第33回石川テレビ杯観戦報告
2003.11.16、金沢、2000m
◆レースのあらまし、そして見どころなど
金沢に現存する、6つのアラブ古馬A1重賞のうちの一つ。距離も賞金も、シーズン序盤の黒百合賞と同じで、格も同等であろうかと。
秋シーズン真っ直中11月に施行されるのが常で、12月の大一番、北國アラブチャンピオンへ向けての、重要な一戦となっている。事実、近3年の勝者、イセイチフブキ、サクセスフレンド、スーパーベルガーは、いずれもこの後北國アラチャンを制している。4年前の北國アラチャンの勝者ツルギネオンも、このレースでは2着だった。
今季の金沢アラブ古馬戦線、"絶対女帝"スーパーベルガーは7月に1戦したのみで、殆どの期間を休養。この圧倒的トップの不在のもと、シーズン前半、浮き彫りになったのは層の弱化。既存のヒラオープン馬たちによる、星の食い合いが目立った。黒百合賞を制したのがコーワゴールドというのが象徴的。
が、9月になると状況が激変。8月のセイユウ記念3着の実績引っ提げ、ホーエイトップが転入し、勢いそのまま、連勝で重賞中京スポーツ賞を圧勝。同様に、"東海先代王者"ブラウンダンディも当地に転入。加えて、兵庫から移ったグリーンジャンボが大活躍。当地の水が余程あったのか、移籍後の近2開催、A1を連勝。前々開催ではブラウンダンディを、そして前開催ではホーエイトップをも下し、今のムードは最高。
このように、今回このレースに向けて、古馬戦線は俄然賑やかになったところ、駄目を押したのはこのニュース。すなわち、「女帝、戦列復帰――」
さあ、移籍組の新興勢力を、久々のスーパーベルガーが、どう受け止めるのか。とにかく女帝の実績は圧倒的。が、仮に敗れて連勝が止まるとすれば、久々でいきなりの重賞となり、相手も骨ありそうな今回かとも思わたりして。さてさて・・・
◆当日の概況
事前の予報では雨とのことだったが、その降り出しは早まって、当日は回復傾向。関西では朝から雨はやんで晴天に。現地には正午頃に着。金沢の天気も曇り。雨は落ちず非常に助かる。が、雲は厚く空は暗い。気温はムチャムチャ低くはなく、北陸の晩秋としてはそれなりか、しかしやっぱり寒い。風が強いのはこの時季の当地の常。
馬場状態は朝から重。走路の表面に水は浮いておらず、砂は適度な湿り気を帯びている。
逃げ残りも勿論あるが、当地の平均的展開傾向からすれば、差し・追い込みはかなり決まっている。
◆レース模様
距離2000m、2コーナーを立ち上がって向こう正面を少し進んだところがスタート地点。晩秋の北陸の午後、空を覆う重い雲、あたりは相当暗く、写真撮影はちょっと苦しい。
キミノミネフジはダッシュつかずやや遅れるが、他はほぼ一線の発馬。やはりサクセスフレンドが、スッと前に出てすんなりハナに。内からスーパーベルガーが早々と単走2番手に出てくる。最内ホーエイトップがこれに続く。外からショウリノサクセスも同列で先行態勢に。チャンピオンマサルは好発からやや下がって。ホーエチャンピオンは外から好位に押し上げて構える。続いて内コーワゴールド中ロックウイット外ブラウンダンディ。グリーンジャンボは発馬後すんなり控えてダンディの外目後方から。
正面スタンド前。先頭変わらずサクセスフレンド、2馬身程度先んじて。2番手やや外目にスーパーベルガー、蔵重騎手の手綱はやや張り気味だが、掛かっているほどではない。ベルガーのインにホーエイトップが併せて同列に。インにはコーワゴールドが、この馬にしては前々の位置取り。ベルガーの外にショウリノサクセス。次列大外でホーエチャンピオン。このあたりの内にチャンピオンマサル、インにロックウイット。グリーンジャンボは外目ホーエの後方。ブラウンダンディはほぼ同列、中団後方真ん中のラインで。モトケンホマレが続き、殿変わらずキミノミネフジ。
1周目の正面スタンド前、先頭サクセスフレンド
2列目中ホーエイトップ外ベルガーが併走
一角コーナリングで、先頭サクセスから好位・中団までの前後差は一旦縮まる。この中、グリーンジャンボが外からジワッと間合いを詰めたのが印象的。しかし2コーナーを立ち上がると、サクセスフレンド、再び後続を2、3馬身引き離して単騎逃げの形に。
が、その状態も長くは続かない。向こう正面半ば、2番手スーパーベルガー、蔵重騎手の手綱がちょっと動いてスパート開始。これを承けて、ホーエイトップも加速気味、ベルガーを追う。コーワゴールドはいつの間にか先団にいなくなって、ショウリノサクセスも遅れ加減。外目でホーエチャンピオンも仕掛けられて好位死守だが、外からグリーンジャンボが被せて交わして行く。ブラウンダンディはグリーンジャンボを追っての仕掛け。
3コーナー手前。早々にスーパーベルガーがサクセスフレンドを捉えにかかる。暫し併走となったが、三分三厘、程なくベルガーが先頭に立つ。ホーエイトップがベルガーを追って単騎2番手に。グリーンジャンボが外から迫る。これに引っ張られる体裁でブラウンダンディも圏内に。サクセスフレンドは内で遅れた。ホーエチャンピオンは前5頭に続くが伸び脚はない。
四角周回から最後の直線に。先頭スーパーベルガー、蔵重騎手に手綱押されて押し切らんと。しかし今日は、一気に後続を突き放せない。2番手で四角回ったのはホーエイトップだが、これも伸びはイマイチで、大して伸びないベルガーにすら接近できない。一方加速目立ったのはグリーンジャンボ、四角周回でホーエイトップを交わして直線2番手に。そしてベルガーを追撃。残り100を切るあたり、遂に馬体が合って、一旦はクビ差ちょっとまで女帝を追い詰める。行き脚優るのはグリーンジャンボの方。ベルガーはピンチか!?
しかし最後の最後、蔵重騎手必死の手綱シゴキと右鞭に応えて、スーパーベルガーが脚力振り絞り、脚いろ盛り返して、差し返し気味にグリーンジャンボを封じての復活V。ゴール寸前、ベルガーファンだか蔵重ファンだかの女性のお客さん数人から、悲鳴に近い歓声が挙がったのが、金沢競馬らしからず印象的だった。
ゴール寸前、グリーンジャンボの追撃を堪えて残すスーパーベルガー
ここからが強い。これぞ女帝の真骨頂!
2着グリーンジャンボ。ホーエイトップは2頭に離されて完敗の3着。サクセスフレンドが粘走、意外に沈没せず4着に踏ん張った。ブラウンダンディは結局5着まで。
1着 4◎スーパーベルガー 牝5 53.0 蔵重浩 宗綱泰 492 -5 1人 2:12:7
2着 11×グリーンジャンボ 牡4 55.0 吉原寛 奥十一 512 +5 3人 2:12:8 1/2
3着 1○ホーエイトップ 牝4 53.0 桑野等 田嶋幸 505 0 2人 2:13:3 21/2
4着 6 サクセスフレンド 牡5 55.0 中川雅 中川一 477 +4 5人 2:13:4 1/2
5着 8△ブラウンダンディ 牡7 55.0 徳留康 本忠司 492 -2 4人 2:13:9 21/2
6着 7 ショウリノサクセス 牡5 54.0 端勝成 中川一 506+11 7人 2:14:4 21/2
7着 3 ロックウイット 牡5 54.0※米倉知 田嶋弘 458 -1 6人 2:14:5 クビ
8着 12 ホーエチャンピオン 牡8 55.0 江下英 本忠司 520 0 11人 2:14:8 11/2
9着 9 キミノミネフジ 牡7 55.0 山中利 野田幸 528 +7 10人 2:15:3 21/2
10着 5 チャンピオンマサル 牡4 54.0 安部竜 宗綱貢 540 +6 9人 2:16:7 7
11着 2 コーワゴールド 牡5 55.0 平瀬城 松野勝 478 -4 11人 2:17:1 2
12着 10 モトケンホマレ 牝5 52.0 鬼束亮 松野勝 488 -2 8人 2:17:5 2
※ロックウイットの騎手は渡辺壮から米倉知に変更
(予想印はワシの現地最終判断)
- ◆出走馬へのメモ
- スーパーベルガー(1着)
- 久々の実戦も馬体重は適正値。馬体張りと毛艶もまずまず。しかしながら最高のものではなく、オーラ発散までには至らず。じんわり悠々とした気配だが、トモの踏み込みはやや浅く、そのボリュームもちょっと不満。
- 本質は先行タイプだけに、万難を排した2番手競馬。早目の進出だったが、グリーンジャンボの差し脚にヒヤリ。しかしそれでも負けない。昨年のセイユウ記念でマリンレオに2着敗退して以来、年明けの笠松出張を含めて、これで11連勝、セイユウ記念2着の前も11連勝しており、近2年、ほぼ負けなし。長期休養挟まると、以前の能力に戻しにくい、ともすれば戻せないのがアラブ馬の傾向。加えて立て直しがより難しかろう牝馬。ホンマに凄い。
- グリーンジャンボ(2着)
- 兵庫最終戦だった重賞白鷺賞時の馬体重が484k。今日の目方は512k、やっぱり金沢の仕上げは肥える。値通り、胴体は一層太くなっている。首を振ってキビキビとした身のこなし。トモの踏み込みは硬いが、これはこの馬なりか。
- 荒削りなレース運びなので、外枠発走は願ったりだったかと。道中中団の差し脚勝負。一角から徐々に上昇。末脚は目立ったが僅かに及ばず。女帝撃破という大金星、その千載一遇のチャンスを、すんでのところで逃した。
- ホーエイトップ(3着)
- 主戦渡辺騎手がロックウイット騎乗で、今日はテン乗り桑野騎手。渡辺騎手は7レースのパドックで落ち、結局メインは乗り替わり、これで正解か。ベルガーと同色の、ピンクのパドックメンコ着用。馬体を大きく見せ、張りはまずまずだが、中京スポーツ賞時に比して、作りはちょっと緩んだ感じ。踏み込みは柔らかい。鞍上が騎乗すると煩くなるのは以前と同じ。
- 終始ベルガーをマークする形、真っ向勝負にも見受けられたが、終い存外伸びず、前2頭には完敗。セイユウ記念と中京スポーツ賞の走りからすれば、全く物足りない。「あれが出来過ぎ。」との感想、抱いてしまうぞ。
- サクセスフレンド(4着)
- 昨季は秋深まって成績を落とした。馬体肥えると走らないクチだが、予想紙には「少し太り気味」と。案の定プラス馬体重。それにも増して、胴回りは重くてボテボテ。明らかに太い。それでも張りはあるが、艶はくすみ気味。「コロンコロンやんか。」とは"同志"ディープさんも。歩様は前後共に硬い。
- この見た目では早々に息切れかと思いきや、見込み以上の逃げ粘り。この馬、後続に抜かれても、そこからがホンマに渋太く、自分なりに走り切る。ナイスフレンド産駒は個人的に好みではないが、こいつは認める。
- ブラウンダンディ(5着)
- 実入りと馬体張りはなかなかある。しかしながら寄る年波か、全盛時のような押し出し感は感じられず、さほど大きく見えない。概ね大人しいが、首使いはキビキビと。歩幅はあるがちょっと脚の送りが遅い。
- 名手徳留騎手に宥められて、道中掛かり気味に中団からの競馬。後半グリーンジャンボを追って進出するが伸び切れず。サクセスすら抜けなかったのが辛い。「強かった頃は道中どれだけブッ掛かってても、終い無理矢理押し上げてこられたんだけどねえ。やっぱり衰えてるかな。」とは"東海の好漢"おーたさんの述懐。続けて「北國アラチャン、左回りでやればいいのに(3連覇した中京冬の名古屋杯と同条件になる)。」との無茶発言。
- ショウリノサクセス(6着)
- 胴長首長の大型馬。大股だが、脚の出が遅く流れ気味な歩様。先行・好位の競馬だったが、後半離された。近2走A2で連勝中も、クラス差実力差に跳ね返された体裁。
- ロックウイット(7着)
- 実入りはパンと。歩様は柔らかく踏み込みもいい。うつむきがちに、大人しく地味に周回。インで好位以下のまま、レース中の印象も薄かった。今季A1の常連で、日頃の平場戦では時々連対するも、どうも距離が2000m以上になると苦しいよう。
- ホーエチャンピオン(8着)
- パンと張った体表、艶も上々、浅めの踏み込み。これらは以前と変わらぬ個性、好ルックスなれど、加齢による能力低下は如何ともし難い。積極的に好位から進め、2周目三角でもそれを維持したがここまで。ますます距離が保たなくなっているような。
- キミノミネフジ(9着)
- 528kの巨漢だが、今日は胴回りがちょっと重いか。のんびり歩いてのパドック。レースは後方ママ。中京スポーツ賞では3着に突っ込んだ追い込みも、ここでは不発。というより中スポ賞が特別。
- チャンピオンマサル(10着)
- とにかくデカい。ホーエチャンピオンの全弟だが、兄より大型、しかし無骨で垢抜けない。裏手で騎手を乗せ、真っ先に本馬場入場。好位から早々に後退。正直、A1張る力は疑問。
- コーワゴールド(11着)
- 黒百合賞勝った時には、馬体張り充分でフォルムにもキレがあったが、今日は全く平凡。踏み込みは硬め。最初は大人しかったが、だんだん気合い入った。差し得意だろうが、意外にも序盤先行。しかし2周目二角までに沈没。黒百合賞は出来過ぎにしても、これは負け過ぎ。
- モトケンホマレ(12着)
- 今季前半は全休して出走は9月から。滑らかな体表で、幾分フォルムは重いが結構スッキリ出来ている。レオグリングリン産駒らしい実入りある体型。結局後方ママ。元来がA1平場級、調子もまだまだとあっては致し方なし。
◆おしまい
今日のスーパーベルガーの勝利、目にして思い浮かんだのは、昨年の黒百合賞のこと。先に大きく抜け出したエステーヒーローを単騎追い詰めて、接戦の末制したレース。これが彼女の重賞初勝利であり、女帝進撃の口火でもあった。今回再起の一戦が、粘る側追う側の違いこそあれ、同様な叩き合いとなったことに、ちょっと因縁を感じる次第。ムチャムチャ強いので圧勝が多いけれど、この馬の真骨頂、実は競り合っての強靱さにあると思うのだ。この見地に立つと、このレース、まさに「女帝の原点回帰」たるものとなったんではないか。
「ここからが始まり!」小橋健太なら実直にこう言いそうなとことだけれど、何しろ天下の女帝陛下だからして、「負けるわけないじゃない。」と、素っ気なく涼しく、受け流されてしまいそうだ。
さて、仕上げは北國アラブチャンピオン。
2003.12.23 記
ホームに戻る