2003年度、ビーナス賞観戦報告

 2003.8.3、福山、1600m 但し重賞ではなく特別競走

はじめに
福山競馬、年に一度の古馬牝馬(3歳以上)限定レース、ビーナス賞。重賞ではないものの、注目度はそれに全く等しいもの。
出走馬の選出は単純明快。すなわち、現状稼働している古馬牝馬、格付け順に上から10頭、ごそっと動員。というわけで、上はバリバリのA1オープン馬から、下はB級条件馬(だいたい毎年、前開催の格付けでB2級あたりが下限)まで。福山のレース、殊に古馬戦において、出走馬の階級に、これだけ上下差の生じる舞台は、ほとんどない。これもビーナス賞ならでわ。
このように、クラス差が大きいと、一見明らかに上位馬有利。確かに上位勢にしてみれば、強い牡馬に混じっての日常と比べれば、牝馬限定戦は勝ち星得やすい絶好機。ところがその一方で、素質ある中級条件の上昇馬にとっても、ここは能力発揮して一気にステップアップする大チャンス。このレースの賞金は、古馬A1戦のそれに準ずる額(1着賞金は平場A1戦のそれより10万安いだけの160万円)であり、B級平場条件では到底稼げないものであるからして。
というわけで、各々の現級不問で、出走馬の誰にとっても、意義大きかろうビーナス賞なのである。かくなる上は、見た目にも腹積もりにも、「オンナの色気」出して貰いましょうか。

出走メンバーについて
さて、今年の出走馬は内枠より以下通り。格付け10番目のカチカチヤマが回避したので、フルゲートに至らず9頭立て。()内は騎手、馬齢、斤量。
ホマレエリート(野田、5歳、54k)、オーサカスズメ(楢崎、5歳、54k)、グリンティアラ(嬉、7歳、53k)、アヤヒカリ(吉延、4歳、54k)、ゴージャパン(岡田、5歳)、アレクシア(鋤田、6歳、53k)、ドリーミング(渡辺、7歳、53k)ブレイヴシーン(藤本、6歳、53k)、ラピッドリーラン(片桐、3歳、53k)
馬齢定量戦。4、5歳馬が54k、3、6、7歳馬が53k。
「何やこの馬齢重量。ラピッドリーラン53kでホマレエリート54kって、1kしか違わんなんてインチキやんか!」とは"同志"ディープさん。確かにこの値、クラス下位かつ若年の3歳馬にとっては、全く手加減・容赦のないものではある。

先に「強い牡馬に混じっての日常」と記したが、今年の牝馬筆頭は、牡馬をも凌ぐ強豪。すなわちホマレエリートさん。昨年同レースの勝者でもある。現在、マイルもしくは千八戦において、福山最強なんじゃないかというほどの強さと安定感。ここは確勝態勢、次開催の重賞、金杯連覇への単なる通過点かと。そして、昨年ホマレエリートと同着で勝利を分け合ったドリーミングも登場する。彼女は前々年のこのレースも制しており、今年勝てば3連覇となる。
とまあ、トップに構えるのがバリッバリのA1姉さん2頭であるからして、今年に関しては、ちょっと下克上は難しそう。
ただしこの中にあって、有力3歳馬ラピッドリーランの登場は注目すべきところ。3歳馬の参戦は、'98年マジックフエルド以来となる(結果5着)。因みにあのローレルキセキが3歳にして勝ったのは'96年のこと。なお、有力3歳牝馬のもう1頭、銀杯ホースのデザートビューは、格付けは登場するに充分足るが、銀杯後放牧に出されたそうで、今回その姿はない。

当日の概況
中国地方や関西で、長い梅雨が明けたのは前週末。それから暫くは涼しい日が続いたのだが、8月に入り、一気に真夏の暑さが到来した。当日の天気はドッカン夏晴れ。比較的カラッとしていて、風もソコソコあるものの、空気が熱を持ってしまっていて、ムチャムチャ暑い。まだ暑さ慣れしていないだけに、これは身体に堪える。現地到着は12時前、早々にヘバる。
馬場状態は良。乾き切ってバサバサなれど、深さはそれほどでもないような。時計は良馬場の割はやや速めかと。インがやや深いようで、レースでは内ラチ沿い1頭分の幅は空くようだ。逃げも差しも決まる展開傾向ではあるが、中盤好位からグッと位置を上げた馬が、最後の直線意外に伸び切れず、終い逃げ馬が持ちこたえてしまうシーンも数度見られた。

パドックから発走まで
さてパドックタイム。真夏の暑い中でのレースであるからして、出走の面々、概ねかなりの発汗。というわけで、このあたりについては、それが甚だしい馬についてのみ言及します。
1番がホマレエリート。のんびり悠々たる周回。歩みが遅く、前との間隔がどんどん開くのはいつものこと。胴回りはややふっくらとしていて、いくらかは余裕あろうか。毛艶は滑らか。前走は前々開催のA1・千八戦、ユキノホマレや転入緒戦のクールテツオーを寄せ付けず完勝。
2番オーサカスズメ。良く言えばじんわりとした気配なのだが、どうもトボトボとした周回。トモの踏み込みも浅めで、ちょっと非力な歩み。発汗跡が目立つ。毛艶、馬体の締まりも平凡。約4ヶ月休養して、前開催のA2・マイル戦で復帰(8着)と、いかにもここに間に合わせた感。
3番グリンティアラ。スタスタと大股で、マイペースに周回。これはこの馬らしいところ。毛艶と実入りも意外に良好で、馬体も大きく見える。が、何となく局部が開き気味でがに股、フケなのか。前走前開催のA1・マイル戦で6着。どうにかこうにかA1を張っているが、力が落ちた感は否めぬところ。
4番アヤヒカリ。黒鹿毛の体表に汗が滲んで馬体がテラテラに輝く。張りも上々で銭形模様が浮き出ている。厩務員さんに首を預ける仕草と小走り気味な歩みが目立ち、ちょっと煩め。前走前開催のB1・マイル戦で3着。年明け以降B1の常連だが、差し届かず勝てないレースが多い。それはともかく、今回初めて、全姉ドリーミングとの姉妹対決が実現した。姉はA1、遙かに格上。現状でそれが叶うのも、「格付けぶち抜き」のビーナス賞なればこそ。
5番ゴージャパン。胴回りが相当厚いフォルム。張りは良好。青毛の真っ黒な馬体は汗で光る。かなりセカセカした歩みで、歩幅は浅く、身のこなしも硬め。されど力強くはある。前走前開催のA2・マイル戦で4着。戦法や道中の位置取りが一定せぬ、出方の読めぬ馬。
6番アレクシア。いつ見ても首を高く上げてチャカチャカした周回。ダーダーに発汗ている。胴回りはあるのだが、動くとアバラが浮き出るのが目立ち、緩いのだか実入り落ちてるのだか、気になる。前走前開催のB1・マイル戦で7着。2000年福山ダービー馬も今や6歳、このダービー以来勝ち星がない。因みに3年連続のビーナス賞出走である。
7番がドリーミング。元来がグラマーで好馬体なのだが、ちょっと馬体の線は細くなった感じで、トモのボリュームも落ちているような。大人しい気配で、内々を回るのはいつものことなれど、今日はうつむきがちで覇気もない。昨年度は不休で走った"鉄の女"も、タバツバキ記念8着以降、歴戦の疲れが一気に出たようだ。タマツバキ後1開催休んだ前々開催、A1・千八戦で8着と、地元平場戦では初の大敗を喫し、前走前開催のA1・マイル戦も、一線級不在であったものの4着止まり。
8番ブレイヴシーン。胴が厚い体型のようだが、実入りと馬体張りはガッチリと充分。背の高さも目立つ。大人しく周回。前走は3開催前のA2・千八戦で最下位10着。逃げバテのレースが続いている。
9番がラピッドリーラン。馬体重443kは前走比-4kなれど、2歳秋から今春までの頃と比して、随分馬体がふっくらして、肉付きに富んできた印象。大きく見える。寒い時季は非常に悪かった毛艶も、今日はなかなかに良好。気っぷよく大股でスタスタ歩くのはこの馬なり。前々走が銀杯2着で、前走前開催のB2B3・マイル戦を逃げ切り勝ち。4月にC1格付けで古馬編入されて以後、重賞以外では4戦3勝2着1回の良積。この馬、平場戦はホンマに強い。

本馬場入場から返し馬。ラピッドリーランは最後に登場、そして一角方向に直行するのはこの馬の常。そのまま四角前まで流して、3コーナーの待機所に入る。暑さを気にしてか、福山のレースとしては珍しく、待機所に直行する馬の方が多い。結局再度ホームを流したのは、以下の4頭だけ。ホマレエリートが真っ先に、馬場のやや内を軽快に駆けて行く。ゴージャパンは伸びやかな脚捌きで。オーサカスズメはごく軽く、ダクとキャンターの中間のような走りで。そしてドリーミングが、軽めの走りから、一角手前で次第にピッチを上げて。

予想。ホマレエリートの軸は鉄板。考えるのは相手だけ。ドリーミングは状態不透明なれど、格と地力は断然上位なので、まずは厚く。「ここ2走はホントに疲れがドッと出ちゃったみたいで。それに比べれば今日は近走では一番ましらしいよ。」とは、たまたまお目に掛かったドリーミングの馬主さんが語ったところ。当初はオーサカスズメが面白いと思っていたのだが、印象今一つだったので、これは薄く。代わりに比較的厚く買ったのがゴージャパン。個人的にはあまり買いたくない馬だったのだが、パドックで実物目にして変節。が、ディープさんは「ゴージャパンって、こんないい加減な馬(翻訳すれば「いつ走るかもどう走るかもちっとも掴めない馬ということか。」)よう買われへんわ。」とバッサリ。ラピッドリーランは押さえ程度。この馬、ワシはどうも信用しにくい。

レースなり
さてレース。福山競馬の夏開催は、人呼んで"灼熱のマイルシリーズ"。C2上位より上のレースは、全て距離1600m。
ゲートが開く。最内からホマレエリートが、スパッと好発決めてハナに立つ。一方大外のラピッドリーラン、今日はまともな発馬。ここで鞍上片桐騎手、押して押してパートナーを叱咤。かなり強引にハナを奪いにかかる。これを承けて、ホマレエリートはスッと控え、結果三角手前、ラピッドリーランが先頭に立つ。三分三厘にかけて、そのまま3馬身くらいは離して行く。
というわけで正面スタンド前。引き続き先頭ラピッドリーラン。2、3馬身あって、ホマレエリートは馬場五分どころで2番手にどっかり。直後最内にオーサカスズメ、大外にブレイヴシーン、両者の間にグリンティアラ、3頭同列で続く。少々差があって、内ゴージャパン外ドリーミングが併走。アヤヒカリとアレクシアは後方から。

1周目(30KB)
1周目、正面スタンド前
先頭ラピッドリーラン。ホマレは2番手ガッチリ。

一角周回、3番手外からブレイヴシーンがやや前に出るも、二角前では早々に下がった模様。ラピッドリーランが変わらず先頭で引っ張り、ホマレエリートは楽々の2番手キープ。
向こう正面半ば、馬なりでホマレエリートが進出する。この加速に後ろの各馬は付いていけない。そして三角手前、外からラピッドリーに並び掛け、事も無げに交わし去って、これで勝負あり。三分三厘では既に独走態勢、最後は流すが如く、ホームストレッチを駆け抜けた。

ホマレエリート(34KB)
ホマレエリート、地元牝馬に敵はなしぃ〜
福山名物黒焦げ写真で何だかなあ・・・

問題は2着争い。バック半ば過ぎで、グリンティアラがインコースで3番手単走となる。オーサカスズメは遅れをとった。中団勢の進出はまだ。ドリーミングが一向に上がってこない。3コーナーを回っても、ラピッドリーラン2番手のままレースは進み、グリンティアラ1頭がこれに取り付いてくる。
最後の直線、ピッドリーラン、余力あるようにも見えぬのだが、何だかんだで粘り込めている。一方のグリンティアラは、じわじわとしか迫れていない。最後は結局半馬身差、ラピッドリーランが残して2着。ただし勝ち馬とは6馬身、1秒3差。3着グリンティアラ。
アヤヒカリがバックで押し上げて、若干先んじていたゴージャパンの外に追い付き、共に4番手で四角周回。しかし程なく、ゴージャパンは内で遅れた。最後の最後、ようやくのことでドリーミングが大外からやって来るが、時既に遅し。4着アヤヒカリ、最後はグリンティアラの外でクビ差まで迫って。ドリーミングは2馬身遅れて5着まで。
ゴージャパンは終い伸びず6着。オーサカスズメは先団を維持できず7着。アレクシアは後方ママでブービー。先行バテの最下位ブレイヴシーンを抜いただけ。

反省、そしておしまい
勝ち時計1分46秒5は、この日の馬場のタイムとしては非常に優秀。最終レースのB2戦、逃げ粘って勝ったマルサのそれが1分48秒1であるからして、格段に速い。
軽視したラピッドリーランが2着、厚く買ったドリーミングやゴージャパンが大敗で、馬券は完全なるトリガミ、トホホ。「何ぁんや。(中盤以降は)結局行った行ったなだけやないか。後ろから追い付いて来んもんな。」とは、ディープさんの愚痴。その横で、ちゃっかりグリンティアラの複勝押さえてクスクスしているのは、"リーダー"前田っちなのね。

ホマレエリート、文句なしである。まともにスタート出来さえすれば、あとはハナを切ろうが控えようが、どうとでもなるといった感じ。鞍上野田くんも余裕を持って乗っていたように見えた。この距離で牝馬相手なれば、負けようがないというところか。お見事!次走に控える金杯、連覇が見えたきたかな。
ラピッドリーラン、出負けなくスタート決まったことが全てだろう。二の脚も鈍いので、無理から行かねばハナが切れぬのは致し方ないこと。たとえこれがスタミナロスとなろうとも、こうでなければ良さが出ない。結果終いまで粘り込めたかと。3歳にして2着は評価に値しよう。それにしても思うこと、「この馬、天敵はデザートビューなんじゃないか?」。
グリンティアラは、連対した2頭に続いての、先行策での道中。これが功を奏して、終いまで位置を確保し3着を守った体裁。差しに回ったところで、全盛時ですら、ソラ使いつつ伸び脚持続しなかったわけで、峠を越えた今となっては、この行って粘るだけの戦法は、理にかなっていよう。
姉妹対決は、意外にも格下の妹が先着。まあ、アヤヒカリって、終い確実に差し込めるクチなので、掲示盤に名が載る程度には、だいたいいつも走る。よってこの着順は、不思議ではないのだが・・・
問題は姉のドリーミング。中団からの競馬は時折見せており問題なかろうが、中盤殆ど動けず、終い流れ込んだだけ。2年近くにわたる彼女の福山オープン生活、勝てぬまでも、常に堅実に走って上位入線し、また、格下の連中には殆ど先着を許さなかったという二点が、特筆に値し、尊敬すべきところなのだが。それがここで5着止まり。短期間でこれだけ急激に地力が落ちることもなかろうし、ホンマに疲労蓄積で、状態よっぽど悪いのだろう。結局、次開催の金杯は、ファン投票3位ながら、回避となってしまった。
オーサカスズメはまだまだか、全く走れていない。歳も歳なグリンティアラと同列から、レースが動いて早々に脱落したのが象徴的。ゴージャパンはやっぱりややこしい。中途半端に中盤押し上げかけて、程なく脚を失するという。こう書けば動きがあるようにも読めようが、有り体に言えば中団ママ。見た目に惹かれ、信じたワシがアホだった。

とまれ、まあ何とも、オチにも困る、ホマレエリートの強さでありましたわ。

ホマレエリートすわん(25KB) 「強いだけ?強くて美人って書いといてよね。」

へえ、全く依存はございません。仰る通り、「ビーナス賞」のレース名に、いかにも相応しい、可憐なルックスだと思っておりやす。これがゴージャパンあたりだったら、「ビーナス」というよりも「ファム・ファタル」だもんな・・・

2003.8.13 記

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