第39回兵庫大賞典観戦報告

 2003.5.5、園田、1870m

はじめにちょっと昔語りをば。
園田がアラブ専門競馬場たった時代、兵庫大賞典といえば、年末の園田金盃共々、古馬の頂上決戦であった。両レースとも距離は2300mの長丁場、ハンデは馬齢定量、誤魔化しきかない檜舞台。ハツタダイドウ、ビソウエルシド、インターロッキー、カミガモライデン、マルセンガバナー、サウンドランナー、セキメイヒット、ケイエスヨシゼン、ノースタイガー、勝ち馬には錚々たる面々がずらりと並び、それはそのまま、兵庫の名馬録である。「兵庫大賞典は園田の"春天"」、山根さんがしばしば持ち出すフレーズだが、まさにその通りの競走なのであった。
変化の生じたのは2000年のこと。この前年導入したサラの第一世代(2歳馬)が、翌年古馬となるのを踏まえて、「アラブ系で施行するのは今回最後となろう。であるならば出走馬多い方がよかろう。」と主催者が考慮したそうで、距離が1870mに短縮された。その見込みに反して、翌2001年も、アラブ系にての施行。それぞれトライバルサンダーとワシュウジョージが制し、強い馬がまずまず順当に勝つレースであることに変化はなかった。
そして昨年2002年、前年の園田金盃に続き、こちらもアラ・サラ混合重賞となった。

これは私事にして昨年のこと。
アラブの出走馬は2頭、サンバコールにクールテツオー。「気にはなるけど、ちょっと勝たれへんやろ。」との見込みのもと、ワシは同日施行の福山ダービーに出掛けて、現地観戦はパス。ところがその結果、サンバコールが十八番のバック捲り炸裂させての劇勝。その夜サンテレビのダイジェストでその模様観たワシも、これには感動。昨年のアラブ生活のうちで、「現地で見逃し、痛恨の大後悔レース」ナンバーワンとなった。

そして今年今回。
前年のこともあり、注目はサンバコールの動向。その後は6月12日のS1戦(1着)を使っただけで、長期休養に入っていたところ、今年はじめ「連覇に向けて復帰の予定」との情報が伝わってきた。これを踏まえて、実は2月20日の若駒賞の日、勝ったサンクリント(バコールと同厩にしてその全弟)の表彰式の後で、西村調教師に「サンバコールも期待してます!」と声掛けたところ、西村師、「(兵庫大賞典連覇)狙ってますから、期待して下さい!」と、にこやかにかつ力強く応えて下さったのだ。
その言葉通り、サンバコール、4月11日のS1戦(距離1700m)にて戦列復帰。ここはストロングゲイル先行押し切りの前に2着だったものの、緒戦としてはまずまず。こうなってくると、関心はサンバコールの出否ただ一つ。
昨年と同様この日は、福山ダービーと佐賀の九州アラブ王冠賞と開催が重複。心づもりは「サンバコール次第!出なけりゃ福山ダービー行き」。そして注目の枠順確定。「サンバコール、出ます!」。これにて5月5日、ワシの行き先は園田、兵庫大賞典なり。

ということで出走馬は内枠より以下の10頭。()内は騎手、性齢、斤量。
サンエムタイガー(宮西、牡7、55k)、カネツダンサー(有馬、牡5、56k)、クールテツオー(岩田、牡5、56k)、ロードバクシン(小牧太、牡5、56k)、シュンエイゼネラル(赤木、牡6、55k)、サンバコール(田中、牡8、55k)、ホクザンフィールド(平松、牡4、56k)、エイユータイヨウ(三野、牡4、56k)、ヒラカツアスカ(松平、牝5、54k)、エクスハリケーン(永島、牡6、55k)
馬名太字がアラブ。牡馬は4、5歳馬が56k、6歳以上は55kの馬齢定量戦。牝馬2k減

アラブ勢からは2頭。サンバコールともう1頭はクールテツオーである。昨年の兵庫大賞典、園田金盃に続き、3度目のアラ・サラ混合重賞登場となる。過去2度はいずれも4着。。昨年来兵庫アラブ古馬戦線を中心となって牽引している。今年3月の佐賀西日本アラブ大賞典にも挑戦した。ここは得手とは言い難い距離2400mの長丁場、加えて中盤同じ兵庫のミスターサックスと競り合ってしまい、終い止まっての4着敗退であった。これが前々走、前走3月28日のS1戦(距離1500m)はキッチリ勝ってここに挑む。この陣営の、大一番への出走意欲には、並々ならぬものがある。

昼過ぎから園田へ。好天だが気温が上がって、ムッとする暑さ。
馬場状態は良。かなり深めに砂が入っていて、バサバサに深い。散水車が水を撒くも、すぐに蒸発してしまう。このコンディション、アラブ陣営としては助かると思う。締まったスピード馬場、具体的には勝ち時計が2分フラットを切るような舞台では、サラには明らかに分が悪いと思われるので。

お知り合いの方々と談笑しつつ暇に過ごして、ようやくパドックタイムとなる。(観戦記のために)メモを取るべき対象が2頭だけなので楽である。
3番がクールテツオー。二人曳きで時に鶴首になりつつも、時にじんわりしつつ、まずまずの落ち着き。これは地元戦ではよく見られる姿で、遠征時に比して落ち着きはある。前の馬との間隔が開くのも然り。馬体重452kは前走比-8kだが、いつも馬体重の変動のあるクチでもあるし、値も特段問題はない。毛艶と実入りも上々、ガッチリしている。他馬と比べれば背が低く若干小柄に映る。
そして6番がサンバコール。馬体重515kは前走比+5kだが全く問題なし。じんわりゆったりとした気配で。皮膚が薄くて毛艶も素晴らしいの一言。背が高く雄大なルックス。とても8歳馬に見えない。肩の捌きはやや硬く、トモもギタバタしているが、大きく踏み込んでいる。元来身のこなしに柔らかさのある方ではないと思う。「うーんエエなあ。やっぱり買うべきやな。」とは隣の"リーダー"前田っちも。「サンバコール、いまだにトモの筋肉、縦に割れてるもんね。」とは環ちゃん。「昔はハラメも筋肉ビッチビチだったけどね。」と応じると、「でも3歳の頃って、もっと首高くて、トモのボリュームそれほどでもなかったよね。」と続けられた。

本馬場入場から返し馬。クールテツオーは例によって、一番最後に登場して、入場口から即左折で一角方向に直行。そのまま4コーナーの待機所に入ってしまう。サンバコールはこれもこの馬の常で、まる1周時間をかけてじっくりダク、再度正面スタンド前にやって来て、軽く流して行く。バコールに先んじて同様の所作を見せたのがサラの本命ホクザンフィールド、「サラのくせに随分堂々としてるじゃない。」と、ちらと思われたりして。

『キンキ』のシルシは、ズラリ本命が現トップの六甲盃馬ホクザンフィールド、ズラリ対抗が一昨年の兵庫サラ三冠馬ロードバクシン、サンバコールは2頭に次いで単穴マークの目立つ評価で、テツオーには△と×がソコソコ。
予想。当然ワシの中心はサンバコール。これを軸に、厚く買ったのはテツオーとホクザン。ロードもちょこっと。この馬複と、バコールアタマの馬単を。

さてレース。距離1870mのスタート地点は2コーナー。
ゲートが開く。好発目立ったのはロードバクシン。クールテツオーも内から二の脚使って前に、同様に最内サンエムタイガーも前に出て、結局これがハナに、テツオーはすんなり2番手。最初の3コーナーまでに、バクシンの外からシュンエイゼネラルが交わして3番手に、エイユータイヨウもバクシンを抜いていく。サンバコールはそれほどの出ではなかったが、ちょっと気合い入れられての序盤。ホクザンフィールドは好発から徐々に控えていく。
4コーナーまでに、テツオーとバクシンは控えて好位に落ち着いた感じ。そして正面スタンド前。先頭変わらずサンエムタイガー。2番手シュンエイゼネラル。3番手エイユータイヨウ。クールテツオーは2馬身ほど下がった4番手に。この直後外にロードバクシンが控えて、エクスハリケーンがテツオーのインに入る。ホクザンフィールドがバクシンの直後外に陣取る。次列インにカネツダンサーがいて、直後外、ホクザンを前に見る形でサンバコールが追走する。9番手ではあるが、隊列は比較的詰まっており、離されてはいない。最後方にヒラカツアスカ。

クールテツオー(43KB)
クールテツオー、好位内で進める
今日も素顔
サンバコール(38KB)
サンバコール、いつも通りに後方楽走
ゆったりいい感じ

しかし1、2コーナーあたりでは縦長に。前2頭、サンエムとシュンエイが後ろを5馬身くらい引き離す。3番手エイユーで、クールテツオーはこれに続く4番手。以下はさらに離れている。
勝負が動いたのは2度目のバック、その半ば手前。ホクザンフィールドが動く。一気に前の好位勢に取り付いて、ロードバクシン、クールテツオーを並ぶ間もなく交わしていく。そして三角手前、前の3頭も呑み込んで、敢然と先頭に立つ。
そしてそしてサンバコール、このホクザンの始動を見たか、これも発進。リアルタイムでは仕掛けのタイミングが、ホクザンからちょっと遅れたようにも感じられたのだが、リプレイ見直すと、それはほぼ同じ。始動の時点でホクザンとの差は3馬身くらい。ホクザンを追っての上昇。向こう正面真ん中、ジャンボトロンの向こう、鞍上田中の鞭が入ると、捲り脚がドバッと爆発。バクシンやテツオーを瞬く間に抜き去って、折しもホクザンフィードが先頭に立ちつつあるあたり、外からその直後に、ズトン!とばかりやって来る。
三角回って三分三厘、バックでの脚勢維持したまま、ホクザンフィールドとサンバコールが、他馬とは桁違いの勢いで突っ走って、一騎打ちの様相を呈してくる。先んじるホクザン、外から追うバコール、その差半馬身。何とかして捲り切らんとするサンバコール。吉田アナの実況のトーンも跳ね上がり、場内もその迫力に騒然としてくる。ワシ、この時点から「マナブぅ!交わせぇ!」と絶叫。後続ではテツオーが3番手になって、バクシンは反応イマイチで4番手。
しかし4コーナー。バコールの猛追を持ちこたえたホクザンフィールド、鞍上平松っちゃんに右鞭貰って、迎えた直線、もうひと伸び。サンバコールはマナブが手綱しごいて、何とか盛り返してもうひと爆発狙うも、四角周回で捲り脚切れて、直線スッとホクザンに離されてしまう。ホクザンの脚は確か。「アカン、負けるぅ。せめて2着を!」と祈りつつも、残り100を切って、外からロードバクシンが差し込んできて、残り50、一杯気味のサンバコール、無情にもこれに交わされて万事休す。
結果、バクシンはゴール前ホクザンを追い詰めるも、ホクザンフィールドが3/4馬身押切って1着。2着ロードバクシン。サンバコールは2馬身差の3着。クールテルオーが、直線インコースを差し込んで、半ばまでにサンバコールに詰め寄るも、直後バクシンに抜かれて4着であった。

バクシンに抜かれるバコールとテツオー(50KB)
残り50を切って。無念!バコール、バクシンにも交わされる
インにテツオーも来てはいるが4着ぅ

うーん。アラブ者にとっては、悔しい結果になってしまった。が、勝ったホクザンフィールド、これは強かったと素直に認める。二角での始動から残り800m、脚勢落ちずに一気に駆け抜けたのだから。「やっぱりあの馬、いい馬だわ。播磨賞で負けたのはまあ輸送不安出たってことで。」とは戦後栃さんが漏らしたところ。
サンバコール、無念!3コーナーでの脚勢はホクザンに優ったように見えたのだが、あそこで持ちこたえられてしまったのが痛い。元来この馬、四角までの捲り脚はとんでもないのだが、捲り切った後もそのまま斬れ脚持続するわけではないからして。翌日のスポーツ紙に載った、マナブちんの戦後談にも「四角で息の入る間がなかった。」とあった。「二角で始動の時点で、その差がもう少し詰まっていたらなあ。」というのは、未練だな。
それにしてもロードバクシンに抜き返されたのが悔しい。対ロードバクシンに関しては、昨年のレースで3着に下してはいるものの、当時鞍上太さんが右肩の故障癒えぬところ、無理しての復帰騎乗で、終い殆ど馬を追えぬままでバクシンが負けたという側面がある。よって今年は「四の五の言わせぬ」完全勝利を希望していたので、一層悔しい。
そのロードバクシン、現在では相当ズブくなっているようで、三角前の勝負所で遅れたのもその故とのこと。この時点で、太さん、「ホクザンはともかく、バコールはああゆう脚質だから終いは何とか。」とばかり、最低2着の差し競馬に切り替えたのではと類推される。
尤も、サンバコールが、捲り切ってそこから再度抜いた馬に差し返されるというのは、もう一つのこの馬らしさでもある。むしろこのあたりにこそ、この馬のエトスがあるとも思われたりして。「楠賞ん時みたいだな。」と戦後ワシも口にしたが、それ然り、明け4歳の新春賞や兵庫大賞典も然り。いずれも強敵相手の晴れ舞台。
クールテツオーは健闘しているがなあ。最近ではホントに自在な道中進行になっているし、末脚もしっかりしていると思う。岩田騎手の騎乗には何らしくじりもないと思うし、能力は発揮していよう。が、昨年来、長丁場やスローペースでもない限り、ちょっと中盤から仕掛け所にかけて、ズブさが増してきているような。このあたりに、新春賞後から素顔でレースを走っている理由があるのかも。

実は今日走ったアラブの2頭、この時点で、5月25日の福山タマツバキ記念、その出走馬に選出されていた。そして無事に出走叶うよう。両頭とも、2度目の福山遠征となる。
クールテツオーにとっては、一昨年の全日本アラブグランプリ以来。この時は2250mの長丁場を逃げるも、自分のペースには持ち込めず、フジナミスペシャル、ユノワンサイドの地元2頭に抜かれての3着。今回は最も力の出せる1800m戦。先行するのか差しに回るのか、やはり戦法が気になるが、挑み甲斐のあるろころだろう。輸送での馬体減りと、テンション上がるのは課題。
そしてサンバコール。4歳(旧表記)秋の西日本アラブダービーを制してから、実に4年半ぶりの備後攻めとなる。歳月は経れども、当時と変わらぬ捲り脚引っ提げて、再び瀬戸内に、立つ。
そこで不動の本命として待ち受けるのは、日本最強マリンレオ。今回のレース後、栃さんらと「まあ今でもあの脚使えるんだからねえ、マリンレオどこまで追い詰められるか、楽しみではあるよ。」と語らったが、この対決、今年のタマツバキ、最大の見ものかも。

再び兵庫大賞典に戻って、最後に。
ホクザンフィールドの勝ちタイム、2分1秒1。やはりそれなりには掛かっている。「サンバコールで出せない時計じゃないだけに、惜しかったよなあ(この日のバコールは2分1秒5、コンマ4差)。」と、一層無念さが残る。馬券的には堅い結果。ワシは買っているわけもなく・・・
やっぱり悔しいわ。

2003.5.24 記

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