第1回荒尾銀盃観戦報告

 2002.2.17、荒尾、2000m

はじめに〜荒尾銀盃の理想と現実
3月初頭、佐賀の西日本アラブ大賞典を前に、九州アラブチャンピオン共々新設された、荒尾銀盃。新設経緯の考察は九州アラチャンの拙観戦記冒頭に記したので重ねては触れない。が、九州交流のアラチャンはともかく、荒尾所属馬限定戦で1着賞金150万円の重賞が、西日本アラブの出走馬選出に、いかばかりの影響力を持つかは甚だ疑問ではあった。案の定、荒尾銀盃の前日に、彼のレースの他地区出走馬は発表され、荒尾銀盃の結果が考慮される余地は失せた。
かくなる状況で、このレースに望むものとなると、イキのいい上昇馬と、現在荒尾に相当数在籍するかつての活躍馬、すなわち古豪とが相まみえる、真の荒尾王座決定戦、であったのだが・・・

発表された出走馬は以下の通り。一応フルゲート12頭。()内は騎手、性齢、斤量。
ピアドハンター(西村、牡8、55k)、メグミダイオー(吉井、牡7、56k)、イチノキングオ(笠田、牡7、55k)、マーキュリサンダー(椎葉△、牡8、53k)、アサノクーペ(佐藤▲、牝7、51k)、ミナミトライバル(田中、牡7、55k)、シルバーハヤカゼ(中留▲、牝8、51k)、ツルギネオン(牧野、牡8、55k)、ワールドアイ(古泉、牡8、55k)、アシュラトウショー(吉田、牡8、54k)、オカノテイセン(尾林、牡9、55k)、オスズリキオー(新町、牡9、55k)
負担重量は別定。椎葉騎手は△(2k減)、佐藤、中留騎手は▲(3k減)の減量騎手で、今回その減量が適用されている模様。

実に何とも・・・「近走着順悪い馬が多過ぎだぞ、全く。」と、Tienさんやさまにべっぴんさん、アラブウォッチャーの3号馬さんらが一様に呆れる状況なのである。
それもひとえに、上昇馬の4歳筆頭コウザンシンオーと、巨漢素質馬シルキーオーが、クラスの壁に阻まれて重賞挑戦が叶わなぬが故のこと。「以前と比べてレースの賞金下がってるのに、クラス編成の仕組み(所属各馬の番組賞金の算出等)は昔のままだもん。これじゃ勝っても勝ってもクラスなんか上がりっこない。おまけに他地区から賞金持ってる馬がどんどん移籍してくるし。」とさまにべっぴんさんが説明して下さる。因みにこの両者、結局前日のB1B2戦菊池川特別に登場し、2番人気のシルキーオーが5馬身差の逃げ切り勝利。1番人気コウザンシンオーは差し競馬で届かず2着であった。
となれば興味の対象は、名の売れた古豪たちの対決ということに。しかしこれも、2週前九州アラチャンに出走したイセイチフブキの不在は致し方ないにせよ、老け込むには早いスマノハピネスと、差しの曲者トウホクシルバーまでもが姿を見せず、不満。元来ワシはベテラン馬に優しい人間であり、現在の荒尾古馬戦線を「アラブ界のマスターズリーグ(ちょっと失礼か)」と見なして、非常に楽しみにしているのであるが、サスガにこの面々では、物足りぬ印象は拭えない。それにしてもこの面々の馬齢、みんな7歳以上なのである。
ということで、残る焦点はただ一つ。すなわち、西日本アラブ大賞典への出走が決まった、メグミダイオーの走り。前走九州アラチャンを見せ場乏しく7着敗退し、ここからいかに巻き返すかという。
因みにメグミの前走凡走の原因は、ゲートを乱暴に閉められ暴れた時にスタートが切られ、後手を踏んで少し掛かり、なおかつごちゃついて走る気をなくしたようで、とのこと(荒尾競馬の決め手さんのHP、その掲示板への"メグミのパパ"さんの書き込みの要約)。出来は良かったそうで、力負けでは全くないと。敗因を踏まえ、次の大舞台へいかに繋げるレースとするか、要注目なのである。

当日の現地の状況など
この日は雨だと、週間天気予報は告げており、非常にイヤな感じであった。が、直前の予報では、午後になると雨はやむという内容に変わった。そして迎えた当日、雨に降られぬ事を強く願って、九州へ。
現地には正午前に到着。その荒尾の天気、路面は濡れているものの、幸い雨粒は落ちていない。午前中にやんだようだ。時間が経つうちにどんどん天候は回復し、雲が薄くなってくる。メインレース前には、時折雲が切れて日が射すまでになる。季節柄からすれば、さほどの寒さではない。加えて風もほとんどなく、しのぎやすい。
馬場状態良でレースは開始されたところ、路面がこの雨を吸って、3レースから稍重発表となる。砂が軽く水分を含んで、何とも適度な湿り気を保った馬場となっている。
荒尾競馬場の場内にはJRAの場外馬券売場が設けられており、この日はGIフェブラリーステークスの発売が行われている。このため通常時より格段にお客さんが多い。「これで荒尾競馬の売り上げは増えるの?」と、さまにさんに訊くが「いやあそんなことは・・・」と、想像された通りの答えが返ってくる。

パドックから発走まで
さてパドック。
1番ピアドハンター。入場して1周すると今回も馬っ気爆発。一旦はおさまるも周回後半で再爆発。これがダラリンどころでなくギンギンで、まさに猥褻物陳列罪。馬体は前走ファン選抜から引き続いて毛艶は文句なし。若干胴回りは太めで歩様は硬いか。
2番が注目のメグミダイオー。馬体重495kは前走比-8k。「メグミ500k切ってかなり減らしてきたなあ。」と、馬体重発表時ちょっと気にするさまにさん。しかし登場した馬体は相変わらず堂々としており細め感は皆無。どっしりガッチリした体型、いつものメグミ。毛艶も良好。ゆったり大人しく周回しており、身のこなしも柔らかい。特筆すべきは着用したブリンカーメンコ。「今回はあれ着けて走るん?」さまにさんに問うと、曰く「どうもそうらしい。前走の敗因踏まえて、レースに集中させるための策みたい」とのこと。
3番イチノキングオ、5番アサノクーペ、6番ミナミトライバルは共に昨年半ば福山から転入してきた馬で、福山時代にはA1も走ったことのある、いわゆるヒラオープン馬だった面々。イチノキングオはコロンとした小柄な体型。胴回りに冬毛ボーボー。トモの送りがギクシャク。アサノクーペは明るい栗毛で毛艶も馬体張りもかなり良い。踏み込みも力強くなかなか好感。ミナミトライバルは鹿毛の毛艶と筋肉の付きはいい感じだが腹回りが緩い。前半身に比して後肢の力感が乏しい。
4番マーキュリサンダー。'97年園田菊水賞馬で楠賞と六甲盃は2着。超良血のお坊ちゃんも8歳。兵庫→岩手→佐賀→兵庫→福山と彷徨って、昨秋より荒尾に身を寄せる。時代が時代ならば、とっくに種牡馬になっているところ。岩手時代後半から力落ちが顕著で、若い頃の好走は望むべくもない現状。さてその気配、毛艶はソコソコなれど腹のラインがちょっと太い。歳を考えればキビキビとした身のこなし。
7番シルバーハヤカゼ。荒尾の熟女も明けて8歳となった。黒鹿毛の馬体は相変わらず良い毛艶。馬体重468kは前走比-6kで前々走ファン選抜からは-10kと漸減傾向だが、何となく腹はファン選抜時よりも緩そう。
8番ツルギネオン。'99年金沢アラブ系年度代表馬も'00年以降は勝ち星にありつけず、イセイチフブキ共々昨秋荒尾に移ってきた。金沢時代の印象に比して、馬体の線が太いような感じがするがあくまでイメージの問題。ジンワリとした気合いで大人しく周回。雰囲気はある。毛艶も良好。鹿毛の毛色が以前に比して妙に明るい。
9番ワールドアイ。福山のオープン大将が昨春完全に頭打ちになって、佐賀へ移籍。しかし佐賀では6月に1走しただけで秋には荒尾へ。荒尾2戦目となる3走前の12月戦で勝っている。福山時代、常時馬体重490k超だった馬が、佐賀の6月戦では478kで登場して、馬体減りがテレビ映像からも歴然、あれは酷いものだった。今日は504kと、かつての数値に戻している。ドッシリした腹回りと横幅は以前と同じ。毛艶はソコソコ。福山時代はメンコ常用で後半は特大ブリンカー着用だったのだが、今日はパドックから素顔。舌括りもなく、おかげでベロをデレデレと。素顔は思ったより理知的。しかし、とにかく頭がデカい。
10番アシュラトウショー。昨夏までは佐賀所属で昨年の九州アラブ王冠賞にも登場したが(4着)、秋には荒尾へ移籍。皮膚の薄そうな栗毛の馬体。ガッチリした筋肉の付きで、その艶と張りは良好。
11番オカノテイセン。胴長体型で覇気を見せぬ周回気配はこの馬なり。動きは柔軟だが、胴回りはちょっと緩んだ感じ。ファン選抜6着、前走5着。この馬も明けて9歳、かつてのような、先行競馬はさせてもらえなくなっているよう。
12番オスズリキオー。毛艶は特段良いわけでもないソコソコな感じなれど、相変わらずスッキリとした体型で、余裕の周回気配。これはホントにこの馬ならではの品の良い雰囲気。彼も明けて9歳。そして今回出走の面々のうち、唯一の荒尾生え抜き。

本馬場入場から返し馬に。ピアドハンターはやや強く。メグミダイオーは力強く駆ける。ミナミトライバルはコースを逆走。シルバーハヤカゼはフラフラと。ワールドアイは福山時代と同様首を下げて、重心低く力の入ったキャンター。アシュラトウショーは軽め。オスズリキオーも軽快に。オカノテイセンは楽走。
予想。メグミダイオーの地力上位は疑うべくもなく、前走の敗因も明確とあれば、このアタマは鉄板。考えるのは相手だけ。だが、とにかく近走成績の悪い馬ばかりなので、却って困ってしまう。その中で最近A1を勝ったのはワールドアイだけということで、必然的にこれが押し出されるように相手筆頭となっている。ワシもそれに逆らうべくもなく、まずはワールドアイを。加えて、オスズリキオー、ツルギネオンあたりへ、馬単で。しかしメグミ→ワールドのオッズ、3倍強と、あまりに安い。「締め切り10分前くらいの時点で、馬単のオッズ、メグミアタマ以外で100倍以下なの6点くらいしかないんだもんな。」とTienさん。確定オッズでも、その点数、132通り中僅かに10通り。そこでTienさんはアシュラトウショーあたりがヒモの狙い目。曰く「だってワールドアイなんか安くて買えねえもん。それにこのメンバーじゃあ、どれも力的に変わりゃしないし。」とのこと。

レースなり
距離2000m、発走地点は2コーナーを立ち上がって暫く行ったところ。スタンドからはゴール板を挟んでちょうど真っ正面のあたり。
ゲートが開く。最内ピアドハンターの出が目立ったが、これは程なく控える。隣のメグミダイオーも好ダッシュ、こちらがそのままハナに立つ。連れて中からシルバーハヤカゼ、外にツルギネオン、直後にワールドアイが続き、ハンターはこのイン4番手に。次列にマーキュリサンダーやオスズリキオーが付けた模様。最初の三分三厘では中団以降はやや離れて、ミナミトライバル、イチノキングオ、アシュラトウショーの順で後方、そして殿がオカノテイセン、今日も先行できず。
隊列は正面スタンド前に。先頭引き続きメグミダイオー。3、4馬身は後続を離しての単騎逃げ、耳が外に出るブリンカーメンコを被って。折り合いは問題なさそう。次列中でシルバーハヤカゼが半馬身ほど前に出て2番手で、この内にピアドハンター、外ツルギネオンが併走。ここからやや開いて、内からアサノクーペ、マーキュリサンダー、ワールドアイ、オスズリキオーと並んで。この直後にミナミトライバル。以降は差があって後方。イチノキングオがケツ3、そしてアシュラトウショー、直後外に殿オカノテイセンと続く。

1周目(33KB)
1周目の正面スタンド前
先頭ジワリとメグミ、次列中シルバーハヤカゼ外ツルギネオン

レースは1、2コーナー。そして向こう流し、メグミダイオーが馬なりで後続をチ切り始める。バック半ば手前で単騎独走態勢。既に勝負あり、以降は後続を突き放すだけ。文章を綴るのにも困る状況。
一方メグミに置かれた2番手以降だが、バック半ば、ちょうどスタート地点を通過したあたり、残り800mでシルバーハヤカゼが1頭集団を抜け出す。前のメグミがあまりに離れているので、単騎抜け出し先頭と変わらぬ状態。ということで三分三厘では、メグミ−ハヤカゼ−それ以降、と、間隔ドカ開き、大味なレースとなった。
最後の直線、独走メグミダイオー、しかも鞍上吉井騎手はほとんど追うところもなく持ったまま。後続との差は縮むどころか開く一方。というわけで逃げ切り楽勝のVゴール。ところが、2番手以降がなかなかゴール前に辿り着いてこない。
その2着争い。一時は後ろを相当離して単走に持ち込んだシルバーハヤカゼだが、直線に入って、ワールドアイがやっとこさっとこ追い付いてくる。直線半ばあたりで外から並びかけて、ジワリジワリと抜け出して何とか2着。そしてゴール直前、大外からアシュラトウショーが急襲、前2頭を呑み込むかという勢いだったが、結局シルバーハヤカゼが3着に残る。ワールドアイとは1馬身差。アシュラトウショーはクビ差及ばず4着。5着三分三厘捲ったらしいオカノテイセンだが、リアルタイムでは印象皆無。ピアドハンターは6着、オスズリキオーは7着。ツルギネオンは先行するも後半後退の10着。マーキュリサンダーは11着、レース中の彼に意識すら行っていない。

メグミダイオー、ゴールへ(32KB)
ゴールめがけて独走メグミダイオー
初着用のブリンカーメンコ姿
ワールドアイvsシルバーハヤカゼ(38KB)
2着争い、外からワールドアイがジワリと
内シルバーハヤカゼを交わす

レース終わって、振り返る
というわけで、圧勝のメグミダイオー。
「一体2着とのタイム差どれくらいんなんだ?帰ったら早速チェックだな。」とTienさん共々口にしたが、これが何と4秒3差!衝撃的な着差のものとしてまず頭に浮かぶ、コウザンハヤヒデの楠賞の前走が2秒9差、'00年石川テレビ杯でのイセイチフブキですら3秒6差である。まさに驚愕もの、それを通り越して、「もう笑うしかない」。
勝ち時計2分13秒9は、最近の荒尾二千のタイムとしては相当速いものであり、これはメグミの能力の高さの賜物なのではある、が・・・それにしても4秒3差というのは、、レースとしての体が壊れかけた、非常に危うい状況ではないか。そこで冒頭に触れた一件に戻るのだが、要は、今が旬で伸び盛りの馬が参加できず、現状はソコソコでしかない「昔の名前の」的な馬ばかりのメンバーであるがゆえ、結局このような結果となってしまうわけで、問題の根源はやはりここ。
ブリンカー効果は確かにあったろうし、それを確認できたのは、陣営としては収穫であろう。が、あまりに実力が抜きん出てい過ぎて、正直、大一番前のスパーリングにもなっていない感じ。せっかく出走したのに、これではある面悲劇である。今日は余裕の逃げ切りだったが、別に逃げプロパーでもない同馬、次回大賞典で同じ手を使うとも思われず(よくよく考えるとこれはひょっとするかも)、「これじゃ参考にもならない。」と、さまにさん共々口にした次第。
しかしながら、荒尾競馬の決め手さんをはじめ、地元や九州在住のファンの方々が、その圧勝ぶりを、「この調子で佐賀でも頑張ってほしいよね。」といった感じでとても頼もしく、そして一種誇らしく受け止めておられたのは、非常に印象的であった。勿論良い意味で。

とまあ、語るべきことはメグミに尽きるのだが、以下は無理矢理。
メグミダイオーの存在を抜きにすれば、レース展開的にも結果・タイムとしても、ごく平穏かつ常識的な、"荒尾ロートルスターズ"のレースであろう。シルバーハヤカゼが得意距離からは明らかに長い二千戦でよく逃げ粘り、好位からソツなくワールドアイが差し切ったという。ワールドアイって一見無骨で鈍重だが、レースセンスは意外にある。アシュラトウショーが追い込み、しかし及ばず。オカノテイセンは案の定先行力が落ちているが、元来が短距離得意なので致し方なし。ピアドハンターは好発だったが控えたのはちょっと勿体なかったような。「西村一気に行くかと思ったけどすんなり下げたな。」とさまにさん。オスズリキオーは今日一番の期待外れ。見せ場もなく、「道中どこにいたの?」という感じで、終始非常に印象が薄かった。ツルギネオンは鞍上牧野でもこの結果。もう少しやれるような気も。マーキュリサンダーは、何とも・・・

最終レースの後、昨年大晦日のファン選抜時と同様、今回もお客さんが去ったコース上にメグミと関係者御一行様が現れ、口取り撮影。そして今回も、Tienさん、さまにさん、そして荒尾競馬の決め手さん共々、コースに入れてもらって、馬場内で写真を撮らせていただく。陣営の皆様、そしてオーナーの"メグミのパパ"さん、いつも有り難うございます。

口取りのメグミ(43KB)
馬場内で撮らせていただいた口取り写真
メグミ「このメンバーじゃ軽過ぎっすよ!」
"ヒラパパ"こと平山師「まあ、よかよか!」
吉井騎手「・・・」寝てます?

おわりに
帰路、さまにべっぴんさんと御一緒させてもらい、特急有明博多まで。その車中、思いついてふと口に出すワシ。「よう考えたら、ワシ、東北アラチャン('00年)で初めて目にして以来、メグミの出走した重賞、たぶん全部観てるわ。」「追っかけ状態じゃないですか。」「そうやね。」などどやり取り。ワシはともかくとして、この馬、ホントにファンが多い。明けて7歳になったが、まだまだ元気だというところを今日は存分に魅せてもらった。レース総体については何だかんだ書いたが、それはメグミダイオーの強さ、地力に疑義を呈するものでは全くない、ということを、最後に、念のため。
さて、次走は西日本アラブ大賞典。距離2400mはメグミにとって有利とは言い難いが、荒尾の、そして岩手の誇りを抱いて、いざ!

2002.2.24 記

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