第30回アラブカップ観戦報告

 2003.5.2、名古屋、1800m

はじめに
名古屋競馬、春の3歳重賞、アラブカップ。近3年はゴールデンウイーク中盤の平日、5月1日に施行されている。東海グレードはSPII。このレース、当地最大の3歳重賞、アラブ王冠(SPI)のトライアルと銘打たれているのだが、「2ヶ月以上先のレースのトライアルなんて名乗るなよお(今年のアラブ王冠は7月23日施行予定)。」とは、"東海の好漢"おーたさんならずとも思うところ。まあ、この間当地に3歳重賞が存在しないのでしょうがないか。
本来ならば、5月21日に笠松で施行予定のSPI重賞、アラブダービーの前哨戦たるところなのだが、今年はその施行自体が危ういとあって(笠松所属の現3歳世代が僅かという現状のもと、2歳重賞ジュニアグローリとジュニアキング、3歳重賞オグリオー記念が中止の憂き目に遭っている)、そう明確に位置づけられない現状が、アラブ者にとってはツラい。
というわけで、東海3歳二大レースの前説たる、ちょっと地味な印象のレースではある。が、前々年の勝者エムエスファントムはこの次走アラブダービーを制し、前年の勝者キソノコウリューウも後にアラブ王冠勝利、と、存在の意義は少なくないようである。殊に前年のレースは、当初「大したレベルの面子でのレースではない」と見なされていたところ、勝ったキソノと2着アイシスエールが、長じて共に名古屋古馬オープン界の主力にまで成長・出世するに至り、今や再評価される一戦となっている。実際、直線2頭の叩き合いは好勝負だったようだ。

出走メンバーについて
さて、今年の出走馬は内枠より以下のフルゲート12頭。()内は騎手、性、斤量。
ジーエスリーダー(吉田稔、牡、55k)、ジーエストルネード(柴田、牡、55k)、ヤマノユーノス(東川、牡、55k、笠松)、ナルコ(河端、牝、53k)、センターロイヤル(深見、牝、53k)、ランガーヒロタケ(宮下瞳、牝、53k)、エムエスオーカン(岡部、牡、55k)、ブラウンブルドン(宇都、牡、55k)、ニッポンゴールド(兒島、牡、55k)、オダノコマチ(竹下、牝、53k)、キジョージャンボ(丸野、牡、55k)、バンナチック(戸部、牝、53k)
負担重量は牡馬55k牝馬53kの馬齢定量戦。牡馬7頭牝馬5頭。
SPII重賞ながら、笠松から参戦のヤマノユーノスを加え、東海3歳上位が顔を揃えた、楽しみな一戦となった。

当日の概況
午前中で仕事を切り上げて、土古へ。前週のクリスタルカップ時と同様、13時新大阪発のこだまに飛び乗っての名古屋行きで、競馬場には3時前に到着。
この週は半ばから好天続きで、そのまま週末、すなわちGW後半に突入した。というわけで天気晴れ、すっかり初夏の陽気で暑いほど。風は強く涼しいので、それに当たっている分には心地よい。
馬場状態は良。前日がダート統一GIII競走かきつばた記念だったからか、砂が綺麗に均され入っていて、その白さが眩しい。前週と同様、引き続きインコースの馬場が軽いようだ。

パドックから発走まで
アラブカップは12レース施行のうちで第11競走、15時50分発走。一息ついている内にパドックタイムとなる。隣でデジカメ構えるのは、"神出鬼没"さまにべっぴんさん(何故か今日もここにいる)である。
1番ジーエスリーダー。11戦4勝2着2回。首を上下させて、キビキビとした周回。踏み込みも大きい。前走前々開催の3歳1組戦3着。
2番ジーエストルネード。16戦2勝2着2回。ちょっと煩めな気配。毛あしは長い。前走前開催の3歳1組戦7着。
3番ヤマノユーノス。12戦6勝2着5回。唯一連対を外したのは昨年末の福山全日本2歳アラブ優駿5着で、地元東海では完全連対中。脚長スリムでケツの小さい、ニホンカイユーノス産駒らしい体型だが、腹回りはぽわんとやや太め。二人曳きのところ鶴首になって、チャカチャカ煩めに周回するのは、「やる気無い周回」が個性であるユーノス産駒にしては珍しい。後半はどうにかこうにか少し落ち着いたか。踏み込みは浅め。前走笠松のA7組戦1着。
4番ナルコ。あのタッチアップの初年度産駒。11戦7勝3着4回。ゆったりと、かつスラリとしたフォルムで、筋肉の締まりもよく、明るい栗毛の艶も上々。柔らかく伸びやかな前捌きで、トモの送りも柔らかい。落ち着いている。前走A6組戦3着だが、5走前から前々走まで4連勝。最も出世している1頭である。
5番センターロイヤル。22戦5勝2着6回。道営デビューで、彼の地の2歳重賞鳳凰賞とジュニアチャンピオンを共に6着。当地転入後は7戦4勝2着2回で、一躍有力どころに食い込んだ。厩務員さんに頭を預けつつ、終始小走りでチャカチャカと煩い気配。明るい栗毛ながら毛艶はソコソコ。ホーエイヒロボーイ産駒というのが信じ難いほど幅のない薄い体型。鳳凰賞時もこんなこんな感じだったが、正直パドックでの印象は悪い。前走前開催のA6組戦で勝利。見事な逃げ切りだったが、差しも出来る。
6番ランガーヒロタケ。16戦2勝2着2回。首は高めだが、スッキリスリムな馬体で、黒鹿毛の毛艶は上々。前走前々開催の3歳1組戦5着。
7番エムエスオーカン。11戦4勝2着5回。首を下げて、悠々のんびり歩いている。腹回りはかなり重く映る。馬体重474kに増して立派。前走前開催の3歳1組戦で勝利。
8番あのブラウンダンディの全弟ブラウンブルドン。15戦10勝3着3回。2歳重賞フェニックス賞の勝ち馬でもあり、現在最もクラス上位。体高ありそうで、立派な胸前と胴回り。496kの目方通り雄大な馬格で、兄に似ている。トモのボリュームは普通で、首差しは兄より細いが、この年頃の兄の姿よりは、格段に見栄えがする(その頃の兄は骨太なだけで実入りもまだまだだった)。前走前開催のA5組戦で勝利。
9番ニッポンゴールド。17戦1勝2着2回。キビキビとした歩様だが、毛艶は冴えず、コロンとした胴の小柄な体型。前走前開催の3歳1組戦6着。
10番オダノコマチ。15戦2勝2着3回。フェニックス賞2着。'94年の全日本アラブクイーンカップを制したマキシムオージョの娘。冬毛が出ている。キビキビとはしているが、せわしなく細かい動きをする。歩幅も浅い。前走前開催の3歳1組戦5着。
11番キジョージャンボ。8戦2勝2着4回。グイッと首を下げての周回で、いい感じに気合いが入っている。毛艶はソコソコだが胴は実入りに富んでいて、504kの馬格も相まって、堂々としているように見える。前走前々開催の3歳1組戦を勝ってここに臨む。
12番バンナチック。17戦2勝2着4回。昨年末、宮下瞳騎手鞍上で全日本2歳アラブ優駿に挑んだ(結果9着だったが)馬。馬体重502k。やっぱりデカい。が、それでも2歳アラブ優駿時よりは締まったような気がする。張りと毛艶は上々。前走前開催の3歳1組戦2着。

本馬場入場から返し馬。ジーエストルネードは入場口から一角方向に直行。他は流儀に倣ってホーム半ばあたりまで歩を進め、反転、駆け出す。殆どの馬が三角まで走ってそのまま待機所に入ってしまう中、ヤマノユーノス1頭が、再度ホームストレッチを流して行く。シャープなキャンター。

ナルコ(36KB)
ナルコ、返し馬
好仕上げ目立つ栗毛馬

東海の3歳戦線においては、これが初の千八戦。距離を気にしてかペースはスローになり、掛かる馬続出でレースが流れつつも、結局先行有利となるのが、例年の傾向のよう(これはおーたさんの御指摘)。加えて今年は、ジュニアキングとオグリオー記念が中止だったため、殆どの馬の経験距離は千四までで、マイル戦を走る機会すらないまま、このレースを迎えてしまった。その中にあって、ヤマノユーノスとバンナチックは福山の全日本でマイルを走っており、センターロイヤルには道営時代に千八戦1度(ジュニアチャンピオン)と千七戦2度の経験がある。これは特記すべきところ。
センターロイヤルは、上記の通りの千八経験もあって、事前には中心視していたところ、感心しないパドック気配とあって、ボックス買いの1頭に格下げ。「気配煩いっていったら、ヤマノユーノスもたいがいだったよね。尤もこの馬の場合は、(先行有利の中)後ろから行って間に合わないって危険性があるよね。」とはおーたさん。「要は4頭(ヤマノ、ナルコ、センター、ブラウン)の競馬でしょ。ワタシはこの中じゃナルコが一番だと思うけど。」とは関万さん。「ワタシもナルコが中心。」とおーたさんも。確かにパドック気配は好印象。
ゴール前で返し馬の写真撮っていると、ゴールドレットさん(今日は茶髪が妙に目を惹く)が声を掛けて下さる。「ブラウンブルドン、今まで前走る馬は全部掃除してきてるし、今日もその力あると思うんだけど、この馬道中掛かって行くから、後ろからの馬にやられずに済むかどうかが鍵だ。今日は距離延びるから、また掛かるだろうな。」と。
というわけで、ワシも関万さんの挙げた4頭を買う。ただし弱気にボックスで。ヤマノユーノスとブラウンブルドンに大物感を抱かされるのだが、「ワシは東海に疎い。」との自意識もあって、「えいやっ!」と一点買い出来ぬところが意気地ない。

レースなり
さてレース。前述の通り距離は1800m、クリスタルカップと同じ。スタート地点は向こう正面半ば手前。
ゲートが開く。中でガクンッとけっ躓いてしまったのがセンターロイヤル。これで後手踏み。対照的に好発決めたのが最内ジーエスリーダーと大外バンナチック。このうちハナを奪ったのはジーエスリーダーの方。鞍上リーディング吉田稔に押されて押されて。ヤマノユーノスが東川騎手に手綱しごかれて果敢に前へ。ジーエスリーダーの外で2番手を獲り切った。押されてナルコも前に、ブラウンブルドンはすんなり先行態勢だが、それぞれヤマノの外で3番手4番手。バンナチックはこれら内の動向を見つつ4番手、さらに控えた。エムエスオーカンは好発から徐々に下げて好位まで。センターロイヤルは好位までリカバーするも、掛かってしまっている。
正面スタンド前。4コーナーまで割とあった前後間隔がスッと詰まる。先頭引き続きジーエスリーダー。1馬身ちょっとの差で2番手変わらずヤマノユーノスがピッタリ。半馬身外目にナルコが付けて、ブラウンブルドンはその外1馬身差で陣取る。意外にも折り合えているような。同列インにセンターロイヤルがまだ掛かって。差ない次列内にエムエスオーカン、同列ブラウンの外にバンナチック。この間にキジョージャンボが続き、ジーエストルネード、ランガーヒロタケは内から、オダノコマチは中から、ニッポンゴールドは外から追走。

1周目(34KB)
1周目正面スタンド前
先頭ジーエスリーダー2番手ヤマノ、直後外にナルコ、ブルドン

1コーナー、前後間隔がさらにギュッと詰まる。ゴール板前あたりから、ヤマノユーノスがジーエスリーダーの外に馬体を併せ、これを抜いてしまいそうになるが、一角コーナリングで、リーダーが再度前に出る。
向こう正面。先頭インベタでジーエスリーダーだが、既に馬場中程のラインに、内からヤマノユーノス、ナルコ、ブラウンブルドンの順で、3頭フロント同列となっている。
そしてバック半ば、ジーエスリーダーが降参して後退するところ、ヤマノユーノスがスパート開始。敢然と先頭に立つ。これに併せてナルコとブルドンも発進。3頭加速しつつ3コーナーを回る。が、程なく内のナルコは遅れた。東川騎手に叱咤されつつ逃げるヤマノユーノス、この外に絶好の手応えで迫るブラウンブルドン。後続を引き離して4コーナーへ。後方では、バックの時点で好位併走だったセンターロイヤルとエムエスオーカンが、それぞれナルコの内外から押し上げる。
四角周回、東川騎手の左鞭も飛んで必死に逃げるヤマノユーノス、その外へ、宇都騎手の手綱ガッチリのままブラウンブルドンが馬体を併せる。勝負は完全に2頭に絞られて、迎えた最後の直線。取り付いた余勢を駆って、程なくブラウンブルドンがスッと、首くらいは前に出る。しかしこれで降参しないヤマノユーノス。馬体を並べて、両者ビッチビチに叩き合う。そして残り100から50あたり、内のヤマノユーノスがウッ!と差し返す。が、それでも譲らぬブラウンブルドン。両頭もつれ合って、ゴール板を駆け抜けた。

ヤマノユーノスvsブラウンブルドン(42KB)
ゴール寸前、内ヤマノユーノス外ブラウンブルドンの死闘
結果内ヤマノユーノスかクビ差V

結果、クビ差ヤマノユーノスが先んじ勝利をもぎ取った。2着ブラウンブルドン。
リアルタイムでは、直線半ばの様子を観てワシ、「あ、ブルドン勝つわ。」と思い、カメラのピント、ブラウンブルドンに向けたくらいで。ところがゴールが直前になって、「えっ!?ヤマノ差し返してるの!?」と気付き、慌てて被写体ヤマノに切り替えたという、これが。しかもリプレイ見直すと、ブルドンが一旦前に出て、ヤマノが半馬身弱差し返して、そこからブルドンがもう一丁根性見せて追いすがっているじゃないか。ホンマに火の出るような叩き合い、素晴らしかったぞ!

さてその後ろ。エムエスオーカンが四角までに3番手に上がって3着、しかし前とは7馬身差。ナルコが何とか持ちこたえて1馬身差の4着。バックではエムエスとセンターの後ろにいたキジョージャンボが差し込んでクビ差5着。センターロイヤルは終い1馬身半これに差されて6着に落ちた。7着オダノコマチは9馬身離されていた。以下割愛。ゴール写真撮り終えて、カメラの構えを解いた時点で、下位の各馬がまだゴールに辿り着いておらず、続々と通り過ぎて行った。

レース終わって
SPII競走なので優勝レイこそないが、口取り撮影と表彰式はある。ということでウィナに登場したヤマノユーノスだったが、撮影もソコソコに、とっとと退場させられていた。「やっぱり煩いよなあ、暴れられたらコトだからかな。」とおーたさんと。
勝利騎手インタビューにて、東川騎手、「強かったですね。」の問いに、「2回目(の同馬騎乗)なのでよくわからなかったが・・・」と返しつつも、「2番手絶好位でしたね。」の振りには、「巧く乗れたと思う。」と答えていた。そして表彰式後、多くのお客さんのサイン攻め握手攻めに、ニコニコと丁寧に応対していた。イイ感じだったぞ。

ヤマノユーノス、お見事。「ヤマノユーノスが2番手からの競馬なんて、そんなの聞いてないよぉ。」と、戦後おーたさんが漏らしたが、これはホンマに意外。たとえ距離延長が良さそうだと、また道中スローで追走は楽と予想されたとしても、意外。結果これが吉と出ての勝利。「道中オカマ掘られそうになったけど、よく辛抱したな。」「ジーエスリーダーが途中までハナで踏ん張ってくれたのも助かったでしょう。」と、ゴールドレットさんと振り返った(このやり取りの下地には「押し出されてハナ切らされるのは危険」との基本見解がある)。やっぱり距離延びて本領発揮してきた感。それにしても最後の根性は大したものだ。
ブラウンブルドンは惜しかった。道中思ったより折り合えていて、後半の手応えも抜群だったので、距離延長の不安は感じられなかった。悔しい負けではあるが、リベンジの余地は充分ありそう。あの兄の歩みを思うにつけ、伸びしろはまだまだありそう。「でも今の時点で兄と同じくらい見栄えするってのは、早熟なんじゃないの?」と、後日"同志"ディープさんが突っ込んだが、「そんなことにゃーで。」と反駁し得る活躍を、今後期待。
エムエスオーカンは巧い差し競馬。元来先行馬だったところ前走差して1着の結果から、「末脚活かす競馬すれば楽しみ。」と『競馬エース』にコメント載っていたのだが、その通りの競馬で好走した。『競馬エース』といえば、当日紙上で、「このレース、過去4年連続カヅミネオン産駒が連対中。今回該当するのはこの馬のみ。」と、妙な言及されていた。カヅミネオン産駒といえば、3歳途中からでも、軌道に乗ればかなり強くなる傾向がある。この3着が躍進の端緒となるならば、今後ちょっと面白いかも。
ナルコは先団好位置キープで進めたが後半遅れてしまった。「距離が長かったか。」との声は戦後聞かれた。テンにもう少し好ダッシュだったらとの悔いはあるかも。
テンといえばセンターロイヤル。完全にペースが狂った。すんなり発馬だったらどうだったか?後悔先に立たずではあるが。脚質といい地力といい、結局よく判らぬ。

まあ、総括して言えることは、二強 − それに次ぐ有力どころ − その他、この三者の力関係が、そのまま着差になって現れたかなあ、ということだろう。7馬身差は、小さくないのでは?加えて勝ちタイム1分59秒4は、このレースが千八戦となって以後6年の中で最速。『競馬エース』も推定タイムを、重馬場でも2分ジャストに設定しており、かなり優秀な時計のようだ。

おしまい
というわけで、トライアルとしては申し分のない好レースだったのだ。さあ、お膳立ては整った。だからお願い。ホンマにお願い。
「アラブダービー、やってくれぇ〜!!」。
熱気冷めやらぬうちに、東海3歳決戦、味わいたいじゃないか!

と切望しつつおったところ、奇跡的にも、アラブダービー、施行決定なり。
「よっしゃ!」←行くぞ笠松――

2003.5.19 記

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