第33回帝冠賞観戦報告

 2003.10.8、名古屋、1600m

はじめに、そして出走メンバーについて
東海の3歳重賞最終戦にして、唯一秋の一番であるのが、今回観戦した帝冠賞である。最終戦ではあるが、"最後の決戦"というよりも、世代2番手以下の連中が星を奪い合う、「ちょっと格落ちの残念重賞」というのが、従来の性格だったようだ。春の筆頭馬が登場しない場合も多く、それらが目指すべき(というよりは目指すに足る)競走ではなかったとも。東海グレードがSPIIというのはともかく、千八戦のアラブカップやアラブダービー、千九戦のアラブ王冠といった、春シーズンの重賞から距離が縮み、マイル戦となるあたりに、そのことが端的に表れていようかと。
ところが昨年は、アラブダービーとアラブ王冠、春の二大レースの勝利を分け合った二強、ホーエイトップとキソノコウリューウが揃って登場し、結果1着コウリューウ2着ホーエイで堅く決着。ということで、従来のこのレースらしからぬ状況、結果となった。その後両頭とも、古馬になって充分な活躍をしており、この帝冠賞の走りが以後に繋がっているあたりも、このレースらしくない。

さて今年、その出走馬は内枠より以下の通り。()内は騎手、性、斤量。
クルージング(竹下、牝、54k)、ヤマノユーノス(東川、牡、56k、笠松)、エムエスオーカン(岡部、牡、56k)、ランガーヒロタケ(宮下瞳、牝、54k)、ナルコ(河端、牝、54k)、ジーエストルネード(深見、牡、55k)、オーシャンユーノス(戸部、牡、56k)、ジーエスリーダー(宇佐美、牡、56k)、センターロイヤル(宇都、牝、54k)、オダノコマチ(上松瀬、牝、53k)、ミルフィーユマリモ(安部、牝、54k)、キジョージャンボ(丸野、牡、56k)
別定重量戦とのことだが、概ね牡馬56k牝馬54kで、持ち賞金が少ない牡馬ジーエストルネードと牝馬オダノコマチが(いずれも総賞金200万円未満)、それぞれ1k軽い55kと53k。
フルゲートだったところ、1番クルージングが疾病で出走取消、11頭での競馬となった。

今年の東海3歳勢において、ここまでの筆頭は、言わずと知れたヤマノユーノス。アラブカップ、アラブダービー、アラブ王冠と、前半の東海3歳重賞を独り占めしている。過去これまでの傾向からすれば「登場するのはどうか?」というところ、「完全制覇」目指したか、「獲れるものは全て頂く」とでも思ったか、「えげつなく」ここにも出走してきた。
こうなると、2番手以下の有力どころにとってはツラい。年が年なれば、ナルコやクルージング、エムエスオーカン、センターロイヤル、キジョージャンボあたりが、イス取りゲームさながらに重賞ウィナーの座を奪い合うべきところなんだろうけれど。
というわけで、「ヤマノユーノス、"濡れ手に粟"の帝冠賞」と思われたところ・・・
気になる1頭が当地転入でここに登場。すなわちミルフィーユマリモ。上山所属として臨んだ全日本2歳アラブ優駿と楠賞、全国交流2戦で共に2着、そしていずれにおいてもヤマノユーノスに先着している強豪牝馬。移籍緒戦がいきなりこの重賞舞台であり、「状態、コース適性、騎手との相性、諸要素、どうか?」とは思われるが、この存在はファンとしても、そして恐らくヤマノ陣営にとっても、不気味にして脅威な注目の対象である。

当日の概況
新大阪から新幹線にて名古屋へ。そして競馬場には3時前に到着。
10月に入るとすっかり秋めいて、清々しい天気が続く今年の気候である。当日の天気は概ねくもりだが、どんよりした感じはなく、所々雲も切れて、空は明るい。この日も充分涼しく過ごしやすい気温。が、時折日が差すと、それを受けるスタンド(コースに大して南向き)は結構暑い。
馬場状態は良、好天続きのもと、乾き切ってパサパサ。見た目に割と深めで、砂はしっかり入っているよう。

この日の土古は全12レース施行で、帝冠賞は第11競走、16時15分発走。メイン前の第10競走は15時20分発走であり、両レースの間隔が55分もある。これはこの間に、東海・北陸・近畿地区交流サラ重賞である、園田の姫山菊花賞(明らかに妙だ)の場外発売をするから。この発走が15時50分。ということで、一体どのタイミングで帝冠賞のパドック周回が始まるかが問題だったところ、これが姫山菊花賞のレースが始まってようやくスタート。おかげでパドックタイムが短くなって、各馬の観察、まともに出来なかった次第。

パドックから発走まで
そんな状況での、甚だ怪しい観察状態での、以下私見。
2番がヤマノユーノス。二人曳きのところ鶴首になって、かなり煩い。が、気合いを表に出すクチなのでマイナス要因ではなかろう。馬体重474kは前走比+1kだが適正値かと。スラリとシャープに出来ている。毛艶も上々。以前のようにブリンカーメンコ着用に戻っている(前走から戻した模様)。今回は引き返しを装着してのパドック。この馬装は、ワシの目にした限りでは記憶にない。前々走がアラブスプリンターカップ3着、前走9月19日の東海グローリ2着と、地元オープン戦を戦ってここに臨む。
3番エムエスオーカン。相変わらず重厚な、そして青鹿毛で真っ黒な馬体。馬体重482kはアラブ王冠時から10k増。値通りさらに重量感が増した。至極のんびりと、良く言えば堂々と歩いている。近2走は、前々開催前開催のそれぞれA5戦A4戦を連勝している。
4番ランガーヒロタケ。時折小走り気味になっての周回。無駄肉は感じられないがちょっと毛あしは長いか。前走前開催のA8戦1着。
5番ナルコ。この馬の周回はいつもマイペース、全くガチャガチャせず聞き分けいい感じに歩いている。肌艶はソコソコ、それほどでもない。近2走は前々開催前開催共にA3戦を走っていずれも勝利。ちょうどエムエスオーカンに一歩先んじる出世。
6番ジーエストルネード。遅れて入場。栗毛の毛艶はちょっとくすみ気味か。近2走は前々開催前開催共に3歳1組で走っていずれも2着。
7番オーシャンユーノス。アラブ王冠時は目方以上に大きく見せたが、今日はかなりスリムな印象。これも毛あしが長めで、さほど冴えるルックスではない。前走前開催のA6戦で5着。
8番ジーエスリーダー。馬体重438kの軽量馬だが、遠目に見ると腹回りのラインが下がっているような。前走前開催のA6戦で2着。
9番センターロイヤル。首を内にひん曲げて頭を厩務員さんに預けつつ、ガチャガチャと、この馬は相変わらず気配が煩い。クニャクニャした体つきの印象も変わらない。近4開催全てA3戦で走って、全て2着。4走前と前走で共にナルコに敗れている。
10番オダノコマチ。馬体重394kスッキリスリムではあるが、やっぱり小さい。母マキシムオージョは'94年の全日本アラブクイーンカップを制した名馬だが、この母も400kない小さい馬だったとのこと。前走笠松の3歳と古馬A9混合戦で勝利。
11番がミルフィーユマリモ。注目の馬体重は428k。430k以上あるのが理想だろうが、今季ずっと420kソコソコで走っていたことを考えればまずまずの値か。やっぱりヒ腹は上がり気味だが、胴回りの肉付きはまあまあか。毛艶と馬体張りはそれほど大したことはない。前述の通り当地緒戦。
12番キジョージャンボ。毛艶も実入りも非常にいい。踏み込みも力強く、気合い充実した周回気配。出来は非常に目立つが、この馬、いつもパドックでは良く見せるクチ。因みに父はサラのパークリージェント。巨漢のダートの強豪を多く輩出した種牡馬だけに、その血が出たか(眉唾)。前走前開催のA7戦で勝利。

本馬場入場から返し馬。ランガーヒロタケは入場して即左折で一角方向に直行。そしてまる1周してホームを流した。他馬はスタンド前を入場行進して返し馬に。そしてそのまま3コーナーの待機所に。入場行進した連中のうちで、再度ホームを流した馬はいない。ナルコやミルフィーユマリモは楽に駆け出す。キジョージャンボは力強く。ヤマノユーノスは4コーナーまで歩いて行って、ここで暫し佇んでからキャンター敢行。力強くシャープな駆けり、かなり気合いが乗っている。

予想。ヤマノユーノスの軸は堅かろう。これまでの実績からしても、そして今後より飛躍を期すためにも、ここで勝てぬようでは困る。が、やはり気になるのはミルフィーユマリモの存在。よって両頭の馬単を裏表で。トリガミにならぬよう金額配分して。
その一方で、今回応援したいのがナルコ。「最後の東海3歳重賞、可能ならば獲らせてやりたい。」という想いと、2着は充分あり得るとの見込みから、馬複でヤマノとマリモに流す。そして、今回こそ忘れずに買うべきは、「ナルコの複勝」。
エムエスオーカンはちょっと足りないと思われ、買わない。センターロイヤルは個人的に評価低いので無視。キジョージャンボの出来は目立ったが、「まあこんなもの。」と思うので、これも買わない。アラブ王冠2着のクルージングが取消になったので、レースの面白味はやや削がれたが、馬券的にはややこしくなくなったと思うところだ。

レースなり
さてレース。名古屋マイル戦のスタート地点は3コーナーのポケット。ここから四角目指しての発走。
ゲートが開く。大外キジョージャンボがダッシュ鋭く先行態勢に。しかし中からジーエストルネードが二の脚使って先手主張で、これがハナに立つ。連れてこの外にジーエスリーダーが続き2番手に。キジョージャンボは結局3番手。センターロイヤルがキジョージャンボを追って4番手あたり。さて注目のヤマノユーノス、ダッシュはまずまずだったものの、二の脚でギクッとなって天を仰ぎ、結局アオり気味の出っ端となってしまう。その後の三分三厘、東川騎手が何故か手綱引っ張って、馬はまたまた首を上げる。そうこうしているうちに、隣のエムエスオーカンに抜かれて4コーナーへ。ナルコやミルフィーユマリモはさほどダッシュ良くなく、中団以降から。

1周目(25KB)
1周目、正面スタンド前
2番手外がキジョー、ヤマノは次列インの桃メンコ。

そして正面スタンド前。先頭ジーエストルネード、四角回って単騎先んじた。1馬身程度あって2番手内ジーエスリーダー外キジョージャンボ。4番手にセンターロイヤル、2番手2頭との間隔は次第に開いていく。ヤマノユーノスは次列5番手、外にエムエスオーカンが併せてちょっと窮屈な感じ。同列外目にランガーヒロタケ。ナルコはエムエスオーカンの後ろ、ミルフィーユマリモはナルコと同列、ランガーヒロタケの直後さらに外目。続く内オーシャンユーノス外オダノコマチが最後列。

ミルフィーユマリモ(33KB)
正面スタンド前、中団追走ミルフィーユマリモ
8番手あたり、内の橙メンコはナルコ。

一角進入あたり、先頭のジーエストルネードに、ジーエスリーダーとキジョージャンボが外から並び掛け、フロントは3頭に。そして2コーナー、センターロイヤルが、エムエスオーカンが、ランガーヒロタケが、次々とフロント位置まで押し上げ、順々に外へ外へ持ち出して並び掛ける。ミルフィーユマリモも大外から位置を上げる。対してヤマノユーノスは2列目イン、その外へナルコが併せた。
というわけで、前がほぼ一団となって迎えた3コーナー手前。いち早く抜け出したのはキジョージャンボ。インでジーエストルネードが粘るが次第に遅れ加減。ジースリーダーもここまで。センターロイヤルもジーエスリーダーの外で伸びあぐねる。一方この外からエムエスオーカンが上昇、キジョーを追う。馬群を割って抜け出し図るのはナルコ、キジョーが先んじ両ジーエスが遅れたその間隙衝いてスポンと前に。問題はヤマノユーノス。東川騎手は前が開くのを待ったのか、インでジッと我慢したものの、ナルコと対照的に前が開いてくれない。痺れを切らしたか東川騎手、ヤマノを外に持ち出すものの、そのタイミング、明らかに遅い。それもともかく、東川騎手のアクションが大きくなっているにも拘わらず、肝心の馬の行き脚がちっとも付かない。「何だ2番『やらず』だがや。」隣の馬券オヤジが吐き捨てるほど。この時点で既にマリモにも先んじられている。
三分三厘から4コーナー。キジョージャンボが2馬身ほど先んじる。エムエスオーカン2番手のところ、内からスッとナルコが併せる。ミルフィーユマリモは単騎4番手で追って。ヤマノユーノスはこの後ろ、どうにこうにかセンターロイヤルを交わそうかというところ。先頭との差は6馬身はあるか、勝ち負けには絶望的な位置。
そして最後の直線へ。先頭キジョージャンボ、四角周回でリードは2、3馬身くらい、ここから直線、さらに後続を突き放す。最後は完全に独走となって、重賞初勝利のゴールに飛び込んだ。結果の着差は3馬身だが、印象はそれ以上の完勝。

キジョージャンボ(33KB)
キジョージャンボ、完勝でゴールに
馬体はムキムキで力強い、とにかく好ルックス。

そして2着争い。4コーナーでは併走だったナルコとエムエスオーカンだが、勝ったのはナルコ。直線半ばでエムエスを振り切る。しかしここまで。キジョーには及ばす。
ナルコとエムエスの後ろでは、ミルフィーユマリモにヤマノユーノスが内からようやく追い付いて、直線激しい追い比べ。残り僅かでヤマノがマリモを交わして辛うじての3着入線。ナルコとは1馬身差。ミルフィーユマリモはゴール直前、アタマ差エムエスオーカンを交わして4着、ヤマノとの差は1馬身。5着エムエスオーカン。
以下、6着一番最後に仕掛けて追い込んだらしいオーシャンユーノス。7着好位から上がれずセンターロイヤル。8着オダノコマチ。9着ジーエストルネード。10着ジーエスリーダー。最下位ランガーヒロタケ。

リアルタイムでは、実はワシ、勝ち馬が何だかよく分かっていなくて、鞍上の緑縦縞の勝負服を見て「あれマリモ(鞍上安部騎手の勝負服は胴白・緑縦縞、袖緑)?!2着ナルコでワシ的中やん!」と、思いっ切り勘違い、ぬか喜びしてしまったという、これが。「安部と丸野の服色(丸野騎手のそれは胴緑・黒縦縞、袖黒・緑一本輪)間違うか!このド素人が!」と突っ込まれてしまいそうだけれど、人間、欲に目が眩むとこんなもんですわ。お粗末!

反省、そしておしまい
勝ち馬について触れる前に、まずはヤマノユーノスについて。発馬といい勝負所での走りといい、最悪の競馬となってしまった。序盤に東川騎手が手綱不自然に引っ張ったあたり、ひょっとして外から被せられてパッチン食らったのかも知れぬけれど、拙い発馬であったことに変わりはない。とにかく中盤の競馬が駄目、レースの流れに全く乗れていないのは気になる。終いよく3着まで来られたとは思うが、これでは3歳初頭までの「追い込んで届かず2着3着。」というキャラに逆戻りではないか。このあたり、ちゃんと立て直さないと、全日本アラブグランプリで勝ち負けだなんて言ってられない。ちょっと厳しい書き方になってしまったが、これも期待の表れということで、御容赦を。それにしても、ここで負けてくれるなよ・・・
そんでもって勝者がキジョージャンボとは。確かに戦前の気配絶好ではあったが、なまじいつも好ルックスなだけに、これを根拠には買えなかった。実際上昇馬ではあり、現に単勝3番人気。それでも連下級と見るのが妥当だったろう。それがここまで走るとは。レース運び自体は、先団外目、余裕を持って後半抜け出し押し切りと、実に巧く強いものだったとは思う。勝ちタイム1分43秒2も良馬場にしてはまずまず優秀かと。さて問題は今後。この勝利をフロック視されぬためにも、好結果出さねば。因みにこの馬、古馬編入前=3歳条件馬の身で楠賞に出たくらいなので、今回の重賞の星引っ提げて、全日本アラブグランプリにエントリーしそうな気配、プンプンする。
ナルコはホンマにレース運び巧いし、堅実に走ってくれるのだけれど、勝ち馬のパワーの前に涙を呑んだ。ようやくヤマノユーノスに先着叶ったと思ったら、勝ち馬は別の馬、不憫だ・・・それにしても三角手前、前の馬群をよく抜け出せたと思う。
ミルフィーユマリモは中盤まで中団以下、外目外目を通っての差し競馬、この馬らしい競馬だとは思う。もうちょっと斬れて追いすがって欲しかったが、やはり緒戦、不確定要素大なるもとではこんなところか。全日本アラブグランプリを視野に入れれば、この馬の去就も大いに気になるところ。
エムエスオーカンは悪くない競馬をしたと思うが、終い5着まで順位落とすあたり、実力が鮮明に表れてしまった感じ。センターロイヤルもクラスの割には突き抜けないところが、着順によく出ていよう。

キジョージャンボが勝って、馬券は大敗。辛うじてかすったのがナルコの複勝、配当200円のみ。
「焼け石に水」ならぬ、「焼け石にナルコの複勝」なんであった。

2003.10.27 記

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