第36回福山菊花賞観戦報告

 2003.11.2、福山、2250m

レースのあらまし、そして見どころなど
福山競馬、秋恒例の一戦、福山菊花賞。春の桜花賞と並ぶ、伝統の距離2250m戦、古馬A1重賞である。正月開催に施行される、福山競馬最大の決戦、福山大賞典に向けて、古馬一線級各馬が、ぼちぼち本気モードになってこよう時期であり、その現状を測る上でも重要なレースだろう。なお、大賞典の前々開催に施行されるのが常のところ、今年はそれが1開催早まっている。
が、このレースの勝者、実は福山大賞典で意外と勝てていない。ここ3回の大賞典、全て明け4歳馬の手に落ちているということもあるが、菊花賞と大賞典を連取したのは、近年では'99年度のアキフジクラウンくらいである。

秋の福山古馬戦線、夏競馬で強かった馬が秋になって失速したり、夏場休養して再始動した有力馬が仕上がらなかったりで、戦況が変化する年が少なくないのだが、今年の有力どころは、まずまず順調に夏を越せたようだ。そんな中、今回予想紙上でも印を多く貰っているのは以下の面々。
今年の大賞典馬にして桜花賞馬ユキノホマレは、8月4日金沢セイユウ記念に遠征して2着とまずまず好走。秋競馬は3戦して4着2着2着だが、いずれも千八戦であり、この馬としてはこんなものだろう。順調にレースを消化している点はむしろ好印象。ここは得意の長丁場、その適性・実績・地力は断然。堂々の本命評価。
盆の金杯を完勝したホマレエリートは福山中距離界の女王。秋競馬開幕開催の千八戦では、1分56秒2のレコードタイムを叩き出した。その次走前々開催では4着だったが、これは出負けての無理逃げの結果。前開催はスキップしてここへ。距離二二五は得手とは言い難いが、今年の桜花賞と昨年の菊花賞は共に2着。今回最大の敵は、牝馬ながら56kのトップハンデという点か。
今夏以来、モナクカバキチが本格化、そして好調。金杯と秋開幕開催ではホマレエリートとユノワンサイドに及ばず連続3着だったが、近2開催のA1戦を連取。前々開催ホマレエリートを破った星は評価できよう。気性が難しそうで、長丁場に不安は残るが、成長度をもって克服できるか。
ネーチャーフレンドの金杯5着は案外だったが、近2開催は連続3着。特に千八戦では堅実に走る。但しメンバー揃った舞台で勝ち負けできるかは難しい現状か。
なお、出走対象馬のうち、ホマレスターライツは回避で、リーガルジョージが予備馬待遇から繰り上がり出走。

当日の概況
現地には1時頃に着。上空雲は多いが、西日が差して明るい。気温は高め、前夜に雨が降ったそうで、そのためか、湿気も高く、結構暑い。空気はちょっと靄っている。
馬場状態は稍重でスタート、第4競走から良馬場に。直前に砂入れがあって、馬場はかなり深め。「今日は逃げ馬が残れない。」とは"現地駐在"おさるさんの御教授。

注目の2歳戦
今開催の2歳戦上位3鞍は、次開催の2歳重賞ヤングチャンピオン(以下YC)へのトライアル戦となており、うち2つが本日施行。今季福山の2歳戦において、初めて組まれるマイル戦でもある。
まずは第8競走、2歳2組ビクトリー特別。3着馬までにYCへの優先出走権が。前半はスピード勝った距離適性欠けそうな逃げ・先行馬が飛ばすが、後半これらが軒並み沈んで、差し馬勢が一気に台頭。そんな中、ヤスキノショウキが直線鋭く差し込んで勝利。2着ホワイトファイター3着フジキウルフ、いずれも好位後方からの差し。
そして第9競走、2歳1組ニューヒーロー特別。5着馬までにYCへの優先出走権が。逃げたのはピアドジャザー、次いでフクイズミ、いずれも超早熟の逃げ・先行馬。第8競走同様、いかにも前が止まりそうな感じ。フクイズミは案の定沈んだが、ピアドジャザーは意外にも粘って、最後の直線先頭で迎える。これに追い付いたのは、中団から自力で押し上げたキタキコウ。終いクビ差差し切って1着。2着ピアドジャザー。3着先団2、3列目を維持してユタカマンタロウ。4着ハマノミーキも3着馬と同様な競馬。5着ホマレタイセイ。
キタキコウは道営デビュー、彼の地で8戦3勝2着3回。9月23日の重賞鳳凰賞4着の後当地へ。前開催が緒戦、2組戦でヤスキノショウキを破って1着。これで当地連勝、一躍筆頭候補に。しかしながら・・・「YCは出走馬を福山デビュー馬に限る。」の、俗に言う「鎖国政策」に抵触して、ヤングチャンピオンへの出走は叶わず。

レース模様
さて福山菊花賞。2250m戦の発走地点は4コーナー。ホームストレッチを3度通過する。この頃になると日が傾き景色は翳って、気温もかなり下がってきた。
ゲートが開く。まずはセブンアトムがハナに立とうと出てくる。が、程なくモナクカバキチが、1枠発走のタイトさが堪えたか、ガットなって前に。アトムを抜いて、あれよあれよという間に先頭に立ってしまう。グリンティアラも先行策。ホマレエリートは積極策ではなく、まずは先団の一角で。ライトジュピロも同位置。ネーチャーフレンドは好位。やや下がってハカタカッサイ。ユキノホマレはこの馬の常で後方から。追い込みプロパーのリーガルジョージとメカリジョージも同様に。
意外にもハナを切ってしまったモナクカバキチ、鞍上岡田騎手としては、何とか宥めすかして乗りたいところだろう。が、直後にグリンティアラがやって来て、カバキチに楽させる余裕を与えない。

モナクカバキチ(34KB)
2周目正面スタンド前、先頭モナクカバキチ
外併走ティアラ共々、掛かる掛かる

結局このまま1周目をこなして、2度目の正面スタンド前。先頭内カバキチ外ティアラ、その差半馬身弱、馬体が並んでいる。両頭序盤に増して掛かり気味になって、テンション張り詰めたままのよう。2頭からややあって、3番手ホマレエリート、ラインは若干外目。ほぼ同列内にセブンアトム。エリートの直後外にライトジュピロ。ネーチャーフレンドはこのあたりのイン。中団7番手にハカタカッサイ、その外にユキノホマレ。リーガルジョージ、メカリジョージの後方2頭は変わらず。
1コーナーを回ったあたりから、前2頭、暴走気味に突っ走って、向こう正面を迎える頃には、後ろとの差は5馬身以上に。後続からは、ホマレエリートがいち早く単騎抜け出して、追撃を開始する。
そしてバック半ば過ぎ、グリンティアラが置かれ始め、漸くカバキチが単騎先頭になる。が、それも束の間、3コーナー手前、ホマレエリートが間合いを詰めにかかる。セブンアトムは早々に後退し、ライトジュピロもネーチャーフレンドも伸びない。そして問題はユキノホマレ。2コーナーを過ぎても、動きが重そうでなかなか前に押し上がれない。一方中団から動きが目立ったのはハカタカッサイ。ユキノに先んじ、バック半ばから上昇開始。
三角周回、ホマレエリートがモナクカバキチを射程圏に捉える。程なく外に並び掛け、2頭暫し併せ馬に。追ってきたのはハカタカッサイ、三分三厘、前2頭の3馬身差までに接近。そしてそして、ここへユキノホマレが登場。バック半ばからエンジン掛かって、カッサイを追って押し上げてきた模様。
四角手前、カバキチを抜いてホマレエリートが先頭に立つ。が、レースは既にユキノホマレのもの。4コーナー、まずはカッサイを交わし、そしてカバキチを、仕上げはコーナリングでホマレエリートの外へ。直線に向いて程なく、先頭に躍り出て勝負あり。が、圧巻は残り100を切ってから。ブンッ!と他を突き放して、結局2着に5馬身差付けてのVゴール。鞍上岡崎サン、ガッツポーズ。そしてレース後引き揚げる際、スタンドに鞭を投げ入れるパフォーマンス。

ユキノホマレ、ゴール前(29KB)
ユキノホマレ、堂々のVゴール
やっぱり長丁場は強い!

激しくなったのは2着争い。ハカタカッサイ、4コーナーで内を掬って、ホマレエリートに並び掛ける。そして残り150あたり、グイッとエリートの前に出る。一旦は半馬身弱は抜け出しただろうか。しかしホマレエリートも女王の意地か、離されずに抵抗。一瞬差し返す勢いも感じられたが、結局ハカタカッサイ、それを許さず2着入線。3着ホマレエリート。ゴール直前、2着争いの大外を突っ込んでくる馬影が1つ、これがメカリジョージ、届かず4着。逃げたモナクカバキチは、直線インで粘るも、盛り返すべくもなく5着敗退。

ハカタカッサイ(30KB)
ハカタカッサイ、ホマレエリートを下して2着
単勝最低人気なんだけどなあ

  1着 7◎ユキノホマレ    牡4 54.0 岡崎準 田代専 528-1 1人 2:36:6
  2着 5 ハカタカッサイ   牡5 53.0 渡辺博 吉井勝 488+2 9人 2:37:6 5
  3着 9○ホマレエリート   牝5 56.0 野田誠 堀部重 468+4 3人 2:37:7 クビ
  4着 6 メカリジョージ   牡6 53.0 鋤田誠 若林達 489-2 5人 2:37:7 アタマ
  5着 1△モナクカバキチ   牡4 52.0 岡田祥 荻田恭 465-2 2人 2:37:9 1
  6着 10 ライトジュピロ   牡7 53.0 對ィ雄 番園一 471-5 9人 2:38:5 3
  7着 3 ネーチャーフレンド 牡6 53.0 片桐正 田代専 468-2 4人 2:38:8 11/2
  8着 2 リーガルジョージ  牡7 51.0 楢崎功 外山清 454+3 7人 2:38:8 ハナ
  9着 4 グリンティアラ   牝7 51.0 池田敏 濱田輝 489+1 6人 2:39:7 4
  10着 8 セブンアトム    牡6 51.0 佐原秀 那俄哲 457-2 7人 2:40:7 5
    (予想印はワシの現地最終判断)
出走馬へのメモ
ユキノホマレ(1着)
脚長で体高もあるが、胴体が分厚くとにかくデカい。バンバンの実入りと張り。若干毛色がくすんで見えるので艶はソコソコ。歩幅はやや浅めか。もうひと越え良化の余地はあろうが、出来は上々かと。本馬場入場時に脱糞。
例によって後方待機から。レース模様で記したように、ちょっとエンジンの掛かりが遅く、やはり千八戦では距離足らずだろう。が、行き脚付いてからの追い上げはこの馬ならでわ。追えば追うほど伸びる末脚。先に上昇してくれたハカタカッサイは、丁度いい先導役だったかと。
福山大賞典、西日本アラブ大賞典、福山桜花賞に続き、これで今年、重賞4勝目。しかも全てが距離2250m以上の長丁場。まさに福山最強の"ド"ステイヤー。そして鞍上岡崎サン、実は7月上旬に落馬負傷して、以後欠場。レース騎乗再開したのが前開催。復帰3週目での、復活の重賞制覇であったわけだ。ガッツポーズの気持ち、よくわかる。
ハカタカッサイ(2着)
夏競馬を休養して、戦列復帰が前開催のA1戦9着。胴の太い体型。元々背高だが首の角度も姿勢も高い。覇気無く散漫な気配で、トモの踏み込みが全く出ていない。まだまだ本調子ではあるまいと思ったのだが・・・
レースは中団から見事な競馬。前をキッチリ捉えた。それにしてもこの好走は全く意外。「二二五戦は2着1回か(今年5月のA2戦福山さつき賞、ホマスタの2着)。長距離適性あったんやろ。」とは"同志"ディープさんの戦後談だが、当然ながらこれはヤケクソ。因みに単勝最低人気、それも得票ゼロ。
ホマレエリート(3着)
パドック周回がのろいのは常。毛艶も張りも上々だが、胴のフォルムはいつもより太く、ふっくら作った感じ。馬体も大きく映る。
前半は好位集団フロント。いち早く前を追ったことに対して、戦後「斤量背負ってるのに、野田クン動くの早過ぎ。道中も馬がバカついてたし。」との声も挙がったが、ワシは悪くなかったと思う。元来が先行馬、背負っているからこそ先に行くべきだと思われるので。終いまでよく頑張ったが、とにかく斤量が重過ぎる。カッサイとは3k差。
メカリジョージ(4着)
A1半といったポジションで、今回古馬重賞初挑戦。これも妙に脚長。胴はガンと太く、パンパンの実入り、毛艶もいい。前後肢とも歩様は硬めで踏み込み浅い。じんわりとした雰囲気で悠々マイペース。しかし終始舌をモゴモゴさせてのパドック。
殿追走で2周目3コーナーをドンケツで通過。殆ど終いだけで追い込んでの4着。「メカリジョージが4着に届くんだから、やっぱり差し追い込み有利な馬場だわ。」とはディープさんらが語ったところ。
モナクカバキチ(5着)
元々が若干背垂れ気味で、クニャクニャしたルックスだが、実入りがしっかりして、ちょっとは逞しくなった感じも。キビキビとした身のこなし。踏み込み大きく見えるのはこの馬なり。返し馬は手綱張った強めのキャンター。気性はやっぱり激しそう。
レースは最悪。ハナ切ってしまうわ、グリンティアラに絡まれるわで、大誤算。中盤まで息入れる余裕なかったのでは。ティアラを振り切った時には、勝負は既に佳境。当然余力なし。やっぱり現状長丁場は難しいか。何だか"千八専用馬"のような気も。
ライトジュピロ(6着)
腹袋パンパン。実入りと張り・艶は上々。ちょっと覇気は欠け気味。好位好位でレースを進めた感じだが、伸び切れず結果も好位ママ。
ネーチャーフレンド(7着)
ガッチガチな筋肉質の馬体で好ルックス。今日もまずまずだが、これまでよりは若干太くて重めか。気配もじんわりと。見た目悪くなかったが、レースでは印象極薄。内々の道中進行だったにせよ、動きに全く乏しかった。好位粘走タイプの割には、長丁場得意ではないような。
リーガルジョージ(8着)
毛艶も張りも、今年はよく見せる時が多い。今回も然り。キビキビとした身のこなし。最近歩様が思わしくないよう。加えて予備馬からの繰り上がり出走で、急仕上げとも。案の定後方ママ。追い込み馬が調子悪いとこんなもの。
グリンティアラ(9着)
7歳牝馬、歳なり。若い頃のパンとした雰囲気はない。この馬にしてはふっくらした肉付き。殊に前半身は立派過ぎ。気配は全く悠々と。それにしても、見事にカバキチを潰してしまった。鞍上は若手池田クン、わざとじゃないだろうが、やっぱり制御し切れていないか。
セブンアトム(10着)
パドック外目を、ちょっとセカセカしつつも活気よく歩く。毛艶と胴の締まりはイマイチか。元々胴回りは輪郭ぼけた感じだが。逃げ競馬が望みだったろうが、行きたくない筈のカバキチからですらハナを奪えず、中盤で圏外に。一昨年このレースの勝者も、実はそれ以後丸2年勝ち星なし。
ユキノホマレ、口取り(34KB)
口取り終わって、岡崎サン、ユキノホマレ、厩務員サン
流し目気味の岡崎サンが渋くてナイス

ちょっと注目の最終競走
最終第11レースはA3戦、なでしこ特別。距離1800m。ここに、前開催鞆の浦賞で3着だったクールフォーチュンが連闘で登場。レースではサンキュウホマレ(白鷺賞勝利を最後に兵庫から転入。前開催A3戦4着が当地緒戦)が大逃げ。フォーチュンは2列目からの競馬。そして2周目3コーナー過ぎ、早々にサンキュウを交わして先頭に。そこからはチ切っての独走で勝利。サンキュウホマレがそのまま2着に残った。
最後の直線、真っ直ぐ走らぬフォーチュンに対し、鋤田騎手は手綱引っ張り通し。そんなブレーキ踏んだような状態での圧勝、これは目立つ。が・・・現在のA3クラス、相当レベルがショボいので、この走り、無条件には評価しにくい。全日本アラブグランプリ、果たしてどうなるか?

おしまい
2250mではサスガに強かったユキノホマレ。レースのリアルタイム、2周目三分三厘でカッサイに迫った時点、まだ4番手ながら、その加速見て取って「あ、これユキノ勝つわ。」と、あっさり確信させられるほどだった。
さて、目指すは大賞典連覇。距離適性踏まえれば、その可能性、充分だろうが、3歳トップ、ユノエージェントとスイグンの力も侮り難いぞ。福山大賞典、ホンマに待ち遠しい。

と、勝者を讃えて結べば無難なのだが・・・愚痴る。
「ハカタカッサイ、大迷惑なんだけど――」←勿論、馬券のハナシ

2003.12.19 記

兵庫発アラブ現場主義ホームに戻る