第26回かかしまつり賞観戦報告
2001.9.23、上山、1800m
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はじめに〜山形へ
上山に存在する古馬A1級(及びオープン)重賞は四つ。そのうちのシーズン第三弾、かかしまつり賞。お盆の大一番日本海記念と、年度総決算の奥の細道大賞典とを繋ぐ体裁で存在する。上記4重賞のうち、このかかしまつり賞のみが休日開催。ワシの年間観戦計画に当初から組み込まれていたレースでもある。
というわけで、秋分の日に絡む三連休のさなか、山形へ。往路は鉄旅。三ノ宮を夜中の0:12に出る特急サンライズに乗車。またまたノビノビ座席。これに乗車するのも今年3度目。慣れたものでまあまあ眠ることが出来、目覚めると車窓の外は朝陽をいっぱいに受けた海。湘南の西の端、真鶴あたりのようだ。ここで身支度を整え、向かうは今回の旅を御一緒する、リーダー前田っちの個室。リーダーはこの同じサンライズの、B個室寝台に乗車しているのだ。事前に部屋番号を聞いていたので押し掛けることに。室内にはほとんど眠れなかったというリーダーが。何やかんや話しながら外の景色を眺めつつ。東京着が7:08。
朝飯に食う駅弁を買い込み、7:56発の山形新幹線を待つ。ビルの外壁に掲げられた電光掲示板の示す気温は14度。これはサスガに肌寒い。自由席車に席を確保し、早々に駅弁を食う。程なく列車は動き始め、快晴の空模様の下、一路北へ。10:46に山形着。ホームに降り立つとひんやりとした空気。山形駅前の気温の電光表示は17度を示す。「まあ思ったよりはましやな。」とリーダーと言い合う。
駅前のバス溜まりから11時に競馬場行きのファンバスが出るのでこれに乗車。観光バスをチャーターしたもののようだが、今回妙だったのはバスガイドさん付きだったという点。バイパスが意外と混んでいて、30分ほどかかって競馬場に到着。
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そして上山競馬場
天気は快晴。素ん晴らしい空模様。当然馬場状態は良。乾いてパサパサ。馬が駆け抜けると白い砂煙が舞い立つ。ここの砂は他場と比べてもかなり白いので、今日のような明るい日射しのもとでは、馬場がレフ板のように光を反射して、ムチャムチャ眩しい。
レースの傾向としては、向こう正面から三分三厘押し上げて直線外から抜け出すという戦法が決まる、上山では平均的なものかと。とにかく馬場の外目が伸びる。
スタンド内の食堂でリーダーと昼飯を食う。ワシは鳥南蛮そば。リーダーはいも煮定食。この季節、いも煮会が山形の名物だそうで。
昼飯を終えてゴール前のスタンドの上の方にひとり腰掛けていると、下から手招きするリーダー。行ってみるとそこには、高知のもりも先生と、香川の電設の男@ともろうさんの姿。程なく全国行脚人のWSさんと、同志ディープさんも合流する。一方、上山応援家のくもぎりまるさんは今日は盛岡の重賞、東北ジュニアグランプリ(上山のマルハチストライク出走でその応援)観戦、地元山形シチーさんも私用で競馬観戦できず、両巨頭不在。地元勢ではブルボンさんと挨拶できたのみ。ということで、西の人間ばかり6人が集結という、「ここは一体どこ?」的な状況を呈することとなった次第。
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ちょっと注目の第8レース、A2級一般戦(1700m)
ここに、昨年の旧4歳二冠馬にして昨年の日本海記念の覇者、当地屈指の実力馬アオイリュウセイが久々に登場。昨年の奥の細道大賞典以来、実に約10ヶ月ぶりの実戦。
そのアオイリュウセイ。馬体重は495k。これは能検時と同じものだが、旧4歳時500kを越えるかくらいの馬体重で競馬をしてきた馬としては、成長分が全くないわけで好ましく思われない。パドックに登場した姿も、どっしりでっぷりとした馬格は元来のものだが、筋肉の付き、馬体の張りがイマイチで、特に腰回りが乏しい。周回のスピードが遅く前との間隔が開き、覇気がない。一度軟便を排泄。はっきり言って、感心しない出来。ディープさんも同意見。曰く、「しかしこの馬からしか買えないレースですからねえ。A2戦とはいえ本来のA2馬、上(=かかしまつり賞)に動員されて、ここの大半は格下ですからね。各馬見た目も悪いし。」。
さてレース、アオイは9頭立ての8枠発走。無難な発馬も外枠のため前に行く手を遮る馬がおらず、口を割って思いっ切り掛かる。鞍上前野騎手、何とかなだめながら、逃げ馬の次列3、4番手の外目キープ。勝負所と燃料切れの場所が同じになる心配が大きかったのだが、三角手前追い出されるとまだ力が残っていたらしくグングン上昇。最後の直線では抜け出して、貫禄の復帰緒戦V。相手関係的に、ここでもたついてもらっても困るわけで。ただこの馬、掛かり癖は治らないだろうな。8枠発走から掛かっていったというのは昨年の奥の細道大賞典と同じ、シーンがダブった。
※かかしまつり賞についてはここからです
さて、メインレースのかかしまつり賞。出走メンバーは内枠より以下の10頭。()内は騎手、斤量。
ペルターブレーブ(冨樫、58k)、タービュレンス(小嶋、56k)、スーパーストロング(鈴木義、56k)、ヒカミハヤブサ(馬渕、55.5k)、セイフクガバナー(佐藤庄、55k)、ムーンライトブルー(佐藤涼、58k)、キヌカゴゼン(山口、53k)、ホマレエリート(山田、55k)、サファリルージュ(須田、54k)、ミスターハヤブサ(前野、54k)
当地の有力馬のうち、今季初頭を引っ張ったものの夏以降イマイチの、マルハチフレンドとカミノマルーエースは出走登録がなく、仙台七夕、日本海記念と重賞連続2着で進境著しいエルソパレードは出走登録こそあれ結局は不出走と、ここにお目見えはなし。ということで、予想紙のシルシを大きく貰う馬としては、日本海記念以来登場の王者ペルターブレーブ、3歳トップで前走は遂にA1戦を勝利した牝馬ホマレエリート、仙台七夕まつり賞の勝者ムーンライトブルー、と、これくらい。ちょっと寂しい面々となった感は否めない。
今回の注目は何といってもペルターブレーブ。自身のかかしまつり賞三連覇が懸かる。一昨年はビソウウエスタンとの頂点決戦第二弾を制してのもの、昨年は故障から復帰しての3戦目、五強対決を圧勝しての復権の勝利。今年は相手関係的にも過去2回に比べれば楽、ということで三連覇は濃厚との見込みが大勢。
なお、このレースはこの日の第9レースにして発走は3時半、これで上山のレースは最終。というのも、盛岡の第10レース、東北ジュニアグランプリと、盛岡最終11レースの場外発売を、第10、11レースと見立てた番組編成だから。
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パドック、そして返し馬〜発走まで
パドックに各馬登場。
1番がペルターブレーブ。日本海記念に続いてまた1枠1番。馬体重500kで前走比+8kからも窺えるように、馬体の実入りは戻してきた感じ。張りは普通。気合いは充分入っている。トモの踏み込みはやや浅いか。ちょうど1月の荒尾セイユウ賞時のような仕上がり。この相手この斤量では負けようのないというところ。
2番タービュレンス。トモの送りが悪く、毛艶も一息。「ワイの今日の目当ての一つはタービュレンス!もう観るの最後やろし。」とリーダー。「去年のかかしまつり賞の後から急速に衰えましたからね。」「良かった頃から体型自体も変わっちゃった気がするもん。以前は凄い実入りで流線型のフォルムだったのに今はただデカいだけ。」とディープさんとワシ。今日はメンコを着けて走る模様。
3番スーパーストロング。栗毛の毛艶はまあまあ。トモが硬い。4番ヒカミハヤブサ。ちょっと馬体の張りはないが気合いは入っている。3番も4番も上位馬が登場すればA2級で的鞍な面々。
5番セイフクガバナー。気合い乗りと馬体の見た目に関しては、いつもながら充実して見える。
6番ムーンライトブルー。毎度のことながら舌を出して。毛艶と馬体の張りは変わらず良好。気合い乗りも上々。ちょっと周回が遅く、前との間隔が開く。
7番キヌカゴゼン。栗毛の艶はまあまあ。皮膚は薄く見える。前走A3戦勝利もここはいかにも家賃が高い。
8番がホマレエリート。毛艶は日本海記念時から引き続き文句無し。背は低いのもの、ゆったりとして伸びやかな胴の作りで、身のこなしにも余裕が。気合いも集中している。「ホマレエリートいいですね。」と、ディープさんも好評価。
9番サファリルージュ。やや鶴首気味に頭を下げて周回。気合いは乗っている。今季はA1では苦戦気味。
10番ミスターハヤブサ。468kの馬体重以上に大きく見せる。毛艶は良好。3歳次位格、A2では安定という状況。
ということで、見た目好感なのはホマレエリートにムーンライトブルーあたり。ペルターブレーブに関しては特段良くも悪くもなく、どうのこうの言うような状態ではない。
本馬場入場から返し馬。ペルターは例によって外ラチ沿いを一頭曳かれて入場。いつもはこの時点でパドックメンコを外され素顔なのだが今日は着用のまま。ちょっと煩くなるのを冨樫騎手が地元の言葉でなだめる。そしてメンコ着用のままキャンター。
ムーンライトブルーがいち早く強めのキャンターで通過。ホマレエリートはじっくりダクから周回に入り、軽く流す。タービュレンスは最後に強めのキャンター。
予想。ペルターブレーブ中心は動かし難いところ。問題は相手だけ。ムーンライトブルーがやや気になるが、成績と脚質が安定しないところがイヤらしい。が、前走ホマレエリートに負けているのでここは切って、ペルター−ホマレの一点勝負。ただ、この目は超本線、よってオッズが問題。5分前に1.4倍だったものが締め切り直前には1.2倍に。「ペルターブレーブ、大丈夫ですよね?」とWSさんが発走直前にお訊ねになるが、「まあ負けないと思いますよ。」と答えるワシ。「外を突っ込んで来るんですよね。」と、ゴール前の写真撮影の状況をシミュレートしている模様。
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そしてレース
いよいよレース。距離1800mのスタート地点は2コーナー。
ゲートオープン。予想された通り、ハナを切るのはセイフクガバナー。そしてその外からムーンライトブルーが行く気満々ですかさず2番手付けに。加えて今日はペルターの発馬とダッシュが良い。暫し3番手あたりを走行することに。タービュレンスやホマレエリートはムーンライトブルーの次列あたりで先行の構え。これを承けて、最初の4コーナーあたりでペルターはこれらを前に行かせて好位に控える形に。
こうして1周目の正面スタンド前。先頭はセイフクガバナー。この外に並びかける形でムーンライトブルーがピッタリ。この2頭から2馬身ほど遅れて先行、好位集団が。このフロントの内にタービュレンス、外にホマレエリート。2頭の間、半馬身遅れてヒカミハヤブサ。タービュレンスの真後ろの最内にペルターブレーブが控え、この外ヒカミハヤブサの真後ろにスーパーストロング。その外にミスターハヤブサが前のホマレエリートを見る形で。上記集団からやや開いてキヌカゴゼンが単走、さらに遅れてサファリルージュが殿。
1周目の正面スタンド前
先頭内セイフク外ムーンライトブルー、次列外の黄帽がホマレエリート
隊列は1コーナーから2コーナー。ここで内からタービュレンスが進出するも、これはほんの僅かな間のこと。二角あたりで内のセイフクガバナーを斬って捨てて、ムーンライトブルーが一気に仕掛け、先頭に躍り出て向こう流しを突っ走る。二角を回って程なくムーンライトの外にホマレエリートが迫り、内ムーンライト外ホマレの併せ馬で三角へ。三角手前ミスターハヤブサが単騎寄せるもこれは束の間のこと。後続との差は開き、先頭二騎の一騎打ちムードで三分三厘から4コーナーを回ってくる。
一方、向こう正面、加速する前2頭の遙か後方、鞍上が押せども押せども動かぬペルターブレーブの姿が。極端に言えば、ムーンライトとホマレが三角を回らんかというところで、ペルターはまだ向こう正面半ばを過ぎたあたり。前回の日本海記念と同様、いやそれより非道い不動の本命馬の動きに、騒然とする場内。
先頭2頭は時折抜きつ抜かれつを繰り返したようだが、見た目的には内ムーンライトブルーが外ホマレエリートに1馬身以内の僅かなリードをつけて最後の直線へ。内ラチ沿いを逃げ込むムーンライト、必死に食い下がる外ホマレエリート。そしてそして、ようやくのことで四角に辿り着いたペルターブレーブ、ここから怒濤の追い込み開始。馬場五分どころ、その脚は彼本来のもの。が、今回ばかりは遅過ぎる。あまりに遅過ぎる。
最後の直線、猛迫ペルターブレーブ
鬼脚全開の地を這う走りも、時既に遅過し
ということで、最後はムーンライトブルー、ホマレエリートを3/4馬身振り切って、今季二つ目の重賞勝ち。2着ホマレエリート。そして、この2頭がゴールに入線したその刹那、「ブウォンッ!」と白い馬体が目の前を横切る。ペルターブレーブ、ホマレエリートからクビ差遅れの3着。三連覇の夢は潰える。4着はペルターから6馬身遅れてミスターハヤブサ。5着ヒカミハヤブサ。タービュレンスは1着から5秒2遅れの殿負け。
ゴール直前、ムーンライトブルー、ホマレエリートを振り切る
ホマレ鞍上山田jk、外を向いて気にするはペルター
ゴール板直後、「勝っちゃった」てなムーン鞍上佐藤涼
ペルター、1馬身間に合わず三連覇を逃す
まさかのペルターブレーブの敗戦。おかげでワシとディープさんは大敗。ムーンライトブルーの単勝をちゃっかり買っているリーダー。そして、「ペルター−ホマレ外してムーンライトから人気2頭」という馬券作戦が的中の電設師。これで電設師はすっかり"スケベ馬券師"の称号が定着。
レースの後は表彰式。仙台七夕まつり賞に続きまたまた佐藤涼騎手が表彰台に登場。そしておねえちゃんからインタビューを受けるのだが、相変わらず場慣れしてなさそうで地味な感じであった。
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振り返る
ムーンライトブルーは積極的な競馬で重賞2勝目。確かに今季はいつ見ても馬の出来は上々で、また馬らしい馬なのだが、先に述べた通り、この馬を評価しにくいのは戦法と成績が一定しないこと。先行四角先頭の勝ちパターンだったり、日本海記念時は後方ママの遅過ぎる追い込みだったり、ホマレエリートに完敗の前走は逃げバテだりと。非常に困る。そして今回はペルターと同斤の58kのトップハンデ。これで先行押し切りなのだから、評価できる。が、ますます解らんキャラに。「何ぁ〜んでここでムーンライトブルーなんか来るねん!?最悪や。」とはワシとディープさんの本音。何せ金かかってるから。
ホマレエリートは惜しい2着。日本海記念時もマルハチフレンドと併せ馬で惜敗、今回も同様な競馬、と、古馬混合重賞では古馬にパワー負けしている感じだが、これは3歳牝馬にとっては相当タフな競馬。必ずや糧になるはず。特筆できるのは、従来はスピードが勝った個性ゆえ、距離が千五を越えると道中掛かり気味だったらしい走りが、千八戦を好位で折り合えるようになっている点。これは今後の大舞台に向けても期待が持てる。「今日の目的はホマレエリートの走りを見ること。」と電設師は仰っていたが、好評価に値したのでは。
さて、3着敗退のペルターブレーブについて。本馬場入場と返し馬をメンコを着けてやったあたり、いつもと微妙にメンタルな面が異なったのも知れぬが、とにかく道中、2周目向こう流しでの動きが悪いことが全て。前走の日本海記念時もそうであり、この時はそこから届いて、結果奇跡の逆転勝ち、今回はたまたま届かなかっただけ、「1馬身分ゴール板の位置を冨樫が間違えた」だけ、とも解釈できるが、問題はそれほどお気楽なものではないような。この、向こう流しで冨樫騎手が押っつけ通しになる割には一気に上昇しない、というのは、実は1月のセイユウ賞以来、ちょっと目についていた点。当初は「気にするに値しない。」という見方もあり、個性として納得していたのだが、前走、そしてこの敗戦により、改めて浮上した次第。思い起こせば、いくらゴール前接戦となろうとも、昨年の奥の細道大賞典や一昨年のレース(これはナマでは観ていないが)においては、勝負所で馬なりで前に取りついていたわけで、ここらあたりが現状と大きく異なる。この状況が一過性のものなのか、今後ずっとついて回ることになるのかで、彼の今後も大きく変わってこよう。まずは11月の奥の細道大賞典が正念場かと。かかしまつり賞に続き、このレースにも三連覇が懸かる。「あんな感じだと、地元戦ならまだ何とかなるでしょうけど、全国交流で勝ち負けだなんて言ってられないですよ。歳も歳ですし。」とはディープさん。これは同感。
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レース以後〜おわりに
この後は盛岡のレース二つの場外発売、特に東北ジュニアグランプリはゴリゴリの軸馬が競走除外で大荒れだったようだが、ワシはかかしまつり賞でテンション落ち切って、競馬はこの時点で終了、眺めていただけ。
盛岡の場外も終わり、皆さんで競馬場を後にする。競馬場の麓の茂吉記念館前まで歩いて。ここからもりも先生と電設師とWSさんは東京方面へ、ディープさんとリーダーとワシは山形へ、ということでホームのあっちとこっちに分散。山形方面の列車の方が先に入線し、ここで東京方面へのお三方とはお別れ。
この後山形駅前で5時から3人で飲む。これがまたいい加減な居酒屋で何だかなだったのだが。ディープさんは天童泊、リーダーとワシは山形泊。ワシにとって上山競馬観戦6度目にして初の山形宿泊である。
翌朝9:50山形発の飛行機で無事帰阪。JASのバースデー割得で取った航空券での搭乗である。機中ご丁寧にスチュワーデスさんが、バースデーカードと茶菓子などくれる。しかしよく考えると今年の誕生日、貰い物はこれだけだったりするわけで、三十路独り身オトコのバースデーはかくも侘びしい。
次回の上山古馬重賞は、総決算、奥の細道大賞典。さて、どうなることやら。気になるのはやっぱりペルターブレーブのこと。
「奇跡も、たまには、起きない――」
なんてペルター様がとぼけたかどうか・・・
2001.9.30 記
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