第33回アラブ王冠観戦報告
2003.7.23、名古屋、1900m
◆はじめに、そして出走メンバーについて
東海3歳二強にとって、揃って参戦した前月19日の楠賞は、痛いレースとなってしまった。
ヤマノユーノスは、2着入線スイグンの失格で繰り上がり3着。結果だけ見ればまずまずなれど、戦前の期待と人気(単勝2番人気)からすれば、それに充分応えたと見なすのは苦しい。解消されつつあった出遅れ癖を、肝心のこの舞台で再発させ、また道中の走りもヨレ気味と、レースぶりにも不満と課題が残った。
ブラウンブルドンに至っては、スイグンの進路妨害に遭って、落馬・競走中止と、完走すら出来ぬ不運。走りっぷりも相当引っ掛かったものであったし、こちらも走りの課題・不安を露呈させてしまった。
されど、両頭に好感抱いているワシであるので、レース終わって、今後の立て直しを期待しつつ、思ったことはこんな感じ。
メゲるな!ヤマノユーノス。泣くな!ブラウンブルドン。闘いはまだ終わらない――
というわけで、迎えた今回、地元3歳重賞アラブ王冠。二強が再び、相まみえる。
そのアラブ王冠、東海3歳重賞のうちでは笠松のアラブダービー共々、ただ2つの東海グレードSPI競走であり、まさに二大決戦のうちの一つである。東海の3歳戦線においては、秋に帝冠賞なる重賞(名古屋施行)が存在するのだが、これは春戦線で重賞獲れなかった面々による「敗者復活の残念重賞」といった趣が濃厚なレースのようで、このアラブ王冠そこが、クライマックスにして総決算であるようだ。例年6月から7月上旬に行われていたが、今年は時期が若干繰り下がって、7月23日施行となった。
出走メンバーは、前述の二強を含めて、内枠より以下のフルゲート12頭。()内は騎手、性、斤量。
スズヒロパワー(吉田稔、牡、55k)、カズミホワイト(兒島、牡、55k)、ヤマノユーノス(東川、牡、55k、笠松)、センターロイヤル(深見、牝、53k)、ブラウンブルドン(宇都、牡、55k)、タイコーヒロクイン(大畑、牝、53k)、オダノコマチ(上松瀬、牝、53k)、オーシャンユーノス(戸部、牡、55k)、スーパーエース(宮下瞳、牝、53k)、クルージング(竹下、牝、53k)、ナルコ(河端、牝、53k)、エムエスオーカン(岡部、牡、55k)
斤量は馬齢定量で牡馬55k牝馬53k。牡馬と牝馬が同数6頭ずつ登場。笠松からはヤマノユーノス1頭で、残る11頭は地元名古屋所属。
◆当日の概況
今年の梅雨は実に梅雨らしく、雨の日も雨量も多く、おまけに長い。7月下旬を迎えても、梅雨明け宣言の出る気配がない。レース当日も、東海以西の広い範囲に梅雨前線が架かって、関西は朝から完全なる雨。その中、昼前に職場を脱出して、新大阪から新幹線に乗って名古屋へ。競馬場には2時頃到着。そして現地も雨。比較的ひんやりとした雨で、蒸し暑くはない。
馬場状態は稍重で始まったようだが(1〜4レースまで)、到着時の状態は重(5レース以降)。この時点で既に、馬場表面にはかなり水が浮いていたのだが、8レースと9レースの間に雨足がより強まって、見る見るうちに更にぬかるんで、状態不良となった。ばっしゃばっしゃの泥田馬場である。
「この春以降、馬場の内が軽い状態が続いたままで、終いインコース有利だ。」とは、ゴールドレットさんの語るところ。加えて、「おまけに今日のような雨馬場だと、土古の競馬にしては珍しく、序盤中盤から前が飛ばして隊列がばらけるレースが多い。前が残れば行った行っただけれど、止まって差し馬が来る場面もあるよ。」と。
◆パドックから発走まで
結局雨の降りは9レース前のそれがピークで、小康状態保ったまま、メインレースの第10レース、アラブ王冠のパドックタイムとなる。屋根があるパドックの西辺に陣取っての観察。隣にはゴールドレットさん、そしてハートフルG2さんが。
1番スズヒロパワー。上山デビューで昨年末から当地所属。薄い栗毛の艶はまずまず。実入りはある。内々を歩いていたが後半かなり気合いが乗った。前走前開催のA6組戦7着。
2番カズミホワイト。470kの馬体重以上に大きく見える。外々を、大股に気っぷよく周回している。この踏み込みの大きさはやたら目立つ。前走前開催の3歳1組戦7着。
3番がヤマノユーノス。楠賞以来の実戦となる。実入りも馬体張りも何ら問題なく充分。腹袋に丸みのある体型のこの馬としては、今日は比較的スカッと胴長に見える。気合い乗りはのこの馬らしく相当なもの、周回を重ねるに連れどんどん激しくなってくる。小走り混じりの歩みなので、踏み込みの深浅は並。今回からブリンカーメンコはやめて、ただの白メンコに。シャープな小顔に白メンコ、似合っていると思う。
4番センターロイヤル。12号馬の後、出走馬のうち最後に入場。内で曳き綱持つ厩務員さんに頭を預けての周回、気配は相当煩めで落ち着かない。馬体重452kはこの馬の適正値だろうが、相変わらず馬体の輪郭は緩くて、シュッとした感じがしない。前走前開催のA4組戦2着だが、前々走ではA4組戦を勝っている。
5番がブラウンブルドン。ゆったりしつつ気っぷのよさもあって、雰囲気は相変わらずある。が、楠賞時と比して、筋肉がちょっと緩んで、馬体張りは落ちた。歩様も硬い。『競馬エース』紙も、「太め残りで夏負け気味、体調やや下降線で、追い切りからもそれが感じられる。」と。前々走が楠賞で、前走前開催のA2戦を差してジョニーダンサーの2着。落馬競走中止からすかさず盛り返した点は評価できよう。なお、これまで管理していた国光徹調教師が、7月16日に心不全で逝去されたとのこと。今回本名信行厩舎に所属替えとなって臨む。
6番タイコーヒロクイン。スタスタと歩くが歩様は硬め。毛艶はソコソコ。ちょっと背垂れ気味で腹がポコッとした体型。前走前開催の3歳1組戦9着、前々走は同条件で勝っている。
7番オダノコマチ。毛艶は並。トモの送りはぎこちない。全く平凡。前走前開催の3歳1組戦5着。2歳重賞フェニックス賞2着馬も、全く頭打ち気味。この2着が出来過ぎだったと思われても仕方ない。
8番オーシャンユーノス。脚長胴長なところはいかにもユーノス産駒らしいが、胴のフォルムはどっしり。同じ父の産駒であるヤマノユーノスより重量感あるルックスだが、実はヤマノより馬体重24kも軽い。肩より腰の方が高いような。ゆったりした周回だが、毛艶は冴えない。兵庫デビューで、彼の地では17戦1勝2着2回。前走前開催のA9組戦1着が当地緒戦。
9番スーパーエース。スタスタと歩いている。馬体張りはなかなかにあって、無駄肉が感じられない。前走前開催の3歳1組戦6着、前々走は3歳2組戦1着、2組と1組を行き来する現状のよう。
10番クルージング。昨年末12月30日と遅いデビューで、途中3ヶ月の休養もあり、通算6戦とキャリアは浅いが、4勝2着1回3着1回の好成績でここに間に合った、まさに新星。前走前開催の3歳1組戦勝利。というわけで注目の1頭なのだが、終始鶴首の姿勢でスチャスチャと小走り、相当煩い。背高スリムな体型で、牝馬にしても線はやや細い。ナイスフレンド産駒、ツキノフレンドやチーチーキングらと近いタイプか。
11番ナルコ。落ち着いて悠々と歩いている。ゆったりとして柔らかい身のこなしも好感。ただトモの出が、左より右の方が浅い。飼い葉食いが悪いのが難点だそうだが、強めの追い切りを控える代わりに日々の運動量を増やして、目方と状態を共に維持するよう、陣営は工夫しているようだ。前走前開催のA4戦6着は案外だったが、4走前のアラブダービー3着の後、3走前と前々走は、A6戦A5戦と連勝している。
12番エムエスオーカン。この馬はいつ見ても重心が低くて、馬体も重厚。ただ、胴回りはラインが下がって重過ぎかも。それくらい太い。ゆったりした身のこなしで雰囲気はあるが。4走前のアラブダービー4着の後、A8戦A7戦A5戦と3連勝、そのA5戦が前走前開催。さながらナルコを追い掛けての出世街道。
本馬場入場から返し馬。雨に濡れるとイヤなので、庇の下になるスタンドの上の方から、テレコン装着しての撮影である。全馬雨の中スタンド前を入場行進。ブラウンブルドンは早々に三角の待機所に入る。他の馬も駆け出してそのまま待機所に直行で、コースをまる1周して、再度スタンド前を流す馬はいない。ヤマノユーノスは四角からキャンターに下ろされると、かなり行きたがって強めの駆けり。オーシャンユーノスが続いて力強く。ナルコは伸びやかにスタスタと。エムエスオーカンもじんわり。最後にクルージングが、内ラチ沿いをダクで。そのフォームも首が高い。
予想。ここはヤマノユーノス鉄板。これを連単のアタマに据えて、考えるのはヒモの相手だけ。ブラウンブルドンは調子落ちとの報道に加えて、パドックでの見た目今一つ、正直大きく期待しにくいが、二強の一角である事実は重いし、地力で2着は充分取れようと思われ、まずは重く。そしてナルコとエムエスオーカン。特にナルコは、見た目好感ながら今回人気を相当落としているので、ちょっと期待して。複勝も買おうかと考えたが、結局、止めた。
クルージングの評価・人気が高い。「二強とは勝負付けが済んでしまっているナルコ以下を狙うよりは、二強とは今回初対戦のこれに期待した方が・・・」とのお客の発想は、容易に察しが付く。レットさんも「面白いのはクルージングだな。」と。しかしながらワシは、パドックでの印象がピンと来ず、申し訳程度に。
◆レースなり
さてレース。距離はアラブカップやアラブダービーの1800mから100m延びて1900m。これは名古屋杯と同一で、まさに"オトナの重賞ディスタンス"。スタート地点は2コーナーを回って向こう正面に出たところ。幸いにも、どうにかこうにか雨の降りがまばらになったので、傘差さずしてゴール前でカメラ構えることが叶った。
ゲートが開く。テンの出が最も目立ったのはタイコーヒロクインだが、格もあってかハナは獲り切れずフロントの一角に。最内のスズヒロパワーが、好発から二の脚使ってハナに出てくる。ヤマノユーノスもちゃんと出て、スズヒロに続きフロントにすんなりと。ブラウンブルドンも好発で、ヤマノの外直後に。クルージングも先団の一角に。エムエスオーカンも同様。ナルコはすかさず控えた感じ。ヤマノとブルドンの間で、センターロイヤルはアラブカップと同様立ち後れ、後方からの競馬を余儀なくされる。オーシャンユーノスは控えて最後方から。
最初の3コーナーを過ぎるあたりでは、インでスズヒロパワーが先頭。ヤマノユーノスがその外、若干掛かり気味に、半馬身直後の2番手。直後外にクルージングが続き、エムエスオーカンが控え気味に4番手。ブラウンブルドンは、ヤマノとクルージングの間で窮屈になったからか、若干下がった5番手。ここまでが先行勢。
そして正面スタンド前。先頭変わらずスズヒロパワー。2馬身ほどあって2番手にヤマノユーノスがガッチリと。まずまず折り合った。2、3馬身後方でクルージングが3番手。1馬身弱下がった後方インにブラウンブルドンがいて、その外半馬身差でエムエスオーカンが、掛かり気味にほぼ併走。ブルドンの直後にナルコが取り付く、これは折り合い充分。ややあってセンターロイヤルが追走。この内にタイコーヒロクインが。ここでやや切れて、内オダノコマチ外カズミホワイトで、直後内オーシャンユーノス外スーパーエースが最後列。
最初の正面スタンド前、先頭スズヒロ
ヤマノはガッチリ2番手。次列赤メンコがクルージング
一角周回の直後、好位大外のエムエスオーカンが、大きく外に跳ね気味に膨れる。リプレイ見直すと、直前内のクルージングが外に張って、その影響被ったよう。またクルージングも、直前のヤマノの口向きが外になった余波を受けた感じ。しかしながら、エムエスは何とか態勢立て直し追走を続け、クルージングは事も無げに位置キープ。
向こう正面に出る。中団の内、オダノコマチの上昇が一瞬目立つも、これは好位勢の直後に迫るのが精一杯。これを追ってオーシャンユーノスもじわじわと。一方先団では、スズヒロパワーがバック半ばまでハナを持ちこたえるも、やがてヤマノユーノスが、満を持して先頭に立つ。逃すまじとばかり、クルージングが外で食らい付く。次列にナルコが追走して、この外にはエムエスオーカン。先団と後方勢の中間位置から、センターロイヤルがやや位置を上げるも、前に追い付くには至らない。このあたりまでに、ブラウンブルドンの姿は、消えている。
三分三厘、先頭ヤマノユーノス。東川騎手の手綱捌き、余裕の押っつけから次第にアクションが大きくなってくる。が、追う2番手クルージング、竹下騎手の動きはもっと必死。何とか食い付いている。3番手ナルコは2、3馬身遅れて。エムエスオーカンはこのナルコにも付いていけない。5番手センターロイヤルだが、前との差は詰まっていない。
四角周回。ヤマノユーノス、満を持して、食い下がるクルージングをスッと引き離す。スパッと3馬身差を付けて、これで勝負あり。あとはゴールへ一目散に。万全を期してか、東川騎手、鞭を入れてヤマノを叱咤する。これで多少首を振って、やや気の悪いところを見せたヤマノだったが、程なくスピード乗って、最後は真っ直ぐしっかりと、決勝線を駆け抜けた。東川騎手、ゴール直後に、軽く拳を握って慎ましくアピール。
ヤマノユーノス、完勝のVゴール
シャープな小顔に白メンコが似合う。
四角2番手で回ったのはクルージング。ナルコはコーナリングで2馬身圏内まで詰め寄る。馬券の都合もあって、ワシ、「ナルコ、ナルコッ!」と、うわごとのようにブツブツ連呼。が、結局クルージング、しっかり走り切って2着、前とは4馬身差。ナルコは先に一杯いっぱいになってしまい、3馬身差の3着。
4着争いは何故か3頭一線。エムエスオーカンが、どうにかこうにか位置キープというところ、センターロイヤルがインを掬って、オダノコマチが外から迫る。が、オーシャンユーノスが直線大外追い込んで、1馬身半先んじ4着、前とは2馬身差。5着エムエスオーカン、6着ハナ差外でオダノコマチ、7着ハナ差インのセンターロイヤル。
ここで7馬身差が付いて、8着カズミホワイト、9着逃げたスズヒロパワー、ブラウンブルドンはよもやの10着。ヤマノユーノスに遅れること5秒4、信じ難い大敗。リプレイ見直すと、三角手前で、それこそ逆噴射状態で、瞬く間に後退していっている。11着スーパーエースで、最下位がタイコーヒロクイン。
◆振り返って、そしておしまい
ヤマノユーノスの勝ち時計は2分3秒6。不良馬場とはいえ、これは同レースの近年最速。そして、'01年エムエスファントム以来の、アラブダービー&アラブ王冠独占となった。まあコヤツはともかくとして、近年両レースを連取した馬といえば、何と言っても'99年イケノエメラルドに'95年のミスハクギン。やはり強調するに値する偉業であろう。
SPI競走なので、優勝レイが、ある。雨の中、ヤマノユーノスと関係者御一行様がウィナに現れ、口取り撮影だけサッと行った。表彰式はスタンド内の会議室で、速攻移動して。というわけで、ウィナから立ち去る際、東川騎手、忙しい中にも拘わらず、ファンのサインおねだりに、ちゃんと応えてらした。このあたり、東川サン、ホンマイイ感じ。
馬券は辛うじてかすった程度。3着ナルコの複勝が450円もついて、アラブダービーに続いて、またもやこれを取り逃し、身悶えするワシ。惜しむらくは?今日は隣に"東海の好漢"おーたさんがいらっしゃらず、このムズムズした感情を、分かち合えなかったこと(何じゃそりゃ)。
ヤマノユーノス、完勝である。本来は逃げ・先行馬ではないはずなのだが、すんなりそうなってしまうというのは、東海の同世代において、地力が抜けていることの証だろう。「今日はスタート決まったもんな。それにスズヒロパワーが前半いい感じで引っ張ってくれて、オカマ掘られずに済んだしよ。」とゴールドレットさんが振り返った。アラブカップの時も、1枠からジーエスリーダーが逃げてくれたのだが、この鞍上も稔騎手だった。図らずも、彼が二度、ヤマノのアシストをした体裁となった。ただ、敢えて課題を指摘するのであれば、抜け出して単走になると、遊ぶからか、やっぱりちょっと口向きが悪くなる点かと。逆に言えば、気性面で更にもう一皮、剥ける余地があるということ。
クルージング、走ったなあ。ヤマノを直前に見る3番手追走から、早め早めに動いて、3着以下の追撃を封じた。『競馬エース』のHPに「これまで1400mまでの経験しかないのによくやったと思います。」なる、竹下騎手の戦後談が載ったが、これはホンマにそう。ただ、「もう1回やれば逆転できる自信があるんだけど。」とは、ちょっと強気過ぎやしませんか?帝冠賞あたり、出てくるのであれば面白かろう。
ナルコは馬体細化と長距離不安の中、ホンマによく走っているのだけれど。クルージングを追っての後半だったが、結局捕まえられず、最後は先に脚が上がった感じ。これもしゃーないかなあ。帝冠賞、善戦の御褒美代わりに、獲らせてやりたいのだけれど。マイル戦(帝冠賞は距離1600m)でクルージングとやって、どうなるかだな。
オーシャンユーノスは差しに徹しての4着。レース総体の流れへの関わりは薄かったと思うが、まずまずの走りなのでは。兵庫デビューという過去はリセットしてもいいから、今後能力磨いて欲しいところ。その兆しは既に見せているので、ちょっと楽しみ。
エムエスオーカンは、好位差し競馬のつもりが終い伸びず5着止まり。二角で振られたのは言い訳になるまい。「二強やナルコと比べて、前に行く力が劣るからなあ。」とはレットさん。先行から差しへの脚質転換が感じられた、春から初夏のレースではあったが、結果として、ちょっと徹底を欠いた感は否めぬかも。見た目にはもうちょっとパワーと長距離適性、あると思うのだが。
それにしてもブラウンブルドン。いくら戦前の気配イマイチにしても10着とは。「直前のオッズで人気かなり下がってて、明らかに(お客の)みんな"消し"やって判断しててんな。それは判ったけど、やっぱり切れんかったわ。」とレットさんが悔しがる。『競馬エース』のHPに、宇都騎手の「園田の落馬の後遺症が精神的に残っている感じですね。怖がってしまってさっぱりだった。」なる戦後談が載った。そう言われると、1周目三角過ぎで、左右から挟まれて下がったのはそれが故か、とは推測される。されど、後半の止まり方は、精神面のみに帰因するものではあるまい。まあ、地力上位といえども、状態崩れると大敗喫するという、競馬の怖さが現れたということだろう。
なおブラウンブルドン、このレースの直後、園田に移籍することとなった(7月末の時点で、山本和之厩舎に転厩済み)。国光師の死去、厩舎解散に伴って、所属だったブラウン軍団の馬たちが軒並み移籍しているので、これもその一環か。が、アラブ系縮小の一途で、アラブ馬に目指すレースが殆ど残っていない(残されたアラブ限定重賞は今年9月の白鷺賞のみ)兵庫へ、今の時点で移籍するというのは、全く理解に苦しむところ。「落馬のトラウマを晴らすべく、その現場で走らせるのだ。」というわけでもあるまいに。まあ、「打倒サンクリント。目指せ全日本アラブグランプリ!」という志向の余地は、辛うじてあろうけれど。
かくして、東海3歳三番勝負は、全てヤマノユーノスが制し、幕を下ろすところとなった。二強の接戦だったアラブカップとアラブダービーから一転、この最終戦はワンサイドゲームとなり、両者の陰翳が、残酷なまでに際立ってしまった。
今後、戦績・スペックだけを振り返るのであれば、勝者ヤマノユーノスばかりが脚光を浴び、ブラウンブルドンは「どーしても勝てず、結局突き放された馬」といった形でしか、語られようがないのかも知れない。
が、二度の両頭の激闘に立ち会った者としては、「勝者ヤマノに輝きがあるとすれば、それは、そこにブルドンがいたからこそ。」と、強く思うわけなんである。今年のアラブ観戦において、この3戦、殊にアラブカップとアラブダービーの2戦は、間違いなく名勝負の一つ。思い出すと、そこに確実に蘇るのは、2頭の叩き合いの図。勝者と敗者、共にあればこそ、その姿が、眩しい――
というわけで、「敗者をも 語り継ぎたい 現場主義」などと、七五調に口ずさみつつ、おしまい。
2003.8.11 記
2003.8.12 訂正あり
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