第80回名古屋杯観戦報告
2001.5.5、名古屋、1900m
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はじめに〜東海古馬重賞私的概括
春の東海アラブ古馬大一番、名古屋杯。ご存じの通り、名古屋杯は新春と初夏の年2回施行され、新春は中京の2300m、そして今回の春のそれは土古1900m。
東海地区のアラブ古馬重賞は、この二つの名古屋杯(及び新春については笠松のアラブギフ大賞典)をクライマックスとして、その前にトライアル的に開催が集中していることが特徴かと。新春については12月にシルバー争覇(SPII)とキャンドルライト賞(SPII)が、春については4月アラブチャンピオン賞(SPI)とクリスタルカップ(SPII)が存在している("SP"=スーパープレステージ、東海の重賞グレード)。逆に言えば、春の名古屋杯以降年末まで、これといったアラブ古馬重賞が存在しない(アラ・サラ混合の笠松オールカマーやアラブスプリンターカップはあるが)わけで、これが個人的に不満といえば不満。
と、前置きが長くなったが、この春の名古屋杯、年明け以降これまでの東海アラブ戦線の総決算であるわけであり、連休後半真っ直中、観戦ということに。因みにこの日は福山では福山ダービーが、高知ではマンペイ記念と、それぞれの地の3歳三冠第一弾が行われるという、まさにアラブ重賞トリプルデーなのであった。
それにつけても個人的に思うのは、このところの東海アラブ古馬戦線、覇権争いの展開のめまぐるしさ。年頭の時点では、昨年来の不動の王者ブラウンダンディに、次位筆頭ブレーンワーク、これに虎視眈々のマリンレオといった状況だったところ、1月末の荒尾セイユウ賞出走後、王者ブラウンが休養入り。ここでブレーンワークが不振に陥り、マリンレオも裂蹄持ちということらしくコンスタントに使えず、一気に政権を奪うには至れず。そうこうしているうちに、アラブチャンピオン賞とクリスタルカップを、4歳クラボクモンと7歳ベテランマルカシードの笠松勢が連続ワンツーで台頭。そして更に、年明け笠松に道営最強馬、ホーエチャンピオンが転入。満を持して4月25日に登場して1着。東海平定に本気?――
という経緯のもと、この名古屋杯を迎えることになったのだが・・・
東海強豪総集結、とはならないのが何とも。休養中のブラウンはともかく、マリンレオとイケノエメラルドは当初より登録なし。補欠1位のラディガブライトやヘイセイチェッカーも、上位馬回避で席は空くもののお目見えはなく、ホーエチャンピオンは登録はあったものの結局不出走。
結果出走馬は以下の通り。それでも何だかんだでフルゲート12頭。()内は騎手、斤量。ハンデ戦。
ブレーンワーク(倉地、55k)、ワンダーキャッスル(宇都、53.5k)、レイクスキー(尾崎、54.5k)、マルカシード(安藤光、55k)、ラッキーメッセージ(宮下瞳、53k)、ケイエスマジック(川原、53.5k)、クールショー(満田、53k)、ローテーション(丸野、55k)、ドリームボール(安部、53k)、ジョージシャラー(岡部、54k)、クラボクモン(安藤勝、53.5k)、ヘイセイエクセル(横井、52k)
上記の内、マルカシード、ケイエスマジック、クラボクモンの3頭は笠松よりの出張馬。
東海、特に名古屋の所属馬は、クラスが細分化されておらず、また格付け賞金から過去の稼ぎの除外の度合いが小さいようで、他地区の人間からすれば、現状での実力関係が掴みにくいような気が個人的にはする次第。
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土古へ〜メインレースまで
名古屋駅前の名鉄バスセンターからファンバスに乗車し、1時頃に競馬場に。場内で、昨日金沢で一緒だったディープさんと予定通り落ち合う。そして東海といえばこのお方、"好漢"おーたさんに挨拶。おーたさんと一緒にいらっしゃるのはでヒカリ丸ットオーさん(お初です)、それに大阪在住全国行脚のWSさん。アラブ応援家3号馬さんも来場。そして園田の大西さん。
『競馬エース』に、5月27日のタマツバキ記念に名古屋代表として選出された、ブラウンダンディの近況を伝える記事が載っていたので、おーたさんに問う。「これブラウン、弥富のトレセン戻ってるって書いてありますがホンマ走れるんですか?」曰く、「ブラウンに関しては、秋に全国交流とかあってそれを狙えるんじゃないかっていう、陣営の見込みが完全に外れたってことでしょう。そこにもってきてタマツバキへの声がかかったわけで、そうなった以上は今更急仕上げとか何とか言ってられない状況ですよね。」ふむふむ。
天気は薄曇り。コースがスタンドから南向きの名古屋競馬場、日が照ると写真撮影ではまともに逆光食らうので、この空模様は願ったり。但しこうした明るい薄曇りの中で撮る写真は、白っぽくなって色がしっかり乗ってくれないのが難点。
馬場状態は良。割とバサバサ。こういう時の土古の馬場の常として、馬場外目が圧倒的有利。内は深くてアウト。実際レース結果も7レースまで悉く8枠絡み。4番枠が1頭2着したのが連入馬の最内枠と、完璧に外枠デー。
8レースがアラブ系A級戦、立夏特別A−2組。オープン3組くらい?(後註及び訂正:地元おーたさんの御教授によれば、これは額面通りに上から2番目のクラスと捉えて正解だそうです。)のレース。距離1600m。因みにこの日のレースメニューのうち、アラブは1レースとメインの名古屋杯、そしてこの8レースの三つだけ。「心癒される1日ではないなあ。」とディープさんが言ったとか言わなかったとか・・・
ここに重賞勝ち馬のエムエスダイキチ、アーサーモバイル、上り馬というグロリアスメロディなどが登場。レースは前半エムエスダイキチが逃げるも、2周目二角でグロリアスメロディが中団から、深いということで敬遠されガバッと空いたインを突いて一気に上昇、先頭へ。そのまま1着。この豪快かつ意外な戦法が決まってしまうということは、この馬、ここでは相当地力上位ということか。因みに高知で今年の南国桜花賞を勝ったサウンドマスターの半妹だそうで。
※名古屋杯についてはここからです
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パドックから発走まで
そしていよいよ名古屋杯のパドックに。最近の東海地区では最終レースにメインを持ってくるケースが多々あり、今日もそれ。ということで各馬が姿を現す。
1番ブレーンワーク。ソコソコの出来だとは思うが、近走の不振が観る側の頭にあるからか、イマイチパッとしない。いい頃のこの馬は、身のこなしが堅く見えるほどバキバキブリブリな筋骨隆々の馬体だったのだが、それに比べればやや緩いような。
2番ワンダーキャッスル。毛艶はイマイチだが活気はある。今年正月の名古屋杯3着。堅実な差し馬だが当地移籍後連対経験なし。
3番レイクスキーは8歳になったが歳なりにはソコソコ。身のこなしは柔らかい。「この馬名古屋転入以来2回しか連対していないのにずっとA級上位なんだよな。連対したうちの1回は馬券獲っておいしかったけどさ。」とおーたさん。ワシ「その持ち賞金の大半は9連勝なんかした園田時代に稼いだ分でしょ。」「つまりは名古屋のクラス編成の問題点の象徴みたいな馬ってことですね。」などと。
4番マルカシード。毛艶はそれほどではないが身のこなしは柔らかい。前の馬との間隔が開くが、いつもやる気のない周回を見せる馬なのでどうということはない。むしろこの馬にしては今日は活気がある方かと。それを口にすると、おーたさん「まあいつも走ってる所(笠松)じゃないからね。」。「4番デカいなぁ。背ぇとかも高そう。」とは大西さん。確かに馬体重512kなので大柄ではある。しかし大西さん、園田のシルクスピードといいこの馬といい、黒鹿毛のデカい馬が好みなの?
5番ラッキーメッセージ。意外に良好。トモの踏み込みも深い。しかしながら近走成績からもここは苦戦か。今日は鞍上が宮下瞳騎手 。
6番ケイエスマジック。昨年末まで金沢所属で今冬以降笠松に。グッと鶴首になって気合い乗りは最高。馬体の見た目も好感。「ケイエスマジックはパドックホンマ良く見せますね。前回金沢(昨年末の北國アラチャン、筆者註)でも良かったですしね。」とディープさんも言及。これには全く同意。
7番クールショーは毛艶イマイチ。8番ローテーションはまあまあ、悪くはない。9番ドリームボールは首を下げてグイグイと周回。トモの踏み込みがやや浅い気もするが全体的には良好かと。10番ジョージシャラー。7歳ベテラン、歳なりにか。全姉サンデンビスタが引退したそうで。
11番がクラボクモン。408kの馬体は元来の体格として幅がないもの。例によって深いブリンカー着用で、ちょっと頭の高い、スタスタしたせわしない周回。それにしてもちょっとトモの送りがイマイチか。3走前にこれまでの主戦、坂井"アンパンマン"薫人騎手から安勝に乗り替わって以後3連勝。うち前走と前々走は冒頭に記した通り、春の名古屋杯に至る重賞ロード、アラチャン賞とクリスタルカップでの勝利。今回はこの過程で負かしてきた相手との再戦ということで断然の本命評価。しかし細身のこの馬にとっては出走間隔が詰まったきらいがあると、『競馬エース』では一応危惧。
12番ヘイセイエクセルはジンワリとした気合い。馬体にボリューム感あり。
本場場に各馬入場。名古屋の本馬場入場は、かなり整然と入場してスタンド前に顔見せするのが流儀なのだが、クラボクモンは登場早々1コーナーへ駆けて行って待機所に直行。
予想。追い込みが決まりそうなこの馬場で、加えて8枠ということで、本命クラボクモンには逆らい難いところはある。加えて鞍上は安勝。「でもなあ土古の安勝は『ナンチャッテ』なところがあるから信用しきれないんだよなあ。」とはヒカリ丸ットオーさん。
相手は順当にマルカシード。近走の終いの粘り腰は大いに評価するに足るので。「マルカシードはわしもこのところ見直してるんですよ。今回は買いますよ。」とディープさん。彼とワシ、つい正月頃までは「マルカシードなんて、平場はともかく、大舞台じゃホンマ頼んないヘコヘコ先行馬や。」と断じていたにも拘わらず、である。
そして見た目抜群のケイエスマジック。逃げて一気ということも考えて。このマルカとケイエスについては今回個人的に相当買っているので、クラボクモン不発の先行ワンツーまで考えて、このタテ目も。
ブレーンワークは取捨に迷ったが、まだまだ復調はしまいという見込みと、1枠発走という点からも切る。
ゴール板前で皆さんと予想談義などしつつ発走を待っていると、前日金沢でご一緒し、名古屋杯観戦断念宣言をされていた辻本くんが登場。「あ〜間に合った。ファンバス終わってたから地下鉄で来たら迷った迷った。」「あれっ!?やっぱりなあ・・・」と、来ない来ないと言いつつ来てしまうであろうという期待に逆らわぬ辻本くんの行動に歓迎のワシ。「ここ住之江じゃないですよぉ。」とディープさんも突っ込み。「ああ住之江ねえ・・・」と、すっとぼけの辻本くん。
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レースなり
レース発走。名古屋千九は向こう正面入り口が発走地点。ここから1周と3/4。
ゲートオープン。中から好ダッシュはマルカシード、2つ外枠のケイエスマジックも負けずに前へ。連れて外ローテーションも。向こう正面中程に向けて、マルカとケイエスが併走でハナを争う形。得意戦法からしても、ケイエスがハナでマルカは2番手に控えると見込んだのだが、マルカの安光、譲らず結局先頭はマルカシードでケイエスマジックは外目差のない2番手。3番手ローテーションが追いかける。この後ろやや開いて4番手インにブレーンワーク以下好位勢。4コーナーを回るあたりで先行3頭とそれ以降の好位勢との差が詰まって、1周目の直線を迎える。
スタンド前、先頭マルカ、1馬身弱後方外2番手ケイエス、さらに1馬身弱後方外ローテーション。2、3馬身開いて4番手インにブレーンワーク、中クールショー外ジョージシャラー、次列インにワンダーキャッスルその外ラッキーメッセージと、これらが好位集団。その後ろドリームボールを前に見て、内レイクスキー外にクラボクモンで殿がヘイセイエクセルと後方待機勢。
1周目スタンド前
先頭マルカシード2番手内ケイエスマジック外ローテーション
2周目に入ってもマルカとケイエスはフロント快走、向こう流しあたりでローテーションは後退気味。そしてレースが動き出すのは三角手前。後方からクラボクモンが外目を一気に押し上がる。ここでドッとくる場内のお客さん。みるみる好位集団を抜き去り、四角あたりではフロントに顔を出そうかという位置まで。このクラボクモンのスパートに内でドリームボールが併せ、連れて上昇。
ということで最後の直線。先頭インベタマルカシード、ほとんど差がなく1、5頭分外にケイエスマジック、そして馬場六分どころより外に、捲ってここまで来たクラボクモン、ドリームボールはケイエスとクラボクモンの間に進路を。ブレーンワークはこのフロントの次列インベタなれど、追撃する脚はないようでこれは勝負の圏外。
捲った脚いろそのまままなれば、クラボクモンが一気に突き抜けているところ、しかし抜けないクラボクモン。いや実際のところ、直線を向いて、安勝、追い出しに一息入れている模様。その間マルカとケイエスは激しい粘り合い。終いタれそうでタれない粘り腰はマルカの十八番、今日も渋太い。ケイエスも最後まで諦めない。ドリームボールは押し上げに脚を相当使ったからか、先に斬れが鈍った感。
最後の直線半ば
内からマルカ、ケイエス、ドリーム、クラボクモン
そしてクライマックス。再度安勝に気合いを入れられたクラボクモン、グンッ!と伸びて一瞬にして先頭に躍り出る。これで勝負に断。終いは安勝、手綱を緩める余裕を見せてのVゴール。強い!2着との差は1馬身だが印象としては圧倒的。
2着争いは熾烈。何とかマルカシードがケイエスマジックの追撃を振り切り2着。3着ケイエスでこの間アタマ差。ドリームボールがアタマ差4着。5着はここから5馬身遅れて差してきたと思しきワンダーキャッスル。ブレーンワークはこれにも差されて3馬身遅れの6着。
ゴール手前、加速クラボクモン
外からひと脚一気!そして→
クラボクモン、ゴールへ
→こうなる。安勝の抑えた手綱と2着争いにも御注目
レース後の表彰式を前に、口取り撮影に臨むべく、安勝を鞍上にクラボクモンがウィナに登場。3号馬さんのレポートで話題になった、ブリンカーメンコの下の流星の素顔を今回も披露。ってことは、レース後一旦頭絡を解いてメンコを脱がして再度頭絡を着けているんだよな。
それにつけても強かったクラボクモン。勝負付けの着いた馬相手とはいえ、捲り脚、一旦抑えて終い更にひと脚という、"1レースで二度の決め脚"という、なかなかのものを見せてもらった。これだけの実績そしてパフォーマンス、やはり今後は交流競走の舞台で活躍を観たいものだ。それはそうと、有力馬勢揃いの、真の東海最強馬決戦を待望。
2着マルカシード、見事。「こんなに強かったのか。」というのが感想。アタマ差の僅差2着争いを砂の深い最内で凌ぎ切ったのも大したものだ。それにしてもクラボクモンとマルカシード、馬体重100kも違うのに2頭とも黄メンコ深ぁ〜いブリンカー装着と、いわばペアルック。これで3走連続のワンツー。しかしこの2頭の最近の関係、「若いヤリ手の出現に触発されて、情熱失せかけたベテランの相方が再び輝き出す」なんていう、ドラマにありそうなシチュエーション(刑事モノとかさ)だと思いませんか?
ケイエスマジックは2番手からの競馬、これはどうか?と思ったが最後までよく走っていると思う。「バカ逃げ圧勝か巧く事を運べず圏外か」という馬かと思っていたのでこの結果は意外、新境地なのでは?しかし何だかんだで地力あるな。
と、今回は笠松からの3頭が上位を占めることに。地元名古屋勢が、「迎え撃つにはちょっとこれでは・・・」というというメンバーだったのが、正直に結果に出たというところか。
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おわりに
メインレースが最終Rなので、これにて打ち出し。この場合ツライのが、帰りのファンバスがすし詰め満員だということ。競馬場からの無料ファンバス、往路と異なりどういうわけか名古屋駅行きがなく、金山(名古屋よりJRで2駅南の割と大きいターミナル)行き。
ということで本日はここまで。明日は連休最終日、そしてやっぱりアラブ行脚。ではまた。
最後に余談、「クラボクモンのブリンカー顔って、エレファントマンに似てる・・・」。
2001.5.22 記
2001.5.25 修正
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