第36回福山桜花賞観戦報告

 2003.4.13、福山、2250m

はじめに
4月の福山競馬、年度改まっての第1回開催恒例の古馬重賞、福山桜花賞。古馬A1クラス、すなわちバリバリのオープン馬10頭が、2250mの長距離に覇を競う。
翌月25日には、古馬全国交流の大一番、タマツバキ記念全日本アラブ大賞典が控えており、他地区の強豪を迎え撃つ、地元勢の陣容を整える上でも、重要な一戦であろう。正月の福山大賞典から早4ヶ月、有力どころは改めて本気モードになることを求められようし、年明け以降の上昇馬も、ここで地位を確立して、晴れ舞台に挑みたいところだろう。決戦は6週後、そして中1開催、時間はあるようで、ない。
と、書いてはみたものの、実はこのレース、最大の魅力は、伝統の長丁場二二五を舞台とした、有力古馬がっぷり四つの組み合いにある(と断言)。というわけで、ここはタマツバキ前哨戦としての緊迫感は、ちょっと脇に退けておいて、いかにも福山の古馬重賞らしい重厚な戦いを、じっくり堪能したいと思うところなのである。

出走メンバーについて
その出走馬は内枠より以下のフルゲート10頭。()内は騎手、性齢、斤量。
メガビソウ(鋤田、牡6、53k)、ドリーミング(渡辺、牝7、55k)、グリンティアラ(岡田、牝7、53k)、ホマレエリート(野田、牝5、52k)、エリートカップ(吉延、牡7、53k)、ユキノホマレ(岡崎、牡4、53k)、ヤマノダイオー(周藤、牡6、51k)、ネーチャーフレンド(片桐、牡6、53k)、リーガルジョージ(楢崎、牡7、51k)、フジナミスペシャル(嬉、牡5、54k)
別定重量戦とのことだが何ともよく判らぬハンデ設定。背負い頭は何故かドリーミングで55k。

以下、予想紙上でシルシを貰っている有力どころについて。
最大の注目馬にして中心馬はユキノホマレ。先月2日の佐賀西日本アラブ大賞典の圧勝劇は、当日場外発売・中継をしていた、地元福山のファンにも鮮烈な記憶を残したようだ。正月の福山大賞典に続いての大きな勝ち星で、完全に当地の新王者となった感がある。ローゼンホーマ記念はスキップしたので、佐賀遠征以後初の地元戦であり、さながら凱旋レースとなる。今日は再び岡崎さん鞍上。
牝馬二強ドリーミングとホマレエリートも勿論登場。ドリーミングは前走ローゼンホーマ記念激勝の反動もなく元気なよう。年度替わりで開催が開いて、中3週となったのは、丁度いい休息になったのでは。ホマレエリートはローゼン3着から巻き返したいところだが、距離2250mが微妙。しかしながら昨年の菊花賞2着桜花賞3着と、戦績は意外と悪くない。主戦鋤田騎手が斤量52kでは乗れぬので、今日は野田騎手鞍上。昨年の金杯を制したコンビである。
ローゼン2着の上昇馬ネーチャーフレンドが、堂々A1格付けでここに臨む。出世街道を邁進した余勢を駆って、ここも好勝負出来るか?
そして"悩める重賞オトコ"フジナミスペシャル。大賞典5着、マイラーズカップ8着、前々開催の花市場賞6着と、年明け以後完敗続き。ローゼンは出走回避でここに再起を期したかろうが、さてどうか。

当日の概況
この日は全国各地で好天のようで、福山の天気も晴れ。気温がグングン上がって、日向となったスタンドで過ごしていると暑いほど。20度を越えたのではないか。この温気のせいで、空気が霞んで景色は白んでいる。
馬場状態は良。年度替わりの間に砂の入れ替えがあったそうで、新しい砂が綺麗に入っている。乾いた馬場で、深さも結構ある割には、砂がいいからか、タイムはやや速い。
先団、好位で道中進めた馬の連入が目立つ。逃げ逃げ決着となったレースもあったがこれは人気なり。追い込み馬も届かぬことはない感じで、脚質による有利不利は少なかろう。馬場の外目の方が伸びる感じではる。

パドックから発走まで
そしてパドックタイム。どの馬の馬体も、好仕上げのところを春の西日に照らされて、てらてらに光っている。歴戦の古馬の、いささか過剰なまでの馬体映え、そして発散される濃密な空気、ここにも桜花賞の醍醐味がある。
1番メガビソウ。刺し毛気味に毛あしが長いので艶はソコソコなのは常のこと。のんびり大人しく歩いている。前走前開催のA1A2戦(ローゼンホーマ記念の裏オープン)で7着。
2番ドリーミング。日差しに照らされて、馬体はピッカピカでムキムキ。いつも以上に凄い見た目。今日はこの馬にしては比較的パドックの外側を歩いている。トモの踏み込みが浅くて、肩の捌きも硬いのはこの馬なりだろう。
3番グリンティアラ。スタスタと大股で気っぷ良く周回している。毛艶はこの馬なりにソコソコ、実入りは上々と、かつてと遜色ないルックス。前走前開催のA1A2戦を3着。見た目と違って戦闘力は確実に落ちてはいようが。
4番ホマレエリート。歩きにどうも覇気が感じられない。周回の速度が遅く、前と間隔が開くのは常ではあるが。トモの踏み込みはないようでいて実はあるような。毛艶はスッキリ上々。「ホマレエリートって美人じゃん!」とはニーナさん。「イマゴロキガツイタノカ・・・」と返すワシ。
5番エリートカップ。バンバンの実入りで毛艶も最高。気っぷ良く歩いている。首が高いので、見た目に胸を張って堂々とした感じになる。前走はローゼンで中団ママの7着。
6番がユキノホマレ。馬体重516kは前走佐賀出走時から+15k、これは本来の値に戻したもので何より。数字通り、馬体の実入りが戻った。乏しかったヒ腹のボリュームも然り。張りも問題ない。「佐賀の時とはホントに馬体が別の馬だ。」とニーナさんも。当初はのんびり歩いていたが、だんだん集中してくるのが判る。
7番ヤマノダイオー。毛並みは普通だが、うっすら発汗していて馬体が光る。張りは充分。508kの巨体に、悠々とした動きが相まって、雰囲気は大物感漂うもの、立派。踏み込みは硬め。前走前開催のA1A2戦を勝利。"裏"とはいえ、これがオープン戦初勝利。
8番ネーチャーフレンド。毛艶は普通だがパンパンの実入りで特に胸前から腹袋はピチピチ。踏み込みも力強い。周回当初は大人しくじんわりとしていたが、次第にキビキビとしてきた。物見をしたり内にひん曲げたりと、首の動きは多い。「うぉー、やっぱりエエなあ。」と"リーダー"前田っちも。
9番リーガルジョージ。コロンとしたフォルムはこの馬なり。馬体張りは上々。この馬にしては珍しく毛艶がピカピカで、キビキビとした身のこなしもあって、いつになくよく見せている。前走ローゼン4着。
10番フジナミスペシャル。馬体重519kはちょっと適正値より大きかろうが、それにも増して胴は太め。入場当初はとぼとぼと厩務員さんの後を曳かれていたが、次第に気合いが乗ってきた。今日は黄色いブリンカー着用で登場。これが全く似合っておらず、何とも格好悪い。

ユキノホマレは岡崎さんが跨ると更に気合いが入った。そして本馬場入場から返し馬。メガビソウが入場口から一角方向に直行、そして真っ先に流してくる。ネーチャーフレンドも比較的早く駆け出し、楽走で通過して行く。グリンティアラは強め。ホマレエリートもやや強く、ピッチ効いた駆けりで。フジナミスペシャルは馬場外目を力を抜いて。ヤマノダイオーはキャンターも堂々と、強め。リーガルジョージはシャープに。エリートカップはインコースをダクで。そしてユキノホマレは軽く、ゆったりと。最後に例によってドリーミングが、シャープに駆けて締める。

パドックタイムの前に、ドリーミングの馬主さんとお話することが出来た。「ドリーミング、頑張って欲しいですね。」と言うと、曰く、「状態はいいみたいだけどね。ただ今回は1頭強いのがいるからな。まあ2着には来てくれれば。それにしてもトップハンデはないよね、7歳牝馬がさ。」と。興味深かったのは、同じ上山出身で同厩のネーチャーフレンドについて。「この馬本質的にはマイラーだと思うんだ。実際上山時代も千五までと千七超の戦績が全然違うんだよな。まあ上山時代は厩舎がビチッと仕上げなかったってのもあるけど。だから今日はちょっと見込まれ過ぎな感じはしなくもないよ。」と。

予想。ここは素直にユキノホマレを信頼して。本線はドリーミングに。加えてネーチャーフレンド、ただし前記の話を訊いて額は減らして。フジナミスペシャルは現状では駄目かと思いつつも、距離適性で走られたらイヤなので押さえ程度に。欲目馬券はドリーミング→ユキノの裏目。電設の男@ともろうさんはスケベ馬券師の本領発揮で、ユキノ2着の馬単で相手がドリーやホマレエリートやフジナミやネーチャー。リーダーも「ユキノからじゃ安くて儲からん。」と穴狙い。グリンティアラまで買った模様。
因みにこの4月新年度から、福山でも馬単が導入された。そして枠番連勝式が発生するのは9頭立て以上からに。この2点は今年度からの、全国地方競馬界の統一指針に従ってのもの。馬複と枠単導入以来数年を経ても、売り上げ的には以前と変わらず枠複王国だった当地の状況も、これで否応なく変化しよう。

レースなり
さてレース。2250m戦の発走地点は4コーナー、1250m戦のそれと同じ。馬場をまる2周と少し、ホームストレッチを3度通過する。
ゲートが開く。ユキノホマレはアオってちょっと出遅れ気味。後方からの競馬となるが、元来が追い込み馬、結局いつものポジション。さて前では、ホマレエリートが好発決めて、躊躇いなくハナに出てくる。外からネーチャーフレンドが続く、今日は好位からではなく先行策か。その外にフジナミスペシャルが並び掛けこれも先行態勢。内ではメガビソウも前に。グリンティアラ、ドリーミングらはこれに続く好位からの競馬。

ネーチャーフレンド&フジナミスペシャル(40KB)
最初の正面スタンド前、2番手内ネーチャー外フジナミ
フジナミの黄色ブリンカー、格好悪過ぎ

こんな隊形で最初の正面スタンド前から1、2コーナーを経て、向こう正面へ。先頭変わらずホマレエリート。差なく次列、ホマレの外にネーチャーフレンド、僅かに下がって外にフジナミスペシャルが併走3番手。ややあって内メガビソウ中ドリーミング外グリンティアラが同列で好位。ここで間隔が開いて、ヤマノダイオーとエリートカップが続く。ユキノホマレは更に数馬身離されたケツ二追走で、殿はそれが指定席のリーガルジョージ。隊列は縦長。
そして2度目の正面スタンド前。ホマレエリートが引き続き先頭で引っ張る。2、3馬身開いて次列も内ネーチャー外フジナミで変わらず。次いで内ドリーミング外ティアラ。ややあって内エリートカップ外ヤマノダイオー。ユキノホマレはヤマノの直後まで間合いを詰めた。メガビソウがユキノと同列まで下がっている。

2周目、正面スタンド前(33KB)
2周目の正面スタンド前
先頭快走ホマレエリート、ドリーミングは3列目のイン

レースは2周目の中盤を迎える。ホマレエリートはマイペースで快走する。離れずネーチャーとフジナミが追って一、二角を進行。そして注目はユキノホマレ。二角を回った時点では依然ヤマノの直後、中団の後詰めであったところ、バックに出て鞍上岡崎さんの手が動き始める。が、今日はここで行き脚が、爆発しない。まだえっちらおっちらといった感。
その頃フロントではホマレエリートが変わらず先頭、バック半ばを過ぎて、軽快にスタスタと。2番手も変わらずネーチャーフレンド、が、知らぬ間にフジナミスペシャルは脱落している。このあたり、大本命馬の進出の遅れに、先頭ホマレエリートの楽走も相まって、場内がいつになく騒然としてくる。
ホマレエリートが先頭で3コーナーを回る。ドリーミングが三角手前、内から自力で上昇して、2番手ネーチャーに急接近。そしてようやくのことで、ここにやって来たのはユキノホマレ。バック半ば過ぎでエンジン掛かって、三分三厘ブンッと一気。ネーチャーフレンドもドリーミングも呑み込んで、4コーナーでは遂にホマレエリートを射程圏に捉えた。
そして最後の直線勝負。ホマレエリートがインに入って粘る粘る。やがてユキノホマレと馬体が重なる態勢となるも、なかなかユキノを前に出させず大健闘。ワシの隣で「そのまま〜!そ・の・ま・まぁ〜!!」と絶叫するのは電設師。が、残り50あたり、ユキノホマレが外からジワリジワリと交わし去って勝負あり。最後は1馬身半の差をつけて、大本命人気に応えるVゴールとなった。鞍上岡崎さん、これが通算2500勝のメモリアル、ゴール板通過して、サッと左手が挙がった。

ユキノホマレ、ゴールへ(38KB)
ユキノホマレ、鬼脚で優勝強奪
そして岡崎すわん、2500勝達成!

2着はホマレエリート。ドリーミングはネーチャーフレンドは交わせたが3着まで、3馬身差。4着3/4馬身差でネーチャーフレンド。5着終い追い込んでリーガルジョージ、2馬身差。ヤマノダイオーは中団から好位ママで6着。エリートカップは比較的前半前の位置取りだったが結局7着。グリンティアラは2周目のバックで好位を脱落して8着。メガビソウは2周目早々に後退の9着。フジナミスペシャルは何と最下位。2周目のバックで逆噴射状態だったようだ。

口取り撮影後、今回もまた厩務員さんが、ユキノホマレをスタンドの我々の方に向けて、ポーズ付けて下さった。いつもアリガトウゴザイマス!そして表彰式の後、岡崎さんは通路で多くのお客さんに囲まれて、2500勝の祝福を受けていた。ワシもサイン書いて貰ってよかったワ。それにしても、ワシも含めたファンの声援や注文に、ニコニコと穏やかに応えてくれる岡崎さん、素敵だ・・・(ってオヤヂに書かれても嬉しくないだろうけど)

ユキノホマレと厩務員さん(36KB)
ユキノホマレと厩務員さん、口取り後にポーズ
こういう晴れやかな写真、撮る方も嬉しい

反省、そしておしまい
今回も伝統の二二五、古馬長丁場の力勝負を堪能できて、これはホンマに満足。まあ、馬券は外れて不満足なんだけど・・・
レースの流れは完全にホマレエリートのものだった。テンからすんなりハナを取って、競り掛ける相手もいない中、距離不安も何のその、マイペースで終いまで行き切った。野田クンの好判断・戦略も光ったし、競馬としては完璧だったと思う。
が、レース総体の流れもお構いなし、ユキノホマレが強引にレースを奪取してしまった。『福山エース』の樋本デスクが戦後HPで記したところによれば、レース前はやはり疲労が残っていたようで、調教の動きも今一つだったそうだ。実際、勝負所で仕掛けられてからの反応も遅かった。完勝ではなくむしろ辛勝の部類だろうが、エンジン掛かってからの破壊力はこの馬ならでわのもの。やっぱり強い。「佐賀の時も凄いと思ったけど、今日の方が何だか強いなあって感じた。」とはニーナさん。
ドリーミングは彼女なりによく走っているし、渡辺騎手も巧い乗り方をしているのだが。ユキノホマレに負けるのは致し方ないにしても、ホマレエリートにはちょっと戦略負けか。まあ、元々分が悪いのだが。ネーチャーフレンドに負けなかったのが、最低限の意地だろうか。
そのネーチャーフレンドは、またしても重賞の舞台でブタれた体裁。先行競馬だったがちょっと終いまで保たなかった。やはり戦前の危惧通り、長丁場よりは千八戦くらいがいいのかも。
リーガルジョージはまたもや掲示盤入り。毎度お馴染みのレース終盤だけの追い込み競馬。かつてのブラウンソプラノにキャラが被るが、あの馬程の迫力や個性・味は、まだないなあ。
それにしてもフジナミスペシャルが最下位とは・・・普通じゃあり得ない。「フジナミは体調や状態に不安を抱えていると見た方が自然。」と、以前おさるさんが言及されたが、ホントにそうだと思われる。

この日の『福山エース』の見出しに曰く、「独走乱舞岡崎ユキノホマレ もう敵はマリンレオしかいない」。
大きく出たものだと思うが、心意気は上々で、なかなか好ましい。「独走乱舞」とはいかなかったが、強引に勝てて、その強さの再確認にはなったと思う。そいうわけで、タマツバキ地元前哨戦としての意義は、充分あったろう。

さて、本番のタマツバキ、その"瀬戸内の鬼脚"、炸裂に、期待大――

2003.4.27 記

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