAの競馬場のウィナらしい、ウィナ内とお客さんとの間を大きく隔てる植え込みと柵を越えて、お客さんの方に近づいてきてくれそれに応じてくれる。おーたさん、「荒尾に行って下さい!」と声援。これには激励の意味合いに加え、前回タマツバキ記念に遠征の際は、直前に調教中落馬して園田に行って騎乗できなかった、安部騎手への突っ込みが加味されているわけだ。ホント、頼むよ。そしてワシも、例によってブラウンのプリント写真(前回の名古屋杯のG前)にサインをしていただく。
この後おーたさんが「ブラウン荒尾行って、他地区馬との力関係、どう?」と問われるので、某くんとワシ「いやもう充分通用するでしょう。」「勝ち負けできるでしょう。」と、最大評価を披露。これはホンマに某くんとワシの本心で共通見解。「タマツバキでは3着でしたがもっと走れますよ。」「あの時は平松騎手が、型にはめたレース(捲り追い込み)しちゃいましたが、普通に乗ればなおいいでしょう。」とは某くんの見立て。ワシも異存なし。好位前付けも可能であろうし、長距離も良さそう。それに遠征で戦闘力が落ちるタイプとも思われず、乗り方をしくじりさえしなければ結果は出せるのでは?とにもかくにも荒尾が楽しみである。それが確認できただけでも今日は出掛けた甲斐があった。
その他の馬では・・・ラディガブライトは期待に応える2着。明け4歳、まだ上り調子のようで、今後の活躍が楽しみ。こういった馬が現れてくれるところに、東海地区、殊に名古屋のアラブ界の充実ぶりがよく出ている。ワンダーキャッスルの最後の直線での健闘はちょっと印象に残った。鞍上吉田稔、サスガリーディング。ジョージシャラーは中京巧者の評判の割には道中楽走できなかったたうな。ああワシの馬券の本線・・・
最終レースが終わり、アラブファンくんと競馬場を後にし、帰路に。近鉄で帰阪する彼とは金山の駅で別れる。それまでの道中、前日の新春賞のことやブラウンのこと、昨年のベストアラブの事などを話題にして。
セイユウ賞に向け、やはり高まったブラウンダンディへの期待。贔屓の引き倒しにはならぬよう、冷静に、しかし眼差しは熱く(矛盾した表現だな)、当日を楽しみに待つこととしよう。
2001.1.18 記
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