第36回黒百合賞スポーツニッポン杯観戦報告
2003.5.4、金沢、2000m
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はじめに、そして出走馬について〜金沢アラブ界の現実・・・
金沢競馬のゴールデンウィーク、アラブ競馬の目玉は黒百合賞。4月のシーズン開幕から数えて3開催目にして、古馬オープンの有力どころが今季初めて迎える重賞舞台である。昨年までは開幕開催に、A2重賞の菊桜特別が存在したのだが、今年はそれが廃止されてしまったので、この黒百合賞が、今季の金沢アラブ重賞における正真正銘第一弾である。
その出走メンバーは内枠より以下のフルゲート12頭。()内は騎手、性齢、斤量。別定重量戦。
ホワイトルビー(端、牝5、52k)、コーワゴールド(蔵重、牡5、54k)、サクセスフレンド(中川、牡5、56k)、ダイリンフラワ(吉原、牝5、53k)、ショウリノサクセス(桑野、牡5、54k)、ロックウイット(長嶋、牡5、54k)、エステイヒーロー(山中、牡6、55k)、スマノレイズ(米倉、牝6、52k)、キミノミネフジ(古性、牡7、55k)、チャンピオンマサル(藤川、牡4、54k)、ハヤキタスキー(平瀬、牡5、54k)、チタイチホープ(大枝、牝7、52k)
現在の金沢アラブ界といえば、"絶対女帝"スーパーベルガーと、楠賞馬チョウヨームサシ、この2頭に尽きるのだが・・・
スーパーベルガーは昨シーズン終了後の冬場も笠松に出稼ぎし、彼の地で2戦2勝するも、今季は開幕から姿を見せていない。2月21日笠松の準重賞、桃花特別ハナ差辛勝が最近走である。
チョウヨームサシは冬季休催の間お休みで、今季開幕から始動。が、A1で2走するも前々開催6着、前開催はよもやの最下位12着敗退。詳細は判らぬが何か問題でもあったのか、今回その姿はない。
このスター2頭を欠き、加えてサンエスジュニアも不出走(今季A1で1着5着と好調なところ何故か回避)の結果がこの面々。「ここまでメンバーしょぼいのか!」と、ちょっと愕然となる。
半年前の感覚からすれば、バリバリの重賞級と見なすに足るのは、サクセスフレンドとエステイヒーロー、おマケしてダイリンフラワくらいで、大半がA1半に至るかどうかといった印象の連中。A級名乗ることすら憚られるものの、無理から動員されたような馬も見受けられる。
この背景には、金沢のアラブ競馬が漸次縮小傾向にあり、所属馬もかなり減っているという現状が間違いなくあろう。加えて、数年前に目立った、アラブ競馬を廃止・縮小した東日本他地区からの強豪の転入も、一昨年のホーエチャンピオンが最後で、既に底をついた。
尤もこの状況、スーパーベルガーの超絶なる活躍(黒百合賞、農協牛乳杯、中京スポーツ賞、石川テレビ杯、北國アラブチャンピオンと、地元古馬重賞総舐め)、その華々しさの裏で、昨年1年確実に進捗していたもの。今回彼女の不在で、今さらながら表面化し、再認識させられたわけだ。
さりながら、この絶対的トップの不在は、今回出走の面々その陣営にとっては、自身がタイトル奪取する絶好機である。ここにおいて「このチャンス、誰がモノのするのか?」というあたりが、自然と興味の中心となるわけだ。「まあこれはこれでいいでしょう。先代王者に古豪、新鋭、その他大勢・・・金沢アラブ界の現状支える連中、観てみようじゃないの。」。
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当日の概況
前々日の金曜日に名古屋のアラブカップ観戦した後は、名古屋近郊の実家に帰って2泊。昨年同様当日実家から金沢を目指す。岐阜から朝一番の特急しらさぎ1号に乗車して。3月15日のダイヤ改正で導入された、サンダーバードと同形式の新車両。米原駅での方向転換に伴うシート転換は面倒臭いが、快適さではトップクラスのこの車両、金沢まで楽ちん旅である。北陸路の緩い曲線を、高速で疾走する感覚も心地よい。
金沢には10:45分着。ファンバスもすぐやって来て、競馬場には11時半前に入場。
到着時の天気は薄曇りだったが、午後になるとその薄雲がどんどん流されて、スカッと晴れ渡る。関西や名古屋はこの週末かなり気温が上がっているが、さすがに北陸、思ったほど暑くはなく、気持ちのよい涼しさである。日陰は心持ち肌寒いほど。
馬場状態は良。砂は充分入っているようだ。レースの展開としては、中団以下の各馬が早めに上昇するも、結局好位より前で進めた人気馬が上位入線する傾向が強いような。行った行ったのレースはひと鞍。概して本命サイドで馬券は堅め。
黒百合賞以外は全てサラのレースなので、折角正午前に入場するも、非常に暇。早々に寿司食って、内馬場の公園にまで足を延ばしたりして過ごす。午後になって、"同志"ディープさんが登場。「遅いお越しで。来ないかと思った。」と振ると、曰く「だってサラのレースばっかりやん。」と。暫くするとゴール前に見覚えのある銀箱が出現。持ち主は思った通り環さん。お友達2人と一緒にクルマで来場されていた。「結局、いかにも黒百合賞なメンツだな(何やそれ)。」と思うところだ。
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パドックから発走まで
この日は12レース施行で黒百合賞は第11競走。発走時間が16時5分と遅い。3時半過ぎて、ようやくメインレースのパドックタイムとなる。
1番ホワイトルビー。かなり黒くて汚い灰色まだら芦毛の、いかにもイムラッド産駒らしい馬。キビキビとした身のこなしだが、歩様は硬く踏み込みも浅い。前々開催はA2戦で勝利するも前開催A1戦10着。今回重賞初挑戦。
2番コーワゴールド。首を上下させてキビキビと。大股だがトモの出が遅いような。毛あしは若干長めで艶はソコソコ。スラリとした体型で伸びやかではある。特筆すべきは馬体ではなくて被ったメンコ。黒地で額に金文字、それも躍動感ある筆文字書体で「黄金」ときたもんだ。「
エバラのタレやがな!
」。実際はちょっと違うのだけれど。冬場は笠松に出稼ぎしてオープンで4着5着9着。前々開催と前開催は共にA1で3着1着。これがA1戦初勝利。
3番がサクセスフレンド。若干胴は太い感じだが、張りに富んだ馬体で皮膚も薄そう。うっすら発汗。昨年は開幕以後6月末まで馬体が絞れず、戦績も振るわなかったが、今年は既に現時点で充分スカッとした出来になっている。大外を気っぷよく回っていて、身のこなしも好感。「サクセス、エエやん。」とディープさんも環ちゃんも。前々開催と前開催は共にA1で2着3着。馬体と同様成績も開幕からまずまず。
4番ダイリンフラワ。胴回りがやたら太い。以前はこんなフォルムではなかったのでは?周回気配も3歳時に比して、全く大人しくなっている。踏み込みは浅く、歩様は硬い。3歳時の中盤、農協牛乳杯に中京スポーツ賞と古馬重賞を連取した勢いも程なくパタと鈍り、昨年は休みも多く戦績も物足りなかった。が、今季はA1で5着2着、再浮上の感あろうか。
5番ショウリノサクセス。ボテボテコロコロの腹回り。のんびりとした周回だが、トモの送りが歩みについてこない感じ。前々開催と前開催は共にA2で3着1着。
6番ロックウイット。トモの力感に欠けるからか、それとの対比で胴が太く映る。5号馬程ではないが。毛艶は冴えない。踏み込みはあるが。今季は前開催から始動してA1戦9着。
7番がエステイヒーロー。一昨年の同レース勝ち馬で、昨年の2着馬。その昨年は、捲り一発押し切ろうとしたところ、スーパーベルガーにゴール寸前捉えられての惜敗。図らずも、女帝君臨の大きなきっかけを作ってしまった。この馬、いつも見栄え悪くて、冴えぬ毛艶にギスギスしたフォルム、硬い歩様、加えて煩い気配というのが常。ところが今日は、歩様は硬いものの歩幅は出ているし、毛艶もまずまず、比較的落ち着きもある。トモが小さいのは元来の体型だが、いい意味でスカッとシャープに出来ていて、意外にも格好いい。ワシとほぼ同じ回数同馬を目撃している環ちゃんも、感想同じのよう。今季は前開催から始動してA1戦4着。
8番スマノレイズ。小顔なのはスマノヒット産駒らしいが、その割には胴回りは厚い。ヒ腹は上がり気味。前々開催と前開催は共にA1で9着7着。
9番キミノミネフジ。胴長首長で肩の低い、ひと目で判るそのフォルム。首を上下させつつも、至極のんびり歩いている。毛艶と張りはソコソコのレベル。特段いいとも思われない。前々開催と前開催は共にA1で7着6着。加齢に連れどんどん追い込み脚質になっているのは、単に道中追走する脚が衰えているが故のような。
10番チャンピオンマサル。あのホーエチャンピオンの全弟。馬体重531kのデカ馬。兄と同様重厚だが兄より胴長。その胴回りは太過ぎか。トモの送りが遅れ気味。内々を回っている。前々開催A1戦10着、前開催A2戦7着。上山から昨夏の終わりに転入して、C2級からよく勝ち上がったのだが、現時点でA1重賞に当てるのは尚早だと思う。
11番ハヤキタスキー。外外をキビキビと回っているが、前肢後肢共歩様はギクシャクしている。毛艶は冴えない。やたらゴツゴツとしたフォルムで、滑らかさがまるでない。因みにマルゼンスキー産駒。前々開催と前開催は共にA1で8着11着。昨年もA2戦ならば充分格好がついていたが、A1となると苦戦気味だったようだ。
12番チタイチホープ。腹が下がった体型で、重々しい印象。その腹回りはちょっと冬毛気味。前々開催と前開催は共にA2で2着3着。
仕上げがそうなのか、パドック形状に帰因する観察のアングルが故か、どうも腹回りの重い馬が目立つ。その中にあって、コーワゴールドとエステイヒーローのシャープさは目立つ。サクセスフレンドの太さも、緩さではなく実入りよさに受け取れる。
本馬場入場から返し馬。入場行進の音楽が流れ出すのに先んじ、各馬とっとと登場。流儀に倣って外ラチ沿いに曳かれて。エステイヒーローは一角方向へずんずんと、ホーム中程あたりまで歩を進めて、最後に駆け出す。ここでワシ、山中騎手に「トシオーッ!」と声援一つ。当年53歳の大ベテラン(コテコテオヤヂ)騎手を、下の名で呼び捨てにして応援する客などそうはおらぬので、これは正直浮いた。
スタンド前を再度流したのはサクセスフレンドとショウリノサクセスのみで、他は順回りにコースを走って、そのまま4コーナー奥の待機所に直行してしまった。サクセスフレンドがダクでじっくり返し馬するのは常かと。
予想。実績馬にして重賞ホースのサクセスフレンドとエステイヒーローが、2頭揃って好印象とあっては、元来が保守的なワシであるので、必然的に馬券の中心はこれになる。2頭の馬複に、ダイリンフラワも少々加え、三角買い。そしてエステイ→サクセスの馬単を勝負馬券に。エステイをアタマにしたのは、サクセスがトップハンデ56kで、他馬より余計に背負っていることを考慮して。ディープさんも、「ここでサクセス1頭だけ56kってのは気になるわ。」と。環ちゃんもエステイ中心に、単勝まで買ったらしい。
前走のA1勝ちが効いてか、予想紙上ではコーワゴールドの評価が高い。鞍上蔵重騎手も好材料。ではあるが、ワシはエステイにちょっと絡めるに止めた。このあたりがワシのホンマに保守的なところ。反対にディープさんは「先物買い」結構するクチなので、これを大きく買ったようだ。「ふーん、買わんの?」と突っ込むので、「そりゃ前走勝ってるけどさ、東海グローリ(冬場に走った笠松のオープン)で4着5着にしか来れん馬が、ここで勝つかぁ?ビソウサウス産駒(超早熟の代名詞)が5歳にして躍進なんてのもウソ臭いし。」と返すワシであった。さてさて・・・
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レースなり
いよいよレース。距離は2000m。2コーナーを回り切って向こう正面に入ったところがスタート地点。陽も相当高くなった5月上旬といえども、時刻が4時を回ると、太陽はスタンドの向こうに傾いて、その影がコースを覆ってしまう。ゴール前の写真、大丈夫かいな?と心配される。
ショウリノサクセスがゲートを突き破ってしまう。150mくらいは走って、ぽてぽて戻って再入となるが、今度はなかなか入ろうとせず手間取る。サクセスフレンドもゲート入りを嫌う。
というわけで、数分時間をロスしてようやくゲートオープン。大外チタイチホープはアオってしまう。例によってサクセスフレンドが前に出て、すんなりハナ奪取。外からショウリノサクセスとロックウイット、チャンピオンマサルがこれに続く。三角を前に、これら4頭で先団が形成された。ここで隊列が切れて、ホワイトルビーとダイリンフラワが次列、直後にコーワゴールドとエステイヒーローが続く。
そして正面スタンド前。先頭引き続きサクセスフレンド、インコース走行。2馬身下がってショウリノサクセスが2番手。さらに3馬身程あって3番手ロックウイット、チャンピオンマサル4番手。ここまでは各馬縦列単走。ややあって、内ダイリンフラワ外エステイヒーローが併走で、直後次列にホワイトルビーとコーワゴールドが内外並んで続く。コーワの外にキミノミネフジが持ち出して並び、スマノレイズもそれを追う。ケツ二チタイチホープで殿がハヤキタスキー。
1周目のホームストレッチ、好位勢
5番手内ダイリン外エステイ、次列外がコーワ
1、2コーナー、サクセスフレンドが後続との差を4、5馬身までにスッと広げる。これ、好調時の彼の常套手段かと。
レースが動くのは向こう流し半ば。エステイヒーローが捲って仕掛ける。「よっしゃ行くか!」と思うところ、間髪入れず直後からコーワゴールドも一気に動く。内からダイリンフラワもこれに呼応する。この3頭の捲り比べ、先に動いたのはエステイながら、勢い優ったのはコーワゴールド。三角までにエステイを交わし去る。今日のエステイ、パキュン!と弾ける脚がない。程なくダイリンフラワにも抜かれてしまう。
ということで三分三厘、レースの中心はコーワゴールドに移った。この時点までに先団勢はあらかた陥落。前に残っているのはサクセスフレンドただ1頭。迫るコーワゴールド、4コーナー回るあたりでは、その差2、3馬身までに急接近。ダイリンフラワが三角あたりで内から外に切り替えて、コーワの外に追い付いてくる。そして四角、先頭争いに参戦。エステイヒーローは付いていけず万事休す。
迎えた最後の直線。勢いは完全に追う側、コーワとダイリンに分があるように見えたところ、サクセスフレンド、二の脚繰り出し粘る粘る。2馬身強の差を詰めさせない。こうなると一転「このままなんとちゃうか?」と思われてくる。が、残り100から50にかけて、コーワゴールドが蔵重jkに叱咤されてまたひと伸び。残り20を切ったくらいで、遂にサクセスと馬体が合う。必死に残すサクセスフレンド、しかしコーワゴールドも渾身の力振り絞り、ジリジリと前に出る。ということで、両者ドンピシャで馬体が顔面が並んだところがゴール、際どいっ!
残り僅か、粘るサクセスフレンド迫るコーワゴールド
サクセスは日向コーワは日陰、しかし結果は陰陽逆に
1、2着は当然写真判定。隣でカメラ構えていた環ちゃん、「うーん、サクセス・・・」とぽつり。が、結果は1着コーワゴールド、2着サクセスフレンド、ハナ差。
ダイリンフラワが3/4馬身差まで追いすがっていて3着。エステイヒーローは5馬身遅れて4着。5着アタマ差でロックウイット、これ、先行競馬で健闘。6着ハヤキタスキー7着スマノレイズ8着キミノミネフジは後半追い上げた連中。9着出負けから後方ママのチタイチホープ。10着チャンピオンマサル11着ホワイトルビー最下位ショウリノサクセスは前半先団もしくは好位から後退してこの結果。
コーワゴールド、口取りに向かう
「勝てば官軍」。額の「黄金」もイロモノじゃなくってしっくりと?
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反省、そしておしまい
コーワゴールド、強いじゃないか。バック捲りは当地のアラブ重賞ではよく見られる戦法だが、実にシャープに、見事にそれをやりおせた。サクセスフレンドが脚いろ鈍らせたというのもあろうが、終いもうひと脚、よく出たと思う。そして何より、またとないこのチャンス、ハナ差制した運の強さを強調したい。とまれこれが重賞初勝利。ワシの戦前の見込みは、完全に外れてしまったわけだ。
サクセスフレンドはホンマに惜しかった。この馬のレースとしてはほぼ理想通りだったのでは。中盤のちょい加速と終いの粘り腰は好調の証左、味のある逃げ馬なんだけどなあ。「斤量勝ち馬と2k差」は、負け惜しみになるので敢えて言うまいよ。
ダイリンフラワはまずまずだったと思う。3歳の最盛期ほど劇的ではないものの、この馬らしい捲り競馬だった。調子如何では、今後コーワゴールド負かせる余地は、充分あると思う。
エステイヒーローはイマイチだった。悔しいが上位3頭には完敗だ。前半好位前列のベストポジション、加えて充分折り合っているように見えただけに、「負けたなぁ。」という感が増幅される。
馬券は書くまでもなく、完敗。己が保守的資質で見事に負けた。
懐具合は赤信号点灯ながら、一応無事に、本日の競馬観戦、終了。スター2頭を欠きながらも、なかなかに白熱のレースとなってくれ、足を運んだ甲斐はあったかな。昨年のスーパーベルガーよろしく、今後コーワゴールドが突っ走り続けるっていうのは、全く想像しにくいけれども、まあ、オープンの面々一丸となって、勝ちつ勝たれつ、レベル上げていってくれれば何よりだと思うわ。
と結んだところで、これはこの次走の話。黒百合賞の僅か8日後、早くも次開催のオープン戦が行われて、結果サクセスフレンド1着コーワゴールド2着。両者同斤54k。やっぱり「勝ちつ勝たれつ」してるじゃん。
「フッ、ワタシのいない今のうちに、せいぜい勝ち星稼ぐがいいわ。」
って、結局こうやってオチつけてしまう、ワシ自身が一番、女帝陛下に呪縛されているわな。
2003.5.20 記
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