第27回鞆の浦賞観戦報告

 2003.10.26、福山、1800m

レースのあらまし、そして見どころなど
福山競馬、3歳三冠競走第二関門、鞆の浦賞。夏を越えた3歳有力馬たちが一堂に会し覇を争う。この2開催、約1ヶ月後には全国交流全日本アラブグランプリが控えており、他地区馬を迎え撃つ、地元勢の陣容を見定める上でも、注目の一戦である。
三冠戦の他のレースは馬齢定量戦であるのに対し、この鞆の浦賞だけは賞金別定戦である点も特徴。つまりは既存の実績馬は、上がり馬に比べて斤量を背負うということだ。

さて今回今年、中心と目されるのは福山ダービー馬ユノエージェント。キングカップと瀬戸内賞も制しており、既に古馬オープンで2戦。この実績から、斤量は馬齢定量より3k加増の57k。古馬A1での2戦(前々走は重賞の金杯)はいずれも2着だが、相手はあのホマレエリートであり、タイムは優秀。3歳限定戦となれば、やはり実力断然との評価が大勢。
相手一番手は楠賞2着入線するも失格となったスイグン。この苦い園田遠征の後は、ここまで4連勝。前走前開催のB1下特別を制した。
クールフォーチュンが秋を迎えて好調のよう。前々開催ラピッドリーランを敗ってB1戦を勝ち、前開催はスイグンの2着。昨年の2歳全国チャンプだけに、ハンデは56k。
正直、勝ち負けに足ると思われるのは以上の3頭だけ。他の出走馬5頭とは、能力差は格段にあろう。それもあっての、フルゲート割れの8頭立てかと。因みにラピッドリーランは、直前に馬房で外傷負ったそうでここは回避。

当日の概況
現地は秋晴れの気持ちいい天気。ただ風はやや強く、午後になるとこれに乗って雲がやって来て、メインレースの頃にはちょっと翳ってきた。
馬場状態は良。深さはソコソコか。逃げ残りが少なく、差し馬が馬券に絡む決着が目立つ。

レース模様
距離1800m。2コーナーからの発走。現在福山三冠競走は全て千八戦である。
ゲートが開く。コトイチがパッチン食らいでもしたのか、二の脚でガバッと天を仰いで遅れてしまう。他方ユノエージェントもスイグンもクールフォーチュンも好発。が、ここは最内枠から、ユノエージェントがスイスイと出てハナを奪取。スイグンが外で差なく2番手に付ける。クールフォーチュンは前2頭を深追いはせず、やや間を取って外で3番手。そして3コーナーを迎える。フォーチュンの同列インにセイコウ。
正面スタンド前。引き続きユノエージェントが、内寄りのラインで隊列を引っ張る。スイグンが2馬身弱間を開けてやや外に続く。両頭折り合いは問題ない。クールフォーチュンは外目で3番手、鋤田騎手の手綱はかなり突っ張っている。フォーチュンのインにマルサンホーエイがいる。この外直後にモナクラムセス。セイコウはやや下げてフォーチュンの後ろ。最後列は内コトイチ外ホマレスターボーイ。隊列はまだ伸びてはいない、特に好位以下は一団。

1周目(27KB)
最初の正面スタンド前、先頭ユノエージェント
2番手にスイグンがどっかり。3番手外のフォーチュンは掛かり気味。

1コーナーから2コーナー、レース半ばにして早々に地力差が明らかになる。先頭エージェント2番手スイグン3番手フォーチュン、この3頭の前後差は不変ながら、フォーチュンより後ろ、4番手以下が全く付いて来られず、既に間隔ドカ開きになってしまう。
そして向こう正面。前2頭は快調に飛ばす。その一方で、3番手クールフォーチュンは、鋤田騎手のアクションが大きくなって、押っつけられての追走に見える。
3コーナー手前。先に動いたのはユノエージェント。楽々スイグンを引き離し、まずは3、4馬身のアドバンテージで三角周回。このまま独走で、三分三厘回って完勝、の算段だろう。が・・・
スイグンが離されずにしっかりと追走。そして3、4コーナー中間、ドバッとスパート。差が一気に詰まった四角手前、折しもユノエージェントは、息を入れたかもしくはコーナリングでスピード緩めたところ。ここをスイグンが急襲。外から並ぶ間もなく交わし去って、その周回で前に出る。

最後の直線(35KB)
最後の直線、逆転後の二強
外に切り替え追うエージェント。その時スイグン鞍上片桐の顔はビジョンに向いて。

最後の直線、こうなるとスイグンはゴールまで一気。インコースを押さえて一目散に。しかしユノエージェントも容易くは引き下がらない。改めてスイグンを追う。が、ラインがスイグンと同じイン。それでも残り100手前、外に無理矢理切り替えてさらに追う。が、結局スイグンが粘り込んで、待望の重賞初勝利。2着ユノエージェント。
クールフォーチュンは3コーナー以降も、スイグンを追って3馬身圏内で食い下がり、終いまでそのままの3着。
以下はやっぱり大きく開いての入線。上位3頭に離されたレース中盤、一角前からバック半ばまで、結局5頭が一団。脚質も何もあったもんじゃない。「同じレースで走るのが無理がある。」とは、言い過ぎか。

スイグン(31KB)
スイグン、優勝のゴールへ
ようやく手にした重賞の星。

  1着 2◎スイグン      牡3 55.0 片桐正 千同武 495+5 2人 1:58:7
  2着 1○ユノエージェント  牡3 57.0 嬉勝則 番園一 507+8 1人 1:58:8 1/2
  3着 7△クールフォーチュン 牡3 56.0 鋤田誠 鋤田久 445+2 3人 1:59:6 4
  4着 5 モナクラムセス   牡3 54.0 岡田祥 荻田恭 461-5 5人 2:00:9 6
  5着 4 マルサンホーエイ  牡3 54.0 對ィ雄 弓削和 504+4 7人 2:01:6 3
  6着 6×セイコウ      牡3 54.0 池田敏 濱田輝 466+1 6人 2:01:6 クビ
  7着 8 ホマレスターボーイ 牡3 54.0 野田誠 堀部重 508-3 8人 2:02:1 21/2
  8着 3 コトイチ      牡3 54.0 佐原秀 那俄哲 465+1 4人 2:03:2 5
    (予想印はワシの現地最終判断)
出走馬へのメモ
スイグン(1着)
ボリューム充分且つ締まった馬体。張り、毛艶共に上々。じんわりと、しかし身のこなしは柔らかくキビキビと、パドックの内々を周回。ただ以前目にした時よりは、歩くスピードは遅く、大人しめか。「妙にキョロキョロしてるで。」とは"リーダー"前田っちの感想。
道中はユノエージェントの2番手、願ったりの位置取りだったろう。難なく追走し、エージェントが先に仕掛けても動ぜず。それにしても三分三厘から四角手前、一気に動いて勝負を決めた様は実に力強かった。興奮した。片桐騎手の気迫勝ちとも。春先は「行って粘るだけ。」との、斬れ脚とは無縁の評価だったが、今のこの馬、仕掛けられてからの動き・反応、かなり斬れがある。また、重厚なフォルムながら、走るフォームは結構柔軟。ダイナミックかつ重心低い返し馬のキャンターなど、惚れ惚れする。
ユノエージェント(2着)
入場当初はチャカチャカ細かい動きが目立ったが、次第に落ち着いてきた。大外をキビキビとした身のこなしで周回。背が高く、とにかくデカく見える。
1枠からすんなりハナに立っての逃げ競馬。三角手前でのスパートも問題なかろう。が、スイグンの仕掛けはちょっと不意を衝かれた感も。最後改めて差を詰めているあたり、力負けでは全くないだろう。が、勝ち馬との斤量2k差は言い訳になるまい。
クールフォーチュン(3着)
真夏の時点では、馬体に押し出し感全くなく、目方も430k弱程度。今回馬体重は445kに。値通り、馬体の実入りは格段に増したし、大きく逞しくなったうな。全兄クールテツオーの体格と遜色ない。ややセカセカした、歩幅の狭い歩様。肩の捌きは硬い。
二強を前に見る好位からの競馬も、気性が故か、苦しい折り合いでの道中。内にササる癖が甚だしいようで、右目だけにブリンカー使用するのもそれが故。最後も左手綱引き続ける鞍上と喧嘩しつつの走り。それでも叱咤されると食い下がって走り切るあたり、地力強化は認められよう。
モナクラムセス(4着)
あのヒカサクイーンの仔。首を上下させてキビキビとした身のこなしだが、胴の太さ、緩さが目立つ。皮膚は厚そう。「一本調子な先行馬」との予想紙の評だったが、前半は好位でじっくりと。三強以外では最先着となった。
マルサンホーエイ(5着)
母オリビアンはユノエージェントの母ミスオリビアンの全妹。ドッシリした胴長体型で、なかなか堂々たる雰囲気。大きく見せる。ゆったりした歩様で、歩幅も出ている。先行・好位競馬を心懸けたような走りに見えたのだが。
セイコウ(6着)
首を前に出して、至極のんびりと歩く。が、騎乗時に煩さを見せた。胴は太いが馬体に締まりはある。差し馬なので、「有力どころが喧嘩して片方が潰れたらひょっとして・・・」などと思ってスケベ馬券を買う。が、比較的前での競馬に。と言うより、その他5頭はホンマに一団、脚質、個性もあったもんじゃない。
ホマレスターボーイ(7着)
背が高くデカい。歩幅もある。毛艶と張りはソコソコのレベル。もっとよく見せていた時期もあったかと。全くのんびり、覇気無く周回。レースでは中団ママ。7月戦で1勝するも、上山から移籍した当初からすれば、初夏以降、全く停滞してしまっている。
コトイチ(8着)
頭を内に向けて、若干気配は煩めか。内々を周回。馬体の締まりと張りは感じられる。レースは発馬ミスが全て。尤も、よしんば好発だったとしても、どこまで先行して立ち向かえたか。
クールフォーチュン(38KB)
クールフォーチュン、パドック
ビッチリ実が入って、夏までとは見違える馬体に。テツオーにそっくり。

おしまい
「スイグンが勝つ予定だったのは全日本アラブグランプリだったのに。1戦早まっちゃったな。これじゃ次に人気しちゃうぞ。」とは"同志"ディープさんのコトバ。確かに、スイグンの春以降の成長は急だが、「ここはユノエージェントだろうと。」の見立ての方が圧倒的だったろう。その中、堂々たる勝利を飾ったスイグン。全日本アラブグランプリでの走りも楽しみだ。偉大なる全兄、エイランボーイと同様、3歳秋にして大躍進、の予感も。実はワシ、この馬は以前から評価しているので、ここはエージェントではなくスイグン本命。この勝ちは、個人的にもかなり嬉しい。
最後に、ユノエージェントに関して。直前に捻挫して調整が狂ったそうで、戦後予想紙サイドでは、ここに敗因が求められたようだ。しかしなあ、それを承知で本命印打っているわけだから、これも何だかなあと思うところ。
ところで気になるのは、本番での走り。というのも、今回含めて近3戦。いずれも逃げて、番手の馬に捕まっており、ここにおいて、鞍上嬉騎手は戦法の選択が難しくなったと思われるので。果たして逃げるのか、控えるのか。この春までは、前に馬がいた方が走ると見なされていた事実もあり。因みに『福山エース』のHPに、「全日本では離して逃げる」という旨の、嬉騎手の戦後談が載ったが、果たして本気か?騎乗のみならずコメントも「三味線・煙幕」なんじゃないか?

とまれ、決戦は全日本アラブグランプリ。今年はホスト福山の二強が、強そうだぞ。さてさて・・・

2003.12.13 記

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