第34回福山菊花賞観戦報告
2001.11.11、福山、2250m
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はじめに〜福山へ
2001年11月11日。この日は各場でアラブ系重賞が目白押し。金沢の石川テレビ杯と福山菊花賞とが日程が重なるのは通例として、益田では当初1週前の11月4日に施行予定だった鴨島特別が、荒尾では2歳重賞ヤングチャンピオンが行われる。加えて、宇都宮のサラ重賞、天馬杯には、前年の覇者イーシーキングとサカノブルショワのアラブ2頭が出走。と、「さあ!どれ行っときます、お客さん?」状態なのであった。
昨年はワシ、石川テレビ杯と福山菊花賞を最後まで天秤に掛けて、一旦は金沢行きを決意したものの、最後の最後に翻意して、結局福山菊花賞を観たのであった。が、今年は割と早い時期から、「この日は福山菊花賞」と、観戦予定を決めていた次第。
というわけで、一路福山へ。先週の福山3歳牝馬特別観戦と同様、この日も西明石9:24発の臨時快速赤穂レジャー号にてまず相生まで。ここで新幹線に乗り換え岡山まで。岡山−福山間は快速サンライナー。福山着は11:23。ファンバスに乗って12時前には競馬場に到着。
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メインレースまで、そして事件など
この日の番組、正直言ってメインレースの菊花賞以外に、これといったものがない。第1レースから第4レースまでは2歳の中・下級条件戦、第5、6レースは3歳条件戦、つまり収得賞金が低く、未だに古馬混合C2級に編入されていない馬によるレース、第7、8、10レースはC2の中級以下。何ともパッとしない。注目するに値する出走馬もいない。
天気は晴れ。時折曇るが概ね好天。馬場状態は良。砂が補充されたらしく、馬場は深そう。タイムは概してかかっている模様。こうした深い馬場で、下級条件馬が走るからか、出走馬の脚質よりも、その出来と状態がレースの結果に直結する傾向が強い。ということで、逃げも差しも決まっている。馬券戦線的には、まずまずの平穏ムード。
しかしながら事件は前日の第4レースに起きていた。このレース、3コーナーで岡田騎手が落馬負傷。この日の残りのレースは全て乗り替わりで、翌日つまり今日の騎乗も全てキャンセル。加えて、この岡田騎手落馬競走中止の原因は、渡辺騎手騎乗馬の進路妨害。これで渡辺騎手は失格。のみならず、月曜日(11月12日、菊花賞当日に関しては既に枠順確定につき騎乗)以降、実効10日の騎乗停止処分を受けてしまう。ということで、リーディングを争うジョッキー二人が、言葉は悪いが共倒れの状態。幸い岡田騎手は翌週の土曜日に復帰することができたが、渡辺騎手は、この後の全日本アラブグランプリと全日本2歳優駿、二つの全国交流競走での不在が確定。地元を代表する騎手を欠いての"両全日本"となることに。
午後になって"同志"ディープさんが登場。この日の重賞重複開催に対し、曰く「どれも出走メンバー一長一短。これなら菊花賞でも。」。そして地元駐在おさるさん。メインレース前には、地元FUKUさんが、御子息(カワイイ!)と現れる。
※福山菊花賞についてはここからです
さて、メインレースの福山菊花賞。正月の福山大賞典を頂点とする福山古馬重賞体系の中で、春の桜花賞と並び、福山大賞典に次ぐ重みを持つ競走である。施行距離も福山大賞典の2600mに次ぐ2250mであり、長距離戦に対するステイタスが今なお高い、福山競馬らしい重賞競走だと個人的には思うし、好きなレースの一つでもある。
桜花賞は、シーズン開幕を飾るレース(福山の開催日程は年度区切り)であり、また、翌月の全国交流、全日本アラブ大賞典への、地元勢の前哨戦。一方、菊花賞は、盆開催以後の1ヶ月の休催で一息つく所属馬が、秋競馬の開始とともに再始動して以降、はじめに迎える重賞の舞台。正月の福山大賞典に向けての、大きな通過点でもある。
今年の出走馬は内枠より以下の10頭。()内は騎手、斤量。 グリンティアラ(片桐、53k)、パッピーケイオー(藤本、57k)、ユタカブレーヴ(鋤田、52k)、ホマレスターライツ(佐原、58k)、フジキタイトル(岡崎、53k)、ミスターカミサマ(渡辺、53k)、マルサントウショウ(嬉、53k)、セブンアトム(黒川、51k)、エイコウライン(石井、53k)、ヨシユキトップ(吉延、52k)
セブンアトムの鞍上は岡田騎手で枠順確定したのだが、前日の落馬負傷で黒川騎手に乗り替わり。
A1重賞ではあるのだが、上位馬に回避が出たり、休養馬がいたりで、出走馬の中にはバリバリのA1馬とは言い難い馬も数頭。ハンデは別定。背負い頭のホマレスターライツと最軽量セブンアトムとでは7kの斤量差がある。
さて、ここまでの福山古馬秋戦線、今夏上山より転入して以降盆の金杯を一気に制した、牝馬ドリーミングが引き続き好調で君臨。秋競馬でもA1戦を3連勝中で、転入以来7戦していまだ無敗。菊花賞は初の二二五戦となるが、登場すれば、勢いからしても本命必至のところだったのだが、そのドリーミング、呆気なく回避。「一息休ませる」ようで。
こうなると、これまで彼女に頭を抑えつけられていたオトコどもの出番か。夏も不休で乗り切った、ホマレスターライツにヨシユキトップ、夏は休養に充て、秋競馬で戦列復帰した、パッピーケイオーにミスターカミサマ・・・
個人的には、ドリーミング不出走を知り、まずは頭に浮かんだのはパッピーケイオーのこと。「ホンマ、パッピーは重賞になると運が向いてくるねんなあ。」今年のマイラーズカップでは本命グリンティアラが直前で出走取り止めのレースでV。ローゼンホーマではスマノボーイ競走中止のアクシデント、その不利をあまり被らず2着。そして今回、"目の上のたんこぶ"があっさりいなくなるという。今秋はここまで振るわず7着7着4着だが、元来この馬は叩き良化型、加えて、平場戦より重賞に滅法強い。「前走は4着だったけどかなり良くなってきてるよ。」と、FUKUさんから前走の様子をお聞きして、「そろそろドカン!やな。」と、戦前一人ほくそ笑むワシであった。(←単なる「捕らぬ狸の皮算用」とも言う・・・)
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パドックから発走まで
さてパドック。まずは1番グリンティアラ。栗毛の毛艶はまあまあだが、とにかくヒ腹から腰のボリュームが弱く映る。このところの彼女、いい頃に比べて馬体に重厚さがない。今秋はA1暮らしだが、掲示板の当落線上といったところ。「正月の福山大賞典(3着)の頃のグリンティアラとは別馬ですよ。あの時は凄かった。」とはディープさん。
2番がパッピーケイオー。周回中、例によってお客さんの前を通る際にドドドドッと走り出そうとする。その頻度は、昨年に比べればソコソコだが、今年のパッピーにしては甚だしい方。馬体重は前走比-2kの500kで、見た目にはまだ少し余裕があるか。しかしながら毛艶は良好。まずまず。今日は黒メンコだが頭絡はメンコの下。レースは素顔で走る模様。
3番ユタカブレーヴ。8月まで兵庫に在籍しており、S1格付けだったが良積なく、デビューの地福山に戻った。前走はA2戦を3着。体高の低い、コロンとした馬体。毛艶と張りは平凡。アクションの大きいパッピーの直後で、我関せず、マイペースで大人しく周回。
4番がホマレスターライツ。6月半ばの勝ち星以来、前走まで5戦連続2着。そのうち前3走は全てドリーミングの後塵を拝してのもの。黒光りする毛艶と肌の張りは相変わらず文句なし。胸前の筋肉が発達しているからか、肩の出が硬く見えるのはこんなものか。リングハミ着用と思ったのだが、これは曳き馬時に噛ませるハートハミであった。元々ナーバスなところがあり、前でパッピーが我が物顔で暴れると、それにいちいち反応してチャカチャカする。
5番フジキタイトル。前走A2戦2着。予備馬だったがドリーミングの回避により繰り上がりで出走。艶も張りもこの馬なりに仕上がってはいようかと。見た目悪くはない。しかし予備登録だったため、中間の攻め馬を抜かれていた模様。
6番がミスターカミサマ。5月のタマツバキ記念以降4ヶ月休養して、戦列復帰が前々走、秋競馬2開催目。緒戦は殿負け、前走6着と全く振るわぬまま、重賞の舞台を迎えてしまった。その馬体、一見して「こりゃアカン」と解るもの。毛艶は最悪で全身に冬毛が出ている。踏み込みも浅くぎこちなく、覇気も全く感じられない。トレードマークの金文字刺繍の黒メンコがなければ、とてもあの強いカミ見えない。距離二二五は望むところだが、これでは苦戦ではないか。
7番マルサントウショウ。前走初のA1戦だったが9着敗退。出来は最高らしいがクラス的にまだここは家賃が高そう。確かに充実した馬体ぶりで、その艶も張りも良好。仕上がっていよう。
8番セブンアトム。気っぷよく元気に周回。胴長でかつ腹周りも比較的豊かな馬体ということもあり、若干馬体が緩くも見える。踏み込みは並か。現4歳世代中、知名度とスター性ではミスターカミサマやモナクマリンに譲るものの、春以降ほぼ不休でA1を張る、いまやバリバリのオープン馬。ただし今回は自身初の二二五戦。千六及び千八が適距離と目される逃げ・先行馬であり、未知への挑戦のレースとなる。
9番エイコウライン。9歳秋を迎え、まさにラストシーズンとなった。ホンマに定年いっぱいまで走るつもりか。トモの送りが硬いが、歳を考えればこの馬なりに出来た馬体だろう。馬体の張りも上々。
10番ヨシユキトップ。年度当初からすっかりA1に定着し、コンスタントに使われ続けて、いまやオープン主役の1頭。夏にはホマスタを連続して下すも、金杯以降はドリーミングの前に4戦連続3着。馬体重501kの堂々たる馬体。その張りも毛艶も良い。歩様が硬いのもこの馬のいつもの姿。鞍上吉延騎手とのコンビもすっかり定着し、人馬共々、それそろ、そして是が非でも欲しい重賞のタイトル。
本馬場入場から返し馬に。エイコウラインは例によって入場口から一角方向に直行。ホマレスターライツもいつも通り首を下げてジンワリとした気合い乗りの返し馬。グリンティアラ、ヨシユキトップ、セブンアトムは強め、ミスターカミサマもいつになく強め、そしてパッピーは1周ダクで流し、最後にもう1周キャンター。
予想。これはもう初志貫徹、パッピーがアタマで、相手にホマスタ、ヨシユキ、そして薄くカミサマを加えて、この3頭に枠単と馬複で流す。
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レースなり
いよいよレース発走。距離は伝統の2250m。4コーナーのスタート地点から丸2周と少し。
ゲートオープン。概ね外枠勢の出が良い。その一方で、4番枠ホマレスターライツが痛恨の、しかし「やっぱり」の出遅れ。そのまま内に進路を取り、最後方からの競馬となる。それはさておき、好発はマルサントウショウとセブンアトムの7枠2頭。ホームストレッチをいっぱいに使って一気に逃げる。これを追う先行集団として、内パッピーケイオー、外ヨシユキトップの有力馬2頭。グリンティアラ、エイコウラインが次列、以下ユタカブレーヴ、ミスターカミサマ、フジキタイトル、そして出遅れホマレスターライツと続く。
スタートして100m過ぎ
マルサントウショウとセブンアトムが一気に逃げる
セブンアトムとマルサントウショウは、2コーナーまで併走気味に後続を引き離しどんどん逃げるが、向こう正面でマルサントウショウがやや控える。これでセブンアトムは単騎逃げに。5、6馬身程度のリードは維持しつつも、かなりスローにペースを落としつつ、2周目に差し掛かってくる。
ということで2度目のホームストレッチ。先頭はセブンアトム。折り合いはバッチリ。4馬身ほど遅れた2番手に、本来追い込み馬であるはすのエイコウラインが、掛かったか何故かここに。1、2馬身下がって、内にグリンティアラ、外ヨシユキトップ。その直後内にマルサントウショウが当初のハナの位置からここまで控えて。この外にパッピーケイオー、鞍上藤本サブちゃんは若干控え加減なのか、位置がやや後ろ。ここで間隔がやや切れて、ユタカブレーヴ、その外ミスターカミサマ、直後フジキタイトルと後方追走各馬で、ホマスタは依然最後方のイン。
レースは2周目向こう流し。依然先頭快走セブンアトム。ヨシユキトップあたりはぼちぼち腰を上げるが、好位でパッピーの行きっぷりはイマイチ。サブちゃんのアクションが大きくなるが動きは鈍い。後方待機のカミサマとホマスタも、どうやらちっとも上昇してこない。
そして3コーナーから三分三厘。先頭アトムのリードは3、4馬身。外を回ってヨシユキトップが迫るが、まずは目を惹いたのが内からグリンティアラの寄せ。ここでのひと脚に賭けた感。ヨシユキに連れてパッピーもやって来るが、しかしこれはどうも遅過ぎる。
一瞬「オオッ!」となったティアラの捲りだったが、結局外からヨシユキトップにねじ伏せられて、最後の直線は先頭アトムと追うヨシユキとの争いに。セーフティーなリードを保ち、余裕を持って4コーナーを回ったセブンアトムが、直線ジリジリ迫ったヨシユキトップを、まさに「まんまと」半馬身しのぎ切って、無冠返上、悲願の重賞初制覇のゴール。
セブンアトムvsヨシユキトップ最後の直線
逃げ込むアトムにヨシユキが追いすがる、が→
まんまと振り切るセブンアトム
→こうなる。右端の顔は間に合わないパッピー
2着ヨシユキトップ。無冠返上の好機をセブンアトムに奪われた感。パッピーケイオーが直線差し込み1/2馬身差の3着となるが、勝負所での動きがまだまだ遅過ぎ結局ここまで。2馬身半差の4着に四角9番手で回ったらしいユタカブレーヴが、鋤田渾身の追い込みで。5着クビ差で見せ場を作ったグリンティアラがここ。ホマレスターライツは6着、ミスターカミサマは結局最下位入線。
ウィニングランのセブンアトムと黒川騎手
黒川クン、代打騎乗でのタイトルでオラオラ状態
乗り替わり、初騎乗での重賞Vの黒川騎手、ゴール通過でガッツポーズ。これが昨年の金杯(トモシロヒット騎乗)以来、自身2度目の重賞勝ち。余程嬉しかったのか、ウィニングランで再度正面スタンド前にやってくる。それこそ「オラオラ」状態でファンにアピール、そしてガッツポーズの連続。加えて表彰式では、菊花賞出走馬のゼッケンをお客さんにプレゼントする大盤振る舞い。黒川クン、まあ「華がある」と言おうか、天然陽性なところがあると言おうか。
セブンアトムは盲点の人気薄(単勝5番人気)とでも言おうか、配当は波乱の決着。単勝3220円。2着ヨシユキが単勝2番人気でありながら、枠複2530円、馬複5170円、枠単に至っては11220円の万馬券。平穏だった今日の馬券戦線、ここで一気に荒れた。
セブンアトム、ここで重賞初制覇。距離二二五が初経験、加えて、マイルあたりが適距離と思っていたので、ここでの勝利は予想できなかったが、走ってみれば何のことはない、ちゃんとこなしての逃げ切り勝ち。「軽ハンデの人気薄の逃げ馬」と言うなかれ、地味に映るのはそのコツコツと歩んできた出世街道と元来のキャラ。福山シンパとしては素直に祝福してあげたい勝利である。「カヅミネオン産駒でこれだけ伸びたら上等。」「カヅミネオンはイケイケ状態だと結構成長する傾向あるから。ただ一息入れると普通になっちゃうので、その点、アトムは不休で使われているというのは大正解では。」などと、ディープさんやおさるさんと語らう。これで実質、この馬がミスターカミサマやモナクマリンを抑えて、堂々の福山世代トップに。違和感ある向きもおられようが、紛れもない事実。こつこつと積み重ねた努力と継続性が、スター性を越えた、ということである。でありながらこの馬がハンデ最軽量51kとなる、別定重量の算出方法は不思議。それにしても那俄性哲也厩舎はホマスタ、カミサマの両看板2頭が不発でも、セブンアトムで重賞を勝てるという層の厚さ、恐れ入る。
一方ヨシユキトップはまたしても重賞勝ちのチャンスを逃す。アトムの逃げに対し、自力でも捕まえに行こうとする積極性があっただけに惜しく、そしてやっぱり勝負弱い。加えて鞍上吉延騎手は、今年これで重賞2着が5度目。人馬とも、無冠脱出への闘いが続く。
パッピーケイオーの3着はガッカリ。道中の行きっぷりと勝負所での動きがまだまだ。ちょっと期待を裏切られたが、それでも3着で前走よりは前進。この調子で、狙うは正月大賞典、となってくれればよいのだが・・・その実ピークは今春のタマツバキとセイユウ記念だったりして。それにつけてもアンタのおかげで、ワシの馬券はやっぱり、「捕らぬ狸の皮算用」。
グリンティアラの3コーナーでの動きにはビックリ。あの仕上がりでこれだけ走るのだからまだまだ侮り難い。ホマレスターライツは出遅れてからの道中進行が駄目。最後方インでダラダラでは厳しい。鞍上佐原クンが二二五戦初体験であるにせよ、ちょっと今回は荷が重かったか?こういったファンの声を発奮材料に更なる飛躍を。ミスターカミサマは最下位。後方から全く動けていない。パドック気配といい、よほど調子が悪いのだろうか。悲しいが、暫くは、嘗てのカミとは別の馬だと思った方がよいのか。
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おわりに
最終レースも終わり、帰路に。例によって鈍行乗り継ぎで無事帰着。
正月の福山大賞典を前に、ドリーミングを追う古馬の勢力図はさらに混沌とした感。これに大賞典では、ユノワンサイドをはじめとした3歳有力どころが加わることが予想され、古馬有力どころ、もうかうかとしていられない状況か。しかしながら、「大賞典?2600m?あ〜ら、今のワタクシには関係なくってよ、オホホホホ!」と、魔女の高笑いが聞こえてきたりして。
ともあれ今日はオメデトウ、セブンアトム。
「座右の銘は、"地道"」かな。
2001.11.25 記
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