第21回福山3歳牝馬特別観戦報告
2001.11.4、福山、1800m
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はじめに〜福山の重賞体系について思うことなど
福山競馬の重賞体系、特徴の一つとして、3歳重賞の多さが挙げられる。交流競走3つを含め、その数、10。全重賞数が20(新設の全日本アラブ大賞典と全日本2歳優駿を含む)なので、半数を占めるわけである。
その3歳重賞のうちに、牝馬限定重賞が2つ。すなわち春先のクイーンカップと秋の福山3歳牝馬特別。「2つ存在する必要はあるのか?」というのが私見。殊に3歳牝馬特別は、3歳三冠の第二関門、鞆の浦賞の次開催、そして次々開催に全日本アラブグランプリを控えた、いわば3歳重賞が立て込んだ時季に施行される。これだけ重賞日程の間隔が詰まると、出走馬、殊に有力牝馬の仕上げのピークがばらけて、個々の重賞レースの質や値打ちが低下するのではないかと思うのだが。
もし仮に「3歳牝馬に活躍の場、そして高額賞金獲得の場を」という旨をその存在意義に謳うのであれば、3歳になど限定せず、牝馬の古馬混合重賞を設ける方がどれだけ素晴らしいか。例えば、現在福山唯一の古馬牝馬限定特別競走である、ビーナス賞の重賞格上げ。ビーナス賞の盛り上がりと魅力は重賞たるに充分値する。さらに願わくば、園田のアラブクイーンカップが他地区に門戸を閉ざして消滅した、牝馬の全国交流重賞を設けるわけにはいかないか。個人的には、年末に2歳の全国交流重賞を新設するより、この方がずっと意義深いと思うのだが。
と、のっけから脱線してしまったが、今回の福山3歳牝馬特別、注目は一点。全日本アラブグランプリにて、有力馬となる可能性を持ったある1頭、すなわちシュウホウウイークの走り。それを見届けるべく福山へ。当初この日は益田で鴨島特別も施行の予定で、どちらを観るかは迷うところだったのだが、直前になって鴨島特別の日程が変更(11月11日)になったため、選択の余地なく福山行きとなった次第。
今月の福山は受賞が目白押し。翌週の菊花賞と、23日の大一番、全日本アラブグランプリはほぼ観戦決定。どうやら福山に足を運ぶ頻度が上がりそう。となると、アタマに浮かぶは、昨年の6月にも用いたこのフレーズ。すなわち、
――「今月は、"福山強化月間"です。」
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さて福山へ〜メインレースまで
週末になると天気が崩れるというサイクルは相変わらず。イヤな感じだったのだが、幸いといおうか、サイクルが早まって雨は土曜日のうちに降りきってくれ、当日の日曜日は好天になってくれた。
そこで早起き。前日に出来なかった洗濯を片付け、9時過ぎに住処を出る。そして西明石9:24発姫路行きの新快速に乗車。当初は鈍行を乗り継いで、在来線オンリーで福山を目指すつもりだったところ、たまたま乗車した新快速が、この時季の週末に限り播州赤穂まで脚を延ばす臨時列車、赤穂レジャー号。これだと相生まで行って新幹線に巧く接続できる。ということで相生−岡山間を新幹線ですっ飛ばす。岡山には10:35着。乗り継ぎ時間2分、構内をダッシュして、10:37発の快速サンライナーに乗車。これが11:23に福山着。またまた走って、11:25発のファンバスに乗り込み、これで競馬場へ。到着時は第2レース発走前。
福山の天気も晴れ。陽が射すとかなり暖かくなるが、11月を迎え、空気はちょっとひんやりとしている。そのため陽が翳ると肌寒さを感じる。前日の雨が効いて、馬場状態は不良。特に馬場外周に、水がまだ浮いている。馬場状態に帰因する展開の有利・不利は特段感じられない。
1時前に、"同志"ディープさんが現れる。開口一番、「シュウホウウイークをまだ観たことないので予習しに来た。それに実はわし、今年福山の3歳重賞、三場交流しか観てない」。そして地元駐在おさるさんも登場。やや遅れて大御所Okuさんもお越しに。4人であれこれ談笑。
7レースのC2の3組戦、勝ったのは3歳上位馬トラストサンダー。前開催鞆の浦賞7着馬。ブレーンワークの半弟にしてサカノタイム産駒。ディープさんは北関東でサカノタイムの現役時を目撃しているということで、「旧友のムスコ」といったところか、この馬にはちょっと注目。「大柄だがとにかくモッさい。」というのがワシの私見なのだが、千六戦を押されて無理矢理ハナに立ち、逃げ切り勝ち。「いくらズブいかてテンに脚使い過ぎやろ。」とは、Okuさんの感想。
この開催前半は、翌開催の2歳重賞、ヤングチャンピオンに向けて、2歳上位クラスのレースがタイトル付きである。8レースは2歳2組戦、ビクトリー特別。ここは前走、鞆の浦賞デーの1組戦で4着だった(1着はホワイトキャンプ)、5戦2勝の騙馬マルサが2番手から四角先頭での勝利。先行力ありそう。
馬場状態は漸次回復して、8レースから重馬場発表となる。
※福山3歳牝馬特別についてはここからです
さて、メインレースの福山3歳牝馬特別。出走馬は内枠より以下の10頭。()内は騎手、斤量。
ショウナイビジン(渡辺、53k)、ゴージャパン(岡崎、54k)、ピアドルシンダ(黒川、53k)、チュウオーコメット(楢崎、53k)、クインオーカン(片桐、53k)、ムツミプラウデー(吉延、54k)、ギャラクシア(嬉、55k)、シュウホウウイーク(岡田、54k)、コウザンチェリー(佐原、53k)、ワタリエリート(久保河内、53k)
ハンデは賞金別定と思われる。3歳牝馬の馬齢定量53kから、収得賞金に応じて加増された結果がこれかと。
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パドック、そして返し馬〜発走まで
さてパドック。ここで地元FUKUさんが合流して、例によって並んで観察することになる。
1番ショウナイビジン。胴長でスマート。気分良く周回している。毛艶と馬体の張りはまあまあ。前走はC2の8組で勝利。上山デビュー。差し馬。格的には劣勢も、鞍上渡辺騎手の決め打ち追い込みがちょっと気になる。
2番がゴージャパン。気合いが入ってやや煩い感じなのはこの馬の常。毛艶と張りは上々かと。腹回りが思ったよりより太いが緩くはない。両前脚にバンテージを巻いているが、これは前走と同じ。前走は鞆の浦賞8着。現在福山牝馬最上位の1頭だが、とにかくムラ駆け傾向強し。主戦の岡田騎手がシュウホウウイークを選択したので、今日は久々に岡崎騎手が2度目の手綱。前回の騎乗では結果が出なかったが、癖馬騎乗の岡崎さんは怖い。
3番ピアドルシンダ。パドックの最内をトボトボと周回。大人しくなったりちょっと煩くなったり、気配が一定しない。ダービー馬ピアドタイトルの娘にしてピアドオスカーの全妹。出世は早かったが現状は伸び悩み気味。前4走連続でC2の8組暮らし。前走は3着。馬体重515kの大型馬だが、ライブで目撃する実物はそれほど大きく見せない。つまり押し出し感がない。撮影した写真に写る姿はどっしりとしているのだが。
4番チュウオーコメット。これもパドックの内々を周回。ちょっと煩い。トモの踏み込みは好感。しかしくすんだ鹿毛の見栄えはイマイチ。前走はC2の5組で2着。2勝馬だが2着は6回ある。差しタイプ。予想紙では穴評価。
5番クインオーカン。ボテッとしたスタイルで体高も低い。小柄に見える。気合いは問題なくこの馬なりの出来か。前走4ヶ月の休養明け緒戦をC2の4組で走ったものの、10着殿負け。
6番ムツミプラウデー。これも早くから注目されていた馬。正月開催の3歳特別競走、若駒賞も勝った。しかし3月以降休養して前走は7ヶ月ぶりの復帰戦。C2の1組で走るも9着敗退。毛艶一息で腹回りも重く映る。覇気も足らず、実績を踏まえるにしても、これではピンとこない。
7番ギャラクシア。6番人気ながらもヤングチャンピオンを勝った、世代の3歳(旧表記)チャンプ。今春のクイーンカップも制しており、この勝ち星が効いて、在籍する3歳牝馬の中で最も賞金格付け上位。しかしながらクイーンカップ以降良積無く、現状で有力馬に挙げるのは憚られるような。前走は益田まほろば賞に出張して最下位。元来の毛色がくすんだ鹿毛なので見栄えがしない馬ではあるが、思ったより悪くはない。皮膚はソコソコ薄く、馬体も締まっている。ちょっとトモが硬いか。
そして8番がシュウホウウイーク。福山ダービーを人気薄で4着して以降躍進。銀杯ではフジナミスペシャルの2着。そして前走鞆の浦賞を、ユノワンサイドvsフジナミスペシャルの二強対決の間に割って入り、フジナミに先着して一角崩しの2着。前走時「目標は次の牝特」と、陣営が定めていたようで、仕上げ途上の出来での2着ということで一層評価が高まった感がある。500k近い馬体から繰り出される、荒削りながらも破壊力充分の捲り差しが武器で、レースぶりも派手。なおかつ長丁場が合いそう。ということで、アラブグランプリに向けて、一躍注目の1頭となって、迎えるこのレースである(ちょっとオーバー過ぎたでしょうか)。さてその気配。明るい栗毛、皮膚は薄そうで毛艶は文句なし。大型馬だが馬体はスッキリしている。トモの踏み込みは浅く、肩の出がやっぱり硬いのだが、これは鞆の浦賞や銀杯時と同様。こういう歩様の馬なのかも。とにかく見栄えは断然である。ディープさん、初対面のその姿を目にして開口一番、「馬が1頭だけちゃううやん!」。横でFUKUさん「アハハ!」と同意の笑い。
9番コウザンチェリー。前走はC2の6組で4着。胴が詰まって見える、そしてちょっと小柄な馬体。抑えが効かない気性の勝った逃げ馬ということで、初経験の千八戦は苦戦との評価。
10番ワタリエリート。前走はC2の5組で勝利。上山デビュー馬にして、先日登録抹消が発表された、あのアキフジクラウンの全妹。胴の長いゆったりとした体型は、兄と同様長距離適性の高さを期待させる。兄はステイヤーにしてはどっしりとした、ホーエイヒロボーイ産駒らしい馬体だったが、この妹は兄に比べれば格段にスマート。毛艶はまあまあ。しかしながら、肩の出と筋肉の動きが明らかにギクシャクしている。コズミなのか。
各馬本馬場に登場。そして返し馬に。それぞれ順次キッチリ流していく。シュウホウウイークは比較的軽く。スピードの乗ったキャンターはムツミプラウデー。ゴージャパンはやや強く、しかし気合いは岡崎さんによく抑制されている。
ここでコースに駆けつけると、電設の男@ともろうさんがお越しになっている。
予想タイム。であるのだが・・・このところ、ワシが本命サイドで勝負を賭けると、抜擢した一方が何故かコケるというジンクスが、同志の方々の間に認知されてしまって、これはさながら"針の筵"タイムである。「ここはシュウホウウイーク絶対やと思いますけど。」とワシが口にすると、Okuさんから「んなこと毎回言って、1.7倍の馬券外しとるんやろ。それで勝てたら今頃蔵建っとるわな。そうならへんから競馬やねんで。」と、鋭い突っ込みが飛ぶ。それにさらに追い打ちをかける電設師のオコトバ。「ワタシ最近ユーノすけ氏と一緒に競馬場にいる時、馬券成績いいんですよ。ユーノすけ氏の本線ちょっとずらして買うとよく当たる。」
それはさておいて、ここはやはりシュウホウウイーク中心に。相手筆頭にはワタリエリートをと、当初は考えていたのだが、パドックでの肩の具合がどうしても気に入らず、これは押さえ程度に。代わって相手本線には、信頼性には疑問を残すものの、岡崎さん鞍上ということでゴージャパンを
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レースなり
いよいよレース発走。距離は1800m。2コーナーからのスタート。
ゲートオープン。好発はムツミプラウデー。内からピアドルシンダも前に。暫し競り合い気味に併走するも、3コーナーを前にムツミプラウデーはやや控え、ピアドルシンダを先に行かす。外枠勢のコウザンチェリーとワタリエリートも先行する。1周目の3、4コーナーでは、コウザンとワタリの2頭が外を回ってフロントを窺う。そして「正面スタンド前に。
先頭は内にピアドルシンダ。僅かに半馬身程下がった外にコウザンチェリーが2番手。これを2馬身以内に見つつ、次列内にムツミプラウデー、外ワタリエリート。ここから後ろは一団で。ムツミとワタリの間の直後にチュウオーコメット、シュウホウウイークはこの位置で集団の大外を追走。シュウホウの直後インにギャラクシアで、このあたり最内にショウナイビジン。クインオーカンが続き、ゴージャパンはゆったりと単騎殿に控える。
最初の正面スタンド前
先頭内でピアドルシンダ、シュウホウウイークは集団の大外
隊列は向こう正面に。最後方から位置を上げるゴージャパン。半ばを過ぎるとシュウホウウイークも進出開始。これらより前列から、三角手前でまず動いたのはワタリエリート。後退するピアドルシンダやコウザンチェリーに代わって先頭に。これに連れて外からチュウオーコメットが迫り、さらにこの外、シュウホウウイークが畳みかけてくる。そのシュウホウウイーク、三分三厘では捲り切って、早くも先頭に躍り出る。この頃ゴージャパンが外目外目を追い上げ体勢。5番手あたりまでやって来る。
最後の直線、抜け出すシュウホウウイーク。4コーナーを2番手で回って、スタミナ勝負の粘り込みかと思ったワタリエリートは、直線早々でバタッと止まり万事休す。代わって馬場外目、ゴージャパンが単騎追い込む。直線独走になってから、イマイチ伸びのない先頭シュウホウウイークにジリジリと迫る。残り30で1馬身差、残り15で3/4馬身、さあどうだ?というところ、シュウホウウイーク、辛くもクビ差持ちこたえて決勝線に飛び込む。とうにかこうにかもぎ取った、アラブグランプリへ格好をつける、待望の重賞のタイトル。
シュウホウウイーク、ゴールへ
しかし外から迫るゴージャパン
ゴール前、ここまで接戦に
際どく残したシュウホウウイーク
2着ゴージャパン。この後ろは4馬身離されての3着争い。三角以降好位で劣勢気味だったムツミプラウデーが再度粘るも、ここに外からショウナイビジンが差し込んで、ハナ差交わしてこれが3着。ムツミプラウデー4着。勝負所で一度はフロントを窺ったチュウオーコメットは5着。ワタリエリートは結局6着に終わる。
ということで、何とか勝ったシュウホウウイーク。道中の位置取りと、三角からの捲り脚はこの馬らしいものだったが、四角先頭以降の伸びが案外。もっと爆発的な伸びを披露して独走になると思いきや、ゴージャパンの追い込みに辛勝となった。これにはディープさんや電設師も、期待外れの感を抱いたように拝察。「あまりに早々に先頭に立って、ちょっとそこからソラ使ったかなあ。」などと邪推もしたが、この見立ては我ながら怪しい。まあ、現状では、目標にされる競馬よりは挑戦者としての競馬の方が合ってはいようか。ダイリンフラワの不参加で、出走馬を見渡すにつけ、差しプロパーではどうやら彼女が随一のようであるし。全日本の舞台で、どのようなパフォーマンスを見せてくれるか、ソコソコは期待。
ゴージャパンはここで好走してくれたか。これでどうやら全日本への地元馬出走枠内に入れそうだ。今回は岡崎さんが巧く脚を溜めることが出来たようだ。常時安定してこのように走ってくれれば予想も楽なのだが。
「勝ち馬も何だかどうもだなあ。」とOku師匠。そこで、「まあゴージャパンがムラ駆けながらも今回はよう走ったってのもあるでしょう。」と取り敢えず応えるワシ。それに対し師曰く「何やそんないつ走るかどうかわからんような馬が対抗評価で、この組み合わせのオッズが2.5倍しかつかへんのか。そんなハイリスク・ローリターンな馬券、怖ぁてよう買えやんわ。」。スルドイ。
ショウナイビジンは渡辺騎手の腹を括った終い勝負が決まっての3着かと。ムツミプラウデーの4着はこの馬の素質を改めて知らしむるに足るのでは。ワタリエリートが直線早々に止まったのは全く意外。「血統的にも、あそこからスタミナで粘るかと思ったのになあ。」とは電設師。「パタッと止まったもんな。」とFUKUさん。
表彰式後、電設師が岡田騎手へ、ライフワークの単勝馬券へのサインゲットを試みる。岡田騎手、一旦目の前を通り過ぎるも、引き返してサインに応じてくれる。ここで電設師が「2250m(アラブグランプリの施行距離)どうですかね。」と岡田騎手に問う。すると、「素質のある馬ですからねえ。」と、微妙なコメントを残してくれた岡田騎手であった。
◆
おわりに
Okuさんは高速バスにて帰路。ディープさんは新幹線にて。電設師とは岡山まで各停で同行。そしてお別れ。ワシはさらに在来線にて東を目指し、無事に帰宅。
これで取り敢えず、荒尾記念、金沢のアラブ大賞典、鞆の浦賞、姫山菊花賞、荒鷲賞と続いた、全日本アラブグランプリに向けての予習の意味を込めた、各地の3歳重賞観戦シリーズは終了となる。そしていよいよ11月23日、全日本アラブグランプリ――
しかしですねえ、せっかく予習した割には、当初出走を見込んだ馬のいくらかは、全日本に登場しないのだよなあ・・・
2001.11.19 記
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