ファン選抜 第24回有明大賞典観戦報告

 2003.12.28、福山、2150m

レースのあらまし、そして見どころなど
荒尾競馬、大晦日恒例の一番と言えば、ファン選抜アラブチャンピオン。今年はこれが28日と若干日程が早まり、名称も「有明大賞典」と改まっての施行となった。
レースの回次が「第24回」と、アラブチャンピオンを引き継いでいることからも窺われるように、レースの実態に変化はない。すなわち、荒尾所属馬限定の、出走馬選出にファン投票が介在する、距離2150m重賞。

「ファン投票」と銘打たれると、「出走メンバーに特色出そう。」とは、自然と思われようし、そうあって欲しいところ。ところが、このレースのファン投票が曲者で、例年予め定められた投票対象馬は、既存のA級上位馬ばかり。これらの大半を、上がり目殆どなく余生を過ごす、他地区デビューのロートル馬が占めるわけで、真新しい、目を惹くメンバー構成には、全くなり難いというのが現状。何とも困ったもんなんである。
今年は同日に金沢で北國アラブチャンピオンも施行予定で、「"ファン選抜"、メンバー今一やったら金沢だな、北陸寒そうやけれど。」と、両レースを天秤に掛けつつ、期待せず見守った出走馬発表。さて、蓋を開けると・・・
古馬筆頭で昨年同レースの覇者コウザンシンオー、3歳トップで全日本アラブグランプリ3着好走のワタリタキオン、オ○マの実力者で昨年2着のハイメーカーが堂々登場。加えて嬉しいのは、例年ならばファン投票対象にも入れて貰えなさそうな、A2A3クラスで足踏み強いられている素質馬の出走。すなわち、4歳の実力馬3頭、ダイナマイトキング、クニノオーカン、イマリオーエンス。
こうなると状況は、アラブマニア待望の「荒尾最強馬決定戦」。「これは荒尾でいいでしょう。金沢は、またまた"女帝"が勝つやろし。」とばかり、荒尾行きとなった次第(この選択が、最終的に良かったのだかどうかは、おしまいに)。

当日の概況
この週末を前に、全国的に寒波襲来。当日の荒尾の空気も冷たい。天気は快晴。
バサバサの良馬場。基本的には先行有利。馬場外目の差しも見られるが、終い逆転し切れない。確実に勝利しようとするならば、好位より前で競馬をしたいところだ。

レース模様
距離2150mのスタート地点は2コーナー。年の瀬の午後4時過ぎ、好天のもと、西に傾いた太陽が光を投げかけ、スタンドでカメラ構える者にとっては、完全に逆光状態。
ゲートが開く。ダイナマイトキングが好発からそのまま押されてハナに立ち切る。内イマリオーエンスも好発だが、積極的な他馬の前に次第に位置を下げる。そこでハイメーカーがすかさず2番手に。サンエイエンジェルも、外からクニノオーカンも先行主張。ワタリタキオンもゆったりとは構えずこれらに混じって先行態勢。3、4コーナー半ばではそのタキオン、さらに前に出て、クニノオーカンやサンエイエンジェルに先んじる。
正面スタンド前。先頭変わらずダイナマイトキング。1馬身ほどの差で、外目でハイメーカーが続く。そのさらに外、1馬身弱の僅差で、ワタリタキオンが早くも3番手。次列内サンエイエンジェル、中イマリオーエンス、外クニノオーカン。ここまでが先行集団。以下やや開いて、内にツルギビックワンが、そしてその外にコウザンシンオーが続く。モリヒロシャープ、ダイメイノボル、スターライトマグマは後方から。

1周目(46KB)
最初の正面スタンド前、先頭内ダイナマイトキング
2番手ハイメーカー。直後外の赤メンコがタキオン

1コーナーから2コーナー、先頭ダイナマイト2番手ハイメーカーは変わりなく接近して進行、2馬身程度あって、3番手タキオン以下第二集団が続く。
向こう正面、まずは中団からコウザンシンオーが動く。古馬筆頭の意地、前へ押し上がらんと。三角手前までに、どうにか先行勢の位置まで届くものの、結局ここまで。そこから先へは上昇叶わず、万事休す。
一方フロントでは、3コーナー手前、ハイメーカーがGO。直前を行く先頭ダイナマイトキングの外へ併せにかかる。そして三分三厘、早々にこれを交わして先頭に立つ。これを見て、ワタリタキオンも早目のタイミングで追撃。エンジンは掛かった。
最後の直線。逃げ込むハイメーカー。ワタリタキオンは馬場外目、差し脚繰り出し必死にこれを追う。が、勝負を分けたのは道中の位置取りの差か、間隔を詰め切れない。結局ハイメーカー、粘り込んで、待望の重賞初勝利を飾った。
ワタリタキオンは2着。その差1馬身なれど、着差以上に開きがあったような印象。ダイナマイトキングがそのまま3着に残った。

ハイメーカー、ゴールへ(36KB)
ハイメーカー、先行押し切りゴールへ
着差の割に、かなり悠々走っている感じ

  1着 4▲ハイメーカー    セ5 54.0  尾林彦 中尾信 498 +4 3人 2:25:0
  2着 10◎ワタリタキオン   牡3 53.0  吉田隆 宇都徳 440 -1 1人 2:25:2 1
  3着 5△ダイナマイトキング 牡4 54.0  高山伸 松島壽 491 +6 7人 2:26:2 5
  4着 7 モリヒロシャープ  牡6 55.0  古泉悟 田中隆 479+11 6人 2:26:3 1/2
  5着 9 ダイメイノボル   牡5 54.0  吉留孝 後藤禎 451 +4 10人 2:27:0 4
  6着 6 コウザンシンオー  牡5 56.0  西村栄 福島幸 489 +6 2人 2:27:1 1/2
  7着 8○クニノオーカン   牡4 54.0  新町充 古澤清 482 +8 4人 2:27:2 クビ
  8着 2×イマリオーエンス  牡4 54.0  杉村一 工藤榮 435 +6 5人 2:27:3 1/2
  9着 11 スターライトマグマ 牡9 53.0 ☆河野直 大久眞 519 +5 11人 2:27:5 1
  10着 1 ツルギビックワン  牡3 49.0 ▲田中純 佐伯茂 490  0 9人 2:27:6 1/2
  11着 3 サンエイエンジェル 牝6 54.0  矢野猛 大久眞 447 +4 8人 2:31:5 大差
    (予想印はワシの現地最終判断)
出走馬へのメモ
ハイメーカー(1着)
異様に背高脚長なのは個性、やっぱり目立つ。馬体張りあり見映え良好。終始鶴首になって気合い乗ってのパドック周回。自在性ある脚質で現状地力も上位、前々の競馬もあり得る近況だが、それにしてもこの長丁場での早々2番手は積極的な競馬。先行有利な馬場状態を考慮した尾林騎手の好プレーか。「あれは尾林さんらしくない乗り方だったなあ。」とは、後日某関係者が評したところ。馬自身は1年越しでの戴冠。力あるのは周知のことなので、順当勝ちでもある。
ワタリタキオン(2着)
実入りと馬体張りは充分。でありながら、ルックスは概してスカッとした印象。シャープ。キビキビとした身のこなしで気合いも乗っている。ちょっとトモの送りは硬いか。差し脚の斬れが最大の武器で、序盤中団からの追い上げが真骨頂だろうが、今回は地力差と、何より先行有利の傾向を踏まえてか、序盤から前々の競馬。よく末脚も繰り出せたが、勝ち馬も実力者、且つ、道中自身より、より前で乗り切られてしまった。しゃあない。
ダイナマイトキング(3着)
ブリブリのボリューム感でガッチガチの逞しさは元来のもの。されどちょっと実入りと馬体の締まりは今一歩のような。身のこなしは硬く、歩様も然り。トモの踏み込みが、歩みについてこないような。主戦吉田隆二騎手はワタリタキオンに乗るので、今日は高山騎手騎乗。勝負所での爆発力ある脚が売りの先行・好位差し馬なのだろうが、今日は逃げの手に。結果、強豪2頭に次いで逃げ粘ったのだから、これで当たりかも。
モリヒロシャープ(4着)
福山でB1まで出世した馬。因みに'00年の瀬戸内賞(あのモナクマリンが制した伝説的レース)で4着。今秋から当地所属。馬体重よりは大きく見せる。キビキビとした身のこなしで歩様にも活気あり、トモの踏み込みも大きい。前半後方追走からここまで追い上げた。が、勝負の趨勢には全く関わっていない。
ダイメイノボル(5着)
コウザンシンオーが福山遠征で不在だった肥後さざんか賞の勝ち馬で、数少ない生え抜きのオープン馬。とは言えA1勝ちはない。馬体の出来はスカッとしているが、トモの力感はイマイチ。4着馬より後方から、直線だけで押し上げてこの着順となった模様。
コウザンシンオー(6着)
お盆のアラブ大賞典で逃げ沈没して以後、秋は慎重に使われて無敗。今回も不動の中心であるべきなのだが。その姿、胴の締まりは緩く、実入りも今一歩。冬毛気味で艶も悪い。周回気配も覇気に欠けるもの。何より問題なのは右前の蹄。何と紐で縛ってあるではないか。重度の裂蹄であることは一目瞭然。「こんなん、何で出すんだ?」状態。予想紙のシルシは重かったものの、これで躊躇いなく無印評価に。案の定好走叶わず。恐らく走りっぷり以前の問題。
クニノオーカン(7着)
馬体張りと艶、実入りは最高。首の付く角度が立っているので、調子良さげだと、自然と胸を張って堂々とした風情となる。目方以上に大きくも見せ、気配は最高。ソツない先行競馬で好走を大いに期待したのだが。2周目三角の勝負所以降、前に付いて行けず、残念な結果となってしまった。肥後さざんか賞の二千戦を制してはいるものの、ひょっとすると、本質的に長丁場は合わないのかも知れぬ。
イマリオーエンス(8着)
毛艶は良好。大柄ではないが今日は意外に馬体が厚く見え、小ささを感じさせない。外をのんびり見渡しつつ、ゆったりと周回。夏場は休んで秋から始動。自在性あるにせよ、以前は先行タイプだった筈、それが復帰後は何故か差し競馬ばかり。今日も発馬は良好ながら結局好位からの競馬に。そしてそのママ。単にスピードが戻っていないだけなのか?本格的に脚質転換中なのか?生え抜き現4歳勢では筆頭格なので、この結果は不満。
スターライトマグマ(9着)
大型馬、胴長ながら腹回りだけやたら太い。気配は甚だもっさり。歩様はガタガタ。レースは後方ママ。現9歳、いくらここが荒尾とは言え、A1張るのは相応しくないのでは。
ツルギビックワン(10着)
3歳での出走だが、荒尾記念でワタリタキオンに敗れて以後は勢いに急ブレーキ。復調の気配も鈍い。身のこなしは柔らかいが、周回速度が遅く、覇気は低い。毛艶は今月2日ヤングチャンピオンデーに目にした時より僅かに上向いてはいるが、いきなりの古馬オープン挑戦は、現状苦戦必至。案の定この着順。それにしても、肥後さざんか賞で同馬を完全に下した、且つ所属クラスに大差ないユメゴゼンがここに出られず、これが登場できるその仕組み、謎だ・・・
サンエイエンジェル(11着)
大人しい周回気配。歩幅はある方で、意外に胴長。先行するも保たず最下位。兵庫、笠松と転籍して秋口から当地所属に。移籍緒戦2戦目こそ2着3着だったものの、以後はソコソコにとどまっている。6歳牝馬、キタサンブルー産駒に晩熟度は乏しかろうし、上がり目疑問。
ハイメーカー、口取り(55KB)
レース後、裏手での口取り撮影。こっちを向いて下さる関係者さん
尾林兄も嬉しそう

おしまい
本音としては、順当にワタリタキオンに制して貰うか、不遇な実力4歳馬の誰かに目立って欲しかったところ。まあ、ハイメーカーも力あるお馬なので、結果に不満はございません。
ただ、荒尾の二千超重賞って、毎度毎度、上位入線馬の着差がバラバラになってしまったり、比較的早い段階で勝ち馬が抜け出して圧勝したりで、集った馬のレベル差以上に、大味な競馬になりがち。今回もその部類。「やっぱりこんなもんかなあ。」と割り切れる一方で、「何だか食い足りない。」と思えてしまうのも、事実だったりする。

さて、現地観戦袖にした格好となった、金沢・北國アラブチャンピオンの結果は・・・
伝え聞くところによると、スーパーベルガー、先行集団から2周目三角でズルッと後退、万事休すと思ったところ、終い息を吹き返して外目驚愕の差し切り大逆転優勝!「今年のベストレースやわ。」との声も複数挙がったほどの名勝負だったようで。

「ああ、行くレース、間違えたかな・・・」←こんなこともあるわいな。


2003年、決算報告、そして御礼をば
これにて、2003年、ワシのアラブ重賞観戦報告、完筆でございます。
秋以降、とにかく執筆ペースが鈍ってしまいまして、殊に最後の2レースは、施行後半年以上も経った、翌年7月になって完成するという体たらく。完成を待って下さった方が、もしいらっしゃったならば、この場で深くお詫び申し上げます。
実のところ、筆者を取り巻く環境が変化して、正直、「もう無理。」状態なんですわ。さりながら、「せめてこの年の分だけは完成させねば区切りもつかないよなあ。」という意識もありまして、この度、どうにかこうにか、形にできた次第であります。
ここで今更ながらではありますが、例年通り、自己満足的なきらいをお許しいただいて、決算報告を。
今年観戦が叶ったアラブ(が出走した)重賞の数、何とか50の大台に乗りました。施行された重賞の数自体が大幅に減少した中、この数字はかなり限界に近いと我ながら思っております。書いた観戦記は非重賞の6レースを加えて、56本となりました。これ、実は過去4年で最高となりました。

最後に、現場でお会いした皆様に、そして拙観戦記にアクセスしていただいております、数少ない読者の皆様に、この場を借りまして、厚く御礼申し上げます。
加えて、この時代に走り続ける、アラブのスターたちにも――

2004.7.5 記

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