第34回黒百合賞スポーツニッポン杯観戦報告

 2001.5.4、金沢、2000m

はじめに
今年のゴールデンウィーク後半のアラブ重賞巡り、その一発目は金沢の黒百合賞。「くろゆり賞」と平仮名で表記すると、これは笠松盆開催のサラ重賞なのだが、漢字表記のこちらは金沢のアラブ重賞。
この黒百合賞、例年であれば6月開催で、GWには金沢七大重賞の一つ、アラブグランプリが開催されるのであるが、今年はこの両者の施行時期が入れ替わっている。今年金沢はアラブ全国交流レース、セイユウ記念を招致することになっており、このアラブグランプリが、"セイユウ記念"の名を冠されて全国交流として行われることになったため、全国交流の施行時期として適当(?)ということで、かくの如くなったものと。しかし5月27日には福山で全国交流タマツバキがあり、その僅か1ヶ月後にまたもや全国交流というのも・・・せめて秋シーズンに(例えば11月の石川テレビ杯の頃とか)施行するとか考えられなかったものか。年2回の古馬全国交流レースが一月の間に集中するとは、ファンとしては何とも勿体ない。
ということで話題は黒百合賞に戻って。金沢競馬は冬季は休催するので、4月初旬がその年のシーズン開幕。黒百合賞は開幕から3開催目、そして大舞台のセイユウ記念までは中3開催。ということで、始動した金沢古馬一線級の面々が今年度初めて迎える、実力を問われる一戦であり、同時にその先の全国交流に向けて、地元の勢力図が明らかになろう一戦でもある。ともあれ、大物の転入も相次ぎここ2年程、非常に威勢のいい金沢のアラブ古馬事情、見逃す手はないということで、連休後半真っ直中、金沢へ駆けつけることになった次第。昨年は何故か金沢には縁がなく、結局年末土壇場で北國アラブチャンピオンを観るのみにとどまった金沢観戦であったが、今年は重点地区(?)として、しっかり押さえようと思っておるので何卒よろしゅう。(←って、誰に言ってるのだ?)

さあ金沢へ〜道中からメインレースまで
前日の3日に名古屋の実家に帰省したので、金沢へは名古屋方面から。ということで朝7:54名古屋発の特急しらさぎにて。相変わらずの旧国鉄時代からの特急車両。途中大垣−関ヶ原間の東海道線のバイパス(垂井付近を大きく迂回して勾配を緩やかにしてある別路線があるのです)を体感し、米原駅での進行方向転換に合わせてシート向きを変えるというお約束をこなして、10:54に金沢着。
駅のキオスクで予想紙『競馬カナザワ』を買って、折良くやって来た競馬場への無料バスに乗車。5紙もある金沢の予想紙のうちで、『競馬カナザワ』をチョイスしたのは、表紙が所属全騎手の勝負服のイラストで、レース中騎手を確認するのに好都合だから。20分強バスに揺られて、競馬場に到着。

時刻は11時半頃。昼食時の直前。手荷物を預け、まずは場内の寿司屋へ。運良く空いていて余裕で着席。アジ、サワラ、赤貝、バイ貝、ブリトロと食す。アジの爽やかさ、サワラの優しい食感と脂感、貝の凝縮された磯の香り、ブリトロのこってり感・・・
という具合に味わいつつ平らげていると、隣に若者が着座、ふと見ると、これがディープさん。「おっ!?毎度!」と、お互い挨拶。丁度今来場したそうで。彼は例によって11:11金沢着のサンダーバードにて。後で彼に聞いた話によると、この時「入場して寿司屋見ると不似合いな若いにーちゃんがドカっと座って空皿並べてるから、『何や態度デカい奴やな』と思って隣に座ってやったら、皿退かしてくれるから『ふ〜ん』と思って見たらユーノすけ氏だった。」ということだそうで。とにもかくにも二人で寿司を食べて、店を出たわけ。
スタンドの四角側の端、入場門から進むと正面に見えるところにPRコーナーが出来ていて、ここを冷やかすと、係の女の人が「カレンダー要りませんか?」と声を掛けてくる。開催年度に合わせた4月から翌3月まで、二月1枚構成のB3判のカレンダーで、所属馬の写真が1枚あたり2〜4頭載っている代物。1枚目には、アラ、サラそれぞれの年度代表馬、イセイチフブキとトラベラーが。概ねアラ、サラの扱いが公平で好感だったので、有り難く頂戴する。

天気は晴れの予報だったのだがあまり太陽が顔を出さず、概ね曇天。そして何より、気温が上がらず、ここ最近の関西の暑さに慣れた身にはかなり肌寒い。馬場状態は重。砂が水分を適当に含んで締まった状態。おしなべて走り易そうな感じではあるのだが、レース展開として、インコースで逃げ馬がゴール直前まで気持ちよく粘るところを、土壇場で馬場外目から差し馬が急襲して逆転、というケースが目につく。

場内で地元在住のきたくんに遭遇。彼とは昨年10月の園田タマツバキ以来。午後になって、コース沿いで観戦するディープさんとワシに、後ろから「まいど」と声を掛ける人間が。振り向くとこれが辻本くん。前レースで予想ばっちりの中穴が大穴決着となり獲り逃がし、惜しい気分であるところなのだが、機嫌は良さそう。「あ〜〜いい競馬場ですね〜!」と、伸びをしながら仰る。「何と言っても今日は全レースアラブですからねえ、心癒される1日ですよ。」と、ディープさんからお得意のフレーズも飛び出す。

8レースはB1クラス、オパール特別。ここに金沢3歳現在No.2、チョウヨープリンスが登場。これまで13戦3勝2着9回。ここは断然の本命、1番人気。「しかしここを勝つとA級入りですからねえ。陣営としてはホントはまだA級に昇級させたくないでしょう。勝って痛し痒しってとこですか。それが勝負にどう出るか?」とディープさん。
パドックに登場した彼はなかなかガッチリとした好馬体。毛艶はまあまあ。しかしレースは先手が奪えず。直線やっとのことで2番手に上がり先頭に出ようとするのも束の間、外の差し馬勢にズバズバ抜かれ、4着敗退。本命評価を裏切ることに。

※黒百合賞についてはここからです
さて、メインレースの黒百合賞。出走メンバーは内枠より以下の10頭。()内は騎手、斤量。
ベストイチ(倉重、54k)、ツルギネオン(堀場、55k)、ビソウウエスタン(埋橋、57k)、マルイシヒーロー(長嶋、56k)、イセイチフブキ(桑野、57k )、ブルーホーク(殿田、56k)、アサカタイショウ(平瀬、56k)、サンエスジュニア(山本登、54k)、エステイヒーロー(山中、54k)、トライバルリーフ(渡辺、54k)
ということで、半年以上音沙汰無しのダスティー、開幕以来絶不調でA1落ちしたアイカンセンプー、昨年末でアラブ系が消滅した高崎から転入、しかしA1で7着3着のカズタカショウグン、この3頭を除く現在の金沢古馬有力馬が登場してくれた。

パドックから発走まで
そしてパドックに出走馬が登場。
1番がベストイチ。3月まで兵庫所属でA級の常連だったが4月に金沢移籍。開幕以来A3、A1を連勝で勇躍重賞へ。「この馬兵庫時代はホンマジリでねえ、スカイハイリーあたりに悉くやられてましたけどねえ。」と辻本くん。さて、その馬体。明るい鹿毛の皮膚は薄そうで踏み込みも良好。馬体重486kはちょっと重めか。それを某くんに言うと、「まああんなもんじゃないですか。」とのこと。
2番ツルギネオン。馬体にやや冬毛が残る。体型がやや重いか。リズムを取って周回しつつも、時折跳ねたりガチャガチャと煩くなる。一昨年の金沢アラブ系年度代表馬も昨年は着は拾うが勝ち星なし。生え抜きベテランの意地、見せたいところ。
3番ビソウウエスタン。まあまあだが歩様は強くはない。因みに鞍上埋橋騎手はデビュー1年半の若手で、個人的には注目度大。色白で肌のキメが細かそうで頬が紅くて可愛い、ワシ好みの美少年(アブナイ話やなあ)。
4番マルイシヒーロー。周回中ずっとガチャガチャとやっている。ディープさんに「岩手時代もああだったの?」と訊くと、そんなことはないとの答え。肩やトモの張りなどなかなか良好で仕上がっているとは思うのだが。
そして5番がイセイチフブキ。昨年の金沢アラブ系年度代表馬で、今季も開幕開催緒戦を勝利。ここも当然不動の本命。「イセイチ相変わらずいいですねえ。」と某くん。悠々と周回で落ち着きの現れかやる気の欠如か。馬体重500k超で絶好時から比べるとやや緩い気もしなくもないが、某くんは問題ないのではとの見解。「それにしても4番(マルイシ)とこの馬、全兄弟でしょ、ホンマ似てないですよね。」と、某くんも呆れる。
6番ブルーホーク。トモの送りが堅いか。8歳馬、戦績的にもちょっと苦戦か。
7番アサカタイショウ。6番同様当年8歳の大ベテランながらも、その馬体はパンパンの張りで毛艶も良好、素晴らしい仕上がり。鶴首になってジンワリとした気合い乗り。開幕緒戦はイセイチの2着、まだまだ元気。「アサカタイショウ凄いな・・・」と漏らすと、「確かにいい馬ですね。」と某くんも同意。
8番サンエスジュニア。開幕開催のA2A3重賞、菊桜特別中日スポーツ賞の勝者。馬体は伸びやかだが時折気の悪いところを見せる。
9番エステイヒーロー。明け4歳トップ集団の1頭だが今季はA2からスタートで、緒戦は中日スポーツ賞2着。冬毛ボーボーでトモがギッタンギッタン、首も高く、時折煩くなる。以前に目にした時よりも格段に見た目が悪い。「エステイヒーローねえ、距離二千ギリギリやと思うんですけどねえ。千八ならここでも充分戦えるでしょうけど。」と某くん。「身のこなし堅いよねえ?」とのワシの振りには、「確かに、その点では8番や10番とかの方が断然柔らかいですね。」と同意。これでどうか。
10番トライバルリーフはエステイと同様4歳トップ勢の1頭。栗毛の馬体の艶、張りの悪さはいつものことなので気にはならない。終始下をグッと向いて、集中している感じ。

ビソウウエスタン(37KB)
ビソウウエスタンwith埋橋クン、本馬場入場
馬はベテラン騎手は美少年

ということで本馬場入場。入場時各馬が外ラチ沿いに歩みを進めて登場するのが流儀なので、コース沿いで待ち構えていると馬が目の前を通過する。これを眺めつつ、某くんやディープさんと検討。「ベストイチ、いい馬じゃないですか。」とディープさん。「しかしつい二月前まで園田の中堅上位の馬がいきなり金沢OPでデカい顔されたら困る。」とワシ。すると彼、「まあホマレブルショワ(ホマスタの父、兵庫出身で金沢移籍後破竹の快進撃)のこともありますから。その二代目となるかも。」。「それでベストイチ、買います?」と某くん。「ワシは保守的やから買わない。でもシルシも多いし人気してるね。」とワシ。「う〜ん・・・」と考え込む某くん。「それはそうと、マルイシヒーロー、騎手が跨ったら落ち着きましたね。」と付け足し言及する。
アサカタイショウ(47KB)
8歳ベテラン、アサカタイショウ
惚れ惚れする馬体
イセイチフブキ(42KB)
イセイチフブキ、返し馬へ
"超獣"不動の本命

予想。アタマはイセイチで問題なし、ヒモの筆頭にはアサカタイショウを、それにエステイとトライバルリーフの8枠、そして人馬とも応援の意味合いでビソウウエスタンに。

レースなり
いよいよレース。距離二千のスタート地点は2コーナーを立ち上がったところ。
ゲートオープン。予想通り真ん中からイセイチフブキがグンと出てハナへ。連れて外からサンエスジュニアが。イセイチの単騎独走にはならず、離れずこのサンエスが2番手ビッタリ。外からエステイヒーロー、内からツルギネオンがやや離れて続き先団を形成し、はじめの3コーナーを回ってくる。
1周目の直線、先頭は内ラチ沿いにイセイチ、2番手離されずにサンエスジュニア。それほど離れず内ツルギネオン外エステイヒーローで、この後ろ差がなく内アサカタイショウ外トライバルリーフ。マルイシヒーロー、ビソウウエスタンは中団以降でベストイチは殿だった模様。
隊列は2周目向こう流しへ。先頭ではようやくイセイチがサンエスをどうにかこうにか振り切り若干のリードを稼いだ模様。そして向こう正面半ば手前で、エステイとトライバルリーフが仕掛け気味に併走して上昇するが、ここでの本気度に優ったのはエステイ、単騎先団を抜け出し前のイセイチに迫る。
そして3コーナーから4コーナーにかけて、先頭イセイチの直後までエステイが一気に来る。この時エステイ鞍上の山中騎手はインのイセイチに併せに行かず、馬場外目に進路を。ということでレースはこの2頭の争いかと思われたのだが・・・

最後の直線(35KB)
最後の直線
抜け出すエステイ、内ラチ沿い苦しいイセイチ、追い上げるツルギ(黒帽)、サンエス(橙帽)、トライバル(桃帽黒メンコ)

最後の直線、インベタでイセイチが粘るのだが逃げ脚に翳りが。「おいおいイセイチ駄目なんじゃないか!?」とお客さんから声も挙がる。事実この時の脚いろ、エステイの方が格段に上。残り150mあたりでイセイチを交わし先頭に。後はゴールまで一目散。
これ以降イセイチは何とか踏み留まらんとするが、残り100mで後続がドッと押し寄せる。内からツルギネオン、サンエスジュニア、トライバルリーフ。中でも抜群の追い込み脚を見せたのは大外ベストイチ。外から一気。

エステイヒーロー(45KB)
エステイヒーロー、ゴール
嬉しい重賞初勝利

ということで1着はエステイヒーロー。これまで2着は3回あったものの、これが嬉しい重賞初勝利。
1馬身半差の2着は追い込みベストイチ。転入以来の好成績はホンモノということ。
1馬身遅れて3着は道中イセイチから離れぬ2番手で、エステイが勝負に出て以降も渋太く食い下がって再度差し込んだサンエスジュニア。この馬、地力上げているのでは?このレース振りはなかなか。
1/2馬身差の4着は終始好位インのツルギネオン。ちょっとレース振りとして、爆発的なところに最近欠けるような。
1/2馬身差の5着は好位外からトライバルリーフ。レースの流れには乗っているようだが突出したところがないような。
本命イセイチフブキは5着からクビ差の6着。惜しくも何もない完敗。期待のアサカタイショウはこれから6馬身も遅れた7着。8着マルイシでビソウウエスタンは最下位。競走馬としての盛りを、ホンマに過ぎてしまったのか?

大本命、それに期待も大きかったイセイチが大敗してガッカリのワシだったが、ディープさんと某くんは意外にもサバサバとしている。ディープさん曰く、「若い4歳の、それも生え抜きの馬が重賞勝つってのは、金沢のアラブ状況としては非常に好ましいことですよ。今後に期待が持てる。」。某くんもイセイチの敗戦に関しては、「逃げ馬が負ける時は、えてしてこんなもんですよ。」と納得の様子。 しかしイセイチにしてみれば、スタートからサンエスジュニアにビッタリ、やっとのことで振り切ったというところでエステイヒーローが一気に、と、単騎逃げに持ち込む間もなく、あたかも戦艦が集中砲火浴びて沈没するかのような、気の毒なレースではであった。終い多少甘くなろうとも、道中スピードに任せてガンガン逃げて、後方が追いつくのに絶望的な気分になるほどのリードをつけて勝負を決めてしまうのが、この馬の勝ちパターン。楽逃げさせてもらえないと厳しい。比較的走りやすいこの日の馬場で、他馬を圧倒するスピードを発揮するには、ちょっと仕上げが甘かったかも。

最終レースの返し馬が終わったところで、黒百合賞の表彰式が行われる。エステイ鞍上の山中利夫騎手は、2600勝騎手で、紀三井寺競馬出身の大ベテラン、当年51歳だがアグレッシブなレース運びと手綱捌きで今回の勝利をもぎ取る。それにしてもこの山中騎手、もうオッサンを通り越して農家のジイちゃんのような、日焼けか酒焼けか、真っ黒な顔には深く皺が刻まれてという、コテコテの風貌なのであった。

おわりに
最終レースも終わり、帰路に。帰り際、購入した『競馬カナザワ』以外の4紙を拾って揃えて持ち帰る。金沢駅方面の無料バス乗り場を目指すが、昨年のその位置とは場所が変わって、一番入場門に近いところになっている。「まあこれが本来の位置なんでしょうけど。」とはディープさんだが、正直ちょっと迷った。
金沢から、ワシは17:07発の特急加越で米原まで。ディープさんはサンダーバードで京都まで。明日は名古屋杯、土古で落ち合う予定。辻本くんは「負けたから各停で帰ります。勝ったら名古屋に泊まって明日名古屋杯とも思ったけど。」と、17:40発の敦賀行きに乗車。「で、実際のハナシ、明日名古屋杯は?」との問いに「行きません行きません。住之江かな。」とのこと。ここで一同解散。ワシの電車が一番先に出ることに。自由席だったが、始発ということと、旧国鉄型の特急車は座席数が多い(これだけが取り柄)ので、無事着座。
米原からは在来線で関ヶ原越え。大垣で新快速に乗り換えて名古屋まで、そして実家に帰着。

ということで、本日の金沢日帰りは無事終了。「明日も競馬?」と、実家の人間に呆れられつつも、翌日は前述の通り、名古屋競馬場へ行く予定。目当ては名古屋杯(春)。ではまた。

2001.5.19 記

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