第20回笠松オールカマー観戦報告

 2003.8.16、笠松、1600m

はじめに
笠松競馬の重賞体系のうち、アラ・サラ混合競走と明記された唯一のレースが、この笠松オールカマーである(今年マリンレオが制した東海ゴールドカップのように、高額賞金稼いでサラ編入されたアラブが出走し得るサラ重賞も幾つかあるようだが、これは別ものと考えて)。
さて、アラ・サラ混合重賞の場合、その性質は以下の二つに大別されよう。
一つは、アラブとサラ双方のオープン馬どうしが相見えるもの。尤も、アラブよりサラの方が強いのが普通の状況であるので、これについては、「概ねサラ重賞であるところ、力あるアラブにも出走の余地がある。」という程度のケースが多いかと。例えば、サラ時代となってしまった最近の兵庫の古馬重賞。「混合」と謳いつつも、実質サラ重賞、アラブに対して、出走頭数の上限まで設けられている。
もう一方が、アラブとサラの力差を最初から斟酌して、アラブの上位馬にサラの条件馬を当ててレース編成するもの。笠松オールカマーはまさにこちらのタイプの競走である。今年の出走馬一覧表には「3歳以上オールカマー オープン混合」とあるのみだが、その実はオープンA1格付けアラブと、サラのB級条件馬しかし近走好成績の面々との一戦となっている。
こうなると、アラブ陣営からすれば「相手はサラとはいえ中級条件、充分勝ち負けできる。」と思いたいところなのだが、このレース、近年はずっとサラが優勢。アラブ馬の勝利は、'97年のアサヒノルーチェまで遡らねばならない。それから5年間、マルタカフレンズもツルギボタンもブレーンワークもコウエイエンジェルもショウリイットーも敗退。昨年はクラボクモン、ホーエイトップ、クールショー、ミスターハヤブサと、アラブ勢が上位人気を占める勝利の絶好機だったにも拘わらず、1着は8番人気のサラ、オグリマイケルに持って行かれてしまった。

出走メンバーについて
さて今年はどうなるか?その出走馬は内枠より以下のフルゲート10頭。()内は騎手、性齢、斤量。
エイシンファンシー(佐藤、牝5、54k)、ミチノククイーン(仙道、牝5、53k)、アスクジェンヌ(宇都、牝4、54k、名古屋)、トムグリーン(山崎、牡7、55k)、クラボクモン(大塚、牡6、55k)、ホーエイトップ(安藤光、牝4、54k)、アラブドラゴン(東川、牡6、55k)、フジノタイコウ(濱口、牡4、55k)、ケイエスマジック(岡部、牡7、55k)、ツルギベンサー(坂口、牝5、53k)
太字がアラブ。アラブ5頭vsサラ5頭。別定重量戦。

アラブ陣営からは、3歳ヤマノユーノスの登録もあったがこれは回避。代わって、当初A2組戦に登録されていたツルギベンサーが繰り上がって登場。
アラブの5頭は、実にいいメンバーになったと思う。サラの5頭のことは全くわからぬが、「これならば、今年こそアラブ馬の勝利、叶うのでは。」と期待を懸けるに充分な面々かと。「何とも個性的な顔触れですね。」と"ザ・アラブファン"辻本くんも。

ホーエイトップとケイエスマジックは、同じ伊藤強一厩舎所属にして、今や笠松のアラブを代表する2頭。
3歳秋以降のホーエイトップは、さながら"笠松の顔"として、積極的に他地区の大一番に出掛けている。今年はこれまで全9戦のうち、5戦を名古屋、福山、金沢と他地区でこなしている。前走金沢セイユウ記念で3着好走したのは記憶に新しい。そこから中11日、激闘の疲れが懸念されるところではあるが、不休で使ってくる。
一方のケイエスマジックは輸送難あるようで、地元戦に専念する使われ方。実はこの馬、金沢から転じた明け5歳時に一度ピークがあり、'01年春の名古屋杯3着がその成果。その後は特段目立つ戦績なかったところ、今年7歳にして最大の充実期を迎えた。3月から6月にかけてオープンで6連勝、この間4月8日のアラブチャンピオン賞で重賞初勝利を遂げている。
そして7月17日の東海グローリ、ケイエスマジックの連勝を止めたのが、他ならぬホーエイトップ。このあたり、どうやら同厩も関係なしのようで、今回も激突する。

クラボクモンは、一昨年春の東海古馬戦線にて、アラブチャンピオン賞、クリスタルカップ、名古屋杯と、斬れ味鋭い捲り差しで重賞3連勝。さりながら、これは丁度、ブラウンダンディ時代とマリンレオ時代との、刹那の端境期でのことだと、今となっては見なさされてしまう。また自身も、裂蹄持ちでもあって休養が多く、その後はコンスタントに、大きく目立った活躍は出来ていない。因みに昨年同レースの2着であり、これが名古屋杯勝利以後、最も目立つ戦歴だったりする。
ツルギベンサーは'00年末の2歳重賞ジュニアキングと明け3歳時の重賞オグリオー記念を連取した馬。'01年のアラブダービーはエムエスファントムの2着。通算成績24戦20勝2着2回も素晴らしい。が、2度の休養が間が悪いようで、「オープンを目前に休養、また一から出直しという不首尾が2度も。」と『競馬エース』も触れている。というわけで、繰り上がりとはいえ、今回初めてオープンA1クラスで戦うことになった。脚質は逃げ。

当日の概況
当日朝、住処を出て、東海道線を新快速電車で一路東へ。現地には12時半前に到着。
名鉄の笠松駅から競馬場へ向かう道すがら、直前を歩く"リーダー"前田っち発見。「見つけたぞ。」と声を掛けると、「実は米原で乗り換えた快速、ウチ先に座っててん。Uちゃん乗ってくるの、わかっててんで。」と。この御仁はホンマに(以下自粛)・・・
到着時の現地の天候はくもり。気温は大して高くないが、湿気があってちょっと蒸し蒸しする。時折雲が切れて日が差すと日向は暑い。が、どうやら天気は下り坂傾向で、大気の状態はいかにも不安定。2時ぐらいから、いかにも夕立呼びそうな、湿った冷たい風が出てきて、空も時折暗くなってくる。
前日の朝まで雨が降っていたようで、この日は馬場状態重で開始。途中第7競走からは稍重発表に変更となった。走路に水は浮いておらず、砂の湿り気・締まりも程々といった見た目。
「砂の補充はなく、中間台風の雨で砂が流れて、前開催ほどは時計は掛からない。」と『競馬エース』にはあるが、ゴールドレットさんによると、「今日は意外に時計が掛かってる。そして内が深い。どんな展開もあり得る状態だ。ただ、差すんだったら三角前から外を一気に捲り切らんとあかん。半端な差しじゃ決まらない。」とのこと。

パドックから発走まで
幸いにも天気は保って、ソコソコの明るさの中、内馬場のパドックに、メインレースの出走馬がやって来る。以下にパドック私見記すのは、勿論アラブ5頭についてのみ。サラのことはわかりませんので。アラブのことも大してわかりませんけれども・・・
5番クラボクモン。馬体重418k、齢を加えても目方が殆ど増えず、華奢なスタイルも変わらない。黄色の深いブリンカーメンコ着用で、やたら仮分数に見えるところも同様。外外を回るも、小股でセカセカとせわしない歩み。ややチャカチャカ気味。馬体はキリリとシャープ。前走8月1日の準重賞ひまわり賞5着。
6番ホーエイトップ。馬体重503kは前走比+3kで大した上げ幅ではないのだが、前走セイユウ記念時と比して、やや胴の張りは緩んだ感じ。尻尾を振り回しての歩みは常なれど、時折外を物見したりて、ちょっと気配は散漫。動きのキビキビ感も今一つ。ルックスも身のこなしも、総じてシャープさに欠けている。「トモの送りが重くない?」とは環ちゃん。
7番アラブドラゴン。馬体重525k、値通り大柄で胴長。目方は前走から+13k、過去これくらいの値で走っていたこともあるが、この上げ幅が目立つ。のんびり至極大人しく歩いている。ちょっとトモの出が悪いか。前走ひまわり賞3着。前々走の東海グローリも伊藤強一厩舎の二強に次ぐ3着で、これはこの馬としては好成績並んだ方。
9番ケイエスマジック。この馬はいつ目にしてもホンマに元気。今日も首をキビキビ上下させつつ、外外をぐいぐい歩いてる。歩幅は並だが歩みは力強い。テンポが上がると若干セカセカして映るほど。馬体重は前走比+11kの462k。ムキムキ筋肉質の馬体だが、上げ幅通り、胴回りは余裕あって太いか。前々走ホーエイトップに敗れ連勝は止まるも、前走ひまわり賞はキッチリ勝ってここに臨む。主戦の川原騎手はこの日JRA新潟にて騎乗するので、今日は名古屋の岡部騎手が代打騎乗。
10番ツルギベンサー。ワシは実物目にするのは今回初めて。馬体重448kと目方のある方ではないが、コンパクトながら胴回りは結構どっしりしていて意外にグラマー。同じカヅミネオン産駒のセブンアトムのようなフォルムだと思った。スッキリした毛艶。首を下げて、次第に前との間隔が開くくらいにじんわりのんびりと歩いている。前走7月17日のA2戦で勝利。

ツルギベンサー(33KB)
ツルギベンサー、パドックに登場
意外に胴の実入りはある

パドック周回を終え、返し馬に駆け出す各馬。ホーエイトップは一角方向に順回りに、3コーナーの待機所に直行。ツルギベンサーも一角方向に。クラボクモンは四角方向に逆回りで待機所に。ケイエスマジックは四角まで歩んで、ここからキャンター。外ラチ沿いを猛烈な勢いで駆け抜けて行く。アラブドラゴンは四角から内ラチ沿いをゆったりと流して。

予想。見た目イマイチのホーエイトップではなく、ケイエスマジックに中心据えて、クラボクモンもツルギベンサーも、サラのフジノタイコウもトムグリーンも、とにかくバラバラと脈絡なく買う。辻本くんはツルギベンサーから勝負らしい。「昨日勝った馬(福山金杯のホマレエリート)はマイル戦7戦全勝ですけど、こっちは13戦全勝ですからねえ。」と、説得力あるんだかないんだか微妙な根拠を力説。しかしその実は「これアタマの連単、どれも人気なくってウハウハですわ。」と、完全なるスケベ馬券。「まあ何だかんだ言っても、結局勝つのはサラやって。」と、醒めているのは"同志"ディープさん。

レースなり
さてレース。笠松マイル戦の発走地点は3コーナー奥の引き込み線。ここから四角目指してのスタートで、ほぼ真っ直ぐ4コーナーに進入する。だいたい1周と1/3くらい。
ゲートが開く。大外ツルギベンサーが若干アオりつつも、ダッシュは効いてハナに出てくる。次いでケイエスマジックも前。濱ちゃんフジノタイコウも好発だったがこれは次第に控えて。坂口騎手に押されて、単騎抜け出さんとするツルギベンサー、しかし最内エイシンファンシーが二の脚鋭く、四角手前、こちらが一気にハナを奪ってしまう。そのまま四角に進入、コースの内外差歴然で、結局先頭エイシンファンシー、2番手ツルギベンサーで隊形は定まった。この光景を前に「マズいなあ。」と辻本くんがボソリ。
正面スタンド前。内ラチ沿いを逃げるエイシンファンシーのリードは2馬身くらい。やや外目のラインに2番手ツルギベンサー。さらに2馬身くらいあって、ベンサーの真後ろでケイエスマジックが3番手。この直後内にミチノククイーン、外にアスクジェンヌ。やや開いてインにホーエイトップが中団6番手から。これを追う形で真後ろにフジノタイコウがいる。後方待機は3頭、内ラチ沿いのアラブドラゴン、その外トムグリーン、さらに外目にクラボクモン。

1周目(31KB)
1周目正面スタンド前、2番手単騎赤メンコがツルギベンサー
3番手赤メンコがケイエスマジック

1、2コーナーから向こう正面に出る。先頭内エイシンファンシー外ツルギベンサー、半馬身の前後差で併走する。3番手ケイエスマジックとは5馬身くらい開いた。
バック半ば過ぎ、ケイエスマジックが前との間合いを詰めに出る。この頃中団ではホーエイトップが上昇開始。直前の内ミチノククイーン外アスクジェンヌの真ん中を割って抜いて行く。
3コーナー、ツルギベンサーが降参、遅れ始める。これで先頭はエイシンが単騎、そのまま突っ走る。ケイエスマジックがベンサーを抜いて2番手に、前を追いつつの三分三厘。さらに外からホーエイトップが、鞍上安光の手綱も動いて、いよいよ本気モードか。
四角手前、先頭エイシンファンシーのリードは4馬身はあろうか。そのまま最後の直線へ。2番手で四角回ったのはケイエスマジックだが、ホーエイトップがコーナリングしつつ、その外に馬体を併せてくる。そして程なく、ケイエスを交わしてこれで2番手。さらに前を追う。残りジャスト100、ホーエイトップ、エイシンファンシーを外から抜き去って、終いまで力強く走り切ってのVゴール。

ホーエイトップ(38KB)
ホーエイトップ、堂々先頭でゴールへ
グラマーな馬体が判るなあ

1馬身半差の2着でエイシンファンシーが残った。ケイエスマジックは終いの伸び脚今一つで、2馬身差何とか流れ込んた感の3着。4着ミチノククイーンは後半ホーエイトップに引っ張られて差し込んだ体裁。5着トムグリーンは外を差して。アラブドラゴンは中団から追い掛けたが、前を交わせず6着。7着フジノタイコウ。ツルギベンサーは8着に落ちた。9着クラボクモンは後方ママ。アスクジェンヌが最下位。

反省、そしておしまい
ホーエイトップ、これは強い競馬。マイル戦はこの馬にとってちょっと短いと思ったのだが、前半中団楽走から、ロングスパートで差し切った。淀みなく逃げた感のエイシンファンシーを、終いまで真面目に追い掛ける形になったのは、楽な競馬するとソラ使って取りこぼしがちなこの馬にとっては、願ったりだったかな、などと分析はできようか。しかし我ながら、相馬眼の無さには呆れる。何処が見た目イマイチやねん!?
それにしても、サスガはセイユウ記念3着馬。このレース久々にアラブ陣営に勝利をもたらした。すっかり笠松の古馬トップとなった感。ただ問題は今後。今年度の古馬全国交流は終了し、東海の古馬重賞も年末までない。暫くは目標のない日々となる。「ちょっと勿体ないかなあ。」と思ったところ・・・
8月終わりの時点で、金沢移籍との情報が伝わってきた。彼の地には秋から年末にかけて、古馬重賞複数あるからして、能力活かすには賢明な選択かも知れない。となると、近い将来、あの"女帝陛下"との激突、観られるのかな?

2着エイシンファンシーは馬券的に実に有り難くなかった。レース後「この馬こんなに走るの?」と皆さんに訊いたところ、"東海の好漢"おーたさんやディープさんが、サラで抜擢したのがこの馬だったようだ。「先に教えてくれよぉ!」と文句言っても後の祭りなワシ。さりながらディープさん、買った馬券はこの馬アタマの連単のみだったそうで、狙い目正確ながら獲り逃すという、これも何だかなのオチ。
期待していたケイエスマジックは3着止まり。案外だ。が、この馬に対する、同志の皆さんの評価は一様に低かったようだ。おーたさん曰く、「だってもういい加減調子下降してもおかしくない状況だしさ。見た目にも緩かったでしょ。」と。ああ、そうなのね。ワシはこの馬の身のこなしって、ホントに好きなので、どうしても騙されてしまう。
ツルギベンサーはハナを奪って逃げられず敗退。「千四戦ならともかく、マイル戦だと(すぐ四角進入するコース特性から)、同じ逃げ馬で最内と大外じゃあ、どうしても外は不利だて。4コーナーで先にイン回られたら逃げられない。」おーたさんがズバリ種明かし。「そーれでも3コーナーまで頑張ってくれて、ちょっと夢見ましたけどねえ。」とは辻本くんの未練。今回は厳しい結果になったしまったが、この馬にとって、オープンでの闘いはまだ始まったばかり。今後に期待したい。
アラブドラゴンは差しのポーズだけは見せたかと。それにしてもクラボクモンは・・・全く駄目だった。三角手前で追い込む素振りを見せたように思えたのだが、よくよく振り返れば、追走にアップアップで鞍上のアクションが大きくなっただけ。「大塚が追い込み馬にテン乗りじゃあ、荷が重いわ。」との声は少なくなかった。「それにしてもこれだけ走らんのは、絶対どこか体調・状態に問題あるで。」とはゴールドレットさんの鋭い洞察。

天気もどうにか保って、笠松オールカマー、終了。最終レース発走の頃になると、「嘘やろ?」と言いたくなるほど涼しくなって、おまけに日が傾いたところに雲も厚くなって、空は真っ暗に。ゴール板の照明に明かりまで灯る始末。「これが盆の天気か?正月開催でもあるまいに。」と、皆さんで呆れるほどであった。これも、天候不順な今夏の象徴にして思い出だろう。

最後に。今年の笠松オールカマー、試みに、アラブとサラそれぞれ5頭の、平均着順、計算してみた。結果、アラブ=5.4着、サラ=5.6着。「接戦の、いい勝負してるじゃん。」なんである。加えて今年はアラブが勝って、アラブ者としても嬉しい結果、なおイイ。アカンのは馬券だけ。
この重賞、オールカマーと謳いつつも、レースの印象は正直地味だ。が、ここにおいて、「巧い具合にメンバー編成すれば、今回の如く、興味深いレースに充分なり得るぞ。馬券検討も、ちょっとヒネリが必要で面白いし。」と思った次第。尤も、アラブ系廃止の途に、既に就いている笠松競馬であるので、こんなこと書いても、このレースの寿命自体、この先幾らもないんだろうけどなあ。

2003.9.2 記

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