第23回福山3歳牝馬特別観戦報告
2003.11.9、福山、1800m
◆レースのあらまし、そして見どころなど
その名の通り、3歳牝馬限定重賞。同条件の重賞としては、春先にクイーンカップも存在しており、それが貴重な個性とは言い難い。また、当地の重賞体系には、秋から年末の2ヶ月程の間に、4つも3歳重賞が設けられており、日程的にもちょっと過密。このあたり、関係者や馬主さんからの見地はさて置いて、ファンとしては「意義が薄い重賞やなあ。」と思わずにおれぬ次第。現在当地に存在しない、古馬混合化した方がずっとまし。
3歳牝馬限定戦なので、出走メンバーのクラス・レベル差、上下に相当開きが生じるのは毎年のこと。今年も然り。というわけで、出走10頭のうち、勝ち負けに届こう注目馬は、以下の3頭に絞られよう。
実績トップはラピッドリーラン。補助馬重賞園田・福山交流特別の勝者。夏の牝馬限定戦ビーナス賞でも、古馬相手に2着に健闘。鞆の浦賞に出走予定だったが、直前に外傷負って回避。結果ここ一本狙いの形となった。前走は前々開催のB1下特別戦、スイグンやクールフォーチュンと走って8着完敗というのは物足りない。逃げ馬ながら出遅れ癖あり、また、逃げなくとも控える競馬がこなせる、ちょっとややこしい存在。
最近ジワッと本格化の兆しが見られるミスラッキー。休みがぽこぽこ挟まって細切れな使われ方だが、前走前々開催でC1戦を突破。2歳時から上位の一角で、クイーンカップはラピッドリーランに先着する2着の実績もある。
イケノスカレーは兵庫デビューだが、軌道に乗るのが遅く上位に顔を出す前に福山移籍。お盆開催が当地緒戦で、以来4戦無敗でここに間に合った。あのタッカースカレーの全妹で、ピカイチの半妹。
斤量設定は「規定」とのことだが、53kの基本重量から、ミスラッキーは1k、ラピッドリーランは2加増されて、それぞれ54k55kとなっている。
なお、ラピッドリーラン共々3歳牝馬トップの実績を持つ、クイーンカップと銀杯の勝者デザートビューは、銀杯後休養で、復帰がまさに今開催。休養期間の長さからか、いきなりの重賞出走はならず、本日の最終競走に回されている。
◆当日の概況
前日までは天気もよく、気温も20度を超える好天だったが、前線が南下して、当日は一転雨の予報。午前中はどうにかこうにか保ってくれたのだが、結局2時過ぎから雨降りに。
馬場状態は前日から重。表面に水は浮いていないが、砂は走路の内外均質に水を吸っている感じ。
三角前から三分三厘、先団が勝負賭けて叩き合うと、決着付かぬまま脚が上がって終いまで保たず、差し馬に出番が回ってくるレースが多い。が、雨が降り出した8レース以後は、微妙に後ろが届かなくなった。
◆レース模様
距離は1800m。2コーナーからのスタート。雨は幸いにもまばら且つ小粒になってくれたので、スタンド前で写真撮影敢行。雲が重く景色は真っ暗、厳しい撮影条件。
ゲートが開く。ラピッドリーランはまたしても立ち後れ。片桐騎手、押して馬を前に出すが、ハナを強引に取るには至らず。一方先頭を奪取したのは最内スマイルマイウエー、スッと先んじる。マインも好発だったが、早々に位置を下げる。ミスラッキーはすんなり出て2番手をガッチリ。結局ラピッドリーランは、ミスラッキーを直前内に見る3番手に位置取って。
正面スタンド前。先頭変わらずスマイルマイウエー、そのリードは3馬身くらい。2番手にミスラッキー。その外にラピッドリーランが併走。ミスラッキーの内にパッションワン。イケノスカレーがスーッと位置を上げて、ミスラッキーの真後ろに。逆にフジナミサンサンは、ホームでちょっと位置を下げて。序盤好発のマインはこの後ろ。その外にビスターエンジェル。やや下がってバルコムエンデバー、最後方がユキノエイコウ。
正面スタンド前、先頭スマイルマイウエー
2列目中ミスラッキー外ラピッドリーラン
レースは早い段階で動く。2コーナーを回って程なく、スマイルマイウエーを交わして、ミスラッキーが先頭に立つ。鞍上野田クン、躊躇なく馬を動かし前へ前へ。これを承けて、外からラピッドリーランが追撃開始。離されまいとばかり、片桐騎手の手綱が動く。ということでバック半ば、実績馬2頭が、早々に後続を引き離して、やっぱり能力なりのレース模様に。
3コーナーを回って、先頭ミスラッキーのリードは2、3馬身。外からラピッドリーランが追い掛ける。するとこのあたり、後続から唯1頭、イケノスカレーが取り付いてくる。この行き脚が相当いい。三分三厘半ば過ぎ、インからラピッドリーランを抜いて2番手に。そして四角周回、イケノスカレー、ミスラッキーの内を掬って、スルリとばかり先頭に立つ。
最後の直線。先んじるイケノスカレー。抜かれたミスラッキーは離されずに食い下がって抵抗。ラピッドリーランは4コーナーでちょっと遅れたが、外目のラインを改めて盛り返す。3頭1馬身半圏内、最後まで接戦となったが、結局イケノスカレーがそのまま押し切って、嬉しい重賞初勝利を飾った。
イケノスカレー、最後際どくなるもしっかり残してV
外2頭の顔は、内ミスラッキー外ラピッドリーラン
惜しかったのはラピッドリーラン。最後の土壇場で強烈に差し脚振り絞って、残り20でミスラッキーを蹴落とし2着に。ゴール板前、イケノスカレーをアタマ差にまで追い詰めていた。
4着以下は大差開いての入線。実力差クッキリ、納得の結果だろう。
1着 7○イケノスカレー 牝3 53.0 渡辺博 吉井勝 504+7 2人 2:00:2
2着 9▲ラピッドリーラン 牝3 55.0 片桐正 那俄哲 441-3 1人 2:00:2 アタマ
3着 5◎ミスラッキー 牝3 54.0 野田誠 番園一 489+4 3人 2:00:3 1/2
4着 8 ビスターエンジェル 牝3 53.0 岡田祥 白津壽 460+3 10人 2:02:4 大差
5着 3 ユキノエイコウ 牝3 53.0 嬉勝則 白津壽 426+4 5人 2:02:7 11/2
6着 4 マイン 牝3 53.0 越智誠 高本友 440+7 7人 2:03:0 11/2
7着 6 フジナミサンサン 牝3 53.0 周藤直 小嶺英 444 0 7人 2:03:3 11/2
8着 2 バルコムエンデバー 牝3 53.0 池田敏 田代専 436+1 9人 2:03:4 1/2
9着 10 パッションワン 牝3 53.0 黒川知 胡本友 452-7 5人 2:03:5 クビ
10着 1 スタイルマイウエー 牝3 53.0 石井幸 番園一 500-2 4人 2:03:8 11/2
(予想印はワシの現地最終判断)
- ◆出走馬へのメモ
- イケノスカレー(1着)
- ゆったり伸びやかなフォルムで、姿はタッカースカレーよりもピカイチ似。張りと艶も上々。身のこなしがとても柔らかくて好感。
- 有力2頭を前に見て追撃、ぐんぐん伸びてキッチリ捉え、終いも際どく残した。渡辺騎手の戦後談は「道中掛かって内容は最悪。」(『福山エース』樋本デスクのHPより)だそうだが、好位からソツなく、レースセンス感じられる競馬だったと思う。前をシャープに追うのは渡辺騎手らしい騎乗。
- ラピッドリーラン(2着)
- 実入りガッチリで目方より大きく見せる。大股で硬い歩様。キビキビとした動き。レースではやっぱり発馬失敗。こういうもんだと思うべき。道中2列目から、早い段階で勝ち馬に抜かれたが、今回特筆すべきは最後の直線。盛り返しての差し脚は逃げ馬のそれではない。確かに力はある。
- ミスラッキー(3着)
- ホーエイヒロボーイ産駒らしい、ドシッとした大型馬。張りは上々。3歳春先の頃と比べ、馬格相応の押し出し感が出てきた。じんわりとした気配だったが、野田騎手が跨ると気合いが乗った。好発から2番手に。終い2頭に遅れたのは、自身が真っ先に仕掛けて勝負に出たからか。野田クンの強気がちょっと裏目に、しかしこうでないと良さが出なかろう。
- ビスターエンジェル(4着)
- あのフェイトスターの娘。兵庫デビューで5月から福山所属。胴が重くて張りも緩そう。身のこなしはキビキビしている。好位から上昇した体裁だが、如何せん、前との差がありすぎる。
- ユキノエイコウ(5着)
- 金沢デビュー、その新馬戦勝ちの賞金が効いて、当地良積乏しくとも、ずっとC2の上位待遇。ちょっと後半身の力感が乏しいが、馬体は締まっていて悪くない。大人しく周回。前半最後方から差し押し上げたようだ。
- マイン(6着)
- 3歳序盤の補助馬路線にて、常に渋く入着していた馬。されどその後停滞気味、未だ古馬編入ならず。チャカチャカ煩い素振りが目立つ。ヒ腹からトモにかけてのボリューム感がない。好発から控え、さらに殿まで落ちてのこの着順。不可解なちぐはぐさ。
- フジナミサンサン(7着)
- 胴が太く、ちょっとコロンとした感じ。張りはあって、濃い鹿毛の体表には銭形模様が浮き出ている。好位から後退。
- バルコムエンデバー(8着)
- ムサシボウシルキー回避で予備馬待遇から繰り上がり出走。胴体が重めで詰まり気味、首の付く角度は高め。チャカチャカと煩い仕草。レースは後方ママ、格それなり。
- パッションワン(9着)
- 芦毛、腹回りがぽちゃっとしているのが目立つ。トモの力感は平凡。尻尾振って首を上下させて気合いを表していたが、後半落ち着いた。序盤先行するも早々に後退。
- スマイルマイウエー(10着)
- 兵庫デビュー、お盆開催から当地で。胴長で、首も長く角度が高い大型馬。馬体張りはある。大股でゆったりパドックと周回。内枠利して逃げが叶ったが、ミスラッキーが動くと早々に降参、そして最下位。もうちょっとやれると思うのだが。
◆ちょっと注目の最終競走
最終第11レースはB2戦、虫の音特別。距離1600m。冒頭に記したように、これがデザートビューの休養明け緒戦。さてそのデザートビュー。馬体重476kは銀杯から+9k、その値に増して、フォルムはやっぱり太い。トモの歩幅も全く出ておらず、身のこなしも総じて硬い。レースは鋭発から逃げ、どんどん飛ばす。「これは!」と思わせるも、それも2度目のバック半ばまで。2番手チュウオウパールに追い付かれ、そして交わされて。終いは完全にガス欠来して、結局1着チュウオウパールから、1秒5差のブービー6着。重馬場で1分49秒3では、快速も何もあったもんじゃない。ここからどこまで良化できるか、それが問題。
◆おしまい
「斤量、勝ち馬53kでラピッドリーラン55kやろ。やはり最後、この差はデカいで。」とは、レース後Okuさんの語ったところ。なまじ、ラピッドリーランが息を吹き返して、終い相当伸びているだけに、余計にそう感じられる。
が、イケノスカレーにとっては、条件に恵まれてのことであれ、勝ちは勝ち。しっかり重賞ウィナーとなった。あとは今後、「あの時は恵まれて重賞勝っただけ。」で片付けられぬよう、頑張って示し付けて貰いましょう。それは同時に、兄姉の戦績からわかるように、意外にも成長力が感じられぬ、自身の血との対決でもあるのだな。
2003.12.23 記
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