第29回シルバー争覇観戦報告

 2001.12.12、名古屋、1900m

はじめに〜シルバー争覇の位置づけと意義
東海のアラブ古馬戦線にとって正月開催は、笠松ではアラブギフ大賞典、名古屋では中京競馬場にて名古屋杯が施行される、大きなヤマ場である。が、前者は2日、後者は4日(いずれも2002年の日程)と、両者の間隔が詰まっており、掛け持ちで出走することは不可能、出走馬が分散することになる。このため、筆頭を争う者どうしの直接対決が回避されるケースも多い。そう多くない東海の古馬重賞であるからして、この重複日程は何とかして欲しいものだと、強く思うところなのだが。
さて、今回のシルバー争覇。「名古屋杯トライアル」とのサブタイトルが付与されているが、名古屋杯のみならず、前記二つの正月重賞いずれに対しても、前哨戦となり得る競走である。出走馬が分散される本番と比べるにつけ、むしろこちらの方が、メンバーが揃って面白いのではないかとの、ファンの声が多かったりもする。
ということで、このレースに「東海古馬のスター勢揃い」を期待していたのだが、日程を確認すると、翌日に笠松では、アラブの準重賞、銀嶺争覇があるではないか。「本番のみならず、トライアルまでも重複開催かいな。ああこれでまたメンバーが分散する。」と、ちょっとガッカリ。しかしながら発表された両者の出馬表、銀嶺争覇のそれは、アラブの層としては名古屋よりやや見劣りする笠松のヒラOP馬が中心であり、名古屋筆頭勢の名前は、全てシルバー争覇の方に含まれている。
こうなると、まさに「本番より注目の前哨戦」。日頃から「東海には冷たいアラブ現場主義者」の評価を甘んじて受けるワシであるが、平日といえど、「これは是非観ておきたい!」ということで、土古へ足を運ぶこととなった。
因みに、同日園田では、重賞園田2歳優駿があり、まあそれはともかくとして、最終レースに、各世代の最強馬集結(サンバコール、ワシュウジョージ、ハッコーディオス、クールテツオー)の古馬OP戦、それもハンデが年齢定量の一戦が組まれ、正直、こちらにも大いに惹かれたところ。しかしここで変節して園田に行ったりなどすると、「やっぱり東海に冷たい!」と突っ込まれてしまうので、今回は初志貫徹である。

土古へ
職場を正午に脱出して名古屋を目指す。13:16新大阪発のひかりに間に合い飛び乗る。これが14:16に名古屋着。名古屋駅前から運行している競馬場行きのファンバスは終わっている時間帯なので、競馬場最寄りの地下鉄東海通駅に向かう。在来線に乗り換えて金山駅まで行って、ここで地下鉄に。名古屋港行きに乗って3駅目が東海通である。駅前には市バスのバス停があり、競馬場の前を通る路線もあるはずだが、慣れぬルートゆえ、バスがやって来る頻度が分からぬので、歩くことにする。電柱には「競馬場まで1.3km」の表示が。
途中走りつつ、何本もバスに追い越され、何とか競馬場に到着。時刻にして3時前、準メイン第10レースのパドック周回中であった。メインレースまで大して時間もないので飲食する余裕もなく、カメラの準備をして、『競馬エース』を眺めてメインレースの予習。

天気は晴れ。この時季にしては大した寒さでもなく、日向は割と暖かい。馬場状態は良。

そしてシルバー争覇
出走馬は内枠より以下の11頭。()内は騎手、斤量。
ローテーション(福重、54k)、グロリアスメロディ(安藤貴、51k)、ブラウンダンディ(安部、54.5k)、ワンダーキャッスル(丸野、52k)、ドリームボール(戸部、54k)、ボールドヒリュウ(竹下、52k)、マリンレオ(山田、54.5k)、ヘイセイエクセル(横井、51k)、ブレーンワーク(倉地、55k)、ホシノセイコー(満田、51k)、ファルコンボーイ(堺、54k)
ハンデ戦の一戦。ファルコンボーイは笠松からの出張馬。

注目は何と言ってもマリンレオ。いまや断然の東海筆頭。前走笠松の準重賞アラブ銀杯では、ブラウンダンディ以下を突き放して、レコードとタイの時計で走っての圧勝。現地で観戦した方も「マリンレオ、恐ろしく強い」と思ったそうで。因みにワシは、この馬を観るのは今回2度目。前回は金沢のセイユウ記念時なので、地元では初である。
そしてブラウンダンディ。元々マリンレオとの直接対決は劣勢、1月の荒尾セイユウ賞後に休養し、復帰後は東海筆頭の座を譲ってしまった感もあるが、踏ん張って巻き返しを狙いたいところ。
他にも、園田から移籍馬で、先月帝冠賞を制した3歳馬ボールドヒリュウ、成績にムラこそあれ、古馬オープントップの一角を長く張っているブレーンワーク、このところ確実に追い込み脚を発揮し、好成績を維持しているドリームボール、等々、名古屋古馬の一線級が出揃った。

パドック私見、そして発走まで
1番ローテーション。424kの馬体重通りコンパクトな馬体。栗毛の毛艶は良く見えるが元来がこういった感じの馬か。厩務員さんに顔を預けての周回。全盛期は2年前、峠はとうに越した感は否めず。
2番グロリアスメロディ。サウンドマスターの半弟。大人しく周回。毛艶は普通。トモが細く映る。
3番がブラウンダンディ。ジワリとした気合い乗り。馬体の見栄えは悪くないものの、かつての方がもっと良かったという観る側の先入観からか、絶好にも見えない。頭の高い周回はこの馬ならではなのだが、あたりを睥睨する威圧感とか、ふてぶてしさはあまり感じられない。
4番ワンダーキャッスル。頭の高い身のこなしだが活気はある。馬体の実入りは悪くない。
5番ドリームボール。黒鹿毛の精悍な馬体。ぱっと見非常に良く見えるが、しげしげ観察すると毛艶はそれほどでもない。が、重心の低い歩む姿で、ジンワリとした気合いを感じさせる。
6番ボールドヒリュウ。馬体重456kは前走比-6kで、兵庫所属の春の頃よりもまだ軽い。どうも成長分がない感じ。若干ヒ腹が薄くも見えるが、馬体のフォルムは以前とさして変わりはないし、毛艶も出走馬中では良い部類。こちらでは相当煩い馬というキャラが定着したようで、Dハミで曳き馬用のハートハミを噛まされている。その割には周回気配は案外大人しい。
7番が注目のマリンレオ。ワシの中ではスマートなイメージがあったのだが、想像以上に胴体の重量感が出ている。比較的胴長な体型だが、その実入りが素晴らしい。パンパンの張り。トモの踏み込みも深く、文句無し。特筆すべきはその首差し。これほど長く伸びやかで、またしなやかなアラブはあまり記憶にない。そのクビで、チャッチャとリズムを刻んでの周回。
8番ヘイセイエクセル。冬毛が出ている。馬体重450kだがそれにも増してこじんまりとしている。腹回りはポテッとしているが、ヒ腹からトモにかけてが貧相。
9番がブレーンワーク。元来が骨量豊かでかつ筋肉質の馬体。毛艶は今日も出走馬中一番かと。馬体の張りもまずまず。ただ、個人的にはこの馬の見た目に関しては、過大に期待してしまうところがあるので、これで絶好とも言い切れない。9月以降の3戦は4着5着5着と、結果イマイチなところが気に懸かる。
10番ホシノセイコー。馬体重462kとそれなりの割には小さく細く見える。前半身は並だが、トモが力感に欠ける。
11番ファルコンボーイ。かつての新潟最強馬も笠松転入後はサッパリ。500kの馬体はやはり大柄で、どっしりとした胴回りは強いホーエイヒロボーイ産駒ならではのものだが、艶と張りは現状のイメージも相まってイマイチ。歩様は硬い。上唇を括られている。

パドックの印象はマリンレオがやはり断然。見入ってしまうその姿。ダクやキャンターのフォームでも、その首の使い方と柔らかさが絶品。惚れ惚れする。ボールドヒリュウは騎手が跨ると大人しめの気配が一変、俄然煩くなる。ドリームボールのフォルムも好感。

本馬場入場と返し馬を写真に収めていると、「どうも。」と声をかけてくる御仁が。これが何と九州在住さまにべっぴんさん。今となっては、さまにさんが全国何処に出没しようと納得してしまうのだが、いつも唐突に現れるので、リアルタイムでは毎度のことながら驚かされてしまう。「どうしてここにいらっしゃるですか?!」と問うと、曰く「単にこのレース観に来た。ホントは明日も笠松(前述の通りメインは銀嶺争覇)行きたかったんだけれど、仕事で行けないのでしょうがないから今夕飛行機で帰る。」とのこと。まさに"神出鬼没"の面目躍如。平日に東海アラブ古馬OPを、飄々と連闘掛け持ちしようとする九州人がこの世には存在するというこの事実。この人には死んでも叶わないと思った次第。

レースなり
さてレース、距離1900mのスタート地点は2コーナーを回って向こう正面に入ったところ。冬至も近い冬の太陽が3コーナー方向に大きく傾き、低い角度で西陽を浴びせかけるなか、レースが始まる。
ゲート入りの際、ブレーンワークがゲートを突き破って飛び出してしまうが、すかさずゲート後方に引き返して再入し、すんなりとゲートが開く。
各馬横一線のスタート。中でマリンレオも前を窺う。1番枠の先行馬ローテーションがぼちぼち前へといったところ、本来は差し馬のはずの大外ファルコンボーイが内に切れ込んで一気にハナを奪う。ということで最初の3コーナーまでは、先頭ファルコンボーイ、直後の内にローテーション。マリンレオは3番手からやや下げ気味。その外にブレーンワークがつける。ここでやや間隔が開いて、以降に好位集団が形成される。
そして正面スタンド前。先頭はローテーションに変わっている。これがインベタで後続を4、5馬身離して単騎逃げる。2番手にファルコンボーイ。2馬身弱下がった次列、内にグロリアスメロディ、外にブレーンワーク。マリンレオはブレーンワークを1馬身半程度前にした5番手、よく抑制された折り合い。この次列のインにブラウンダンディ、かなり控え気味の気配。その外にドリームボール、さらに外にボールドヒリュウがやはり掛かり気味に。
1コーナーから2コーナーにかけて、先頭ローテーションが快走し、後続とのリードをキープして進める。2番手集団の前列をブレーンワークとマリンレオがガッチリ。
向こう流しも半ばを過ぎると、先頭ローテーションのリードはみるみるなくなる。これをめがけて、まずはブレーンワークが意識的に押し上げる。三角進入手前では、お釣りのなくなりかけたローテーションの直後2番手に取り付く。が、ブレーンを目の前に置いて、マリンレオも上昇する。するとこの外目直後、ドリームボールがビッタリと、マリンレオに食い付いていく。ブラウンダンディはまだ来ない。
ということで3コーナー、ブレーンワーク、鞍上倉地のアクションは大きくなるが、これをじわりと交わしてマリンレオが先頭に立つ。マリンレオの外には必死に追いすがるドリームボール。三分三厘、交わされて苦しくなったブレーンワーク、そしてドリームボールの外から、いよいよブラウンダンディがやって来る。今日は脚を溜めた差し競馬か。
最後の直線、抜け出すマリンレオ、こうなるとゴールまで一目散。4コーナーを2番手で回ったドリームボールが内に入って、マリンレオには突き放されつつも位置を死守せんとする。ブレーンワークはインに張り付いて売り切れた模様。バックの後半好位から置き去りにされたらしいボールドヒリュウが、ブレーンワークを差す位置まで来る。そして馬場六、七分どころ、三分三厘押し上げたブラウンダンディが突っ込んでくる。残り150でドリームボールを交わして2番手に、さらにマリンレオを追う。
が、最後はマリンレオ、ブラウンダンディの追撃を半馬身封じて、ゴールに飛び込む。決め打ち差し競馬を敢行したブラウンダンディに迫られはしたが、見た目的にはマリンレオがそれをキッチリ封じた、印象としてはこれは完勝。
ドリームボールがブラウンから3馬身遅れた3着に。そこから5馬身差でボールドヒリュウが4着、5着は好位維持のグロリアスメロディ。ブレーンワークは終い息切れの7着に終わる。
マリンレオ(41KB)
堂々マリンレオ
この首差しが素晴らしい
マリンレオvsブラウンダンディ(45KB)
ゴール直前、ブラウンダンディ追い込むも
マリンレオがキッチリ残りV

終わってみれば鉄板と呼ぶに相応しい順当な決着。これはワシもキッチリ獲った。が、「戸ぉ部ぇ〜!ア〜○〜!」と、ドリームボール3着でガクッときているさまにさん。ワシの横の若者もドリームボールを応援していたようで、これで改めて「ああドリームボールって期待されてたんだ。」と気付かされたワシであった。

マリンレオ、強い。前走のアラブ銀杯の勝ちっぷりを知る方は、今回の着差を知って「調子悪かったの?」と思ったやもしれぬが、これは「負けない競馬」といった感じありあり。レース後に山田騎手は「今回は勝負所でもたもたした。」と振り返り、また反省したそうだが(『競馬ファン』のHPにて確認)、それでも崩れない走り。実物を観る機会がないうちに、どんどんとんでもない馬になっていっているような気がする。とにかく、いまだに底を見せていないところが恐ろしい。
ブラウンダンディは必殺の差し競馬でも届かず2着。どうしてもマリンレオ相手には分が悪い。それでも一応復調したとは言えるかな。陣営の、失地回復(昨年は断然の東海王者だったわけで)と打倒マリンレオに賭ける意気込みは並々ならぬものがあるようだ。こういう意欲が、アラブ競馬を盛り上げる原動力となるのだろう。
ドリームボールは見せ場充分だった。マリンレオ相手ということで、本来の追い込み脚質を捨てて、早めにレオを負かしにいった感じはあるが、これはしゃあないか。ただ、じっくりとブラウンの後ろから行ったとすれば、2着争いはまた違った形になったかも。
ボールドヒリュウは思ったより好位後ろの位置取り。それでも道中掛かっていたようなので、戦法としてこれでよかったかは疑問。ワシはこの馬は好きな馬なので注目していたつもりなのだが、レースのリアルタイムでは、ほとんど意識が向かなかった。それほどに見せ場はなかったということ。ブレーンワークは勝負所から全く見せ場なし。駄目なときはホンマ駄目。それでも客が見放しかけて、かつ相手が恐ろしく手薄になったところで、ちゃっかり勝ったりするキャラなので、暫くはいい風向きを待つ日々だろうか。

レース後に表彰式がウィナにて行われる。しかしながらSPIIだからか、勝ち馬マリンレオはウィナに現れない。これ、ヒジョーに面白くない。山田騎手がお客さんにサインを求められたり、声援を受けたりすると、そのいちいちにちょっと照れながら応えていたのが、地味な若手らしく、妙に可愛気があった。

おわりに
帰路は金山までファンバスにて。駅でさまにさんとはお別れ。往路と同様、名古屋から新幹線に乗って戻り。名古屋滞在時間実質3時間弱の、ちょっとバタバタした、ド平日の競馬紀行であった。それでもこのレースなら、観て正解。
それにしても、トライアルより盛り下がる本番というのは頂けない。予告編でお客の関心惹いて、本編観たら内容スカスカで「嘘つき!」状態の映画みたいやな、この状態。

2001.12.25 記

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