第25回クイーンカップ観戦報告

 2002.2.25、福山、1600m

はじめに
福山ダービーのトライアルよろしく、牡馬・騙馬重賞キングカップと並んで存在する、牝馬重賞クイーンカップ。ここは「男女席を同じうせぬ」状況なので、たとえ牡馬と互角に渡り合える有力牝馬であろうとも、ダービーを前にまずは登場してこようという次第。
キングカップが「勝ち馬がダービーを勝てないレース」だとは、その観戦記の冒頭に記したが、クイーンカップについても然り。しかしながら、過去10年でダービーを勝った2頭の牝馬、'94年のピアドタイトルと'00年のアレクシアの双方が、クイーンカップは2着だったという、ちょっと何だかなというデータもある。

出走馬について
出走馬は出走馬は以下のフルゲート10頭。()内は騎手。
ムツミスカレー(吉延)、アヤヒカリ(渡辺)、トライバルヒット(鋤田)、レディースアポロ(楢崎)、ムサシボウミヤコ(岡崎)、ホウコウサイシン(黒川)、ヒルゼンスイセイ(嬉)、ルパンユイナ(片桐)、ホマレスペクター(松本)、ベストラム(石井)
負担重量は馬齢定量、全馬53k。

ここでの注目は、既に古馬編入された以下の2頭。
まずはアヤヒカリ。現在古馬戦線に魔女として君臨するあのドリーミングの全妹。昨晩秋の重賞戦線には顔を見せなかったが、ヤングチャンピオンの前哨戦ニューヒーロー特別と、年明けの若駒賞で、ダイニアキフジやホワイトキャンプ、モナクカバキチといった牡馬の有力どころをまとめて下している実績馬。「現時点では世代最強か」との声もある。前走はC2の5組戦で2着。
そしてルパンユイナ。こちらはご存じルパンサンセイの仔、マツノホープやモナクマリンの半妹。ヤングチャンピオンはキャンプ、アキフジに次ぐ3着。前走はC2の11組戦で2着。補助馬なので、翌月6日、中8日で次走の福姫交流が控えており、今回どの程度仕上げてどう走るは気になるところ。地力はあるが、出遅れ癖(厳密には、ゲートは並に出るのだがそこで頭を上げるので二の脚がつかないそうだ)がついており、この克服が第一の課題。

昨日のキングカップに続き福山へ。因みにワシ、今回このクイーンカップ観戦で、福山の現存する全20重賞、現地観戦制覇。今回平日ながらも福山に赴いたのも、実はこれを成し遂げるためだったりして。
競馬場には2時頃着。天気は晴れ。気温は高めで暖かいが、風はある。馬場状態は良。一見バサバサ。

ちょっと注目の第7レース
メインレースの前に注目は第7競走。C2の11組戦。距離1600m。ここにモナクマリンの全弟にしてルパンユイナの年子の半兄、ビッグワンサンセイが登場。ここまで10戦8勝2着1回3着1回の見事な戦績だが、マイル戦となると3戦1勝2着1回3着1回と、まだ克服しきれていない状況。
その馬体は元来のものなのかビッチリ調教できないからか、どうも緩い。しかしレースはポンとハナに立って、終始2、3馬身差をとっての先頭で進める。三角手前で鞍上渡辺の手綱が動き「あれっ?」と思ったものの、結局最後まで後続を寄せ付けず逃げ切り勝ち。「何だよ思わせぶりだなあ。完勝じゃん。」とおさるさん。

クイーンカップ、パドックから発走まで
そしてメインレースのクイーンカップ、パドック周回が始まる。
1番ムツミスカレー。青鹿毛ということもあるが毛艶の見栄えは良好。やや太めな感じだが実入りのいいドッシリとした体型は、いかにもホーエイヒロボーイ産駒らしい。前走は3歳3組で5着。まだまだか。
2番が注目のアヤヒカリ。ゆったりとして伸びやかな胴の作りは、姉のドリーミングに似ている。馬格はこちらの方が一回り大きく、胴回りのボリュームもあって、姉よりレオグリングリン産駒らしい。黒鹿毛の毛艶はぱっと見いいが、実はそれほどでもない。気合いは乗っている。ちょっとヒ腹が上がっているか。おさるさんは結構辛口。曰く、「今日も馬体重-6k、使う度に減ってきていて案の定馬体が細くなっている。それでも結果を出しているんだけれども。」と。
3番トライバルヒット。冬毛ボーボーで冴えない。チャカチャカした周回。逃げ馬のようだが、マイル競馬では先行すらさせてもらえず、近走不振。
4番レディースアポロ。チャカチャカと焦れ込み気味。毛艶も冴えず、細身の体型に加え、ヒ腹が明らかに上がっている。昨晩秋の重賞戦線に乗り、年明け以降2戦を3歳1組で戦っているが、結果は出ずちょっと頭打ち傾向か。
5番ムサシボウミヤコ。冴えぬ栗毛の馬体。前半身は厚いのだが胴の実入りがイマイチで、ちょっと馬体がガレ気味。これもクラスは3歳2組とソコソコだがピンとこぬ戦績。
6番ホウコウサイシン。昨年のこのレースの勝者ギャラクシアの全妹。姉と同様地味な毛艶の馬体でポテッとした体型。トモの送りが浅く硬い。戦績はまだまだ。
7番ヒルゼンスイセイ。あのタッチアップの半妹。ガッチリした骨格だが、ヒ腹が上がって細くなってしまっている。毛艶はソコソコ。デビューの時期がやや遅れ、今回まだ8戦目。前走勝ちも3歳6組戦でのこと。マイル戦すら初。
8番がルパンユイナ。明るい栗毛の艶はソコソコだがまあこんなものか。胴が長いので、少しでもヒ腹が細くなるとそれが非常に目立つ。首が高く、ちょっと煩めの周回気配だが、これも想像された範囲。
9番ホマレスペクター。黒鹿毛の毛艶は良好で実入りもよい。少々細身かと思ったが馬体重403kならそれも当然。この馬体重には全く見えない。トモが流れてついてこない歩様。3歳限定の上位クラスで常に掲示板入りしている、しかし勝ち切れない、差し一辺倒の馬。
10番べストラム。芦毛なので毛艶はそれなり。スッキリした馬体で気合い乗りも上々。歩様は若干硬い。10戦3勝だが、2着3着はないという、たまにポコッと勝つという程度の馬。
騎乗命令が掛かる。ここでルパンユイナがさらに煩さを増す。

本馬場入場から返し馬。ルパンユイナもアヤヒカリも強めのキャンター。ムツミスカレーは内ラチ沿いをダク。ヒルゼンスイセイは馬なりに。ホマレスペクターも軽く。
予想。二強の力が他馬から図抜けているのは明白。連複では1.5倍程度の一本被り。連単ではアヤ→ユイナの方がユイナ→アヤよりも人気。前者だと2倍見当、後者だと4倍見当。戦績からも、やはりアヤヒカリが人気。ルパンユイナは発馬の問題が根強くあろうか。
「アヤヒカリなあ、この馬体ジリ貧傾向でどうかだよなあ。力はあるのは間違いないけど。」と、その力を認めつつも全幅の信頼は置きかねるといったところのおさるさん。「でも何だかんだでやっぱり強いんじゃないですか。」と思うワシ。しかし買い目は・・・オッズに目が眩んでユイナ→アヤの一点買い。とはいえ買っておきながら半信半疑。
「さて、3着の複勝狙おうか!」とのFUKUさんだが、「でもオイシそうな狙い目、あります?」と問うと「ない!」とあっさり。「本来ならね、9番(ホマレスペクター)の差しが、穴の匂いプンプンなんだけどねえ、鞍上が・・・」と続けて言及される。「そうそう、これがこのレース騎乗馬のない、サブちゃんとか岡田とかだったら、色気大アリで決め打ち追い込み賭けてくるの明白なんだけど。」「9番絡みの目、もっとオッズ低くてもいいのに全然人気ないよね。客の判断がよく出てる。」と、おさるさんも交えてこのネタが続く。

レースなり
さてレース。距離はキングカップと同様1600m。
ゲートオープン。注目のルパンユイナだが、ゲートを出てやはり頭を上げるも、それも若干で、鞍上片桐がすかさず馬を押して追走体勢に。ということでビハインドは最小限で済んだ。前ではまずはトライバルヒットがハナへ。隣のレディースアポロと大外ペストラムがこれに続く。ここで若干開いて、1枠ムツミスカレーがそのままインで、その外にムサシボウミヤコが次列。ルパンユイナはこれらの後ろの中団、アヤヒカリはユイナより後方、ホマレスペクターは予想通り後方から。
正面スタンド前。先頭引き続きトライバルヒット。1馬身外に2番手レディースアポロ。さらに1馬身後方、最内にムツミスカレー中ベストラム外ムサシボウミヤコが同列で先団形成。ここで隊列は開いて、ルパンユイナは6番手、この内にホウコウサイシンが併走。アヤヒカリはホウコウサイシンの直後。その直後インにヒルゼンスイセイ、そしてホマレスペクターの殿は変わらず。先団は特に競り合うこともなく、ペースは落ち着いている模様。

1周目(37B)
1周目の正面スタンド前
先頭トライバルヒット、ルパンユイナは中団外の橙帽

向こう流し半ば、案の定仕掛けるルパンユイナ。捲り気味に上昇開始。連れてアヤヒカリも、ユイナより外へラインを取って。一方前では、3コーナーを前にトライバルヒットは早々にタレて後退。代わってムサシボウミヤコが先頭、レディースアポロが踏みとどまって食い付いていこうとする。しかしながら3コーナー、早くも外からルパンユイナが迫り、この時点でもう2番手。そして三分三厘、畳みかけるようにミヤコを交わし去って先頭に立つ。ここへアヤヒカリが外から寄せ上がる。
最後の直線、先頭ルパンユイナ、外からアヤヒカリ、残り100でその差は1馬身ちょっと。やはり二強の対決。しかしながら結局最後までこの差は詰まらず、残り50あたりで大勢は決する。ルパンユイナ、終いは鞍上片桐の手綱も緩んで、嬉しい重賞初勝利。

最後の直線、ユイナvsアヤ(43B)
最後の直線半ば、勝負は決したか
抜け出すルパンユイナ、追いすがるアヤヒカリ

2着アヤヒカリ、その差は1馬身半。3着には、道中インベタから直線外に持ち出したムツミスカレーが差して複勝圏入り。しかしアヤヒカリとは4馬身差。4着追い込んだヒルゼンスイセイ。先行して四角2番手で回ったムサシボウミヤコは5着。6着先行レディースアポロ。ホマレスペクターは完全不発の7着。8着ホウコウサイシンは終始中団以降で見せ場なく。9着先行ベストラム。大差最下位は逃げバテトライバルヒット。

ルパンユイナ(39B)
ルパンユイナ、ゴールへ
鞍上片桐、振り返って勝利を確信か

勝ったルパンユイナと敗れたアヤヒカリ、この差は当日の出来と、道中の位置取りの差かな、と。一歩先んじて捲り上がったルパンユイナが、結局仕掛けた時点でのアヤヒカリとの間隔を維持したのが勝ち星となった感じ。ユイナの発馬難も、今日の程度ならばばまあましなのでは。鞍上片桐も重々承知で、発馬と同時に首筋に軽く鞭を入れつつ、頭を押さえつけていた。アヤヒカリは馬体のジリ貧傾向を考えればまずまずだろうと。逆に言えば、パンとした時の彼女の走りを見てみたい。どれほどの破壊力なのか、と。

これも注目の最終レース
最終レースは雪解け特別。A3クラスの1800m戦。
ここに、昨秋の全日本アラブグランプリに上山代表として参戦して4着の後、そのまま福山に留まったホマレエリートが登場。以降3戦してB2で1着B1で2着1着と、当然といえば当然の戦績で今回A3入り。相変わらずスッキリスリムな馬体。気配も大人しく、また上山時代のピンクメンコと異なって、何の変哲もないアオメンコ着用ということもあり、何とも地味なルックス。
そしてもう1頭、あのステイブルラインが1年ぶりに戦列に復帰。'99年初頭に道営から鳴り物入りで転入するも、格好がついたのは最初の半年だけで、以後はサッパリ。しかし金持ちなのでA級を陥落せず、いや出来ず、言葉は悪いが「A級のお荷物」状態。いなくなったとばかり思っていたのだが、まだ在籍していたという。「こんなもん、ただデカいだけのユルユル馬体で出てくるんとちゃうか。540kくらいになって。」と見込んでいたのだが、これが524kと至極まともな値。一同その意外さにちょっと驚き。パドック気配も上々で、毛艶もよくスッキリした体型で太め感皆無。筋肉はかつてより落ちた感じだが文句は言えぬ。「これ調教、5ハロン追いで時計出してるぞ。ホントにやる気かよ。」とおさるさんが指摘。
レース、ホマレエリートは道中余裕の中団待機。バックで楽に発進して三角2番手、三分三厘早々に抜け出し、終いは2着に7馬身差の大差圧勝。実際のところ、現在のA2A3クラスは一時よりやや手薄になっているようで、おさるさん曰く「B級選抜戦の方がだいぶ骨があるよ、あそこは勝つの大変。」と言及するほど。であるから今回彼女のこの勝利は至極順当。
一方ステイブルラインは、元来は好位差し馬のはずなのだが、テンから鞍上片桐に気合いを入れ続けられ、先行に拘る。道中2、3番手で進め、終い2着に残ろうかというところ、外からサエノリーダーに差し切られ、クビ差惜敗の3着。充分格好がついた。次走に期待が持てるか、といえばそうでもなく、案外緒戦に勝負を賭けていたかも。「ともかくバサバサの良馬場でやれてよかったよ。馬場渋ったら話にならないもん。」とおさるさん。アラブでコイツほど道悪極下手な馬をワシは知らない。

おわりに
昨日今日と、2日間2レースに渡った、アテにならないダービー前哨戦。実はキングカップのダイニアキフジと、クイーンカップのルパンユイナの勝ちタイム、双方全く同じ1分51秒4。そしてそれぞれの2着、ホワイトキャンプとアヤヒカリのタイムも1分51秒7で同一。それぞれ中団から先んじて捲り上昇した勝者と、その後ろから追いすがった2着馬であり、走りも酷似。
というわけで、それなりの上位拮抗の状況で、ダービーへと突き進んでいく、オトコノコオンナノコたちなのであった。
と、その前にルパンユイナにとっては、次走に姫路へ出張しての、兵庫との補助馬限定競走、福姫交流が待っている。1月の三県交流にて屈した、スカイタカオーとタッカージョージへの、アウェーでのリベンジを期して。今回の走りは、まずはそれへの弾みとなったかな。

※実はこの観戦記執筆時点で、3月6日の福姫交流は終わってしまっております。が、その結果は踏まえず、極力クイーンカップ直後の時点での回顧となるべく、記した次第であります。観戦記の執筆が、出走馬の次走に追い越されるというのは全く情けない事態でありまして、深く反省するところであります。

2002.3.9 記

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