第30回アラブ王冠観戦報告

 2003.12.14、福山、1800m

レースのあらまし、思うところなど交えて、そして見どころなど
福山競馬、3歳三冠最終ラウンド、アラブ王冠である。
今年の当地3歳世代、二強といえば、ここまでの二冠、福山ダービーと鞆の浦賞の星を分け合った、御存知この2頭。ダービー馬にして、キングカップと瀬戸内賞も制したユノエージェントと、鞆の浦賞馬にして、前開催全日本アラブグランプリを圧勝し、世代日本一の座を射止めたスイグン。
さて今回、残された最後の一冠を巡って、両者雌雄を決すべく、激突!
――とはならず、スイグンは回避なり。「何じゃそりゃ!?」
実は今年の全日本アラブグランプリ、勝者には正月の福山大賞典への優先出走権が与えられる。というわけで件のスイグン、前走で既に大賞典への切符、入手済みなんである。こうなると、「目標は大賞典一本!アラブ王冠はパス。」との、陣営の発想は想像に難くなく、実際、呆気なく回避となった。
しかしだなあ・・・三冠競走の一つが、世代トップの1頭に見向きもされないという状況、ええんかいな?三冠戦の権威も値打ちも何も、あったもんじゃないではないか。

このあたりに関して少々。
福山競馬には3歳重賞が多い。秋シーズンにおいても然り。10月下旬から12月にかけての2ヶ月弱の間に、4つも存在する。うち、鞆の浦賞とアラブ王冠は三冠戦であり、その間に位置する全日本アラブグランプリ(以下AGPと略)は全国交流頂上決戦、と、大一番が詰まっている。今年は特に、AGPとアラブ王冠の間が中1週となってしまい、よりタイトさが増している。こうなると有力馬が、全ての重賞に全力投球!というわけにはいきにくかろう。結果として、それぞれのレースの値打ち、薄まって落ちてしまうのだよな。
因みに春シーズン。こちらも重賞の数は充分なのだが、これまた問題が存在する。すなわち「鎖国政策」。キングカップ、クイーンカップ、福山ダービーは、他地区デビュー馬には出走資格が、ない。
というわけで、「重賞体系、見直す時期にきているのではないの?」と、正直なところ思う次第。触れるに当たっていい機会だと思われたので、脱線承知で、失礼いたしました。

さて、スイグン不在となれば、中心はやはりユノエージェント。AGP敗北の汚名、晴らしたいところだろう。が、この時のあまりの暴走ぶりに、ちょっと全幅の信頼は寄せ辛くなっているというのは、個人的には正直なところ。
好印象という点では、そのAGPで2着したクールフォーチュンの方が上。この時はホンマによく駆けた。これだけ走れれば、勝利の目も充分あろう。
他にも、園田・福山交流特別の勝者ラピッドリーラン、クイーンカップと銀杯、いずれにおいてもラピッドリーランを下して勝ったデザートビュー、3歳牝馬特別でラピッドリーランを敗ったその勝者イケノスカレー、2歳時ヤングチャンピオンを勝ったユタカリュウオウ、と、この世代の重賞ウィナーが、近々の充実度や能力はともかくとして、全て顔を揃えた。さあ、世代限定重賞、最後の星の行方は?

当日の概況
現地には1時頃着。天気晴れ。今年は例年よりは冬の訪れが遅いようで、12月中旬となったこの日でも、日差しが降り注ぐスタンドで過ごしている分には暖かい。
馬場状態は重。砂は水分を含んでいるが、キメは粗くて粘っこそう。この週末を前に砂入れをしたそうで、若干深め。目撃した範囲では、好位から早目に進出した馬の連対が多いような。捲り差しでの連入も見られた。

レース模様
距離1800m、発走地点はお馴染み2コーナー。
ラピッドリーラン、今日は遅れずスッと出て、一瞬先頭となるが、程なくデザートビューが、これを抜いてハナに立つ。注目のユノエージェント、今日は無理には逃げず、これら2頭を前に見る3番手に陣取る。クールフォーチュンは外目4番手、大外シルクダイオーが直後に続く。イケノスカレー、モナクラムセスが次いで好位に。
正面スタンド前。デザートビューが単騎逃げ、後続を4、5馬身は離して引っ張る。2番手にラピッドリーラン。ユノエージェントはラピッドリーの外、半馬身強下がった3番手。次列インにイケノスカレー。同列外にクールフォーチュン、頭を下げて手綱は相当張っており、鋤田騎手も前傾フォーム、掛かっている感じ。フォーチュンの外直後にシルクダイオー。ここでやや切れて、以下は中団以下、ムサシボウタッチが7番手、今日は殿ではない。次いで内マルサンホーエイ外ユタカリュウオウ、最後方にモナクラムセス。
1周目、先頭(29KB)
1周目の正面スタンド前、逃げるデザートビュー
快速牝馬、キャラ出た単騎逃げ
1周目、先団(31KB)
1周目の正面スタンド前、2番手集団
ユノエージェント3番手ガッチリ、外にフォーチュンが

向こう正面に入ると、先頭デザートビューと2番手ラピッドリーランの間隔が次第に詰まってくる。ユノエージェントは直後に余裕で。イケノスカレーは、バック早々に後退してしまう。
そしてバック半ば、ユノエージェントが仕掛ける。これに合わせて、クールフォーチュンも進出開始。そして三角手前、ユノエージェントが早々に先頭に躍り出る。デザートビューはちょっと降参。一方ラピッドリーラン、エージェントには交わされながらも、引き離されずに1馬身圏内で追走、そのまま三分三厘、そして4コーナーへと。クールフォーチュンも外から追い上げるが、その行き脚、勢いはイマイチ。前2頭から置かれてしまったデザートビューを抜くことすら手間取っている状態。
4コーナーから最後の直線。先頭はユノエージェント。余裕たっぷりの走り。ではあるが、目立ったのはラピッドリーラン。エージェントの内、半馬身圏内に渋太く食い下がって、エージェントを独走させない。前2頭を追うのはクールフォーチュンだが、その差をなかなか詰めることが出来ず、直線に入ると、逆に離され始めてしまう。
決着。ユノエージェントがそのまま押し切って、二冠達成のV。ラピッドリーランが1馬身差で2着粘り切り。クールフォーチュンは3馬身差にまで迫るのが精一杯の3着。4着デザートビュー、最後まで、何だかんだで内で粘っていた。

ユノエージェント(35KB)
ユノエージェント、悠々押し切ってV
今日は珍しくメンコ被ってのレース

  1着 5○ユノエージェント  牡3 54.0 嬉勝則 番園一 501-3 1人 1:58:2
  2着 7 ラピッドリーラン  牝3 53.0 片桐正 那俄哲 450-6 6人 1:58:4 1
  3着 9◎クールフォーチュン 牡3 54.0 鋤田誠 鋤田久 447-2 3人 1:59:0 3
  4着 6△デザートビュー   牝3 53.0 吉延忠 徳本慶 481+5 2人 1:59:9 4
  5着 10 シルクダイオー   牡3 54.0 池田敏 末廣卓 454+3 9人 2:00:1 1
  6着 4 ムサシボウタッチ  牡3 54.0 石井幸 石井勝 486+8 7人 2:00:3 1
  7着 1 モナクラムセス   牡3 54.0 岡田祥 荻田恭 453-2 5人 2:00:4 クビ
  8着 2 マルサンホーエイ  牡3 54.0 對ィ雄 弓削和 515+4 10人 2:00:7 11/2
  9着 3▲イケノスカレー   牝3 53.0 渡辺博 吉井勝 505+1 4人 2:01:3 3
  10着 7 ユタカリュウオウ  牡3 54.0 野田誠 堀部重 455+1 7人 2:03:3 大差
    (予想印はワシの現地最終判断)
出走馬へのメモ
ユノエージェント(1着)
気分よくパドックの外目を周回。ガシガシの歩様。馬体張りは充分。返し馬では真っ先にホームにやって来て、気合い充分の駆けり、これもこの馬の常。
これまでとは異なり、メンコ被ってのレース。行きたがる気性を抑えようとの意図か。サスガに前走AGPで懲りたか、陣営も「今回は逃げたくない。」と思っていたようで、その気持ちがこのあたりにも出ていよう。
デザートビューという、快速の逃げプロパーがいるお陰で、願ったりの先行3番手。早々に先頭に立って、そのまま押し切った。AGPで自滅して、その影響が気になった、特にメンタルなところで気になったのだが、この中にあっては、やっぱり能力は最上位。
ラピッドリーラン(2着)
トモの踏み込みが目立ち大股なのは個性。キビキビとした身のこなしだが、冬場を迎えて、毛あしは長くなってきた。これは昨年と同様。出負けせず好発から、2番手での競馬。最後まで粘り切った、その力強さが目立った。個人的にはAGP大敗(尤も、これは明らかに距離が長いが故なのだが)に出負け癖も相まって、無印評価。しかしながら彼女自身は、ビーナス賞も3歳牝特も2着と、要所要所で結果は出している。侮れない力を有しているなあ。
クールフォーチュン(3着)
鞆の浦賞やAGP時と同様、馬体のボリュームはいい感じ。ただし毛艶はややくすみ気味で、張りは並。気っぷはいいが、換言すればセカセカした感じとも。先団・好位からの競馬は問題ないが、道中かなり掛かった感じ。そして何より、勝負所からの動きが全く案外。前走AGPの好走からすれば全く不満。「本気で走ってくれない。」とは陣営の評だが、確かに気紛れな感じが大いにする。「やる気になってくれないと困るよなあ。」と、同じく今回これに期待していた"現地駐在"おさるさんと。
デザートビュー(4着)
前々開催に休養から復帰して、今回明け2戦目。胴回りはまだまだ緩く太い。歩幅が狭く動きか硬いからか、妙にパタパタした歩様。前肢の捌きも硬い。レース前半は単騎逃げで個性を発揮、しかし後半は保たず。それでも4着に残ったというのは、より下位の馬たちとの地力差だろう。それにしても、不可解なのはこの馬の状態。「エビ患っている。」との噂が絶えないのだが、その一方で、予想紙上では、直前調教、一杯追いで好時計出ている旨が載っている。ホントのところ、実状はどうなのよ?
シルクダイオー(5着)
兵庫にて世代上位の一角だった1頭。11月1日が当地緒戦で、今回福山4戦目。兵庫時代よりも目方増えてはいるが、値通り、どっしり実が入って大きくなった感じ。張り艶もいい。見映えはかつてより上がった。じんわりと周回。好位維持でこの着順。まずまずなのでは。
ムサシボウタッチ(6着)
馬体張りと毛艶は上々。パドックの内々を周回。前半身の厚みは3歳前半までよりは増した感じ。本馬場入場時、ゴール50前地点あたりで暴れて放馬、下馬所前で捕まって、石井騎手が再騎乗して再入場。中団からちょっと押し上がったに留まった。
モナクラムセス(7着)
馬体張りと実入りはなかなか。胴のラインが下がった、ちょっと背垂れなフォルムではある。小走りになったり、首を振り上げ振り下げしたりと、気配は煩い。返し馬も手綱張って行きたがった走り。鞆の浦賞4着の後、C2の2組戦1組戦を連勝。今回ソコソコ期待を集めたが、序盤から痛恨の後手踏みで、最後方からの競馬。これではちょっと間に合わない。
マルサンホーエイ(8着)
馬体重515kの値通りの大型馬。体型も雰囲気もゆったりとしていて、張り艶も良好、見た目は好印象。レースでは印象薄かったけれども。
イケノスカレー(9着)
胴長で伸びやかな体型。落ち着いていて気配に品のある馬。踏み込みも出ている。その一方で毛艶は並で、馬体張りも3歳牝特時の方が上。好位インはこの馬、そして渡辺騎手らしい位置取りだと思うが、レース中盤早々に圏外に。それにしてもブービーという着順は酷い。何がどうなったのかは知らぬが、負け過ぎ。
ユタカリュウオウ(10着)
骨格と肉付きがしっかりしているのは元々。パドックの内々を、覇気無く周回。レースに行っても後方ママで大差大敗。春先のキングカップ前に転倒して頓挫。そこから復帰して3戦するも全て大敗。復活には程遠いようだ。「能力や地力云々よりも、精神面の方が問題。レース走る気に、全くなっていないんだもん。」とは、おさるさんが語ったところ。
おしまい
終わってみれば、ユノエージェントが危なげなく順当勝ち。まあ、地力さえ確かなれば、未知の相手と対戦するわけでもないのだから、大崩するような危険性は、少ないってことだよなあ。
それにしても、釈然としないのは全日本アラブグランプリのこと。今回キッチリ決めて、汚名返上、成ったと見なせようところ、ファン心理というものはややこしくって、容易くそうはいかぬのだなあ。すなわち――
「何ぁんでこのレースを、アラブグランプリでしなかったんや!?出来るやないけ!」
  ↑
 現場でレース観た、全てのアラブファン、共通の想いなんじゃないのかな?

2004.3.13 記

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