第35回黒百合賞スポーツニッポン杯観戦報告

 2002.5.5、金沢、2000m

はじめに〜当日の概況
金沢競馬、ゴールデンウィークのアラブ重賞は今年も黒百合賞。本来ならばアラブグランプリがそうであるところ、昨年に続きそれが全国交流セイユウ記念として施行されることになったため、両者の開催時期が入れ替わってこうなった。
冬季休催が明けて、4月の今季開幕から3開催目、古馬オープン勢が今年初めて迎える重賞ということで、各馬の仕上がり具合が鍵となろう。出走馬の中には、冬の間東海地区に出張して稼働していたものもいて、これら面々の方が先に仕上がっていると見るのが妥当であり、そのあたりも念頭に置いて注目したいところである。

一昨日の名古屋杯の後は実家に帰って2泊。この日は実家から金沢へ向かう。前日の雨から一転回復するだろうとの天気予報だったが、その度合いも鈍く、金沢を目指し走る列車、車窓の外の北陸路の景色は霧雨。到着した金沢の天気は曇り。気温が低く、ポロシャツに薄手のトレーナーを羽織っただけでの姿では正直寒い。服装の選択を完全に誤った。
馬場状態は不良。所々表面にやや水が浮いているほど。能力なりに逃げも差しも決まっているようだが、駆ける馬のフォームは概して重々しく、スピードよりはパワー勝負の色合いが強い。
途中で環さんと合流、この日遭遇したお知り合いは彼だけなので、二人で談笑。彼は母方の実家が金沢なのだそうで、この競馬場には馴染みがあるようだ。

出走メンバーについて
出走馬は内枠より以下の10頭。()内は騎手、斤量。
ユキノトライバル(平瀬、54k)、エステイヒーロー(渡辺、54k)、サクセスフレンド(中川、55k)、サンエスジュニア(吉原、55k)、ニシノリュウジン(米倉、53k)、キミノミネフジ(長嶋、54k)、スーパーベルガー(蔵重、53k)、スペシャルファスト(沖、53k)、ホーエチャンピオン(桑野、57k)、ベストイチ(山本、54k)
別定重量戦。牝馬はニシノリュウジン、スーパーベルガー、スペシャルファストの3頭。

冬季名古屋に出張して3戦1着2着3着各1回と好走し、今季開幕以降A1を連勝しているサンエスジュニア。昨年の同レースの勝者ながらその後戦線離脱してしまい金沢筆頭を堅守出来ず、前開催11ヶ月振りに復帰してA1を2着したエステイヒーロー。昨秋アラブ大賞典、石川テレビ杯、北國アラブチャンピオンと重賞3連勝し、昨年の金沢アラブ系年度代表馬に選ばれたサクセスフレンド。昨夏鳴り物入りで転入するも重賞を獲れず、秋以降は実戦を使えなかった、御存知道営の生んだ怪物ホーエチャンピオン。そしてそしてスーパーベルガー。デビューの遅れと休養を挟んでの実戦のため、3歳時の出世は若干遅れたものの着実に出世して、冬季は出張先の笠松にて準オープンで2戦2勝、開幕開催のA2重賞菊桜特別と前開催のA2を共に圧勝して、今日この重賞の舞台でいよいよA1初挑戦となる大器である。このあたりが注目馬。なおダイリンフラワは開幕以降A1でするも、8着6着と不振、今開催はA2に陥落してここには姿を見せず。そのA2戦は一昨日、名古屋で場外発売され、中継を目撃出来たので、名古屋杯の観戦記冒頭にて少々記述。

パドックから発走まで
相変わらずの曇天の下、パドックに出走馬が姿を現す。
1番ユキノトライバル。菊桜特別でスーパーベルガーの2着。前開催は休んでここに出走。のんびりじんわりした周回気配、がっしりした馬体でここに入っても見劣りはない。
2番がエステイヒーロー。入場早々から発汗が目立つ。首の高い姿勢でチャカチャカ煩い周回気配。毛艶はさほど冴えず、馬体の線も細い。「ちょっと焦れ込み目立つよね。これで大丈夫なの?」と環ちゃんも訝しむ。「去年のこのレースの時もあまり見栄えのする馬じゃなかったね。辻本くんも『二千はギリギリ保つかなあ』と言ってたし。この煩い気配で距離保つかはちょっと心配かなあ。」とワシも思う。名手渡辺騎手とのコンビは前走に続きこれが2度目。
3番サクセスフレンド。昨年の年度代表馬も今季は2戦連続4着とまだまだ。登場した馬体を見てちょっと納得。馬体がやはりまだ太く、コロンとした感じ。馬体重は前走比-5kで478kだが、陣営は475k弱くらいで競馬をさせたいよう。毛艶はまあまあで、気っぷよくパドックの大外を周回してはいるのだが。
4番サンエスジュニア。今季A1戦2連勝を踏まえればこれが本命評価とも事前には思ったのだが、予想紙のシルシは意外にも薄い。というのも前走レース後吉原騎手が即下馬したとのこと、アクシデントがあったようで、中間の調整が今一つだったが故。やや重めな感があるが、元来の体型がそんなものでもある。毛艶や馬体張りも問題なく、堂々歩む姿と相まって、悪い印象はない。
5番ニシノリュウジン。兵庫のヒラオープン馬が完全に頭を打って、今季初頭から当地に移籍。緒戦は5着するも前走9着、A1ではこんなものだろう。身のこなしは柔らかいのだが、腹回りが兵庫時代より明らかに緩い。
6番キミノミネフジ。昨年来オープンの常連。開幕戦2着で前走3着と今のところ好調のよう。大柄でトモより肩の方が低い体型。首を下げリズムを取りつつ気分良さそうに周回。いい感じ。距離二千はちょっと長いか、この点が問題。
そして7番がスーパーベルガー。ゆったりとした胴回りでその実入りも充分、このあたりはレオグリングリン産駒らしさだと思う。明るい鹿毛の毛艶と張りも文句ないもの。何とも堂々とした周回気配で、歩幅も大きい。「この中ではスーパーベルガーの見た目が断然。」と環ちゃんも好印象だったよう。
8番スペシャルファスト。菊桜特別5着、前開催は休んでここへ。いきなりのA1重賞はちょっと家賃が高そう。首のつく角度と背が高いのか、大きく見える。胴回りは緩いか。
9番がホーエチャンピオン。今季は開幕以来出走しているが前々走6着に前走5着とまだ良積はない。参考VTRとしてこれらA1戦2鞍(いずれも千七戦)の模様が場内モニターに流れたが、いずれのレースでも三分三厘ドッと寄せるものの、直線でパタッと失速している。陣営は「今回長丁場での底力に期待」しているらしいが、距離が二千を越えるとガクッと戦闘力の落ちるこの馬にそれを望むのは酷だろう。体表に銭形が見えるほど毛艶はいいし、堂々たる馬格は相変わらず。大人しく周回。ただトモの送りは若干硬いか。
10番ベストイチ。A1の常連だが追い込み一手で勝ち味に遅いキャラ。今季はA1で2戦していずれも7着。馬体重509kは-3kだがまだまだ太い。500k切るかどうかあたりが理想。見た目にも全身が緩め。トモが硬いのはいつものことか。時折キョロキョロと。
まだまだ馬体の緩い馬が多いなというのが感想。おしなべて腹回りが重い。その中にあって、スーパーベルガーの仕上がりの良さが段違いに目立った。
エステイヒーロー(50KB)
注目馬その1、エステイヒーロー
登場早々から発汗、そしてチャカチャカと
スーパーベルガー(52KB)
注目馬その2、スーパーベルガー
実にゆったりとした馬格、出来は最高

本馬場入場から返し馬。流儀に倣って、各馬誘導馬を先頭に一列になってスタント前を歩く中、ホーエチャンピオンだけはこの馬の常で、入場口から一角方向へ直行。サンエスジュニアは強めにキャンターで駆け出す。スーパーベルガーはジンワリと返し馬に。
予想。当初はエステイvsベルガーだと思っていたのだが、パドックを見て、スーパーベルガーの軸は堅いという意を強くする。反対にエステイヒーローはちょっと心配になり、相手の1頭に降格。ということで馬券はベルガーからエステイとサンエスジュニア、サクセスフレンドへ、馬単で。オッズもスーパーベルガーからが断然。並のA1初挑戦の馬であれば明らかに過大評価された状況なのだが、並の馬ではあるまいというムードが濃厚。

レースなり
いよいよレース。距離は2000m。2コーナーを回り切って向こう正面に入ったところがスタート地点。
ゲートオープン。まずはサクセスフレンドが内から押されてハナへ。その外からサンエスジュニアも連れて前へ。ニシノリュウジンがこれに続き、スーパーベルガーもこれらに続いてまずは先団の流れに乗る。さらに外からスペシャルファストがこれらを追う。ホーエチャンピオンとエステイヒーローは、序盤は中団以降から。
正面スタンド前、先頭は引き続きサクセスフレンド、後続とは2、3馬身程度のリード。2番手に内でサンエスジュニアが続く。1馬身弱遅れた外目にニシノリュウジン3番手、ピンクメンコがスーパーベルガーと紛らわしい。ホーエチャンピオンとスーパーベルガーはこの後ろの好位、互いに抜きつ抜かれつ追走。これらを直前に見つつエステイヒーローが陣取る。ユキノトライバル、キミノミネフジはその後方、この外目にスペシャルファストが下がり、殿は例によってベストイチ。

1周目(34KB)
1周目のホームストレッチ
先頭サクセスフレンド、2番手サンエスジュニア

1コーナーから2コーナー、サクセスとサンエスの先頭2番手は変わらず。スーパーベルガーが好位からこの後ろ3番手にスッと寄せる。
そして勝負が動くのは向こう正面半ば手前。馬場内ビジョンが、好位から腰を上げたホーエチャンピオンの姿を映し出したその時、直後からその外を、エステイヒーローがキュンッ!とばかりに捲りにかかる。その様子は昨夏のダイリンフラワばり、あれよあれよという間に、ホーエはおろか先団の各馬をも呑み込んで、3コーナー手前では早くも先頭に立つ。そしてその余勢を駆って、後続を大きく引き離して3、4コーナーを回ってくる。後方ではスーパーベルガーが3コーナーでは2番手に、単騎抜け出してエステイを追う。が、三分三厘で両者の差は確実に6馬身はあろう。サスガにこれは勝負あったか。
ところがどっこい最後の直線。ゴールめがけて一目散のエステイヒーローであるのだが、スーパーベルガーが諦めずに前へ。そうこうしているうちに差は詰まり、直線の残り半分を切った頃には「これはひょっとして・・・」と思わせる状況に。そして残り50あたり、遂に両者の馬体が合う。内エステイ外ベルガーの叩き合いは、渡辺vs蔵重の新旧リーディングjkの闘いでもある。残り20くらいまでは「何とかエステイが残すか」とも思われたのだが、そこからスーパーベルガーがジワリ!最後はエステイヒーローをクビ差交わしてのVゴール。勝ちタイム2分9秒4、昨年の石川テレビ杯でサクセスフレンドが出したレコードを1秒1縮めてみせた。

スーパーベルガーvsエステイヒーロー(37KB)
残り僅か、外スーパーベルガーvs内エステイヒーローの死闘
ここからベルガーが交わす、両騎の鞍上は必死の形相

3番手以下は大きく遅れて。ホーエチャンピオンが一旦はサンエスジュニア以下を交わして3番手に上がったはずだったのだが、案の定タレたのか、最後は外に切り替えたサンエスジュニアにアタマ差交わされて、結局サンエス3着ホーエ4着、しかし2着とは2秒4の大差。5着に中団からキミノミネフジ。6着ドンケツ強襲ベストイチ、サクセスフレンドは保たず7着止まり。8着ニシノリュウジン、9着ユキノトライバル、最下位スペシャルファスト。

振り返って、そして今後を思いつつ、おしまい
ちょっと大味なきらいはあろうが、好レースだったと思う。「最後の叩き合いは迫力あったよねえ。今日ここまでのサラの一般戦なんかとは、掻き込みや蹴りが全然違うもん。」と環ちゃんと語らう。冷静に振り返れば、最後は「大捲りの余力」と「単騎追走ロングスパート」との争いであり、両者ヘバり気味であったのかも知れぬが、好素質馬どうしの真っ向勝負、何とも見応えがあった。
勝者のスーパーベルガー、この馬は強い!自在性と持久力と勝負根性を見せつけられた。レース振りも馬体から漂う雰囲気も、まだまだ奥が深そう。何だかベタ褒めになってしまったが、この馬、強い牝馬にありがちな「危なっかしさ」がない。まあ、こういうタイプの牝馬を魅力的と思うかどうかは別問題だが。それにしてもレオグリングリン産駒の素質馬の、伸び頃に入って以降の成長力と、ここ一番での底力というのは特筆ものである。
エステイヒーローは惜しい2着。バック捲りは渡辺騎手が勝負賭けの際にしばしば見せる手で、この馬もその戦法で好走しそうなタイプである。並の差し・追い込み馬が相手であれば、たとえ終い脚が上がったとしても押し切れたと思われ、若干の距離不安を克服するには良策であったろう。が、今日は相手が悪かったか。とはいえ長期休養明けの2戦目、力あるところは見せつけられたろう。今後に期待大。
サンエスジュニアは平均的に脚を使う先行馬なので、こういう途中激烈に展開が動くレースは向かないかも。まあ今日は有り体に言えば、格負けの感がしなくもないが。
今のホーエチャンピオンにとっては、やはり距離二千は長かろう。実績からすれば、ここで3着争いをしている程度の馬ではないのだが、この馬ももう7歳、この3戦の凡走は、まだ良化途上であるが故だけもないかも。
キミノミネフジは掲示板には載ったが勝負の趨勢には絡む場面は薄かった。ベストイチの終い追い込みはいつものこと。サクセスフレンドはまだまだ。それにしても、「仕上がり遅いナイスフレンド産駒」というのも何だかな。ひょっとすると3歳でピークを越えたか?であるならば「早熟で頭打ちの早いナイスフレンド産駒」という、ありがちな話となるのだが。

ということでこのレース、今年の金沢古馬陣の今後に、期待を抱かせるに足るものだったかと。今月26日の福山タマツバキ記念には、金沢から参戦する馬はいないが、7月3日には、当地で全国交流セイユウ記念が待っている。昨年の金沢勢は、残念ながら1頭も掲示板に載れず(最先着はベストイチの6着)、馬場を貸しただけの結果となってしまったが、今年は地元の意地を見せつけ得る、その余地は多分にありそうな予感。その急先鋒こそが、この日の勝者と2着馬だろう。決戦まであと約2ヶ月。それまでは、何としても好調維持で過ごされんことを希望して――

2002.5.21 記

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