第30回中京スポーツ賞観戦報告
2001.9.2、金沢、2100m
◆はじめに
盆開催というのはどこの主催者にとっても書き入れ時。その目玉レースとしての意味合いもあろう、多くの競馬場で重賞が行われる。アラブ系重賞においても然り。その盆開催が済んで一息つくからか、9月というのは比較的アラブ重賞が少ない時季であるように個人的には感じられるのだが、どうだろう。
そこで、今回の中京スポーツ賞。金沢競馬9月初頭開催恒例の古馬A級重賞。金沢では盆開催にアラブ系重賞は行われず(あるのはサラのMRO金賞)、これを避ける?形で7月末に農協牛乳杯が、そして9月初旬にこのレースが置かれている。1着賞金450万円、距離2100m、格的にはくろゆり賞や石川テレビ杯と遜色ないレースなのだろうが、夏場を何とか乗り切りかけたというところでの重賞だからか、「出走メンバーの揃わないレース」(byディープ師匠)という傾向があるようだ。
ということで今年のこのレース。当初は「重賞観戦の数稼ぐためには観るのもいいかな。しかしあまりに面子ショボければ見送りもやむなし。」という腹づもりだったところ、発表された出走メンバー、「おおこれは!」(そのココロは後述)。「観に行かぬ理由は何もない。」(これもディープさん)というわけで、農協牛乳杯に続き、金沢観戦ということに。
◆金沢へ、そしてメインレースまで
例によって8時42分大阪始発のサンダーバードに乗車して。快適な車中旅に思わず眠り込んでいると、「おっす毎度。」との声に起こされる。声の主はディープさん。以後同行。車中では今日の展望や今月中旬の荒尾記念の見立てなどを語らって過ごす。そして11時11分に列車は金沢着。
駅のキオスクで『競馬カナザワ』を買ってファンバスに乗り込む。天気は晴れ時々曇りといったところ。今夏の猛暑が嘘であるかのような涼しさ。駅前のビルの壁面にある気温の電光掲示には26度と表示されている。そりゃ涼しいわけだ。
競馬場に到着。銀箱を手荷物預かり所に預け、まずは寿司。アジ、ガント、ネギトロ軍艦、バイ貝、ウニ軍艦、赤身と食す。隣で猛然と平らげるディープさん。結局8皿食べたらしい。
馬場状態は当初稍重だったが、8レースから良馬場に。好位から外目を進出した馬が連に絡む確率の高い、またインコース走行のままの逃げ馬はなかなか残れない傾向のよう。
場内で3号馬さんに行き会う。18きっぷの消化のため、途中までは特急に乗らず辿り着いたそうで。
準メインの第9レースはA3クラスのルビー特別。ここに現在この地の3歳2番手と目される、牝馬モトケンホマレが登場。レオグリングリン産駒らしい、重量感ある体型(グリンティアラやグリンエイシを想起して下さい)。レースはこれがすんなり抜け出し勝利。まずは上々だと思ったが、「あまりピンとくるところがなかったなあ。」とは3号馬さん。因みにこのレース、あのイナリトウザイの最後の産駒、現4歳キタノチャンピオンも登場したが、逃げが打てず3着敗退。
※中京スポーツ賞についてはここからです
いよいよメインレースの中京スポーツ賞。出走馬は内枠より以下の10頭。()内は騎手、斤量。
グリンエイシ(平瀬、53k)、キミノミネフジ(桑野、53k)、ダイリンフラワ(米倉、52k)、ハヤテサンダー(渡辺、53k)、サンエスジュニア(吉原、53k)、ホマレドン(藤川、53k)、ブルーホーク(殿田、55k)、マルイシヒーロー(長嶋、55k)、ベストイチ(蔵重、53k)、ホーエチャンピオン(山中、56k)
冒頭に記した、「出走メンバーの揃わないレース」=「盛り上がりイマイチなレース」という同レースの通例を覆したのは、ひとえに以下の2頭の登場の賜物。すなわちホーエチャンピオンとダイリンフラワ。前者はご存じ(元)道営の怪物。笠松所属で出走した6月のアラブグランプリ以降、そのまま金沢に移籍し、8月19日の当地転入緒戦に勝利しここに。後者は金沢3歳筆頭馬。前走の農協牛乳杯ではイセイチフブキ以下、並みいる古馬を撫で斬りにする捲り差し勝ちで、3歳牝馬ながらも当地のトップに躍り出んかの勢い。勿論今日のお目当てはこの2頭。
「早くも金沢転入のホーエチャンピオン観れますね。」「ホーエもともかく、ここの注目はダイリンフラワでしょう。ここでそれなりの馬を相手に距離二一を戦う経験は大きいですよ。長丁場への適性を見極めて秋の福山(全日本AGP)狙う上でもね。」などと、ディープさんと往路の車中、話が弾んで。
◆パドックから発走まで
パドックに登場する出走馬。
1番グリンエイシ。皮膚の薄そうな艶の良い栗毛の馬体。いつも通りゆったりと周回。歩様はまあまあ。前走はホーエチャンピオンの金沢緒戦で接戦、クビ差の2着。ハンデはホーエ60kの重斤に対し彼女は53kだったが、先行抜け出しのホーエに唯1頭直線追いすがり、馬体を併せて追い合っての惜敗。この模様は場内に参考レースとしてVTR放映されたが、感心してしまう走り。「グリンエイシ、ムッチャ強いじゃないですか!このVTRだけ観たら絶対凄い馬だと思いますよ」と、ディープさん3号馬さんと言い合う。
2番キミノミネフジ。5月までは名古屋所属、オープンバリバリの一歩前あたりだったところ金沢に転入。以降5戦2勝2着2回で、勝ち星の片方はA1戦と、オープン上位に食い込んだ。トチノミネフジ産駒。これも大人しい周回。うつむいてトボトボと歩く。動きは滑らか。518kの大型馬、たしかに大柄だがボテッとしてはおらず伸びやかな体型。
3番がダイリンフラワ。この馬にしては毛艶は良い方。前回目撃した時と同様、トモをビョッコンビョッコン振り上げる妙な歩様。「ダイリンフラワはいつもかなり発汗する馬なのに、今日はそれがほとんどないですね。この点がちょっと気になりますね。」と3号馬さん。確かに体表にうっすら汗が滲む程度で、他馬に比してもそれは目立たない。「格段に涼しくなったからか、発汗が目立つ馬はいないね。」とワシ。ここでのこの馬の注目点は距離適性。楠賞の惨敗は距離二四に帰因するのか、農協牛乳杯の駆けっぷりからして本質は"短距離の差し馬"であるという線も浮上し、今後を占う上でも興味深い。
4番ハヤテサンダー。昨年の4歳(旧表記)トップ勢の一角だが、4歳の今季は概ねA2級暮らし。前走はそのA2戦に勝利してここに登場。馬体からは特段成長したとも感じられず、雰囲気はごく平凡。胴が詰まった、ちょっと窮屈に見える体型。
5番サンエスジュニア。すっかりこの地のA1常連だが、どうもピリッとしたところがない戦績。馬体は相変わらずいい感じに見せている。一見気合い乗りイマイチに映るが、その実はジンワリとした気合い。踏み込みも悪くない。イセイチフブキ不在のここは、距離も長め、その気になれば先手が奪えるところ。
6番ホマレドン。今日の主役ホーエチャンピオンの年子の半兄。父が違うこともあり、兄弟全く似ていないとは農協牛乳杯の観戦記に記した通り。やはり一番周回気配が煩い。が、この馬としてはまだまだましな方か。A1での劣勢は否めず。
7番ブルーホーク。まだまだ走る8歳馬。歳を考えればしっかりした馬体だとは思う。周回のペースが遅く、前との間隔が開く。
8番マルイシヒーロー。前年の同レースの勝者。馬体はキリッと締まって出来上がっているとは思うが、今季は9戦して最高着順が農協牛乳杯の3着1回と、結果が出ていない。それ故か、送り出す陣営も「長距離がいいのか短いところがいいのか、先行すべきか差すべきか」の、そのキャラの把握に迷っているよう。この馬にしては大人しい周回気配だなと思ったところ、次第に彼らしく、煩さを見せ始める。
9番ベストイチ。元来がややボチャっとした体型でありこの点は気にならぬ。変わらず悪くはない見た目。距離適性といえばこの馬もちょっと陣営の把握が迷走気味。農協牛乳杯時には「短距離の差し馬」という見立てで臨むも6着。そして今回、「息長い末脚は長丁場歓迎」ときたもんだ。つまりは単に、いかなる舞台でも"勝負に間に合わない追い込み"に留まりがちな馬であるということ。
10番がホーエチャンピオン。辺りを払うかのような存在感を漂わせ登場。馬体重518kは前走比-4k。特段問題のある数値ではなかろう。皮膚が薄く、その艶は文句無し。この馬にしてはスッキリと仕上げられた印象が強い。ジンワリとした気合いを滲ませて二人曳きでの周回。前走の転入緒戦は60kの負担重量も、ここは56k。ダイリンフラワとの4k差も性齢差を考慮すれば適切な差だろう。転入緒戦勝ちのVTRを観るに、駆けっぷり自体はこの馬らしいもの。それにしてもホーエの走るフォームって非常にカッコいい。
本馬場入場。流儀に倣って、皆が入場口から外ラチ沿いをスタンド前に曳かれて登場するなかで、ホーエチャンピオン1頭だけが入場口から1コーナー方向へ直行。「まさに特別待遇やな。」などと思いつつ見送る。ほとんどの馬はスタンド正面で曳き綱を離され、1コーナー方向へ、そしてそのまま4コーナーの待機所に直行で、まる1周返し馬をしない。この際マルイシはぶっ飛んで駆け出していく。ホーエチャンピオンは楽走で馬場をぐるり1周、スタンド前を流していく。
予想。ここは連単で、ホーエとダイリン、どちらをアタマにするかがズバリ勝負なのだが、優柔不断なワシはその丁半博打ができない。両者の馬複という、何ともヘニャチョコな馬券を本線にして、ホーエからベストイチとキミノミネフジへのスケベ馬券で楽しむという、ろくでもない買い目。「ホンマにベストイチ買うんですか?」と、ベストイチのパドック気配を褒めながらも、そんなことを仰るディープさん。師匠も3号馬さんも、ダイリンフラワの力は大いに気にしつつも、結局連単のアタマはホーエにした模様。ここでディープさんの携帯に、自宅待機の電設師から入電があり「ダイリン→ホーエの連単お願い。」と、馬券購入を託された模様。
◆レースなり
いよいよレース。距離2100mの発走地点は2コーナーのポケット。ここから1周と3/4。
ゲートオープン。キミノミネフジが出遅れ(この馬出遅れ癖あるそうで)。グリンエイシやハヤテサンダーあたりが好発、先団を形成。ダイリンフラワの発馬もスムーズ。しかし最も出が良かったのはホーエチャンピオン。大外からそのまま前に。と、これはこれで良しとするも、向こう流しを走行中、あまりに好発だったのが裏目に出たか、大外発走で前に被せてくる相手がいなかったからか、行き脚に抑えが効かず、掛かり気味になってしまう。さらに問題は他の先行勢。行くかと思われたサンエスジュニアは積極的にハナを取りに動かない。好発を決め、流れ的には先手を主張しても構わないハヤテサンダーが、いかにも「行きたいような行きたくないような」といった煮え切らない態度。後手を踏んだキミノミネフジは先行馬群を割って進出するも狙いは好位か。という具合で、意識的に隊列を引っ張ろうという馬が出てこない。結果、ホーエチャンピオンが押し出されるように三角手前あたりからハナを切らされるという、全く意外な展開になる。そのホーエ、鞍上山中騎手が無理に抑えてブッ掛かるのを嫌ったか、腹を括ったか、どうにかこうにかなだめすかしてといった体で隊列を引っ張り、ホームストレッチにやってくる。
正面スタンド前、先頭はホーエ。これを2馬身ほど前に見て、2番手に内キミノミネフジ、ホーエの真後ろにハヤテサンダー、外サンエスジュニアが併走で。この3頭のやや後ろ、馬場の真ん中をダイリンフラワが、これまでに比してやや前付けの好位キープ。このインにはグリンエイシ。これ以降はベストイチ、ホマレドン、マルイシヒーロー、ブルーホークと後方待機勢。
最初の正面スタンド前、先頭ホーエチャンピオン
次列の3頭との手綱の張り具合の差にも御注目
レースは1、2コーナーから向こう正面へ。二角を回ったあたりで、ホーエ鞍上山中騎手の手が動き始める。「何だよもう10番手綱動いてるじゃん!駄目だ。」と、若いお客さんの諦めの叫びが聞こえたが、これは恐らく山中騎手の意図的な仕掛け。早々に後続とのリードを稼いで押し切る算段かと。それに促され、2番手以下を3、4馬身離して3コーナーを目指していくホーエチャンピオン。一方ホーエの仕掛けとほぼ同時、向こう正面に差し掛かったところで、好位からダイリンフラワがGo。捲り脚炸裂という感じではなく、滑らかにスルスルっと上昇していく。向こう流し半ばあたりから、後方のベストイチらも追い上げ開始。
2周目三分三厘。ホーエがアドバンテージキープのまま回ってくるところ、やっぱり来た来たダイリンフラワ。三角で先行馬を斬って捨てて、抜群の手応えでホーエに急迫。そして4コーナー、ホーエの外についに追いつく。
最後の直線、残り100を切って
外からダイリンフラワ、内でホーエの額の星が上下
最後の直線。ホーエは必死で粘ろうとするも、こうなると追い上げる側の強み、残り200あたり、ダイリンフラワがここまでの脚勢でもってグイと半馬身前に抜ける。交わされたホーエも意地の食い下がり、差し返しを試みる。両者激しい叩き合いとなるが、結局ダイリンフラワ、1/2馬身のリードを譲ることなくそのままゴールに飛び込んで、古馬重賞連取の大きなV。
ゴール前、ダイリンフラワがホーエを押さえ込んでなだれ込む
この着差。ダイリンの推進力溢れる走法
2着ホーエ。ここから4馬身遅れた3着に追い込んだベストイチ。先団走行のサンエスジュニアとキミノミネフジが4着5着。
◆レース終わって
ここも勝ってしまったダイリンフラワ。イセイチフブキに続きホーエチャンピオンをも下したという事実もともかくとして、今日のレース、内容が酒色。ポイントの一つは1周目の向こう正面。先団のハヤテサンダーやサンエスジュニアがあまり行かず、加えて出遅れたキミノミネフジが真横を押し上げたことで、前と横がちょっと窮屈になった感じがしたものの、全く動ぜず己のペースをキープできたということ。そして道中の位置取りも以前の走りよりは比較的前の好位。差し脚も荒削りなものから(これはこれで彼女の個性として見どころあるが)スムーズでかつ理詰めなものに。と、単に素質だけで走っている状態を脱した、競走馬としての成長を存分に感じさせるものであったかと。距離延長の不安もどうらやなさそう。ということで、この秋以降が非常に楽しみとなった。全日本アラブグランプリでの彼女は要注目。ここでらしくない走りをするようであると、これはもうズバリ「遠征駄目駄目」ということだろう。
2着に敗れたホーエチャンピオンにとってはツラいレースになってしまった。サスガの怪物も、進境著しいダイリンフラワを相手に、自分の思うような戦法がとれぬとあっては、惜敗も致し方ないのか。力を発揮できる適距離よりは100m長かったわけだが、この点は終いまでよく持ちこたえたとは思うが。十八番の、相手をねじ伏せる好位差しが存分にできよう、距離千八前後であったら、どうだったろうか。
ベストイチはやっぱり届かぬ追い込みの3着。前半の位置取り、仕掛けどころ、まあこういう馬なので、能力上位の馬相手に結果こうなるのはしゃあないかなあ。
それにしても走りに不満が残るのはキミノミネフジにサンエスジュニア。地力的に劣勢で結局最下位だったハヤテサンダーを含め、何故にあれほど積極性を欠いたのだろう?「やる気あるのか」と言いたい。「ホーエ困らすためにわざとしたんとちゃうか?」などど邪推したくもなる。
引き揚げる"敗戦のホーエチャンピオン"
山中騎手の視線の先は馬場内ビジョン
最終レースの本馬場入場の後に、口取り撮影と表彰式が行われる。ここでダイリンフラワの岩切調教師に、「福山来てよ〜!」と声援を送るディープさん。
ダイリン→ホーエの決着で、ワシは取り損。ディープさんと3号馬さんもハズレ。結局電設師の一点買いがズバリの的中。「何故に電設師はダイリンアタマでいこうと思ったん?」とディープさんに問うと「ホーエにはこの距離長いと見たんだってさ。」。成る程ねん。加えて「自分(の馬券)は外しといて、他人の払い戻しで財布が一杯になるのも何だかなあ・・・」と。
最終レースはやらず、発走直前に場内を後にし、ファンバスに乗り込む。最終レース直後に競馬場を発つバスが待っており、首尾良く着座できた。そして金沢駅に。
3号馬さんは往路と同じく途中まで各停乗車ということでここでお別れ。ディープさんとワシは例によって17:11始発の特急雷鳥に乗車しての帰路。競馬観戦の一日の終わり。オチは、ない。
2001.9.13 記
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